『子供たちにとっての本当の教科書とは何か』 ★学習探偵団の挑戦★

生きているとは学んでいること、環覚と学体力を育てることの大切さ、「今様寺子屋」を実践、フォアグラ受験塾の弊害

「学体力」は偏差値を超克する⑧

2013年10月26日 | 学ぶ

 

誰でもできる、必ず役に立つ学力飛躍の秘訣
              ・・・次の日の授業予定箇所を必ず読んでおく
 勉強を「手軽」に済ませることはできません。しかしこの稿の最後に、一昨年の渓流教室でのエピソードから、実行さえすれば、誰でも学力を飛躍的に上げられる方法を一つ紹介します。やろうと思えば、すぐできる簡単な方法です。

 一昨年は渓流教室に、K君をはじめとする京大進学OB三人と阪大進学OB一人が集ってくれました。参加していたひとりのお母さんが先に紹介したK君に勉強法をたずねました。
 その返答です。 

  「ぼくは六年間欠かさなかったことがあります。それは、次の日に学習する予定の教科書の該当箇所を必ず読んでおくことでした

 嬉しくなりました。Kくんは、その勉強方法の出処をすっかりわすれていましたが、ぼくが、中学受験を終えた諸君に、毎年「とっておきの最低限の勉強法」として奨励している方法です。もちろん当時K君にも進言しました。

 しかし、「律儀に日々くり返すこと」ができた子はあまりいません。K君のすごいところは、それをまじめに六年間続けたところです。「学体力」です。平凡は律儀に積み重ねることで非凡へと転化します
 この方法は単純ですが、次のような大きな利点があります。
 新しく習うところの「先取り」ですから内容に「新鮮さ」があります。読み進めるうちに新たな発見や疑問点が眼につきます。集中するわけです。

 さらに「学習」を毎日意識するようになります。真面目な子は疑問点が気になり調べようとするでしょうし、そうでなくても、次の日の授業や先生の講義に対する集中力が変わってきます。それによって考える機会が増え、記憶の定着率も飛躍的に増します。この習慣を中・高六年の間毎日くり返せば、その効果は絶大です。
 友人の公立高校の教師に聞かされることですが、塾や予備校に通っている子は授業中寝てしまっている子がたくさんいるそうです。先生が指導力を問われていることはもちろんですが、友人の学校は奈良県下でトップの公立校で、先生の質もそれなりです。授業を聞かないで寝ていれば、いくらよい学校に通っていても、有名予備校に通っていても、まったく意味がありません。
 きちんとした授業をする学校に進学すれば、難関大学への残りの「プラスアルファ」を自らで補填することは十分可能です。自学できます。団の子たちが塾や予備校に通わなくても難関国立大学へ進学できる大きな理由の一つは、課外学習や立体授業を通じた日ごろの指導で授業に対する集中力が鍛えられ、整っているからです。これも「学体力」の大きな基盤です。

「学体力」をたとえると・・・大量生産の料理包丁と手づくりのナイフ
 団の指導方法について考えてみることがあります。
 今の多くの受験学習指導を、たとえば調理師の修業や料理教室にたとえてみると、三枚おろしにした魚やきれいに仕分けられた肉を用意し、料理にあった安物の包丁を購入させ、「マニュアルどおり」に料理をつくらせている、そんなようすが浮かんできます

 それぞれの科目や問題に応じて、出刃包丁・刺身包丁・菜切り包丁・ペティナイフ・・・いろいろ揃えてもらって、買った当時はそれなりによく切れ(教えてもらった問題はわかった気になり)、一応見かけよく料理を仕上げることができる(有名校に合格できる)が、すぐに切れやみ、研ぎ方も知らないので(考える力や習慣がついていないので、学習したことが無駄になり)、一生懸命研いでも満足に刃を立てることもできないので使い捨て(学ぶ面白さや学体力が身についていないので、学んだことが有効活用できない)。
 いろんな包丁を料理に合わせて使うことしか教えられていないので、一本でも忘れてしまえば肝心の料理を最後まで仕上げられない(学習しても応用力がない)。それでは職人になることもできないし、当人も「包丁を揃える」のに忙しくて、「腕利きの職人」になれることなど考えたこともない(詰め込み授業を消化するのに忙しく、夢をもつひまがなく、能力を生かせる術がわからない)。

