都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「酔うて候 - 河鍋暁斎と幕末明治の書画会 - 」 成田山書道美術館
成田山書道美術館(千葉県成田市成田640 成田山新勝寺境内 成田山公園)
「酔うて候 - 河鍋暁斎と幕末明治の書画会 - 」
1/1-2/11
霊光館の展示に続きます。ちょうど霊光館より大塔脇を抜け、丘を下った成田山公園内にあるのが書道美術館です。失礼ながら、思っていたよりもはるかに立派な施設で驚きました。巨大な中央部の吹き抜けのある1階、及び2階の全フロアを用いて、表題の暁斎展が開催されています。
構成は以下の通りです。
1.「書画会関連の作家と暁斎」:『月次風俗図』(全12幅)など。
2.『新富座妖怪引幕』
3.「書画会の風景」:書画会の光景を描いた暁斎作品17点。
4.「暁斎の席画」:暁斎が書画会で描いた作品18点。
5.「絵上の競演」:書画会で暁斎が周辺の画家とともに描いた作品約20点。
出品数は暁斎50点、そして書画会関連の作家40点、合わせて約90点ほどです。(暁斎はほぼ河鍋暁斎記念美術館、関連の書は同書道美術館の所蔵品によっています。また一部、板橋区美、個人蔵の作品もありました。)
こちらの言葉を借りれば、書画会とは、主に幕末から明治期にかけて、会主の呼びかけに書家や画家などの文人が集まり、彼らの書画を求める人びとのために作品を描いた会のことです。当然ながら暁斎はそのような会に頻繁に出席し、そこで描いた席画、つまりは書画会で描かれる絵画作品を膨大に残しました。この展示では書画会と暁斎との関係に迫ります。ようは、彼が書画会で描いた作品が数多く展示されているわけなのです。
やはり目玉は、かつての東京ステーションギャラリーの「暁斎と国芳展」でも圧倒的だった「新富座妖怪引幕」でしょう。縦4メートル、そして横は何と17メートル超にも及ぶという歌舞伎の新富座の引幕が、ともかくは度肝を抜くスケールで展示されています。これは暁斎が、酒を飲みながら僅か4時間で描ききったというエピソードでも有名ですが、その真偽はさておいても、確かに筆には力の迸るような勢いを感じる作品です。人気役者たちが妖怪に化け、例えば中央のろくろ首のように、客席の方向へ今にも飛び出してくるかのような臨場感はもちろんのこと、即興で描かれたというにしては事物の配置がおさまりよく、画面全体に隙のない構図感が漂っているのにも感心させられました。ちなみに、この作品の向かいには、小さいながらも赤い絨毯が敷いてあります。そこに座って眺めると、ちょうど客席から舞台を見上げるかのように楽しめるという仕掛けです。
速筆でならした暁斎の魅力に迫るのは、書画会で即興的に描かれた席画の数々です。釣り糸を池に垂らす「太公望」では、その仕草にも似合わぬ太公望が何とも厳めしい顔立ちで描かれていますが、タッチに狩野派の伝統を思わせるような鋭角的な墨線が用いられています。また龍と虎とが間近で対峙する「龍虎図屏風」も迫力満点です。やや手狭な屏風の空間にて、息苦しいまでに二者がジロリと睨み合っています。そしてまさに席画ならではの作品として挙げられるのが、何と人体の骸骨を描いたという「骸骨図」です。もちろんモデルを見ながら描いたわけではありませんが、男女一対の骸骨が何やら化けてでも出るかのような出で立ちで軸におさまっています。注目なのはその足の部分です。何やら線がうねるような表現が見られますが、これは畳の上で暁斎が描いたために、その目地が浮き上がって出来た跡とのことでした。書画会の熱気が伝わってきます。
書画会には暁斎以外にも様々な文人が参加していましたが、この展示では彼らと暁斎との合作もいくつか見ることが出来ます。ここで私が興味深く感じたのは「電信柱」です。当時、電柱が新奇なものとして画題にもなっていたそうですが、ただ一本の電柱がそれだけ、何の変哲も立つ姿が描かれています。(また電柱のモチーフは、「月次風俗図」の6月部分、「夕立と電信柱」にも登場します。)ちなみにコラボというのは賛の部分です。その他にも、暁斎が蔦だけを描いたという「松に蔦図」などが印象に残りました。特に誰と決めて描くわけでもなく、まさに会の流れの中で、色々な人物と多くの作品を生み出していたようです。また最後には、暁斎が用いた硯なども紹介されていました。もちろんそのデザインも彼自身のものです。
