土筆ハイクのスライドと行程をお話ししなければなりません。
課外学習出発前にスライド内容を編集したテキストが、毎回子どもたちの手に渡ります。そのテキストとスライドを見ながら出発前のオリエンテーションを始めます。
子どもたちのおもしろさや興味を引き出すためには対象の「経歴」・予想外の一面や「係累」の紹介は欠かせません。それが「生きているもの」の姿だからです。生態系や進化をふくめた、さまざまな成り立ちやしくみへの興味を引き出すきっかけづくりをしなければなりません。
「ええっ?」・「ああ、そうだったのか!」体験です。それが、子どもたちに「次のなぜ」をもたらし、次のステージへ足をかけるための踏み台になります。
多方面からひとつの対象を見ることができるようになれば、それだけ、周囲や環境に対する環覚も立ち上がってくる可能性が高いと考えられます。それによって学ぶおもしろさに目覚め、自ら調べる・自ら学ぶという姿勢が育っていくと信じています。
ツクシを取り上げる大きな理由は、何でもない「季節の雑草」のツクシが、興味深い「経歴」の持ち主だからです。上記の分類の写真を見てください。ツクシ(スギナ)と、料亭の中庭や田舎の家の植え込みでも時々見られるトクサがおどろくほど似ていることがよくわかると思います。
トクサは、何億年も前に水中から陸上へ進出した古い時代のシダ植物の生き残りです。遠い昔、唯一の生命が生まれてから動物と植物に分かれ、植物も進化が始まります。水中の藻類からコケ植物・シダ植物へと進化は進んでいきます。トクサは恐竜時代よりもっと前のシダ植物のなかまで、原始的な形を残しています。
それぞれの写真の左側も比べてください。トクサの花(胞子葉群)はツクシにそっくりです。ここでも子どもたちの「え?」という反応が得られます。
こうして紹介すれば、ツクシもトクサの仲間であることは子どもたちにもはっきりわかります。土筆は、いわば植物の歴史の生き証人ということになります。身近な植物の予想外の進化の歴史はきっと印象に残ってくれるでしょう。
胞子による増え方や、土筆の「はかま」は実は「葉」の集まりで、尖っている部分がそれぞれの葉であること。また、「ツクシ誰の子、スギナの子」とよくいわれますが、両者は互いに地下茎でつながっていて、いわば兄弟であること等を話していきます。
子どもたちの頭の中では、これらの学習内容が知識の断片ではなく、次第に立体的に構成されていくはずです。教科書では写真くらいしか出てこないツクシも、年間を通してさまざまな動植物に触れ、子どもたちの植物への興味を広げるためのスターターには格好の対象だということがわかっていただけるでしょうか。
春の情緒を醸し出してくれるツクシの地下茎は、実に二メートルもの深さまで広がるようです。農地に生えると農家の人には迷惑この上ない植物であること、またスギナは家畜のエサに混入させると害を与えてしまうことなど、毎年米作りで親しく接する農家の人たちやその日常ともつながっていきます。
スギナは繁殖力が旺盛で根も深く農家の厄介者ですが、スギナを刈ると鎌の刃の切れ味がすぐ鈍ってしまうようです。ケイ酸の蓄積による植物体の硬化で、鎌の刃が摩耗するからです。スギナを触れば、そのシャリシャリ感がよくわかります。手が傷つくススキの葉の鋭さもケイ酸のせいです。
この理由はトクサのことを少し調べればもっとよくわかります。
トクサは漢字では砥草と書きます。「砥石の草」、表皮の細胞壁にケイ酸が蓄積して硬くなり、かつて茎を煮て乾燥させたものを開いて延ばし研磨用に使われました。今でも目の細かい紙ヤスリの代用として高級品であるツゲの櫛の歯や漆器の生地を加工したり木製品の仕上げ加工や鼈甲細工に使われています。さらに歯を磨く歯ブラシの代用としても使われていたことがあるようです。
このほか植物が水中から上陸し、コケからシダへと進化していったと考えられる植物の特徴にも少し触れます。ツクシに関連するスライドは三十枚近くありますが、スペース等の都合上、すべてを紹介することができません。
さて、土筆ハイクでの立体授業スライドやテキストで紹介するのは、ツクシのことだけではありません。野外へ出て子どもたちに身につけて欲しいものは自然環境をはじめとする自らの環境に対する興味や好奇心です。養うべきは「環覚」です。誘うべきはおもしろさや不思議さへの入り口です。
すべてを紹介することは不可能ですが、季節を代表する草花はできるだけ紹介したいと考えています。
季節は春です。「春の七草を探してみよう」。時期的には少し遅いのですが、春の七草を観察し採取することもサブテーマになります。「芹・ナズナ・ゴギョウ(母子草)・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロ」。
「春の七草」の名前を言える子はいます。しかし、名前を全部言えたとしても、それで何かおもしろいことがはじまるでしょうか。「単なる物知り」なだけで意味はありません。
春先、野辺に出れば、そのほとんどに出会うことができます。
「ロゼット」で冬を越すのは教科書ではタンポポだけですが、ナズナもゴギョウも、この時期には「ロゼット」が見られます。七草がゆでは、そのロゼットの若葉を食すのです。「ロゼット」が知識で終わりません。「ロゼット」は食べられるのです。
ハコベラはかつてニワトリのエサや小鳥のエサにもよく利用されました。セリはドクゼリとの対比で話が始まります。ドクゼリは、まちがえて食べてしまった事故のはなしを聞きますが、比べてよく見ると、そのちがいが歴然です。それを例として、子どもたちにはよく見ることのたいせつさとして伝えていきます。
七草のホトケノザは実はコオニタビラコという名で、現在その名で呼びならわされているホトケノザはまったく別種の植物です。そして現在のホトケノザには、注意しなければほとんど区別がつかないヒメオドリコソウという、同じシソ科の植物がほとんど同じ時期に生えます。近くに生えていることもよくあります。
その知識は、行程の中で実物を見てフィードバックすることになります。予想以上によく似た姿は子どもたちの注意力をさらに喚起し、周囲の植物の多様性を知ることができます。
子どもたちは七草を摘みながら、それぞれ存在を主張する植物をこうして手に入れていきます。春の七草が、自分たちのすぐ側にあることがわかってきます。身近な植物へ目を向けるきっかけができ、環境が少しずつ身近になっていきます。
これで終わりではありません。お母さん方用に、ツクシ料理のレシピもお渡しします。
摘み取ったツクシが、帰宅後夕食の食卓をかざるのが、「土筆ハイク」立体授業の理想のフィナーレだからです。
なお、この項でも紹介させていただいた資料の源、子どもたちの環覚を育てるために、いつも素晴らしいヒントやアイデアを提供してくれる図鑑や本、また資料集をご紹介します。
小学館の図鑑「NEO」シリーズ・「21世紀こども百科」、主婦と生活社「ふしぎ!なぜ?大図鑑」シリーズ、新ポケット版「学研の図鑑」シリーズ、ニュートンプレスの一連の書籍、トンボ出版の「どんぐりの図鑑」他、偕成社の矢島稔著「わたしの昆虫記㈬」、農文協「田んぼの学校」シリーズ、築地書館の「田んぼの生き物」ほか一連の書籍、受験研究社のスーパー理科事典、数研出版「フォトサイエンス生物図録」、実教出版株式会社「サイエンスビュー生物総合資料」、永岡書店「よくわかる樹木大図鑑」平野隆久著など、いずれも子どもたちの興味を引く資料を作成するためにはかけがえのない応援団です。改めて厚く御礼申し上げます。
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立体学習を実践 学習探偵団 http://www.gakutan.com/
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