 研ぎ方を教えてくれる「お店」で買えば再利用も可能だが、研ぎ方も教えなければ、他にもっといい包丁があることも教えない。長い人生なのに、現物はすぐに使い物にならず、そのままゴミ箱行きです。
 そんなイメージを抱くのはぼくだけでしょうか?
 子どもたちに(特に、こういう例はOB教室で)よく話します。

 ・・・いろんな包丁を君たちに用意してあげることはできない。でも、見かけが悪くても、「ゴツゴツ」だって、何でもよく切れる、人生を切り開くことができる、いつまでも使えるナイフを砂鉄から鍛えることを教えてあげられるつもりだ。出刃包丁を忘れたので魚がさばけない、刺身包丁がないので薄造りはできない、なんてことになったら困るから・・・。
 丈夫でよく切れるナイフがあれば猪だって捌ける。川原で砂鉄を取ってきて、鞴を使い、鉄を鍛錬し、自分のナイフを鍛えられるようになることがたいせつなんだ。研ぎ方や手入れの仕方も覚えておけば一生困らないだろう? 河原へ行けば砥石になる石だって探せるんだ、君たちは。もうわかるだろ?

 

 「学体力」は、大量生産の研げない包丁・使い捨てのナイフではなくて、手づくりのナイフです。K君が鍛えたナイフです。
 ぼくたちの一生は難題や難問の連続です。「学体力」のついた子どもたちは鍛え上げた切れ味の確かなナイフを振るって、料理してくれるでしょう。切れ味が鈍れば上手に研ぎ、そしてすり減れば、質の良い砂鉄を集め、新たによく切れるナイフを作りあげてくれるでしょう・・・K君のように。ぼくはそれを信じて子どもたちを指導しています。

              (この稿おわり)


「学体力」は偏差値を超克する⑦

2013年10月19日 | 学ぶ

難関中高一貫校の進学状況2・OS学院
 さて今週は同じく近畿の私立中高一貫校ではトップランクのOS学院の進学状況です(表⑤)。
 まず現役生です。2013年の卒業生215名の内、東大15名・京大36名、阪大7名で三大学合格の現役生は合計58名。また、国公立大学合格者は国立80名・公立20名で計100名です。さらに国公立大学医科系は12名と発表されています。

 これにそれぞれの既卒生の合格数を加えると、今年の三大学合格者数は合わせて86名、国公立大学合格者総計は159名となります。そのうち医科系の合格者総数は24名です。

 先週T学園の分析の際話しましたように、浪人の受験者総数を想定しなければなりません。受験者総数がわからなければ全体の合格率の概要がつかめません。OS学院の既卒(浪人)の国公立大学合格者数はT学園と同じく毎年90名前後いるようですが(つまり浪人受験者は少なく見て毎年100名前後と考えられます)、前年(2012年)度の現役生の合格者が多かったこともあり、今年は59名と少なかったようです。よって今年の既卒受験生数を70名と想定し、それぞれの合格率を算定してあります。

 

これは先週のT学園と同じ要領ですが、やはり本来の既卒受験者数はもう少し増えるでしょう。つまり、本来の既卒と現役・既卒合計の合格率はもう少し低くなるだろうと想像しています。
 同じ要領で、近三年間を数値化したのが表⑦です。先週のT学園(⑥)と比較してください。国公立大学合格率はそんなにちがいがなく、逆にOS学院の方が高い場合もあるのですが、やはり難関三大学の合格者数・合格率でT学園が上です。これはT学園に比べて、「難関三大学に限らず国公立の有名大学への進学でも可」とする諸君が多いのかもしれません