本格的な水墨や彩色画等の並ぶ霊光館と、ここ書道美術館の作品を合わせれば、暁斎の作品を一挙に約80点ほど見ることが出来ます。さすがに春に予定されている京博の展示には及ばないかもしれませんが、その先取りとしても十分に楽しめる内容だと言えるのではないでしょうか。
ちらしは立派でしたが、Web上に展覧会の情報があまり出ていません。以下に概要を載せておきます。
「天才絵師 河鍋暁斎」@成田山霊光館(入場料:300円)
「酔うて候 - 河鍋暁斎と幕末明治の書画会 - 」@成田山書道美術館(入場料:500円)
会期:1/1-2/11
休館日:2/4
開館時間:9:00-16:00(最終入館は15:30)
交通:JR、京成成田駅徒歩25分。(土産物屋の並ぶ参道を進み、本堂を抜け、大塔、または成田山公園へ向かった境内の最奥部です。なお、書画会の展示は図録も作成されていますが、ハガキなどを含めた物販スペースは全て書道美術館内にあります。)
ちなみに書道美術館の「河鍋暁斎と幕末明治の書画会」展は、この後、徳島県立文学書道館(2/16-3/23)へ巡回します。
霊光館、書道美術館とも2月11日までの開催です。(有名な成田山公園の梅まつりは2月10日からです。)
*関連エントリ
「天才絵師 河鍋暁斎」 成田山霊光館
「酔うて候 - 河鍋暁斎と幕末明治の書画会 - 」
1/1-2/11
霊光館の展示に続きます。ちょうど霊光館より大塔脇を抜け、丘を下った成田山公園内にあるのが書道美術館です。失礼ながら、思っていたよりもはるかに立派な施設で驚きました。巨大な中央部の吹き抜けのある1階、及び2階の全フロアを用いて、表題の暁斎展が開催されています。
構成は以下の通りです。
1.「書画会関連の作家と暁斎」:『月次風俗図』(全12幅)など。
2.『新富座妖怪引幕』
3.「書画会の風景」:書画会の光景を描いた暁斎作品17点。
4.「暁斎の席画」:暁斎が書画会で描いた作品18点。
5.「絵上の競演」:書画会で暁斎が周辺の画家とともに描いた作品約20点。
出品数は暁斎50点、そして書画会関連の作家40点、合わせて約90点ほどです。(暁斎はほぼ河鍋暁斎記念美術館、関連の書は同書道美術館の所蔵品によっています。また一部、板橋区美、個人蔵の作品もありました。)
こちらの言葉を借りれば、書画会とは、主に幕末から明治期にかけて、会主の呼びかけに書家や画家などの文人が集まり、彼らの書画を求める人びとのために作品を描いた会のことです。当然ながら暁斎はそのような会に頻繁に出席し、そこで描いた席画、つまりは書画会で描かれる絵画作品を膨大に残しました。この展示では書画会と暁斎との関係に迫ります。ようは、彼が書画会で描いた作品が数多く展示されているわけなのです。
やはり目玉は、かつての東京ステーションギャラリーの「暁斎と国芳展」でも圧倒的だった「新富座妖怪引幕」でしょう。縦4メートル、そして横は何と17メートル超にも及ぶという歌舞伎の新富座の引幕が、ともかくは度肝を抜くスケールで展示されています。これは暁斎が、酒を飲みながら僅か4時間で描ききったというエピソードでも有名ですが、その真偽はさておいても、確かに筆には力の迸るような勢いを感じる作品です。人気役者たちが妖怪に化け、例えば中央のろくろ首のように、客席の方向へ今にも飛び出してくるかのような臨場感はもちろんのこと、即興で描かれたというにしては事物の配置がおさまりよく、画面全体に隙のない構図感が漂っているのにも感心させられました。ちなみに、この作品の向かいには、小さいながらも赤い絨毯が敷いてあります。そこに座って眺めると、ちょうど客席から舞台を見上げるかのように楽しめるという仕掛けです。
