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人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

南太平洋島嶼国「トゥヴァル」について(7)

2016年09月27日 08時35分22秒 | 島嶼諸国
南太平洋島嶼国「トゥヴァル」について(7)



(2)人口の動態

 ⅰ)人口の推移

 総人口の推移を見ると、1947年は4,487人と言う記録があるが、それ以前の統計はギルバー諸島とエリス諸島が一緒になっているケースが多い。例えば、1943(昭和18)年3月に出版された国際日本協会発行の第東亜統計叢書『太平洋諸島統計書』では、ギルバート・エリス諸島1938年の総人口が35,720人、その内土着人口は34,638人と記されている。1975年のギルバード諸島と分離した後の新政府人口調査(1979)では総人口は7,349人に過ぎなかった。以下、表3は、1921年以後の人口の推移をまとめたものである。                     
              
表:トゥヴァルの人口の推移【注:①年次、②人口(人):③人口の変化%】

①1921、②3,457、③ ―
①1931、②3,994、③1.56
①1947、②4,487、③0.77
①1963、②5,444、③1.33
①1968、②5,784、③1.25
①1973、②5,887、③0.36
①1979、②7,349、③4.14
①1985、②8,229、③2.00
①1988、②8,669、③1.78
①1991、②9,043、③1.44
①1996、②8,953、③-0.20
①1997、②9,474、③5.82
①1998、②9,684、③2.22
①1999、②10,002 ③3.28
①2000、②9,997、③-0.05
①2001、②9,817、③-1.80
①2002、②9,561、③-2.61

(注)
1)1979-90年までは、Central Statistics Division Statistical Abstract of Tuvalu 1984-1990  
2)1996-02年までは、Central Statistics Division から,発表になっているCensus 2002を用いた。
3)1931年の③欄の人口変化率(成長率)は、1921年を基準としたものである。1947年は1931年を基準に、1991年は1985年を、1996年-1991年を基準に、以下同じ方法を用いて算出した。
4)1991年から2002年までの11年間の人口の年 成長率は、Tuvalu Central Statistics Division の人口動態指標(Demographic Indicators )によると、年成長率(rate of annual growth:1991-2002)は6%になっている が筆者の計算では0.52% となる。

さて、1991年の人口は9,043人、これを基準年次として2002年の人口9,561人までの11年間の年平均人口成長率を算出すると0.52%になる。この数値は、ほぼ同じ期間におけるポリネシア地域でもトンガ王国の0.3%と比較すると、かなり高い数値であることがわかる。この理由は、地理的・経済的な条件から移民等の社会的人口移動がトンガ王国よりも難しいことにもよるものと考えられる。

また、地球温暖化で、南極やグリーンランドの氷河が溶けて起きると考えられている海面上昇の影響を懸念したトゥヴァルの人々は、島が水没するのではないかと言う強い危機感抱いている。トゥヴァルだけの問題ではないのだが、島嶼国をはじめ島国と言われる日本も含めて、広大な内陸をもった国々と比較したとき、沿岸地域を相対的に多く有している。そのために、地球温暖化は、地球規模でより多くの人々に、大きな影響を与えることになる。

陸地のほとんどが海抜1~2m、高い所でも3mしかないトゥヴァル諸島も、初めて人間が住みついた頃は、島々にはマングローブにタコノキそしてココヤシで覆われていた。人口が増えると住居や燃料にそれらの樹木が消費された。また、長い時間の流れの中で、毎年のように襲うサイクロンによる洪水の影響で沿岸域が浸食されてきた。いまでも、マングローブなど沿岸の植物が根こそぎ倒伏している場所が絶えない。最近はまた地球温暖化の影響もあって、サイクロンによる洪水、塩害そして干ばつなどによる被害が一層深刻さを増している。

大変難しいことではあるが、先進国及び発展途上の工業国は沿岸にマングローブ地帯を再生するための支援が必要ではないかと思われるし、島嶼国の温暖化による環境負荷の抑制と環境再生には次善の策と考えられる。なぜなら、南太平洋の島嶼諸国は、各国が自助努力だけで島すべてにシー・ウォール(護岸堤防)を建設するには財政的にも大きな負担であると思われるからである。一方で、トゥヴァルには全島規模の移民計画もあるが、同国が直面している問題に対して、先進国も別な角度から、気候変動や海面上昇がもたらす島嶼諸島の環境への影響を、さらに掘り下げて見直す必要がある。

ⅱ)地球温暖化と新しい「移住制度」
 1998年ごろ、トゥヴァル政府はオーストラリア政府とニュージーランド政府に対して気候変動や海面上昇の影響で、近い将来トゥヴァルの人々が危機に瀕したときの予防的措置として移住を打診したと言われている。オーストラリア政府は受け入れを拒否したが、ニュージーランド政府は、現在も両政府の間にある「出稼ぎ制度」の一環として「移住制度」(PAC:Pacific Access Category)を認めた。
 
 従来から、ニュージーランド政府は南太平洋島嶼国、とりわけポリネシア地域諸島からの移民を受け入れている。ニュージーランド政府とトゥヴァル政府の間には、従来から「出稼ぎ制度」があった。その延長線上に、今度のPAC政策もあると見ることが出来る。したがって、両国政府とも「環境難民」の受け入れ・送り出しと言う認識はない。

APC申請条件は、第1にトゥヴァルの国民であること、第2に18-45歳である、第3に英語によるコミュニケーション能力があること、第4にニュージーランドに職があること、第5に違法滞在歴がないこと、である。制度は2年後に見直しをする。1年間にトゥヴァルからニュージーランドに移住できる上限は75人であることなどが受け入れ条件になっている。一時は、住み慣れた島を離れてニュージーランドに移民を決意した島民も多くいたようであるが、2002年にスタートしたこの長期的な移住制度も政権が替わった現在では、先行き不透明である。

「環境難民」あるいは「環境移民」の出現は、何もトゥヴァルに限られた問題でない。南太平洋島嶼諸国はどこも、これから先さらなる地球温暖化がすすんだときの海面上昇から受ける影響が深刻な問題になる、と考えているようだ。近い将来、地球温暖化による影響から、社会的人口移動が生じる懸念は島嶼国の多くで拭い去ることはできない問題であろうと思われる。

とくに、トゥヴァルの場合には、こうした環境難民的移民問題以外にも、これまで上得意の出稼ぎ先だったナウルの燐鉱石が枯渇したためにリストラされた労働者の一時帰国や地方(離島)から都市への人口移動で、首都フナフティへ流入する人口が増加している。それと同時に、経済のグローバル化の進展も手伝って、今世紀になってから若干ではあるが、近隣のアジア諸国からのビジネスや観光等の短期入国者が年々増える傾向にある。1995年頃には900人程度であった年間入国者も、最近では1,000人をはるかに超えるようになった。