団のOB教室出身生との実績比較
 さて、上記二校と比べるのはおこがましいのですが、「中学受験時に、その多くがフォアグラ学習で受験戦法を身につけ、偏差値70を合格基準とするほどの受験戦線を勝ち抜いた諸君」に、「課外学習でやんちゃを重ね、立体授業を存分に楽しんだ、日能研では偏差値50にも満たない諸君」が、小学生・OB教室と数年間団で過ごして戦いを挑んだ結果は、ぜひ報告・紹介しておかなくてはなりません。そうでなければ、今後の指導展開の意味を問えません。

 団は多くても卒業生毎年数名という少人数個人塾ですので、一期生から昨年度(2012年)までの総計で合格者数・合格率を算出していることをご理解ください。また、T学園やOS学院のように一流の先生の衆知を集めた指導ではなく、教育界とはまったく無縁だった「下町の頑固おやじ」が一人で、自らの経験と子どもたちの成長の様子から振り返り、試行錯誤を重ねた(重ねつつある)指導なので(?)、まだ東大生は生まれていません。
 (注・一昨年、9年間在籍したY君は、東大にも十分な実力をもっていたのですが、当時の志望学科の関係で京大に進みました。団で育った諸君は大学進学時には自らの進路や方向性を見据えているので、進学先に対してはあくまでも本人任せです。)                 

 さらに、この報告は難関大学合格の誇示ではありません。この比較対照表から、ぜひ読みとって理解していただきたいことは、子どもが、ちゃんと子どもらしい好奇心や環覚を大切にし、日ごろの生活習慣や学習習慣さえ整えることができれば、身体も学力も心も健やかな素晴らしい若者に育つという一点だけです。
 塾のフォアグラ授業や小学校受験に血道を上げなくても、子どもらしい好奇心をうまく育て学習習慣さえ整えば、十分素晴らしい子は育ちます。もちろん学力もです。いびつになりがちな学習指導を受けるより、もっと素晴らしい子がたくさん生まれるかもしれません。
 さて、T学園やOS学院と同じように、小学校時入団しそれぞれ数年間のOB教室を経て卒業した諸君が26名、難関三(団は二)大学合格者・国公立大学合格者・国公立医科系合格者に、前述の二校と同じように分けて合格率を算定し、比較対照できるようにしたのが表⑧です。以前、U学園とK大附属のことに触れましたので、この二校も同要領で、それぞれ2013年の合格率を比較対照できるように併載してあります。

 前述のようにT学園・OS学院とも過年度生の受験者総数が不明ですが、先の想定算出数よりは多くなると考える方が妥当でしょう。つまり、合格率は低くなるという判断です。
 しかし、そのままでも、ごらんのように(赤抜き数字)、中学受験時日能研では平均以下の偏差値に比定された「団のやんちゃ坊主たち」は現役生ではトップ校二校の卒業生を凌駕する成績さえ上げています。
 みなさんは、これらの成長の結果をご覧になって、まだ小学校受験をはじめとした「がむしゃらな受験勉強」をさせる必要があると思われるでしょうか? 偏差値を70に上げるだけの「特殊な学習指導」が必要でしょうか? それがほんとうに子どもたちのためになるでしょうか。
 「受験目標に始まり受験目標に終わる学習」ではなくて、もっと先を見据える指導法・学習法にシフトするべきではないでしょうか。それによって子どもたちの成長ぶりは大きく変わってくると思います。

ほんとうにたいせつなもの・・・「学体力」と「環覚」
 まず肝心なこと。小さいころに「学習はすべて身のまわりのことの学んでいることであるという「眼」を育てること(「環覚」を身につけること)」です。

 そして次に、学校や塾での学習内容が「机上の暗記対象」ではなく、自然や社会環境の「成り立ちやしくみ」の抽象であり、「謎に満ちたおもしろい対象である」という「学習の次のステップ」を学習者に開示することです。そして、その方法とシステムの不断の研究と検討です。
 最後に「受験知識」や「目的が受験しかない勉強」を中心に据える意識ではなく、「学ぶことそのものがおもしろく、たいせつなことである」と学習指導者や保護者が意識改革をはかること。そして、その思いを小さいころから「学習者」にしっかり伝えること
 なぜ、それらが大切なのか、もう一度ぼくの考えをお伝えします。
 学習を始めるべき小学生時代に、学習対象の大きな部分を占める植物や動物さえ身近に感じられず、自らの環境に対する注意力や観察の習慣もなく、抽象的な概念や要約を頭のなかで組み立てて、それを暗記して問題演習を重ねるだけで、はたして「学ぶことのおもしろさ」は始まるでしょうか。
 ゴルフを知らず興味もないお父さんが、「スコアの計算をしろ」といわれたり、風の向きやスイングの説明を受けるだけで、「何か愉快なこと」が始まるでしょうか?

