巣箱づくり
指導や企画を一人で展開しているため、気になりながらホームページの更新がおろそかになっています。困ったものです。今週から2~3回は、このページで最近の立体授業の取り組みについて紹介します。
立体授業は、何よりも学習内容および日ごろの学習と環境をふくめた日ごろの生活との「疎外感」を克服するため、また学習内容に対する親近感を手に入れる「環覚」を養成するための取り組みです。
渓流教室や米づくりなど恒例の定期活動はもちろんですが、毎年、それ以外に遊具づくりなどの工作や作業を企画し、とりいれていきます。表面だけを見れば、「おもしろそうだな」という感想で終わるかもしれませんが、次のように考えていくと、とても大きな意味をもっていることがわかります。
小さいころを振り返ってみると、季節ごとに自然の「生業!」と密着した遊びを楽しんでいました。家の近くに豊富にあった竹を使うことだけを考えてみても、今の子たちの花粉症など信じられない「スギの実でっぽう」や「蛇のひげ」の実鉄砲。水鉄砲はもちろんです。
竹ぞりや竹の下駄・竹馬・弓矢・竹とんぼ、時には刀やバットにもなりました。そして、長い竹の先を割って二股にすると、手の届かない柿の実を「もいで」取る道具に変わりました。となりのおじさんにたのまれ、野菜畑の支柱とりに走ったこともあります。
つまり、身近にあるもの、目の前に生えているものを加工して遊具や道具をつくっていたのです。たいせつな遊び道具や道具の材料を探す、そうした日ごろの習慣は、何よりも環境に対する注意力や観察力・親近感を養ってくれます。自然という学習対象に対する「馴染み」です。
前にも触れましたが、遊び道具を上手につくるには「吟味する」ことが不可欠です。それぞれの目的に合致したものであるかどうかを、まず見極めなければなりません。適当に考えて、適当に選んで、適当に作業をすれば、目的のものをつくることができません。
それぞれの過程では完成イメージとそれを作りあげるべく生の材料や作業との対比や照らし合わせがおこなわれることになります。脳のはたらきがわかるようになった今、こうした作業や行動がメタ認知の育成に、いかに役立つものであるかが想像できます。
つまり、組み立てキットを使う工作や遊びと、材料から選別を始め、目的に応じた加工を手探りですすめながら、技術とイメージを磨いていく工作や遊びが、脳の発達にどれだけのちがいを生み出すか、ということです。
そして、もうひとつたいせつなことは、作業いずれも、その多くが季節を感じさせるものでした。「室内でエアコンと人工光源のもとでの、年中寒暖から遠ざかることが多い生活」と、「夏でも涼しさがこの上ない、清流の日陰のひととき」で「全身から手に入るもの」のちがいは計りしれません。
「感覚をもとに生きている」のが人間です。「感覚が変わるということは育っていく人間が変わる」ということです。小さいころのこうした経験がこどもたちの成長に与える影響は、目には見えませんが、おそらくぼくたちの想像をはるかに超えるものではないでしょうか?
さて、今年の前半も二つの新しい取り組みをおこないました。巣箱づくり(掛け)、アジメドジョウ捕獲。
現在の教室に引っ越してきたとき、知り合いの大工さんが、造作で余った建築用材を、子どもたち用にと残しておいてくれました。外壁用の材料だったので、そのときは「犬小屋づくり」くらいしか思いつかず、外のテラスの下に保管しておいたのですが、ずーっとそのままになり変色し、痛みかけてきていました。
4月の筍掘りで飛鳥路を歩いていたとき、瓦屋根の上のスズメを見て、ふと思い出したことがありました。小さいころ、近所の屋根に上って、瓦の間のスズメの巣から小雀を「誘拐」したことです。「そうだ、教室の軒先に、みんなで巣箱をつくってかけてみよう。あの古い板は、彼らの警戒心をとくのにちょうどいいかもしれない・・・」。
帰ってからインターネットや本でいろいろな巣箱の設計図を用意し、それぞれつくりたい巣箱を子どもたちに選ばせました。土曜日に立体授業の時間を設けています(不定期)が、子どもたちに設計図通りに板材を切らせ(もちろん、一人でです)、木ねじや釘で組み立てるまでの作業をさせます。一回二時間で三回、計六時間かかりました。
もちろん、来年受験する六年生三人も一緒です。ガリガリ受験勉強をさせている家庭なら、「何とも暢気な、無駄遣い・・・」と思うかもしれませんが、子どもたちが、何度も釘を打っては抜き、という試行錯誤をくり返している内に、覚えられるかけがえのないことがたくさんあります。
それは「立体」を頭の中で描けるようになるイメージづくりの練習であり、自らの作業や行動を客観的に見続けるメタ認知の発達です。また、がまんして自ら完成するという自信や満足感です。みんなが仕上げて巣箱を掛け、二週間もたたないうちに、二羽のスズメ、チュンキチとピーコ(名前をつけました)がG君の巣箱で巣作りを始めました。予想通りで、子どもたちも大喜びでした。
ぼくたちは、すぐには見えない・結果が出ないことを、「ないもの」「意味がないもの」と判断しがちですが、子どもたちの指導や教育の結果が、早々すぐに現れるものではありません。そして、そういう目に見えない力こそ、後々大きな威力を発揮するものだと信じています。子どもを育てるときは、そういう余裕を決して忘れてはいけないと思います。
来週はコラム・立体授業の報告②「アジメドジョウ」の捕獲です。