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news commentary

Does Size Matter?

2018-01-06 23:31:03 | Weblog

 Does Size Matter? なんて見出しをつけるとちょっとあぶない話かなと誤解されそうだが、お話したいのは性事ではなくて政治のこと。ただし、こちらの政治の話も危ない。もっと危ない。

キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長が今年の元旦メッセージで「合衆国はわが国の核ミサイルの到達圏内にある。核のボタンは常時わが執務室のデスクの上におかれている」と豪語した。新聞やテレビ、インターネットのニュースでご覧になったことだろう。キム・ジョンウン氏に対抗して、合衆国のドナルド・トランプ大統領もツイッターを使って咆哮した。「わが方の核ボタンはもっと大きくて、もっと強力である」。

相互確証破壊(mutual assured destruction, MAD)の時代、あのmadnessの時代でも、キム・ジョンウン―トランプのような声高な恫喝合戦は聞こえてこなかった。一般大衆には見えない、声も聞こえない外交のバックチャンネルで脅迫合戦が繰り広げられた。普通の人には「我が国は先制核攻撃の権利を放棄しない」程度の抽象化した声しか聞こえてこなかった。リチャード・ニクソンはベトナム戦争終結に手を焼いていたころ、「ニクソンが怒りにまかせて手に核のボタンを持てば、もはや誰も制しようがなくなる“マッドマン”だということを北ベトナムの連中に信じさせたい」と言ったそうだが、それは北ベトナムや国際社会に対して明言したのではなく、ニクソンの側近にこぼした愚痴であった。

したがって、二国間関係を憎悪と敵意の言葉の応酬から計量分析する外交的危機の研究手法を用いると、米朝関係は戦争の瀬戸際に立っている。1962年のキューバ危機の際の米ソ対決は、派手な罵り合いは表だってなかったが、米艦艇がカリブ海をブロックし、その封鎖線に向かってソ連船が突き進んで行くという具体的な事実があって、皆が震え上がった。おそらく米大統領・ケネディもソ連首相・フルシチョフも震えていたことだろう。

キム―トランプ間には憎悪の言葉の交換はあるが、この2人はテレビで映像を見ている限りでは、かれらの容姿・振る舞い・発言がマンガチックで、どこかの首相のように心底北の脅威を感じる気にも、アメリカの核の傘を無邪気に信じる気にもなれない。俺のボタンはお前のより大きい、なめんじゃないよ、だって。ははは。

1月3日のニューヨーク・タイムズ紙の記事によると、アメリカ合衆国大統領は核のボタンというものを持っていないそうである。大統領付の武官が提げているブリーフケース、俗に核のフットボールとよばれているものの中には、核攻撃のための手順書、核ミサイルの基地一覧、トランシーバー、そして秘密コード入力装置が入っている。核のボタンはレトリックにすぎない。

ニューヨーク・タイムズ紙の見立てによると、おそらくキム・ジョンウン氏の執務室のデスクにも核のボタンはないだろうということである。北朝鮮の長距離ミサイルは液体燃料を使っており、燃料注入に数時間かかる。ボタンを押して、はい、発射というようなものではないらしい。

笑い事では済まないのは、一国の最高指導者が核による恫喝をかたやツイッターに書き散らし、かたや喚き散らすという、その粗雑なメンタリティーである。トランプ大統領のメンタリティーに関しては、米上院にも危惧する議員がいて、ボブ・コーカー上院外交委員長は昨年、大統領の核使用権限に歯止めをかけるための公聴会を開催している。

(2018.1.6  花崎泰雄)

 


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