  おもしろさが始まるのは、何度か見たりプレーしたりという経験を重ねてからです。馴染んでいく中で、興味がわいてくるのではありませんか? それによって、少し調べたり、考えたりすること、そして練習もはじまるのではないでしょうか? 
 机上や文字面でほとんど知らないことを学び、知らないが故に「イメージの応援も無い」なかで、興味が持続するでしょうか

 「ほとんど問題演習や受験項目の暗記に始まり、そのまま受験に終わる現在の学習形態」の中で、「学ぶおもしろさ」を見つけることは、この例を考えればわかるように、不可能に近いことではないでしょうか。それで、子どもたちの学習に対するモチベーションが高まり、次なる展望が開けるでしょうか
 個人でできることが大きな組織や機構でできないわけはありません。ぜひこれらの指導法をみなさんの検討課題にしていただけることを願ってやみませんか。


「学体力」は偏差値を超克する⑥

2013年10月12日 | 学ぶ

自学のすすめ
 さて、難関中高一貫校の大学進学状況について考えてきました。難関大学の合格者数で学校の指導レベルの評価(つまり進学校の選択の正否)や将来を左右する「学体力」育成の評価を正しく判断できるのか、という疑問です。

 前週紹介のように、トップ校で六カ年一貫の授業を受けても、毎年半分近くが浪人するという現状です。もちろん学校の指導力の問題だけには限りませんが、現在の教育システムや教育環境に、何らかの大きな問題があることを暗示していないでしょうか。
 自ら学び進める力、つまり自学力や学体力が整わず、夢や希望も見えず、その前で時間だけが経っていくという子が増えている懸念はないでしょうか
 六カ年一貫校の多くでは学力別にクラス分けし指導する方法をとっています。つまり、「それなりの学力」の子を「それなり」に集め、学力を「充実させる」という方法です。指導する上で、その方が効率的だという理由もわかりますが、一方で「特別クラスに、よい先生の指導が集中する」ということもよく聞く話です。学校の評価レベルを上げるための「エリート(?)養成クラス」です。

 このように難関大学合格者数だけ多くても、そこで全員が素晴らしい指導を受け、順調に成績が伸びることを保証されるわけではありません。あくまでも、学校任せ(受験塾頼りも、その例に漏れません)です。
 今までのブログでもお伝えしてきましたように、ふだんの学習姿勢や自学力、つまり「学体力」が確立していなければ、どんな難関校へ進学しようと、得るものが少なく無駄に学費を払うことになる場合も少なくありません
 コンプレックスをもったり、夢を忘れたり、逆に、「変なプライドや鼻つまみのエリート意識だけ」が身についたり、という事例も身近でよく見聞します。人格や良心がともなわない高い学力ほど、はた迷惑なものはありません。
 学校や塾選びに奔走するという「あなた任せの方法」の前に、家庭で「学体力」を育成すること、学習事項に対する日ごろからの「環覚」を養うことに、眼を配り、気を配ってみてください。それらがちゃんと整えば大学受験を迎えるころには自らの力で受験戦線を乗りきることができる子に育っているはずです。OB諸君の進学や成長ぶりを見ていただけばわかるように、むしろその方が後々の人生にとっても得るものが大きいはずです。

