老後の練習

しのび寄るコドクな老後。オヂサンのひとり遊び。

『散歩する侵略者』 前川知大

2009-06-13 09:43:56 | 文学
ニッポンに帰ってきた日に梅雨入りしたがきのう今日といい天気。テキトーな時間に会社に行って、ワタシを管理するヒトも日常の一部となるようなジブンの席もないのでパソコンを持ち歩いてあちこち流浪して、たまにオンナの子の席に行っておやぢギャグの切れ味を確かめたりしてケッコウ忙しく一日が終わる。
行き帰りの電車の中ではアカの他人との密着感に違和感を覚えつつ本なんぞを読む。こういうグレーな時間は久し振り。
向こうでアマゾンに注文してコッチについたらもう届いていた本が2冊あって、どちらも劇作家の書いた小説で、岡田サンにしても前田サンにしても最近は演劇のほうに文学の主流があるようで、この流れをキワメテ大雑把に言えば、想像力の差がハッキリついちゃってるというような感じ。

で、コレはこの前もナマで見て大変カンメイを受けたイキウメの前川さんの最初の小説とのことで、内容的には芝居と同じようにSF的というかオカルト的というか、日常のすぐ隣に当然あるであろうフシギな世界を時々背筋が寒くなるようなリアリティーで描いていて、電車の中で思わずコーフン。
話のスジは戦争が今にも起こりそうな海に面したいなかの町で、あるオトコが3日間行方不明になったのちに人格が変わったようにして妻の前に戻ってくる。記憶喪失か若年性アルツハイマーかと病院に行ったりしているうちにもうひと組、同じように人格が変わってその人のまわりで次から次におかしなことが起き続ける人たちが現れる。
その人たちは妻とか、通りがかりの人をガイドにつけて毎日ひたすら町に出てシゴトを続ける。カレらのシゴトはイッパン人と接触してその相手からある概念を吸い取って集めることで、それを吸い取られた人はジブンの中からその概念を失うことになる。妻の妹が家族という概念を吸い取られてジブンの下着を洗濯する父親を変態呼ばわりしたりとか、、そんな感じ。

後半に行って話はどんどん盛り上がって実際にどこかの国が侵略してくる状況と、一方でカレらがイッパン人から概念を奪って、その奪われた人たちはその一つを奪われただけで別人のようになって精神的に死んでいく、そういう目に見えない何かに内面的なモノが侵略されていく状況が並行して語られていく。すげーウマい。
それでもって最後はそのカレら、自分でジブン達は宇宙人だというのだが、作者はそのように決めつけないような書き方で進んでいくカレらが追い詰められて、もうやめようということになったとき、人間にとって一番大事なモノが妻から奪われる。それを奪い取ったオトコ=宇宙人=元夫、はソレが、その概念を持つことによって初めて人間にとって一番大事なものであることを理解できる、そういう概念であることを知り、人間に戻ったかのようにそのことを悲しむ。はたしてその概念とは、、みたいな。

詳しくは実際読んでみないと。
メディア・ファクトリー刊。

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