素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

絶滅した日本列島のゾウのはなし(24)

2021年02月21日 18時07分52秒 | 絶滅した日本列島のゾウたち
    絶滅した日本列島のゾウのはなし(24)


 7.ゴンフォテリウムの仲間たち(その1)

 (1)日本には凡そ2000万年前にもゾウの仲間がいた

 ゾウ類の化石骨は上述のように、日本列島の至る所から多数産出されています。しかしそのほとんどが臼歯であり、切歯(せっし:象牙)であることが多いのです。その理由は、とくに臼歯の場合、頭蓋骨や体骨等他の骨に比べて「化石」と言われるように「石」のように固いため、半永久的に残りやすいことがその理由として挙げられます。その点からは「象牙」と言われる切歯も同じです。

 体骨である脊椎や肋骨など壊れやすい骨でもゾウ類の場合大きいことも理由かもしれませんが他の大型獣に比べてもかなり完全な形で残されている場合が多いのです。

 ところで、発掘された化石骨の中でも、古生物学の研究において、臼歯が重要な意味を有するのは、その磨滅のしかたからゾウの年令の推定が可能であるからです。その意味では、牙もまた太さ、長さから雌雄を判別したり、年齢を推定するのに大変重要なのです。

 これまでも、発掘されたステゴドンの臼歯、ナウマンゾウの臼歯や牙などを研究することによって、雌雄の別や若齢の獣か、成獣か、あるいは老齢の獣かを判断し、年齢を突き止めたりできますので大変重要な意味があります。

 それだけではありません。臼歯の形態から、どんな長鼻目類なのかを見分けるのにも大切なのです。日本列島に生息していたゾウ類として、これまでは主としてステゴドン科やゾウ科のゾウ類について扱って来ました。そのほとんどが、500万年前未満の地層から発見されたものばかりでした。

 しかし、いろいろ調べて見ますと、日本列島にはそれよりももっと、もっと昔にもゾウの仲間が生息してたことが分かって来ました。例えは、和名はアネクテンスゾウと呼ばれているゾウの仲間の化石が見つかっているのです。学名はGomphotherium annectens と命名されています。

 大阪市立自然史博物館に展示されています化石の解説を参照しますと、地質時代で言えば第三紀中新世の末期頃に生息していたであろうと推定されているゾウの仲間なのです。生息年代は凡そ1800万年前~1900万年前とのことです。次節でもう少し言及して見ます。

 (2)アネクテンスゾウについて

 もう100年以上も昔になりますが、1914年に岐阜県の現在の可児市、可児盆地でゾウの化石が発見されて大変な話題になりました。それはゾウ類の上顎の化石でした。その化石については、東北大学の松本彦七郎博士が研究し、同博士はその化石にアネクテンスゾウと命名されました。

 そしてその数年後には、同じ場所から、同じゾウの下顎の化石も見つかりました。この化石については、ナウマンゾウの名付け親でもある京都大学の槇山次郎博士の研究するところとなったのです。

 ステゴドン科やゾウ科のゾウ類と違って、アネクテンスゾウの場合は、生息していた時代が凡そ2000万年も昔になりますから、素人には信じられない太古の、そのまた太古の昔です。そんな昔の日本列島がどんな形状をしていたのか想像もつきません。20世紀になってからですが、日本列島の真ん中辺りには随分大型の哺乳動物が生息していたことが分かってきました。

 アネクテンスゾウの話からは大分横道に逸れますが、わが国で見つかったパラオパラドキシアについて少しばかり触れておきたいと思います。

 1984年(昭和59年)に福島県伊達市梁川(やながわ)町の広瀬川河床の梁川層からでした。これを「梁川標本」と呼んでいますが、頭骨を含む全身骨格がほぼ完全な形で発見されたことで有名です。このような例は、世界広しと言えどもいくつもないそうです。