 現在はよいテキストや参考書が出ていますから、取り立ててトップ校に進学したり、学習塾や予備校に頼らなくても、自学受験は可能だと思います。つまり、きちんとした学習姿勢や考える力が育っていれば(小さいころから育てることができれば)、そして「一定以上」の信頼できる学校で先生のアドバイスさえ受けられれば、自分で十分受験対応できると思います。また、それくらい自力でできなければ、大学に行ってもあまり意味はないのではないか、そんな気がします。
 そんなにむずかしいことではありません。自らの経験や団の子どもたちの成長を見て心からそう信じています。その判断材料としても、次に紹介する表や資料を精読・精査していただければと思います。

難関中高一貫校の進学状況・T学園
 表⑥は近畿地方の県下トップ校といわれるT学園の過去三年間の国公立大学合格状況です。わかりやすいように、国公立大学合格者を一般に難関といわれる東大・京大・阪大の三大学(桃色枠)と国公立大学合計(黄色枠)との別枠で計数しました。さらに国公立大学医科系への合格率も別枠(緑色枠)にしてあります。

 こうした発表を見て、いつも残念に思うことがあります。「受験者総数の明確化」です。進学状況を正しく報告するために「過年度の受験者総数も明記すべきだ」と考えています。その理由です。もう一度④の今年のT学園の進学状況報告を見てください。

 

 注目していただきたいのは空色の枠の合計欄です。「進学準備(!)」の119名です。
 つまり卒業生222名のうち浪人が119名。これは全体の半分以上、53.6%になります(「進学準備」の解釈および想定した概数に誤解があれば、関係者の方々ご連絡ください)。今年だけ特別ということはあまり考えられませんので、近年は、毎年ほぼ同数の浪人が出るのでしょう。これだけ多くの「浪人」が出るわけですから、「何人いたかも不明の過年度生」から難関大学合格者数だけプラスして、はたしてほんとうに正しい進学状況と言い切れるでしょうか
 残念なことに、前記二校に限らず、過年度生(浪人生)の受験生総数はいずれの学校も未発表です。進学状況報告への問題提起として、今回は過年度生総数を想定しようと思いました。発表がないため概数になることをご理解ください。
 さて、今年のT学園は既卒の国公立大学合格者数が97名ですから、過年度生は少なくとも97名以上いたはずです。そして当然ですが、浪人は一浪だけとは限りません。たとえば、今年度卒業生の進学準備数約120名を考えると、来年の場合、最低でも130~140名という想定が成り立ちます(二浪以上が10~20名いるという計算です)。

 あくまで想定ですので、とりあえず「既卒の国公立大学合格者をもとに、少なめに浪人数を想定」し、その数を現役卒業生数に加えたものを受験者総数にしました(赤色枠)。常識的に考えれば、浪人受験者数を加えた実際の受験者総数は想定よりもっと多く(少なくとも10~20人増)なり、掲載の国公立大学合格率もかなり下がると予想しています
 さて、T学園の平成25年の現役合格者数は東京大学14名・京都大学45名・大阪大学8名の三大学合格者合計は67名です。他の国公立大合格者も加えると国公立大合格者数は現役で延べ97名です。また国公立大学医科系合格者合計は33名。卒業生は222名いますが、学校側の受験者総数の発表は219名ですので、現役の合格率はそれをもとに算出しています(表⑥をごらんください)。
 また、既卒の三大学合格者合計が45名、国公立大合格者合計が現役生と同じ97名います。そして国公立大学医科系合格が31名。以上で、2013年のT学園合格者の合計人数は三大学合格者が112名、国公立大学合格者合計が194名そして国公立大学医科系合計が64名になります。
 ところが現役生と既卒者の合計受験者総数が出ていませんので、受験者総計を算出想定しなければ、「受験者総数」に占める合格率が出てきません。前述のように、既卒者の今年度国公立合格者数が97名ですので、既卒受験者総数は少なくとも全体で110名と推定しました。
 したがって現役受験生219名と推定した既卒者受験生110名の合計329名を今年の受験者総数と想定しています。この要領で過去三年間の受験者総数を概算しました。おそらく、これでも少ない方だとの感想をもっています(つまり合格率は、もう少し低くなります)が、ご意見のある方はぜひご教示ください。
 次週はT学園と同じ算出法でOS学院の過去三年間のそれぞれの合格率を算定し団のOB教室生との比較を報告します。


