医療現場に丸投げやめて 「第6波」備え病床確保急務 「使命感頼み限界」
2021/10/30 10:30
(熊本日日新聞)
「今夜はもう受け入れられない…」。新型コロナウイルスの「第5波」が襲った8月中旬、熊本中央病院(熊本市南区)の平田奈穂美診療部長は、同市保健所が要請したコロナの救急患者の受け入れをやむなく断った。専用病棟の16床は既にいっぱい。「ほかに受け入れ先があるか気になるが仕方ない」
同病院がコロナ感染患者の受け入れを始めたのは昨年4月。今春からは夜間のコロナ救急患者も受け入れるようになり、同病院を含む同市内の3医療機関が3日に1度、夜間対応もするようになった。
患者が急増した第5波では、受け入れ要請はほぼ連日。「8月から9月上旬までは夜間救急用の2床を除く14床はほぼ満床。救急用も空けば翌日にはすぐ埋まる状態だった」と平田診療部長は振り返る。入院患者が重症になっても搬送先が見つからない場合が少なくなかったという。10月上旬までに入院したコロナ患者は約370人に上った。
県内の病床使用率は8月下旬にピークとなり、61・3%に達した。コロナ病床がある病院では次々と患者が入れ替わり、医療現場は数字以上に逼迫[ひっぱく]していた。
県医療政策課によると、昨年2月に167床だった県内のコロナ病床は今年6月下旬には605床まで増加。10月には642床まで積み増した。この間、国はコロナ用の空ベッドを確保するための補償費をはじめ、設備導入費や病床新設に伴う備品購入費などの補助制度を順次導入、増額しながら、全国で病床確保を促した。
しかし、病院にとっては看護師不足による人員確保の難しさや、風評被害や院内感染の恐れにさらされながら「使命感で受け入れてきた」(平田診療部長)面が大きい。それだけに県内関係者からは「金を出せばいいというものではない」との不満が今も漏れる。
県保険医協会の木村孝文会長(67)は「そもそも、医療従事者の使命感だけに頼るのは限界がある」と指摘する。理事長を務める秋津レークタウンクリニック(熊本市東区)では、かかりつけ患者らのワクチン接種に加え、発熱外来も対応する。職員は非常勤を含む医師6人と看護師5人。「第5波のピーク時は1日10人近くが発熱外来を訪れた。以前より業務が増えている上、感染リスクへのストレスが大きい」という。
現場のねじを巻くような国のやり方は、ワクチン接種でも見られた。医療従事者の接種が完了しないうちに高齢者接種を始めたため、打ち手である医療従事者が感染リスクにさらされた。政府は「1日100万回」を号令して高齢者接種の7月末完了を掲げたものの、県内の7月後半の一般接種用ワクチンの配分は希望量の約35%へと一気に減った。自治体は接種予約の一時停止や日程の白紙を余儀なくされた。
政府はさらなる病床確保を目指して公的病院への関与を強化する方針を打ち出した。「第6波」の備えは急務だ。ただ、「病床確保など国から地方への丸投げ」(県幹部)という実態を解消できるかは見通せない。(野方信助、清島理紗)
同病院がコロナ感染患者の受け入れを始めたのは昨年4月。今春からは夜間のコロナ救急患者も受け入れるようになり、同病院を含む同市内の3医療機関が3日に1度、夜間対応もするようになった。
患者が急増した第5波では、受け入れ要請はほぼ連日。「8月から9月上旬までは夜間救急用の2床を除く14床はほぼ満床。救急用も空けば翌日にはすぐ埋まる状態だった」と平田診療部長は振り返る。入院患者が重症になっても搬送先が見つからない場合が少なくなかったという。10月上旬までに入院したコロナ患者は約370人に上った。
県内の病床使用率は8月下旬にピークとなり、61・3%に達した。コロナ病床がある病院では次々と患者が入れ替わり、医療現場は数字以上に逼迫[ひっぱく]していた。
県医療政策課によると、昨年2月に167床だった県内のコロナ病床は今年6月下旬には605床まで増加。10月には642床まで積み増した。この間、国はコロナ用の空ベッドを確保するための補償費をはじめ、設備導入費や病床新設に伴う備品購入費などの補助制度を順次導入、増額しながら、全国で病床確保を促した。
しかし、病院にとっては看護師不足による人員確保の難しさや、風評被害や院内感染の恐れにさらされながら「使命感で受け入れてきた」(平田診療部長)面が大きい。それだけに県内関係者からは「金を出せばいいというものではない」との不満が今も漏れる。
県保険医協会の木村孝文会長(67)は「そもそも、医療従事者の使命感だけに頼るのは限界がある」と指摘する。理事長を務める秋津レークタウンクリニック(熊本市東区)では、かかりつけ患者らのワクチン接種に加え、発熱外来も対応する。職員は非常勤を含む医師6人と看護師5人。「第5波のピーク時は1日10人近くが発熱外来を訪れた。以前より業務が増えている上、感染リスクへのストレスが大きい」という。
現場のねじを巻くような国のやり方は、ワクチン接種でも見られた。医療従事者の接種が完了しないうちに高齢者接種を始めたため、打ち手である医療従事者が感染リスクにさらされた。政府は「1日100万回」を号令して高齢者接種の7月末完了を掲げたものの、県内の7月後半の一般接種用ワクチンの配分は希望量の約35%へと一気に減った。自治体は接種予約の一時停止や日程の白紙を余儀なくされた。
政府はさらなる病床確保を目指して公的病院への関与を強化する方針を打ち出した。「第6波」の備えは急務だ。ただ、「病床確保など国から地方への丸投げ」(県幹部)という実態を解消できるかは見通せない。(野方信助、清島理紗)