ナウマンゾウの絶滅原因を探る(25)
絶滅したナウマンゾウのはなし(第三話)
絶滅原因論しめくくり(その4)
ナウマンゾウにしても、マンモスゾウにしても、絶滅した決定的な原因は分かっていませんが、古気候や古(自然)環境の激しい変動といった物理的要因と深く関わっていたのではないかと思います。
もちろん、人類との出会いが絶滅のストレスであったことも否定はしませんが、一つの種の絶滅が他の種の絶滅を誘発することが危惧されるのです。たとえば、ナウマンゾウが絶滅したことで、ナウマンゾウの糞によって命を繋いでいた小動物相や昆虫相が絶滅し、また植物の植生が変わることで絶滅した生物もいるでしょう。
ナウマンゾウの絶滅原因については、前にも言及しましたが、いろいろな原因が考えられます。最近では、最終氷期の最厳寒期の凡そ3万年前、ナウマンゾウの生息環境に大きなダメージを与えるほどの古気候の変動が生じたのではないか、という見方もあります。
確かに一理あります。後期更新世の末、間氷期に入り急激な気温の上昇による海水準の上昇、大洪水や急激な海進現象が起こり、草原や低木樹林などの餌場を失い、生息域が狭められたことなど、自然環境の激変の影響といったストレスも野生の大型草食獣を絶滅に導く原因の一つになったことは否定できません。
人口増加に伴う過剰狩猟の影響を指摘する専門家も多いようですが、旧石器時代の石槍やナイフ形の石器など進歩した狩猟具を有していたことは遺跡の出土品の調査で明らかです。
しかし、草食獣であってもゾウのような大型獣の狩猟では、狩猟する側にも大きなリスクが伴ったと思いますので、日本列島に渡来し住み着いた旧石器時代人であっても絶滅に追いやるる大量殺戮的狩猟を行っていたとは考え難いのです。
ただ、過剰狩猟説は、ナウマンゾウの絶滅の原因を考える上で、われわれには思いつき易い原因説の一つではありますが、わたしは、過剰狩猟による絶滅説を裏付けるには、何かもう一つ材料が足りないように思んです。
ナウマンゾウの絶滅をもたらした原因として、最終氷期末の最寒冷期から間氷期初期に起こったであろう地殻変動も含めた古環境の異常変動の影響が大きなストレスとなったことも考えられます。
たとえば、2万9000年前~2万6000年前の姶良(あいら:現鹿児島県姶良市)カルデラの巨大噴火は、日本列島を西から東へと本州一帯がテフラで覆われてしまった、と伝えられていますし、姶良巨大噴火に関する研究報告は、枚挙に暇がないほどあります。
また、約3万年前~1万3000年前の古富士噴火、新富士噴火、そして浅間連峰噴火など。いくつもの大噴火が続き、テフラの広域降下で、草原などの餌場が失われますと、それが草食系大型動物を餓死させたり、絶滅に導く原因の一つになるのではないかと思います。
前述しましたが、温暖化による海水準異常な上昇で大洪水や海進が続くことで、餌場の水没、水没死や海没死によって絶滅を速める可能性も考えられます。
しかしそれだけではなく、日本列島におけるナウマンゾウなど大型獣のケースでは、もうひとつ何か不足している原因があるように思うのです。たとえば、生物的(微生物やウイルスも含めて)な原因によるストレスが重なって絶滅させたのではないかなど、極めて独りよがりな見方をしています。
地球上では、今日、いくつもの野生種の絶滅が危惧されています。現存の野生ゾウもその一つです。したがって、さまざまな危惧要因とどう闘い、どう克服するかは、現世を生きる人類の課題でありますし、それがまた、いま科学的知見の創出が叫ばれる所以でもあると考えられます。
―おわり―