「学体力」は偏差値を超克する⑤

2013年10月05日 | 学ぶ

難関大学合格発表と学校の指導力評価について
 さて難関大学への進学を考える人が、その前提として私立中高一貫校や進学高校を選ぶ場合、判断の大きなポイントになるのは、発表されている難関大学合格者数でしょう。この機会に、その方法や難関中高一貫校の指導力評価の判断基準について少し考えてみます

 表④⑤は、それぞれ近畿地方の府県の私立トップ校と目される私立中高一貫校「T学園」と「OS学院」の2013年の大学進学状況です(ホームページ発表分より作成)。取りあげた二校をはじめとする難関中高一貫校に合格するためには、I社の偏差値で少なくとも70に近いか、また、それを越えるくらいの学力が必要とされています。
 小学生を指導しているぼくたちの手応えでは、偏差値七〇といえば、私立の中学受験用小学校に通っているような子どもたちは別として、公立小学校では地区や学年のトップか、少なくともそれに準じる学力の子たちです。世間の一般的な評価では、これらの学校はそうした、能力・学力レベルの高い子どもたちを指導しています。

 指導している経験から、学力を伸ばすには生来の能力だけでなく、それ以外のさまざまな要素が関わってくることはよくわかりますが、それでも進学した子たちが飛び抜けた能力の持ち主であることにまちがいはありません。それだけ優秀な子を預かっているわけですから、学校側は「自校に在籍することで、いかに学力が伸びたか」できるだけ正しく判断できるような情報を提供する責任があると思います
 しかし、未だに一部の学校では全生徒数に占める割合さえ、すぐには算定できない進学報告がなされています。情況報告では、少なくとも現役卒業生(受験者数)の併記は最低限のルールだと思います。同じ合格者数でも「1000人のうちの50人」と「100人のうちの50人」では、学校全体の学力レベルや指導内容に対する判断が大きく変わってきます。同数の合格者を出していたとしても、残余の生徒数が大きくちがえば指導レベルが等しいということにはなりません。合格数を報告するのであれば、より正確な判断ができる「資料」を提供することに心を砕くべきではないでしょうか。

 さらに、「どこで学んだらいいのか」と進学すべき学校を真剣に探している人の立場に立てば、現役受験生数の報告だけでは十分ではないと思います。後ほどT学園やOS学院の進学状況の解説でも触れますが、現在は卒業生のおよそ半数近く(また時にはそれ以上、たとえば現役生が200人とすれば、半数の100人前後)が、「進学準備(つまり浪人)」になるようです(T学園の桃色枠参照)。
 合格者数に過年度生(浪人)の合格者数が掲載されているわけですから、浪人が多数出るのであれば、入学志願者は卒業後の予備校等の学習補助手段の想定もしなければなりません。過年度生に対する判断材料、つまり「年度の過年度生の合格率」も算出できる材料の提供が、より誠実な報告だと考えます。

トップ校の現状に思うことー「卒業生の半数近くが浪人」
 やむを得ずですが、ぼくも一浪を経験済みですから、「浪人するのが悪い」と思っているわけではありません。その間に学べることもたくさんあります。また、現役であろうと浪人であろうと、それに対して他人がとやかく言うことはないかもしれません。でも、この数字を見て誰もが感じることは、「ちょっと多くない?」です。
 これだけ過年度生(浪人)が出るという傾向は、「『自学力』をふくめた『学体力』の未成熟・衰退ではないのか」という、家庭環境や指導をふくめたそれまでの育成法や指導法への懸念が生まれます。身近で進学校に進んだOB諸君を見ている限り、夢や意欲がともなっている子ほど「学体力」もともない、現役合格する率が高いのです

