素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

アケボノゾウをさぐる(12)

2022年07月06日 17時36分26秒 | 絶滅した日本列島のゾウたち
       アケボノゾウをさぐる(12)


 (4)アケボノゾウをさぐる まとめその(2)

 埼玉県に住むわたしなどにとっては、アケボノゾウと言いますと、埼玉県立自然の博物館に展示されている全身骨格標本が思い浮かびます。また、狭山市博物館にもアケボノゾウの全身骨格標本が、そして調べて見ますと、入間市博物館には入間川で発見されたアケボノゾウの足跡化石標本が常設展示されているそうです。そんなわけで、身近にあるアケボノゾウに親しみを感じています。

 入間川で発見されたアケボノゾウの化石から、入間川流域でいつ頃まで生息していたかは地層によって判断することが出来ます。狭山・入間産アケボノゾウ化石が見つかった地層は、専門家先生方の研究に依拠しますと、入間にあります「加治丘陵には,礫層を主体とする飯能層と,その上位に泥層を主体とする仏子層が分布する」そうです。そして「仏子層には浅海成層を含む複数の堆積サイクルが認められ(堀口ほか, 1977)」そうです。

 この仏子層(狭山層)ですが、150万年前から100万年前の地層と考えられています。アケボノゾウは250万年前から70万年前の地層から産出されることが多いのですが、入間産アケボノゾウの化石が発見された地層は、一般に考えられているより若い地層のようです。

 埼玉県は関東山地の西内縁にあり、入間川沿いに加治丘陵、南西に狭山丘陵が、そして最高東低と呼ばれる埼玉県熊谷市、さいたま市など平地が広がり、自然が豊富であることはよく知られていますが、実は太古の昔は海もあったのです。

 列島時代と呼ばれる1500万年以上前までは秩父地方は海の中でした。古秩父湾は有名です。現在の秩父盆地はその名残だと言われています。小鹿野や皆野は古秩父湾の中にありました。ですから今でも太古の時代を生きたさまざまな奇獣の化石が発見されています。

 たとえば、小鹿野町ではオガノヒゲクジラの頭骨化石が産出されていますし、秩父市大野原からはチチブクジラの骨格化石も見つかっています。また人食いサメの歯群化石も見つかっています。

 秩父地方だけでなく、狭山市笹井から入間市地域にかけては、列島時代以前には海が入り込んだ湿地帯で、そこにはメタセコイアやオオバタグルミ、エゴノキ、ハンノキなどゾウの食べ物となる植物が生い茂っていた原生林が広がっていたと言われています、そのためか、150万年前から100万年前の地層(仏子層)からは、たくさんのアケボノゾウの化石が産出しており、またトウヨウゾウやナウマンゾウも生息していた時代もあったと考えられています。

 ところで、アケボノゾウについて調べていますと、よく《Stegodon aurorae (Matsumoto,1918)》と言う表記があるのに気づきます。前回も述べましたが、これは松本彦七郎(1887ー1975)博士によるアケボノゾウ(和名)の学名を「記載」(redescription)したものなのです。

 しかし、松本博士の記載したのは、下記の「記載論文」(1918)のテーマにありますようにゾウの原型化石、すなわち別名(シノニム)をElephas aurorae (Matsumoto1918)としています。このことは、同博士が1924(大正13)年発表の「日本産化石象の種類(略報)」(『地質学雑誌』・第31巻合併第371、372号、262頁)において、「著者が曾つてElephas aurorae と名づけたものである」、と敷衍さていることからも確かだと言えます。

 その「記載論文*」は、Matsumoto,H. , 1918. On a New Archetypal Fossil Elephant from Mt. Tomuro, Kaga. The Science Reports of The Tohoku Imperial University, Second Series ( Geology ) ,vol.Ⅲ, no.2, pp. 51-56. です。

 前掲論文(1918)において、同博士は、Stegodon auroaueを「広義のゾウElephas」として扱っています。それと言いますのも、加賀(石川県)の戸室山(金沢市の東側の標高約550メートルの山)から産出された化石骨を観察した限りでは、そのゾウはステゴドンとしては相当程度までゾウ類として進化を遂げていると判断したからだと思います。

 しかし、大変難しい問題があるのは、摸式標本としての化石のうち、右上顎第2大臼歯一つだけ検出していましたから、遺伝子型の分析には不十分だったようです。

  〈文中*〉:ここに「記載論文」とは、ある生物の分類基準を定義する際に、その主たる形質をすべて記述したもので、摸式標本(type specimen) を基に新種として報告する場合に原記載されている論文のことを言います。また、摸式種(type species)とか基準種、基本種と言う用語もつかいます。これらは、ある新属の記載を行った場合に、その基準として取り上げた「種」のことを言います。

 松本博士はアケボノゾウについて、はじめは上述の論文(Matsumoto,H. , 1918.)からも明らかなようにElephasと見なし、その後にステゴドン(stegodon)科のパラステゴドン(Parastegodon)属と、しばらくはそう呼んでいましたが、後に槇山次郎(1896-1986)博士等によってステゴドン属とする考え方が主流となったと考えられます。

 以上のように本稿では、ステゴドンとかアケボノゾウとか、いとも簡単に扱って来ましたが、われわれ人間の先祖との関わりについても併せて考えて見ることも大切なのです。しかし本稿では、わが国固有のゾウと言われているアケボノゾウについてのみ触れるにとどめました。

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