「茶の湯のうつわー和漢の世界」 出光美術館

出光美術館
「茶の湯のうつわー和漢の世界」 
4/15〜6/4



主に江戸時代に好まれた茶の湯のうつわの名品が集います。出光美術館で開催中の「茶の湯のうつわー和漢の世界」を見てきました。

はじまりは楽焼の祖、長次郎でした。赤と黒が各1点ずつです。赤楽は「銘 僧正」でした。表情は端正ですが、腰の部分がやや窪んでいるようにも見えます。黒楽は「銘 黒面翁」です。小ぶりで丸みのある茶碗です。落ち着いた佇まいが感じられました。

さらに楽家の系譜が続きます。常慶、道入から一入、宗入らの茶碗も並んでいました。うち目立つのが道入の黒楽、「銘 此花」でした。黒飴色の釉薬には照りがあり、実に艶やかです。正面には白い素地が開けています。それを梅の花に見立てたのでしょう。「此花」と名付けられました。

ただどうでしょうか。雪が降りしきる山の影のようにも見えなくはありません。どことなく幽玄でもあります。闇夜を背景にした雪山の光景を連想しました。


「萩茶碗 銘 雪獅子」 日本 江戸時代前期

一楽、二萩、三唐津。楽に続くのが萩焼でした。「萩茶碗 銘 雪獅子」が見事です。口縁には歪みがあります。腰の部分に白と僅かな茶色が混じり、まるで砂利を敷き詰めたような景色が広がっています。一方で見込みは滑らかでした。素朴ながらも趣深い茶碗ではないでしょうか。

萩では「銘 五月雨」にも魅せられました。外面をヘラで擦ったのか、斜めに3本の線が走っています。それを五月雨と表現したのでしょう。そして「銘 白鷺」も美しい。ヘラの目が波のように広がっています。高台が高く、2カ所に割り込みが入っていました。

唐津の「皮鯨茶碗 銘増鏡」も興味深い作品です。口縁には鉄釉がかかっていて黒く光っています。鯨とはうまく名をつけたものです。確かに胴の部分に色の変化があり、それが海面を進む鯨の姿のように見えました。さらに背の部分に裂け目があり、あたかも鯨が空気を吐き出しているようにも思えなくはありません。一つの茶碗から大海原の光景が浮かび上がっていました。

京焼にも優品が揃っています。ここではなんと言っても仁清です。香合、茶碗、水指などの10点ほどの作品が展示されています。


「色絵扇面散文茶碗」 野々村仁清 日本 江戸時代前期 出光美術館

一際、華やかなのが「色絵扇面散文茶碗」でした。地は漆黒。すなわち仁清黒です。そこへ桜や牡丹の装飾を施した扇が開いています。金や銀の色彩も目映い。デザインは至極モダンです。一面を切り取れば抽象的と呼んでも良いかもしれません。

しかし同じ仁清とは言え、全く異なる作風を見せるのが「銹絵富士山文茶碗」でした。白釉の上に銹絵で富士の頂を描いています。山の中腹には雲もかかっていました。一転して幽玄です。色絵の仁清とは別種の魅力をたたえていました。

「和漢の世界」とあるように、和だけでなく、唐物、高麗、安南なども充実。見逃せない作品も少なくありません。

うっすらとミルク色を帯びた青みが目にしみます。「青磁下蕪花生」です。南宋時代の作で、鹿島家の伝来です。胴は下部が広がり、球の形をしています。全般的に腰の低い作品です。口縁が僅かに反っていました。


「高麗写荒磯文急須」 青木木米 日本 江戸時代後期 出光美術館

さらに黄天目、灰被天目のほか、朝鮮の井戸、伊羅保茶碗なども味わい深い。伊羅保茶碗の「銘 さが野」は僅かな褐色を紅葉に見立て、「さが野」と呼ばれるようになったそうです。それにしても渋い。全体を覆う鉄色からは滋味も感じられました。


「色絵魚介文鮑形鉢」 中国 明時代末期 景徳鎮窯 出光美術館

怒涛の茶の湯コレクション。これだけでは終わりません。続くのは懐石のうちわです。中でも興味深いのは「高取斑釉割山椒形向付」でした。全部で五客。手のひらサイズながらも底の深い器です。まるで花弁のごとく、山椒の実の割れた姿を表現しています。内側に青い釉薬が滲んでいます。滝が流れているかのようでした。


「五彩十二ヵ月花卉文杯」(部分) 中国・清「大清康煕年製」銘 景徳鎮官窯 出光美術館

ラストは煎茶でした。ここでは「五彩十二ヵ月花卉文杯」が絶品です。作は中国は清の時代、景徳鎮でした。ともかく繊細な絵が素晴らしい。全12客、各1客を1月から12月に準え、それぞれの季節に合う花と詩句を描いています。

例えば2月は杏、3月は桃、4月は牡丹で5月は柘榴です。ともかく花は緻密です。肉眼では細部の描写が確認出来ないかもしれません。単眼鏡が必要なほどでした。

出展作品は140点。ほぼ全てが出光美術館の所蔵品でした。さらに特集展示として、江戸の茶人、松平不昧の道具リストである「雲州蔵帳」が、約13年ぶりに公開されています。

現在、都内では「茶の湯」と題した展覧会が同時に3展行われています。*近代美術館の「茶碗の中の宇宙」は終了しました。

いずれも会期の終盤を迎えました。またとない機会です。揃って楽しむのが良いのではないでしょうか。

「茶の湯」@東京国立博物館 4月11日(火)~6月4日(日)
「茶の湯のうつわー和漢の世界」@出光美術館 4月15日(土)〜6月4日(日)
「茶の湯の名品―破格の美・即翁の眼」@畠山記念館 4月8日(土)~6月18日(日)

5月最終週の土曜日の夕方に出かけてきましたが、場内は思いの外に賑わっていました。


6月4日まで開催されています。

「茶の湯のうつわー和漢の世界」 出光美術館
会期:4月15日(土)〜6月4日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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