 団OBの進学成績(③)をごらんください。ごらんのように、彼らの六年生時の「受験学力」は難関トップ校にすすんだ子とは比べものになりませんでした。団は少人数ですから東大生はまだ出ていませんが、難関大学(東大・京大・阪大)や国公立大学・医科系大学合格者数の「現役生」の割合では、T学園・OS学院の二校に劣っていません(⑧・この表の説明は二週間後おこないます)。
 トップ校にすすんだ優秀な諸君たちの先の結果は、「自学力」がともなっていない(先が見えない、あなた任せの受け身の学習習慣から脱出できていない)ゆえの「停滞」という気味があるのではないか。自らの学生時代の反省も踏まえて、「何か大きな忘れ物をしたまま育ってしまっている子がさらに増えている」のではないのか。現在の教育体制における大きな問題点のひとつではないかと危惧します。

 「やんちゃなまま」過ごしたOB諸君は、それぞれぼくに大きな夢を語って進学していきます。人生が夢通りに進まないことは、ぼくが体験済みですが、一方で夢がない若者が大きな夢を手にすることはありません。そして夢はさらに大きな夢を呼びます。「学体力」のモチベーションの重要なポイントは、「子どもらしい抱負」と「大きな夢」です。
 曰く、「先生、日本一の看護師になります」。「高校時代いじめにあってカウンセラーの先生にお世話になったので、精神科の医師になります」。「子どものころからアトピーで苦労したので、皮膚科を選びます」等々。OB諸君はキラキラした眼で報告してくれます。
 もちろん、ぼくはそれぞれ学校に通っている子を指導しているわけで、すべての受験科目をぼくが教えているわけではありません。しかし、6~9年間ともに過ごしている間に、学習や学習姿勢の基本やものの考え方など、伝えたいことはいくらでもありました
 通っている学校が決して中高一貫のトップ校ばかりではないところからの実績である進学結果に、「難関トップ校での子どもたちの学習姿勢や学習方向(これは家庭をふくめたすべての環境についての)がどうなのか」という疑問も浮かびます。学習姿勢や学習に対する意識づけ・自学力の養成・将来に対する展望の開示がどうおこなわれたか等の疑問です。周囲ではそれらが整っているほどスムーズに進学します

 フォアグラ中学受験塾時代から相変わらずつづけて、次から次へと問題演習や受験事項の暗記で、「続フォアグラ授業」がつづき、一方では、自らが日々苦労して進めている学習が「何のためなのか」はっきりわからない。合格以外に大きな目標の見えない、考える余裕のない、頼りない手応えの日々が続くようです。「燃え尽きるな、枯れるな」という方が無理でしょう。
 厳しすぎることをあえていえば、「飛び抜けた能力の子」が「難関大学」の合格で終わるだけなら、指導力はそれほど介在していない、そこから先のさらなるステージの展望を多くの子に描かせてはじめて、素晴らしい能力の子を預かる(預ける)意味があるのではないか、そう思います。

 本来の指導力とは「子どもたちのもっている潜在能力を開花させる手伝いをすること」だと、ぼくは信じています。「それなりの能力の子」を「飛び抜けた能力を発揮できる子」に育ててはじめて、教育の成果・先生・学校の指導力の結果だと誇れるのではないか。これは、当然ぼくの「自戒」でもあります。すべての指導者はこの基本原則を忘れてはならないと思います。
 つまり、飛びぬけた能力をもっている子には、難関大学合格数に終わらない、彼らの「貴重な財産」をたいせつにするための「さらなる展望」の開示や指導が、よりたいせつになってくるはずです。難関大学合格者の数を誇るより、そういう方向性で進んでいる学校こそ入学志願者が押し寄せてしかるべき学校だと考えます。
 もちろん、責任は学校だけに限りません。現在の教育体制や学習指導法は、誰が見ても大きくシフトチェンジすべき時期に来ているはずです。日ごろから、「ふつうの子」のポテンシャルの大きさを見てると、より痛切に感じます。
 先ほど触れましたが、次週から二回に分けてT学園とOS学院と団のOB教室卒業生の難関大学や国公立大学合格率を比較し、報告します。果たして、難関私立中高一貫校に、あるいは受験用私立小学校受験にこだわる必要があるのかの判断材料にしていただけることを願っています。子どもらしい日々と大きな夢と健やかな成長のために。