互いをののしり合う老いたライオンの一騎打ち――バイデン現大統領とトランプ前大統領の双方にうんざりしている米国の有権者を「ダブルヘイター」という。日本の新聞に載っていた。失語症気味の現職と虚言癖丸出しの前職だから、ダブルヘイターの嫌悪感に同情する。民主党がバイデン大統領を説得して選挙戦から退かせる工作をしているとの報道もある。アメリカ政治の老化の兆候だが、日本で高みの見物というわけにはいかない。アメリカの政権とちかしい政権を持つ国の民は、米国の大統領選挙に投票はできないが、アメリカ人の選択の結果の影響にさらされる。
英国でも7月の下院選挙で保守党が大負けしそうだと日本の新聞が伝えている。保守党政権が退陣し、労働党政権が誕生する公算が大きい。経済的な得失より、大陸ヨーロッパとのしがらみをすて、大陸に制約されないという自尊心の方を優先した英国のEU離脱の判断の結末ともいえる。
フランスでは国民議会選挙でマクロン大統領の与党が、右翼勢力の国民連合に押されている。欧州議会選挙でフランスでは大統領与党が大敗したため、どちらかと言えば発作的にマクロン大統領が議会を解散して選挙に打ってでた。自業自得である。イタリアではすでに右翼が政権を握っている。ドイツでも右翼が勢力を強めている。若いころであれば興味津々の政治状況だが、世俗のろくでもない出来事を経験してきた身には、「明日は嵐」の天気予報を聞きながら夕暮れの空を眺める気分だ。
安倍晋三氏が首相を務めていたころ、安倍氏はしばしば外国のメディアや政治コメンテーターから右翼と言われてきた。安倍晋三氏(当時首相)は2013年2月15日、朝日新聞の記事によると、自民党本部で開かれた憲法改正推進本部の会合で講演し、「こういう憲法でなければ、横田めぐみさんを守れたかもしれない」と改憲の必要性を訴えた。米国のトランプ氏は「もし私が大統領だったとした、ロシアはウクライナに攻め込まなかった」と先ごろの選挙運動で言った。夜郎自大の発言で笑止千万だが、安倍氏の場合は横田めぐみさんを引き合いに出して憲法改正を急がせようとした。現行憲法では市民を守れない、その理由が省略されてところは、トランプ氏の法螺話と同じ作りである。
アベノミックスという言葉が存在感を失い、日銀総裁が黒田氏から植田氏に代わり、1ドルが160円という円安時代が始まった。この円弱はアベノミックスの後遺症――決定的な日本経済の沈没を象徴しているのではあるまいか。さらに、森友学園、加計学園、新宿御苑の桜を見る会、お気に入り検察官の定年延長のごり押し、内閣法制局を抱き込んでの安全保障関連の憲法解釈の変更、派閥の政治パーティー券をめぐるピンハネやキックバックなど、安倍政治の時代に日本の政治倫理は瓦解した。
都知事選のポスターが風俗営業法違反の疑いがあると警察が党首に警告する珍奇な現象が起こるような社会になってしまった。蒸し暑い梅雨の不快指数が跳ね上がっているが、これから都知事選挙の期日前投票に行って、自民党衰退につながりそうな候補者の名前を書こうと思う。
(2024.7.1 花崎泰雄)