「岡山芸術交流2019」 後編:岡山城、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館

旧内山下小学校、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館、岡山城、林原美術館ほか
「岡山芸術交流2019 IF THE SNAKE もし蛇が」
2019/9/27~11/24



「前編:旧内山下小学校、林原美術館」に続きます。「岡山芸術交流2019 IF THE SNAKE もし蛇が」を見てきました。


岡山城 不明門

「岡山芸術交流2019」の岡山城内の会場は、天守閣ではなく、城内の2つの門、廊下門、不明門にありました。坂を上り、石垣を横目に進むと、まず不明門が姿を現しました。江戸時代、殆ど閉じていたことから不明門(あかずもん)と呼ばれていて、明治の廃城令にて取り壊されたものの、1966年に天守などとともに再建されました。


ポール・チャン「幸福が(ついに)35,000年にわたる文明化の末に(ヘンリー・ダーガーとシャルル・フーリエにちなんで)」2000-2003年

この不明門では、香港に生まれ、ニューヨークに在住するポール・チャンの「幸福が(ついに)35000年にわたる文明化の末にヘンリー・ダーガーとシャルル・フーリエにちなんで」と題した映像が1点、展示されていました。おおよそ17分間のアニメーションでしたが、ユートピアからディストピアへと転落する世界が、生々しいまでに表現されていて、カオスともいうべきドラマテックな展開に終始、見入ってしまいました。一見、カラフルで楽しげな描写ながらも、ヘンリー・ダーガーの作風に象徴する残虐的な場面なども垣間見えて、思わず背筋が寒くなるほどでした。



不明門を出て、再建天守閣に向かって歩くと、もう1つの会場である廊下門に辿り着きました。廊下門も天守や不明門と同様、1966年に再建された建物で、ちょうど本丸の裏の搦め手に位置した城門でした。本段と中の段を結ぶ城主専用の廊下としても使用されたことから、廊下の名がつけられました。


リリー・レイノー=ドゥヴァール「以上すべてが太陽ならいいのに(もし蛇が)」 2019年

ここではフランスのリリー・レイノー=ドゥヴァールの映像、「以上すべてが太陽ならいいのに(もし蛇が)」が映されていました。絵具だけで身を覆った作家が、ほぼ裸のままに芸術交流の各会場で踊る光景を捉えていて、一見、他の作品と関係しあうように思えるものの、言わばコラボレーションではなく、ひたすらに独立したパフォーマンスが続いていました。それは「展覧会の歴史を主観的に記録」(解説より)するという意味を持ち得ているそうです。



お城から次の旧福岡醤油建物へは、旭川と後楽園を右手に、土手の上の石川公園をしばらく進む必要がありました。晴天の心地良い風を受けながら、水面を眺めつつ、のんびりと歩いていると、透明のガラス張りの作品が見えてきました。ともにニューヨークに在住するメリッサ・ダビン&アーロン・ダヴィッドソンの「遅延線」でした。


メリッサ・ダビン&アーロン・ダヴィッドソン「遅延線」 2019年

中には水が医療器具を思わせるガラスの器を絶えず循環している上、マンタ型のシリコンロボットがプールに沈んでいて、まるで生き物を培養しているようにも見えました。


メリッサ・ダビン&アーロン・ダヴィッドソン「遅延線」 2019年

実際に水は旭川の伏流水から汲み上げた水を使用し、機械から出る熱を取り除いているとのことでした。まるで実験装置のような無機的な作品でしたが、ガラスゆえか景観に溶け込んでいるのが不思議でなりませんでした。


旧福岡醤油建物 *外観

後楽園通りにも面し、カフェなどが立ち並ぶ一角にある旧福岡醤油建物は、かつて醤油製造や市民銀行の窓口として用いられた、母屋を明治時代に由来する古い建物です。


エヴァ・ロエスト「自動制御下」 2017年 *会場風景

地下ではエヴァ・ロエストのVR作品が展示されていましたが、かなりの人気ゆえか、既に当日の受付が終了していて、残念ながら鑑賞は叶いませんでした。そもそもVRは台数が限定され、数人ずつしか体験できないため、混雑時は待ち時間が生じる場合があるそうです。


岡山県天神山文化プラザ *入口

岡山県天神山文化プラザの広い展示室を用いたインスタレーションも見応えがあったのではないでしょうか。


ミカ・タジマ「フォース・タッチ(からだ)」 2019年

ニューヨーク在住のミカ・タジマは、「フォース・タッチ(からだ)」において、ホワイトキューブの壁面に散気装置であるジェットディフューザを設置し、風を放出させる彫刻作品を展示していました。かなり強い風で、展示室内にはごうごうと風の吹く音が轟いていました。


ミカ・タジマ「ニュー・ヒューマンズ」 2019年

また床面にぽっかりと空いた四角い「ニュー・ヒューマンズ」は、機械学習プロセスによって生成された磁性流体を用いた作品で、それこそ黒い液体の下には何らかの未知の生き物が泳いでいるかのようでした。旧内山下小学校のプールで泡を立てていた、パメラ・ローゼンクランツの「皮膜のプール(オロモム)」の動きと重なって見えるかもしれません。