速筆でならした暁斎の魅力に迫るのは、書画会で即興的に描かれた席画の数々です。釣り糸を池に垂らす「太公望」では、その仕草にも似合わぬ太公望が何とも厳めしい顔立ちで描かれていますが、タッチに狩野派の伝統を思わせるような鋭角的な墨線が用いられています。また龍と虎とが間近で対峙する「龍虎図屏風」も迫力満点です。やや手狭な屏風の空間にて、息苦しいまでに二者がジロリと睨み合っています。そしてまさに席画ならではの作品として挙げられるのが、何と人体の骸骨を描いたという「骸骨図」です。もちろんモデルを見ながら描いたわけではありませんが、男女一対の骸骨が何やら化けてでも出るかのような出で立ちで軸におさまっています。注目なのはその足の部分です。何やら線がうねるような表現が見られますが、これは畳の上で暁斎が描いたために、その目地が浮き上がって出来た跡とのことでした。書画会の熱気が伝わってきます。
書画会には暁斎以外にも様々な文人が参加していましたが、この展示では彼らと暁斎との合作もいくつか見ることが出来ます。ここで私が興味深く感じたのは「電信柱」です。当時、電柱が新奇なものとして画題にもなっていたそうですが、ただ一本の電柱がそれだけ、何の変哲も立つ姿が描かれています。(また電柱のモチーフは、「月次風俗図」の6月部分、「夕立と電信柱」にも登場します。)ちなみにコラボというのは賛の部分です。その他にも、暁斎が蔦だけを描いたという「松に蔦図」などが印象に残りました。特に誰と決めて描くわけでもなく、まさに会の流れの中で、色々な人物と多くの作品を生み出していたようです。また最後には、暁斎が用いた硯なども紹介されていました。もちろんそのデザインも彼自身のものです。
本格的な水墨や彩色画等の並ぶ霊光館と、ここ書道美術館の作品を合わせれば、暁斎の作品を一挙に約80点ほど見ることが出来ます。さすがに春に予定されている京博の展示には及ばないかもしれませんが、その先取りとしても十分に楽しめる内容だと言えるのではないでしょうか。
ちらしは立派でしたが、Web上に展覧会の情報があまり出ていません。以下に概要を載せておきます。
「天才絵師 河鍋暁斎」@成田山霊光館(入場料:300円)
「酔うて候 - 河鍋暁斎と幕末明治の書画会 - 」@成田山書道美術館(入場料:500円)
会期:1/1-2/11
休館日:2/4
開館時間:9:00-16:00(最終入館は15:30)
交通:JR、京成成田駅徒歩25分。(土産物屋の並ぶ参道を進み、本堂を抜け、大塔、または成田山公園へ向かった境内の最奥部です。なお、書画会の展示は図録も作成されていますが、ハガキなどを含めた物販スペースは全て書道美術館内にあります。)
ちなみに書道美術館の「河鍋暁斎と幕末明治の書画会」展は、この後、徳島県立文学書道館(2/16-3/23)へ巡回します。
霊光館、書道美術館とも2月11日までの開催です。(有名な成田山公園の梅まつりは2月10日からです。)
*関連エントリ
「天才絵師 河鍋暁斎」 成田山霊光館
コメント ( 12 ) | Trackback ( 0 )
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展覧会の紹介は「かくあるべし」という見本のよう。
私もこんな風に記事が書けたらなぁと思います。
拝見していて、展覧会で見落としたこと(電信柱)、
忘れていたこと(骸骨図)を思い出しました。
情報ありがとうございます。
これは行く価値がありますね~。
先日、三井記念美術館で暁斎の観音様を見てきたばかり。成田は遠いなあと思いつつ、京都よりはぜんぜん近いので行ってこようと思います。
勿体ないお言葉を有り難うございます。
電信柱は妙に気になってしまいました。ポツンと立つ電柱が何か可愛気です。
骸骨は見事でした。ああいう画をぽんぽん描いていたのが暁斎なのでしょうか。きっと完成した時、廻りの人びとと手を叩いて笑い合ったのでしょうね。
@あおひーさん
こんばんは。
西の京博、東の成田とまではいかないかもしれませんが、
少なくとも関東にてこのクラスの暁斎展はそうないと思います。
美術館だけでなく、成田山にお詣りしながら楽しめるのも良いですよね。参道からして楽しめます。
記事と合わせて、お写真もまた期待しています。良いご旅行を!