 また、 岐阜県土岐市泉町久尻上ヶ峰には有名な遺跡、隠居山遺跡がありますが、1950年(昭和25年)には、この遺跡から、実に1700万年前に生息していたと言われているパレオパラドキシアの化石(Paleoparadoxia tabatai 〈Tokunaga, 1939〉)が発見されています。実は、隠居山遺跡は考古学的にも大変貴重な遺跡で、古墳時代に築造された横穴墓、安土桃山時代から江戸時代初期の古窯跡などからなる複合遺跡としても有名です。

 以上の例の他に、福井県立恐竜博物館には、岡山県の東北部、津山市に広がる勝田層群吉野層からも新第三紀中新生(2300万年前~500万年前)前期の地質時代に生息していたであろうと推測されているパレオパラドキシアの標本が展示されています。

 わたしもこのような恐竜もどきの巨獣の化石が、国内で発見されていたことは耳にはしていましたが、全身の骨格を復元したパレオパラドキシアの化石標本を見たのは7~8年前のことでした。そのきっかけは、2014年に開催された科博(国立科学博物館)の「太古の哺乳類展」でのことでした。

 パレオパラドキシアの化石標本について、国立科学博物館では、アメリカ・カリフォルニア州スタンフォード産地の標本を使って、次のように解説をしています。

 「パレオ=太古の、パラドキシア=矛盾した、タバタイ=田畑氏(最初の標本を学界に提供した田畑博氏に因んだもの)の意味。展示標本は、同一個体の全身骨格から復元されている。汽水性のマングローブ沼に生息し、休憩や繁殖時以外は水生生活をしていたと推定されている。全長はおよそ3.5 m」。 なお、科博では、平成26年にも「太古の哺乳類展」を夏休みバージョンで開いていましたが、そのときは埼玉県立自然の博物館所蔵のパレオパラドキシアの標本を使っていました。

 パレオパラドキシアは、デスモスチルスの仲間で科博の解説にもあるのですが、太古の謎多き巨獣なのです。その巨獣の全身骨格化石が発掘されたのですから古生物ファンにとってはたまらない話題でした。

 こうして1700万年前の、形さえはっきりしていなかった日本に生息していた古哺乳動物の様子がだんだん明らかになってきましたし、パラオパラドキシアだけではなく、アネクテンスゾウのような古代ゾウに関してもさまざまな貴重な手がかりが岐阜県瑞浪の地から発信されるようになったのです。

 古哺乳動物の化石が,瑞浪層群のどういう地層から産出するかということは大変興味深いことでして、生前に亀井節夫博士が述べられていたことなのですが、とくに陸棲の大型古哺乳動物としてはアネクテンスゾウが代表的なものとされております。

 また、高橋啓一博士によると、「最初に日本列島に登場するのは約 1,900 万年前のことで、
アネクテンスゾウ Gomphoterium annectens(Matsumoto) と呼ばれる種類である。この種は、岐阜県可児郡御嵩町中切の瑞浪層群平牧層から発見された上顎骨を基に、松本彦七郎が 1924 年に新種として記載した(松本、1924)。その後、同じ場所から下顎骨も発見され、槇山次郎が 1938 年に記載したが(Makiyama, 1938)、1970 年代になってこれらの化石が同一個体のものと判明した」、と述べています(「日本のゾウ化石、その起源と移り変わり」・『豊橋市自然史博物館研報』・23号、2013)。

 その日本産アネクテンスゾウは、ゴンフォテリウム(Gomphotherium)の一種とみなされています。下顎の先にも牙があるのが特徴です。したがって、一般のゾウ類と同じように上顎にも2本の牙を持っていましたから、それらと合わせますと4本の牙を持っていたことになります。
 
 生息していた地域は、化石が発見された現在の岐阜県瑞浪市、可児市、御嵩町の周辺と見られています。ヨーロッパ産のアングスチデンスゾウ(Gomphotherium angustidens)によく似ているといわれていますが、近縁の種であるかどうか分かりません。

 ところで、わが国では以上述べましたアネクテンスゾウの他にも、ミヨコゾウ、センダイゾウなどの古代ゾウの化石が見つかっています。  

 *次回は(3)「ミヨコゾウについて」の話からです。