エティエンヌ・シャンボー「熱」/「ソルト・スペース」 2019年

フランスのエティエンヌ・シャンボーによる「ソルト・スペース」にも驚かされました。開口部から入る光以外、ほぼ光源のない暗室の黒い床には、白い粉が散りばめられていて、上を自由に歩いて回ることが出来ました。初めは砂かと思い、靴底の感触を確かめましたが、明らかに硬く、ざらついていて、すぐに砂とは違った粉であることが分かりました。


エティエンヌ・シャンボー「ソルト・スペース」 2019年

実のところこの粉は、死んだ動物を粉砕した骨粉でした。生と死について踏み込んだ作品と言えながらも、ともするといたたまれない気持ちにさせられたのは私だけでしょうか。


岡山市立オリエント美術館 *外観

古代オリエントのコレクションで知られた、岡山市立オリエント美術館も会場の1つでした。ただここでは先の林原美術館とは異なり、コレクションの展示も行われていて、考古資料とアーティストらの作品の合わせ見る内容になっていました。なおオリエント美術館では作品の撮影が出来ません。

基本的にコレクション展が比重が大きく、必ずしも芸術交流の作品は目立っていなかったかもしれませんが、テキスタイルの無機物がまるで生き物ように踊る、ポール・チャンの「トリオソフィア」が見どころだと言えそうです。


ダン・グラハム「木製格子が交差するハーフミラー」 2010年

オリエント美術館の展示を見終えた後は、岡山神社のダン・グラアム「木製格子が交差するハーフミラー」や、岡山ランドリービルの壁面にペイントを施したペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイスの「より良く働くために」などの屋外作品をいくつか鑑賞し、岡山駅へと戻ることにしました。


ペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイス「より良く働くために」 1991年

今回の芸術交流では、各施設での展示の他、関連プロジェクト「A&C」と題し、街中のパブリックスペースにも幾つかの作品が点在しています。


リアム・ギリック「多面体的開発」 2016年

前回の芸術交流時に制作された2作品に加え、新たに4作品が制作され、開催に先立って公開されてきました。城下の交差点に高くそびえるリアム・ギリックの「多面体的開発」が目立っていたかもしれません。

この日はスケジュールの都合上、午後から半日程度しか時間が取れませんでしたが、一部の映像を除けば、大半の作品を鑑賞することが出来ました。ゆっくり見て回ったとしても1日あれば十分に楽しめる内容ではないでしょうか。


シネマ・クレール丸の内 *外観(ローレンス・ウィナーの作品)

特に展示に順路はありませんが、私が準備していた前売券を旧内山下小学校で引き換える必要があったため、まず同小学校の作品を見た後、南から北へとぐるりと一周、林原美術館、岡山城、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館へと見て回りました。ただしシネマ・クレール丸の内の映像は上映時間に間に合わなかったため、屋外で展開するローレンス・ウィナーの作品のみを観覧して来ました。



全ての展示は城下駅を起点に、岡山城から旭川沿いに集中しているため、徒歩で移動することも十分に可能でした。またカフェや古い喫茶店も随所にあり、街歩きとしても楽しめました。


旧内山下小学校 *廊下内

「もし蛇が」と題した謎めいたタイトルしかり、ともすると難解な内容だったかもしれませんが、生命科学を取り巻く様々な問題を意識させるようなコンセプチャルな作品も少なくなく、他の芸術祭とは良い意味で差別化されていたのではないかと思いました。昨今の芸術祭で見られるフォトジェニックな要素も殆ど感じられません。


岡山県天神山文化プラザ *外観

キーワードとして「新しい生命体とテクノロジー」を掲げ、芸術交流全体が「独立した1つの生命体」(リリースより)と定義づけられています。それこそ蛇が這うかのように展示を見て歩いていると、いわゆる芸術作品を目にしているというよりも、近未来の生命や知能に関する実験を前にしているような錯覚に囚われました。

会期も残すところ1週間を切りました。11月24日まで開催されています。

「岡山芸術交流2019 IF THE SNAKE もし蛇が」 旧内山下小学校、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館、岡山城、林原美術館ほか
会期:2019年9月27日(金)~11月24日(日)
休館:月曜日。但し10月14日(月・祝)、11月4日(月・振休)は開館し、翌日の火曜日が休館。
時間:9:00~17:00
 *入館は16時半まで。
料金:一般1800円、一般岡山県民1500円、専門学生・大学生1000円、65歳以上1300円。
 *8名以上の団体は1300円
 *単館観覧券(500円)あり。
住所:岡山市北区丸の内1-2-12(旧内山下小学校)、岡山市北区弓之町17-35(旧福岡醤油建物)、岡山市北区天神町8-54(岡山県天神山文化プラザ)、岡山市北区天神町9-31(岡山市立オリエント美術館)、岡山市北区丸の内2-3-1(岡山城)、岡山市北区丸の内2-7-15(林原美術館)
交通:JR線岡山駅より路面電車東山線4分「城下」下車、徒歩5分。(メイン会場の旧内山下小学校へのアクセス。)
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