教えて頂いて感謝です。
書画会で即興画など当時の様子
熱気が感じられます。
>やはり期待以上の内容のようで
まさに期待以上だったというのが率直な感想です。
もちろん大博物館の大規模な展示と比較出来るものではありませんが、
記事にも触れたように、これほどまとめて暁斎と見られる機会はそうないなと感じるものでした。
>熱気が感じられます。
暁斎に限らず、「書画会」というキーワードに、江戸絵画を俯瞰する展示などがあれば面白いかもしれませんね。是非見たいです。
「美術の窓」で応募した熊谷守一のチケットもう届きましたよ、やはり開催が迫っているのは先着ですね。
さて暁斎のこの展覧会ですが、図録は一般書籍として販売されているのですね、今日立ち読み!
はろるどさんが述べておられる板橋からの出品とか興味深く眺めてきました。
そうそう暁斎の展覧会といえば東京ステーションギャラリーのを忘れるわけにはいきませんね。
ほんとにこんな人がいたんだと驚きました!
熊谷展、もう届きましたか。確かにそれは先着順なのでしょうね。
>さて暁斎のこの展覧会ですが、図録は一般書籍として販売されているのですね、今日立ち読み!
そのようです。巡回ありの展示と言うことで、図録もなかなか充実しているようでした。書籍で出るのはありがたいですよね。会場へ行かなくても楽しめます。
ステーションギャラリーの暁斎、国芳展は私も懐かしいです。あの当時はあまり日本絵画を見ていなかったのですが、その鮮烈な表現に素直に見入りました。
チケットありがとうございました。早速今週末にでも廻ってきます!
昨日、行って参りました。
いや~よかったです。
お酒飲みつつ、あんな骸骨を描けてしまうとは驚きです。
あおひーはお酒飲んで写真撮ると普段よりも上手く撮れたりします。
やっぱ、リラックスが大事ってことですかね~
成田行かれましたか!それは何よりです。
>あおひーはお酒飲んで写真撮ると普段よりも上手く撮れたりします。
やっぱ、リラックスが大事ってことですかね~
お酒を飲むと、普段あまりしないような冒険的(?)な絵や写真が出来たりするのかもしれませんね。
ただ、暁斎は常に飲むのが前提になってもいそうですが…。どれほど強かったのでしょう…。
私のブログにコメント&TBありがとうございました♪
引幕にあいたくて成田参りしたところもあるので、やっぱり引幕の印象が今でも一番強いです。
その他の書画会の作品もはろるどさんの記事を拝見してちょっとずつ思い出してきた感じです^^;
あの図録は書籍という扱いだったのですね~!
確かに文章が多いなって思いました。
でも、これからの暁斎研究にとって大事な1冊がまた世に出たという感じなんだと思います。
TBがうまくいかないのでこのコメントのURL欄に記事のURLをかわりにいれて投稿します~!
引き幕、本当に見事でしたね。
私はステーションギャラリーでの展示以来だったのですが、
改めてその迫力に感心しました。
>あの図録は書籍という扱いだったのですね~!
確かに文章が多いなって思いました。
でも、これからの暁斎研究にとって大事な1冊がまた世に出たという感じなんだと思います。
書店でも発売されているようですね。先日、丸善でも見かけました。
仰るように、この展示が契機となって暁斎の研究、または認知が広がると良いなと思います。
p.s TBの件大変失礼しました。何かgooブログに問題があるのかもしれません。申し訳ありません…。