「俺のケツにキッスして、バラの香りがします、と臆面もなく言ってくれるような奴らがまわりに欲しいのだ」。今ではすっかり歴史の中の人になったリンドン・ジョンソン第36代米国大統領の言葉だそうだ。ロバート・カーロの詳細なジョンソンの伝記『リンドン・ジョンソンの時代』に出てくる。カーロの本にある「うわー、甘い香りじゃないですか」という言い回しが、人口に膾炙するうち、バラの香りになった。
リンドン・ジョンソンは彼に仕える人々に厳しく忠誠を求めた。
憲法9条の解釈改憲に先駆けて、故・小松一郎氏を内閣法制局長官に据えた件や、NHKに送り込んだ籾井勝人・長谷川三千子・百田尚樹の右旋回トリオの3氏、官僚統制のための内閣人事局などなど、お友達・取り巻き集めと言うよりは、ジョンソン氏の言ったケツにキッスができる人材集めのようにも見える。
それで今度は、原発再稼推進のために原子力規制委員会の委員に田中知・東京大工学部教授を就任させることを決めた。同教授は日本原子力学会の元会長で、福島第一原発事故後も「原発は必要」という姿勢を示し続け、原発の業界団体「日本原子力産業協会」の理事も務め、与野党から「原子力ムラの住人」との指摘が出ていた、と朝日新聞が伝えた人物だ。
そういうわけで、田中教授が日本原燃(2014年3月までガラス固化技術研究評価委員会委員長)と原発メーカーの三菱FBRシステムズ(2014年6月までアドバイザリー・コミッティー)をつとめ、報酬を受け取っていたことを、朝日新聞にすっぱ抜かれた。いずれの社の事業内容も原子力規制委員の審査の対象になる。
朝日新聞の報道によると、同教授は過去、原発業界から以下のような資金提供も受けている。
①日立GEニュークリア・エナジー 寄付 2006~11年度 計360万円②電源開発 寄付 2006度 100万円③太平洋コンサルタント 寄付 2011年度 50万円④東電記念財団 報酬 2011年度 50万円以上⑤三菱FBRシステムズ 報酬 2007~14年度 金額不明⑥日本原燃 報酬 2009~13年度 金額不明。
内閣官房長官は、原子力関連事業者から今年前半まで報酬を受け取っていたことについて、いずれも50万円未満の少額で、また専門技術委員の立場から助言を行うような内容であり、委員に就任するうえで全く問題ない、と説明した。また官房長官は、民主党政権時代のガイドラインが、直近3年間に、原子力事業者及びその団体の役員、従業者等であった者を委員になる資格のない欠格要件としていたことについて、ガイドラインは前政権の内規であった、という解釈を披歴した。
筆者が学生のころは、大学では「産学協同」は悪、という風潮が強かった。だが、今では「産学官」が大流行で、外部資金獲得に必死の大学は、急速に産業界と官僚の下僕へと変身している。田中知教授は大学にあっては外部資金獲得などで有能な評判教授なのであろう。当然のことだが、産官学を進めれば進めるほど、第2の田中知、第3の田中知が担ぎ出されるだろう。
安倍政権のやりたい放題である。政党も官僚も社会も階層化されたいま、少しでも上の地位・収入へと階段をはいあがろうとする人々は狡猾な忠誠と服従・沈黙を守る。そうして、徐々に徐々に日本にバラの甘い香りが立ちこめてくるのである。
(2014.7.9 花崎泰雄)