「中山英之展 , and then」 TOTOギャラリー・間

TOTOギャラリー・間
「中山英之展 , and then」
2019/5/23~8/4



TOTOギャラリー・間で開催中の「中山英之展 , and then」を見てきました。

1972年に福岡で生まれ、2007年に建築設計事務所を設立した建築家の中山英之は、これまで主に住宅やオフィスなどの設計を数多く手がけてきました。

その中山は個展に際し、「この展覧会は、いくつかの映像からなります。」として、「建築の展覧会というよりも建築のそれから/, and thenを眺める上映会、と言ったほうが正しいかもしれません。」と語っています。それでは一体、どのような展示が行われていたのでしょうか。



入口からして通常の作りとは異なっていました。というのも、3階のエントランスはまるでチケット売り場を思わせるようになっていて、4階へと進む通路には、さながら映画館ならぬ映像作品のポスターが貼られていました。つまり山本は会場全体を映画館に見立てていました。



はじめのロビーと記された3階のフロアには、中山が過去に設計した「岡田邸」や「弦と弧」といった建築の模型、スケッチ、図面などが展示されていました。それらはいずれも緩やかな曲線を描き、高さのまちまちな展示台の上に並んでいて、キャプションは、中山本人が直接、鉛筆で書いていました。全体的に手作り色の濃い展示と言えるかもしれません。



それぞれのブースでは、一般的な建築展と同様、模型や図面等が置かれていましたが、一見するところ、設計とは無関係と思われる撮影用のカメラや楽譜があることも分かりました。何故にカメラと楽譜なのでしょうか。



答えはCINEMA(CINE間)と題した4階のフロアにありました。そこでは大型のスクリーンに、先の「岡田邸」や「弦と弧」をはじめ、「家と道」や「mitosaya 薬草園蒸留所」など、中山の建築を舞台にした6本からなる短編の映像作品が公開されていました。つまり先のカメラは映像の制作に使われ、楽譜もBGMのためのメイキングだったわけでした。



そして重要なのは、映像が単に建築をモノとして紹介する内容ではないことでした。何故ならば「and then」、すなわち「建築のそれから」である現在の状態を映していて、例えば元々3人用に設計された「岡田邸」では、5人に増えた家族の生活する日常の光景を捉えていました。



事務所兼住宅である「弦と弧」では、吹き抜け部分を上下にカメラが移動し、食事や仕事をする住人などの様子を映していて、建築家の手を離れた今、実際にどのように建物が用いられているのかについて焦点を当てていました。また建物の外観や内部だけでなく、環境や立地にも触れた映像もあり、建築を取り巻く空間にも視野を広げていました。これほど赤裸々に建築と人、そして環境の関係を明らかにした建築展もなかなか他にないかもしれません。



さらに興味深いのは、映像の監督や編集を担ったのは中山ではなく、別々の施主や事務所の元所員であることでした。つまり「建築のそれから」の映像には、一切、建築家本人が関わっていませんでした。



いずれの映像も住人たちの生活などを通して、建築空間の生き生きと立ち上がる様子を、臨場感のある形で体感することが出来ました。「映画祭のような展覧会」との言葉もありましたが、もはや映像、言い換えれば短編映画こそ主役の異色の建築展とも言えるかもしれません。



なお映像は全部合わせると約1時間ほどありました。時間に余裕を持ってお出かけ下さい。



8月4日まで開催されています。おすすめします。

「中山英之展 , and then」 TOTOギャラリー・間
会期:2019年5月23日(木)~8月4日(日)
休館:月曜日。祝日。
時間:11:00~18:00
料金:無料。
住所:港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅3番出口徒歩1分。都営大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅7番出口徒歩6分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )