会見でノラリクラリ論点ずらし 「菅さんでは無理」自民党からの突き上げで菅首相が総裁選不出馬も
2021/08/26 16:30
(AERA dot.)
8月25日の夜に行われた菅義偉首相の会見は、またもや国民の気持ちを逆なでするような発言が相次いだ。
「ワクチン接種はデルタ株にも明らかな効果があり、新たな治療薬で重症化を防ぐことも可能で、明かりはハッキリと見え始めています」
新型コロナウイルスの感染爆発により、各地で医療崩壊が進むなか、自宅療養を余儀なくされた人が毎日のように亡くなっている。いまだ感染者数のピークもみえない状況にもかかわらず、「明かりが見え始めた」などと楽観的に語る菅首相には、会見場でもため息がもれていた。
さらに、注目されている衆院解散総選挙の時期に関する質問には、のらりくらりと論点をズラしながらこう述べた。
「衆議院の解散総選挙。選択肢は非常に少なくなってきているというふうに思っております。ただ、私はあくまでも新型コロナウイルス対策を最優先するとたびたび申し上げている。そういう中で判断をしていきたい」
つまり、何も答えていない。別の記者からは自民党総裁選出馬についても質問が出たが、出馬については否定も肯定もせず、コロナ対策に全力で取り組んできたことを強調した。
記者(筆者)は首相続投の意思について直接聞きたいと、8回の質問の機会すべてに手を上げ続けたが、指名されることはなかった。他にも手を挙げ続けても指されない記者は多く、会見はきっちり1時間で打ち切られた。
「もう会見に出ても意味がない。いつも厳しい質問をしていたら、当てられなくなりました。私はもうブラックリストに入っているのでしょう」
と不満を漏らす記者もいた。
菅首相は批判に正面から向き合おうとせず、記者の厳しい質問からも逃げ続けているが、不満は身内からも噴出し始めている。
8月22日に投開票された横浜市長選で、菅首相が推した自民党の小此木八郎氏が破れたことで、自民党内では若手、中堅を中心に「衆院選の顔が菅総理では選挙を戦えない」と首相交代論が噴き出している。
自民党は26日に総裁選選挙管理委員会を開き、総裁選を17日公示、29日投開票とする日程を決めた。候補者には、菅首相の他には、岸田文雄前政調会長が出馬を正式表明した。また高市早苗前総務相、下村博文政調会長らの名前も上がっている。
総裁選のゆくえについて、政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう話す。
「すでに二階俊博幹事長が菅首相支持を打ち出し、他の主流4派閥も様子を見ながら追随する構えをみせています。しかし、総裁選はまだ1カ月も先の話。これから何が起こるかわからない。菅氏が出馬しないことも考えられます」
というのも、今回の総裁選はすべて派閥の領袖(りょうしゅう)らキングメーカーたちの手綱の引き合いで、菅首相個人が自民党総裁として評価されているわけではないからだ。自民党関係者はこう話す。
「早々に菅総理支持を表明した二階さんは、とにかく自分を幹事長に残してくれる人なら誰でもいい。菅さんの続投を望んでいるということではなく、他の新総裁になったら自分が名誉職に棚上げされるのを恐れているだけで、それなら菅さんでいい、ということ。結局は、自分かわいさなんです」
当初、菅首相は無投票で総裁選を乗り切るつもりだったようだが、相次ぐ対抗馬の出現や、党内からの突き上げによって、そのもくろみは崩れている。出馬に意欲をみせている高市氏は無派閥、下村氏は細田派、岸田氏は岸田派とそれぞれ派閥が異なっており、背後にいる大物政治家の駆け引きも激しくなりそうだ。
