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イギリス議会下院4度目の正直解散

2019-11-10 20:43:30 | Weblog

ヨーロッパ連合(EU)からの離脱をめぐって、この3年ほど政治的漂流を続けてきたイギリス議会下院がついに11月6日に解散した。12月12日投票の総選挙を目指す。ジョンソン政権はそれまで3回にわたって解散の動議を下院に提出したが、ことごとく否決されてきた。4度目の解散動議で、野党労働党が賛成に回ってついに解散が議決された。

イギリスでは、その昔、国王が議会解散権を握っていたが、その伝統が首相に引き継がれ、首相が与党に都合のいいように、恣意的に議会解散と総選挙をおこなってきた。

そういう慣行は時代錯誤だとの批判を受けて、イギリス議会下院は2011年に議会任期固定法を成立させた。この法律によって①内閣不信任決議の可決された場合②下院で3分の2以上の多数で解散を決議した場合を除き、議員の5年間の任期を固定した。

イギリスでは解散はもはや首相の専権事項ではなくなっていたのである。

自動車の道路左側通行と議院内閣制をイギリスにならって採用している日本だが、この時以来、日本国首相の専権事項とされる「解散権」に批判的な意見が目立つようになった。

日本の衆議院は戦後20回以上解散しているが、そのほとんどが「7条解散」である。憲法第7条には、「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」とあり、その第3項で「衆議院を解散すること」としている。

これは、内閣が衆議院解散を決断してこれを天皇に告げ、国民の象徴である天皇が国民に告げる儀礼を定めたものである。また、憲法第7条は憲法改正を交付することを天皇の国事行為の一つとしているが、公布にあたっては内閣の助言と承認が必要であり、内閣が助言と承認を行うには、国会での発議と国民の承認が前提になっている(憲法第96条)。

同様の論理をたどれば、第7条にもとづいて衆議院を解散するには、その前提として、衆議院で内閣不信任が可決された場合は、10日以内の衆議院解散か、内閣総辞職をしなければならない、という第69条の条件を満たす必要がある。69条の定めによって内閣が衆議院解散を決意し、これを天皇に告げ、天皇が衆議院解散を発表する手順となる。

かつて、第7条による解散は政府の憲法違反行であると訴訟を起こした例があるが、最高裁判所は「統治行為」であるとして、判断を避けた。国会あるいは国民が判断すべきだという考え方である。だが、統治行為論という重い言葉にふさわしい7条解散はさほど多くなく、多くは首相と与党のご都合による解散だった。それを許したのは、解散は首相の専権事項と与党幹部が音頭を取り、解散権を行使する首相を、印籠を振りかざす誰かさんを見るような何の疑いも持たない、お祭り気分の有権者が多かったからだ。

日本国憲法で政府が衆議院を解散できる条件を定めた条文は69条しかない。論理的に欠陥があり、政治的には恣意的に利用される7条解散であっても、議員たちは議場で「バンザイ」を叫んできた。議席を失う議員たちの悲鳴であり、やけくその叫びだと解されてきたが、それにしても、なぜ、このような7条解散がまかり通っているかといるのだろうか。

大日本帝国憲法の第7条は「天皇ハ帝国議会ヲ招集シ其の7開会閉会及衆議院ノ解散ヲ命ズ」としていた。日本人の心証はここらあたりからまだふっ切れていないのであろう。

(2019.11.10 花崎泰雄)

 

 

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