素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

再論・ナウマンゾウについて(Ⅱ)-42 中本博皓

2019年07月01日 08時58分34秒 | 再論・ナウマンゾウについて(Ⅱ)

       第Ⅲ章 ナウマンゾウの旅路、北の大地へ

 

 

  (6)湖底は化石骨の宝庫

 

  ⅱ)日本唯一のナウマンゾウ博物館

  野尻湖といえば、ナウマンゾウの博物館です。最近リニューアルオープンして、さらに充実しました。この博物館を見学して、小生個人としては何かひとつ物足りなさを感じたのです。

  半世紀にもわたって、住民とともに歩んだ長い発掘の歴史があり、そしてナウマンゾウ研究に関してもまた大きな実績を挙げている博物館であるのに、ナウマンゾウの全身骨格標本がないことです。何か理由があるのでしょうか。

  確かに、展示中央に陣取ったナウマンゾウの実物大の復元「像」が常設展示されています。大きな2本の牙を力強く突き出している姿が何より印象的な「ゾウ」として復元されています。忠類ナウマン象記念館に常設展示されている全身骨格復元標本ではなく、ナウマンゾウの「像」として制作されたものなのです。

  野尻湖のナウマンゾウの化石は、戦後間もない1948(昭和23)年10月、湖畔で旅館を営む主人、加藤松之助によって、湯たんぽの化石と称されるナウマンゾウの臼歯の化石が発見されたことに端を発しています。

  野尻湖発掘調査団著(以下「調査団」と書く)『象のいた湖 野尻湖 発掘ものがたり』によりますと、加藤松之助が早朝5時ごろ湖岸を散歩していて、砂に半分埋まった湯たんぽのような石のかたまりのようなものだったそうですが、家に持ち帰り近隣の人々に見てもらっても分らなかったそうです。

  そこで野尻湖小学校の校長先生にも見てもらったが分らず、ひとまず小学校に保管してもらいました。調査団の『前掲書』には次のようなことが記されています。

  「ちょうどそのころ、野尻湖の周りの地質調査をしていた富沢恒雄(当時、長野高等学校の地学の先生)が、その発見を知りました。富沢は、その当時、野尻湖のまわりの大昔の湖のようすを調査にきていた堀江正治(京都大学)の手をわずらわして、この化石の鑑定を京都大学の槇山次郎教授におねがいしました。

  その結果、この化石は、ナウマンゾウの上顎の第三大臼歯(三番目の奥歯)であることがわかったのです」、というわけで、前出の富沢は、それを研究して1956年、日本地質学会の専門誌『地質学雑誌』に論文を投稿したことから、専ら地質学や化石考古学などの分野の専門家の関心を惹くとこととなったのです。

  野尻湖ナウマンゾウ博物館の「展示解説」によりますと、加藤松之助が発見したナウマンゾウの臼歯の化石は、長さが30㎝、重さが5㎏もあったそうです。それはいまも変わることはないのです。

  加藤松之助が発見した臼歯は、槇山の鑑定によってナウマンゾウの「上顎の第三大臼歯」だったことも明らかになりました。それは人間の歯でいえば、一番後で生えてくる「親知らず」のような歯であることも分りました。

  野尻湖畔では、その後もナウマンゾウの化石が多く発見されたことから「第四紀(260万年前~現在)の地層を調べていたグループが中心となって、1962(昭和37)年3月に、野尻湖底の発掘がはじめられられました」が、それから現在まで半世紀に及ぶ湖底発掘が続けられております。

  第1次発掘が1962年3月26日から3日間の日程で行われて今年で第22次発掘調査が実施(2018年3月23日〜4月1日)されました。その間、2万4000人以上が全国規模で発掘に参加し、2012年3月現在で8万3000点のさまざまな化石、野尻湖人が使用したと見られる石器、骨器そして木器など多数が発掘されています。

  そしてその間に、亀井節夫ら専門家の助言もあって野尻湖ナウマンゾウ博物館構想が持ち上がり、信濃町の一大事業として町立のナウマンゾウ専門の博物館が建設されました。1984年7月、全国初のナウマンゾウ博物館が開館しました。その後、博物館ではありませんが、旧忠類村(現在、北海道幕別町)には立派な忠類ナウマン象記念館が1988年に開館しました。

 「忠類ナウマン象記念館」もまた忠類晩成で発見、発掘されたナウマンゾウの臼歯化石、そして亀井節夫の指導で完成した忠類産ナウマンゾウ全身骨格を復元させた標本(複製)および太古の古環境を示す植物・種子・花粉に至る化石を常設展示したこれまた全国唯一のナウマンゾウ専門の記念館でありますが、それは北の大地、北海道にゾウが生息していた証しでもあるのです。

 

   (文献)

  (1)野尻湖ナウマンゾウ博物館『ナウマンゾウの狩人をもとめて:展示解説』・同博物館、平成15年3月。

  (2)野尻湖発掘調査団『増補版 象のいた湖 野尻湖発掘ものがたり』・新日本新書454、1992年6月。

   (3)野尻湖ナウマンゾウ博物館『野尻湖の自然と人間』・同博物館、1990年3月(初版)。

   (4)野尻湖発掘調査団『野尻湖人をもとめて:野尻湖発掘50年記念誌』・野尻湖ナウマンゾウ博物館、2011年9月。

   (5)『野尻湖ナウマンゾウ博物館20年の歩み(1984~2004)・同博物館、2005年3月。