「高市氏は無派閥だが、安倍晋三前首相に近い。高市氏は安倍氏に何十回も総裁選の出馬を打診したようだが、断られ続けたことで自分が出ることに決めたと発言している。下村氏も安倍氏の側近。所属する細田派は安倍氏が実質的なオーナーだが、表面的には安倍氏は菅支持を表明している。高市氏にせよ、下村氏にせよ、派閥の締めつけで推薦人に圧力がかかり、出馬に必要な推薦人20人が集められるかどうかが鍵だろう」(前出・自民党関係者)
その点、派閥の領袖である岸田氏は推薦人確保に問題はない。前回の総裁選にも出馬したが、2位で落選。捲土重来をはかろうとしているのだろうが、風向きは決してよくない。
「岸田氏は“ポスト安倍”を狙う際にも、安倍氏の禅譲を期待するばかりで自ら動こうとしなかった。地元の広島では、河井克行元法相と妻の河井案里元参院議員のスキャンダルで自民党に逆風が吹いている。岸田氏が総裁選に立候補しなければ、今後の広島での選挙に影響を及ぼしかねないという判断もあるでしょう。今回も“積極的”とは言いがたい」(角谷氏)
また、昨年の総裁選で岸田氏は同じ「宏池会」に源流を持つ麻生派の麻生太郎副総裁兼財務相の支援に期待したが、結果的に麻生氏は菅支持にまわった経緯がある。麻生氏が岸田派(宏池会)の名誉会長を退任した古賀誠元自民党幹事長と犬猿の仲だったことが影響したといわれた。その古賀氏は岸田氏の総裁選にはずっと反対してきたが、岸田氏は今は古賀氏と距離を置いているとされる。岸田氏にとっては麻生氏の動き次第で、浮沈が決まる可能性がある。
「鍵を握る3A(安倍、麻生、甘利明税制調査会長)から見れば、高市氏と下村氏はくみしやすいでしょうが、まだ何が起こるかわからない。石破茂元防衛相も、最近の世論調査でまだまだ人気が高いことが明らかになった。石破氏は『菅首相のもとで総選挙を』と発言しているが、3週間後はわからないですよ。菅首相が何も言わないから、よりわからない。報道されていないことの方が多いでしょうし、まだ新しい候補者が出てくる可能性も十分あります」(角谷氏)
総裁選まであと1カ月。これから、水面下での派閥間の駆け引きがより激化しそうだ。(AERA dot.編集部・上田耕司)
「ワクチン接種はデルタ株にも明らかな効果があり、新たな治療薬で重症化を防ぐことも可能で、明かりはハッキリと見え始めています」
新型コロナウイルスの感染爆発により、各地で医療崩壊が進むなか、自宅療養を余儀なくされた人が毎日のように亡くなっている。いまだ感染者数のピークもみえない状況にもかかわらず、「明かりが見え始めた」などと楽観的に語る菅首相には、会見場でもため息がもれていた。
さらに、注目されている衆院解散総選挙の時期に関する質問には、のらりくらりと論点をズラしながらこう述べた。
「衆議院の解散総選挙。選択肢は非常に少なくなってきているというふうに思っております。ただ、私はあくまでも新型コロナウイルス対策を最優先するとたびたび申し上げている。そういう中で判断をしていきたい」
つまり、何も答えていない。別の記者からは自民党総裁選出馬についても質問が出たが、出馬については否定も肯定もせず、コロナ対策に全力で取り組んできたことを強調した。
記者(筆者)は首相続投の意思について直接聞きたいと、8回の質問の機会すべてに手を上げ続けたが、指名されることはなかった。他にも手を挙げ続けても指されない記者は多く、会見はきっちり1時間で打ち切られた。
「もう会見に出ても意味がない。いつも厳しい質問をしていたら、当てられなくなりました。私はもうブラックリストに入っているのでしょう」
と不満を漏らす記者もいた。
菅首相は批判に正面から向き合おうとせず、記者の厳しい質問からも逃げ続けているが、不満は身内からも噴出し始めている。
8月22日に投開票された横浜市長選で、菅首相が推した自民党の小此木八郎氏が破れたことで、自民党内では若手、中堅を中心に「衆院選の顔が菅総理では選挙を戦えない」と首相交代論が噴き出している。
自民党は26日に総裁選選挙管理委員会を開き、総裁選を17日公示、29日投開票とする日程を決めた。候補者には、菅首相の他には、岸田文雄前政調会長が出馬を正式表明した。また高市早苗前総務相、下村博文政調会長らの名前も上がっている。
総裁選のゆくえについて、政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう話す。
「すでに二階俊博幹事長が菅首相支持を打ち出し、他の主流4派閥も様子を見ながら追随する構えをみせています。しかし、総裁選はまだ1カ月も先の話。これから何が起こるかわからない。菅氏が出馬しないことも考えられます」
というのも、今回の総裁選はすべて派閥の領袖(りょうしゅう)らキングメーカーたちの手綱の引き合いで、菅首相個人が自民党総裁として評価されているわけではないからだ。自民党関係者はこう話す。
「早々に菅総理支持を表明した二階さんは、とにかく自分を幹事長に残してくれる人なら誰でもいい。菅さんの続投を望んでいるということではなく、他の新総裁になったら自分が名誉職に棚上げされるのを恐れているだけで、それなら菅さんでいい、ということ。結局は、自分かわいさなんです」
当初、菅首相は無投票で総裁選を乗り切るつもりだったようだが、相次ぐ対抗馬の出現や、党内からの突き上げによって、そのもくろみは崩れている。出馬に意欲をみせている高市氏は無派閥、下村氏は細田派、岸田氏は岸田派とそれぞれ派閥が異なっており、背後にいる大物政治家の駆け引きも激しくなりそうだ。
「高市氏は無派閥だが、安倍晋三前首相に近い。高市氏は安倍氏に何十回も総裁選の出馬を打診したようだが、断られ続けたことで自分が出ることに決めたと発言している。下村氏も安倍氏の側近。所属する細田派は安倍氏が実質的なオーナーだが、表面的には安倍氏は菅支持を表明している。高市氏にせよ、下村氏にせよ、派閥の締めつけで推薦人に圧力がかかり、出馬に必要な推薦人20人が集められるかどうかが鍵だろう」(前出・自民党関係者)
その点、派閥の領袖である岸田氏は推薦人確保に問題はない。前回の総裁選にも出馬したが、2位で落選。捲土重来をはかろうとしているのだろうが、風向きは決してよくない。
「岸田氏は“ポスト安倍”を狙う際にも、安倍氏の禅譲を期待するばかりで自ら動こうとしなかった。地元の広島では、河井克行元法相と妻の河井案里元参院議員のスキャンダルで自民党に逆風が吹いている。岸田氏が総裁選に立候補しなければ、今後の広島での選挙に影響を及ぼしかねないという判断もあるでしょう。今回も“積極的”とは言いがたい」(角谷氏)
また、昨年の総裁選で岸田氏は同じ「宏池会」に源流を持つ麻生派の麻生太郎副総裁兼財務相の支援に期待したが、結果的に麻生氏は菅支持にまわった経緯がある。麻生氏が岸田派(宏池会)の名誉会長を退任した古賀誠元自民党幹事長と犬猿の仲だったことが影響したといわれた。その古賀氏は岸田氏の総裁選にはずっと反対してきたが、岸田氏は今は古賀氏と距離を置いているとされる。岸田氏にとっては麻生氏の動き次第で、浮沈が決まる可能性がある。
「鍵を握る3A(安倍、麻生、甘利明税制調査会長)から見れば、高市氏と下村氏はくみしやすいでしょうが、まだ何が起こるかわからない。石破茂元防衛相も、最近の世論調査でまだまだ人気が高いことが明らかになった。石破氏は『菅首相のもとで総選挙を』と発言しているが、3週間後はわからないですよ。菅首相が何も言わないから、よりわからない。報道されていないことの方が多いでしょうし、まだ新しい候補者が出てくる可能性も十分あります」(角谷氏)
総裁選まであと1カ月。これから、水面下での派閥間の駆け引きがより激化しそうだ。(AERA dot.編集部・上田耕司)