「文承根+八木正 1973-83の仕事」 千葉市美術館

千葉市美術館千葉市中央区中央3-10-8
「文承根+八木正 1973-83の仕事」
9/23-11/4



先立って行われた京都国立近代美術館との共催展です。ともに1970~80年代初頭の京都で活動していた芸術家、文承根(ムン・スングン 1947-82)と八木正(やぎただし 1956-83)の制作を概観します。(*1)彼らの表現は非常に独得なものですが、「具体」や「もの派」等に親しみのある方には素直に楽しめる内容かもしれません。私としてはかなり魅入りました。

 

まずはじめに紹介されていた文承根ですが、彼は1960年末に「具体美術協会」へ参加し、69年には国際青年美術家賞を受賞するなどして活躍していたアーティストです。終始、どちらかといえば他の作家との交流を断ちながら、絵画、彫刻、それに版画などを『孤高』(ちらしより。)に制作し続けていたそうですが、この展示ではその中より、主に水彩のグラデーションを抽象的に配した一連の「無題」シリーズと、風景写真と瑞々しく力強い面的なドローイングを組み合わせた作品などが紹介されていました。(「無題」に見る美しさは一般的に受けると思います。上の作品画像左の作品です。)また「活字球」と呼ばれる、無数の漢字やひらがなを刻印したオブジェも興味深い作品です。これは球を転がし、結果、偶然的に生まれる文字の羅列を一種の紋様としても見るものですが、支持体の素材(粘土や紙など。)よってその感触は変化していきます。制作の行為とその痕跡の双方に等価的な意味の持つ作品なのかもしれません。

 

一方の八木正は、京都市立芸術大学在学中よりその存在が注目されていたという作家で、主にいわゆる木彫表現にて純度の高いシンプルなオブジェを制作しています。ここでは、板と板を並べてその間に色を配したという、まるでスノコを思わせるようなミニマリズム的作品や、板を貼り合わせて作った箱のようなオブジェなどが展示されていました。ちなみに、木目も剥き出しになった、半ばその力強さも感じる八木の作品ですが、真に注目すべきは細部に施された処理の方法にあるのかもしれません。例えば、一本の木材をたんに削って作ったような棒状の作品が、実は中が空洞な箱状のものであったり、それぞれの板の端などが薄く削られているかと思いきや、その代わりに全く同サイズの別の板がはめ込められているなど、似たような素材を積み木のように組み合わせながらも各々に絶妙に異なる表情を与えています。もし、八木の作品に繊細さを見るとすれば、これらの丁寧な業の効果によるに相違ありません。

この企画と連動する形で開催されている所蔵品展、「1970年代の美術」もまた秀逸でした。(別エントリにて触れます。)ズバリ、館内には誰もいないに等しいくらいの閑古鳥状態でしたが、この系統の現代美術に強い千葉市美術館ならではの好企画だと思います。

11月4日までの開催です。(9/29)

*1 文と八木の作品を網羅する回顧展ではなく、二者の作品の保管、または調査に務めた京都国立近代美術館と千葉市美術館の活動と研究の成果を中間報告の形で紹介する、一種のコレクション展としての側面を持つ展覧会である。(ちらしより引用。改変。)
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