狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

岩波文庫「神皇正統記」雜考

2005-08-03 08:40:10 | Weblog
むかし(昭和50年以前の頃)行きつけだった古本屋の書棚に、「神皇正統記」という岩波文庫を見つけたことがあった。ボクがまず1等先に調べるところは、後ろの見返し遊び部分に付けられた鉛筆書きの値段の数字である。初版本であったかどうかなど、眼中になかったが、書かれてある2,000という数字に圧倒され、購買意欲はその時点で、全く失ってしまった。
ボクはその本の歴史的内容に魅せられたわけではない。当時この文庫本は絶版本として朝日新聞のコラム欄に何かの話題提供記事として載っていたのを見ただけのことである。それを見て知っていたから掘り出し物を見つけた時のような感激を味わったのだが、流石古本屋のソロバン勘定はボクよりははるかに上手だった。2,000という書き込みは売価は2,000円ですという定価表示で、値引きは今までの経験から、この本屋ではありることではない。
2,000円は当時のボクとして法外もない高価な金額ではなかったが、岩波文庫のコレクターでもなかったし、その内容たるや猫に鰹節(小判の間違え)に等しかった。

当時岩波文庫のプレミア付でも1,000円ぐらいが相場だったように思う。
「能狂言上・中・下」「何々俳風柳多留」などがそれである。
2,000円も払って「神皇正統記」入手するにはボクの良心が決断を赦さなかった。
当時古本屋の文庫本で1,000円以上の鉛筆書きの値段をつけてあったのは、旺文社文庫の「内田百」の著作集ぐらいだっただろう。その理由はボクにはわからない。
ただかつて「新輯内田百全集」で味をしめたと思われる福武書店の内田百文庫作品は、どの本屋でも売れなさそうな文庫本だったのに、不思議なことに社名をベネッセコーポレーションと変えた途端店頭から姿を消してしまい、今古本屋に800円~1000円で出回っていたということである。

駄弁を弄してしまった。
ボクはその後何回か未練があってその本屋に2,000の鉛筆書きだけをながめに行ったが、ある日とうとうその「神皇正統記」は書棚から姿を消してしまった。売れたのであろう。

ところがである。いまどき「絶版」などあり得ないだろうと思っていた矢先、それみたことか、この「神皇正統記」岩波文庫版が再版されたのである。しかも300円の手ごろな定価で…。
昭和50年の事である。それを知ったときボクはあの時2,000円吝んだのは本当に正解と思って今日まですっかり忘れて過ぎた。

Leprechaun さんが「北畠家」という民族・歴史に関するカテゴリー欄に寄稿された。
ボクは歴史についての知識はほとんどない。しかし岩波文庫版「神皇正統記」について以上のような思い出があるので駄文を綴ってみた。
しかし、先刻調べてみたら、再版されたのは同じ「神皇正統記」でも校注者が山田孝雄から岩佐正と変わってしかも現在品切れ。あーア2,000円!!あの時コイズミが買って行ったのかなぁ。残念無念。
ボクは地団駄を踏んだのであった。
 参考まで
1934年 神皇正統記 山田孝雄肯定246頁菊半載(110×152㎜)40銭
1975年 神皇正統記 岩佐 正校注294頁A6版(105×148mm)300円
                  (岩波文庫総目録)

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