素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

ゾウ目 「デイノテリュウム」再考(4)

2023年05月23日 20時50分07秒 | 絶滅と進化

                 

                                                 ゾウ目「デイノテリウム」再考(4)

 

     デイノテリウム再考のまとめ

    稿末に掲げた〔参考文献〕の(4)ティム・ヘインズ&ポール・チェンバーズ 『よみがえる恐竜・古生物』【超ビジュアルCG版】(群馬県立自然史博物館監修:総監修者長谷川善和)、椿正晴訳の178頁「デイノテリウム」によりますと、「デイノテリウムはインドリコテリウムに次ぐ史上2番目に大きな陸生哺乳動物。体高が4メートル、体重は約10トン。現生のゾウと類縁関係にあり、牙、分厚い皮膚、長い脚と鼻など、ゾウと共通する特徴をたくさんもっていた」と記しています。なお、同頁の見出しには「デイノテリウム 最大のゾウ」となっています。

    これまでわたしは、ゾウと「類縁関係」にあるとは書きませんでした。あくまでも「ゾウの仲間」と記しました。その理由は、「類縁関係」としますと、「縁戚関係」と同義に解釈される可能性もあるからです。また、縁戚関係となれば、デイノテリウムの祖先と現生のゾウの祖先との血のつながりを明確にしなくてはならないからです。わたしはそれをなすべく裏付けとなる資料を持ち合わせていないので、曖昧ですが「ゾウの仲間」として考えています。

    確かに、デイノテリウムが掲載されている書物等のイラストや写真などを見ますと、上顎ではなく下顎から鋭い鎌形の逆向きの牙が左右2本生えている点を除けば、その形態は現生のゾウによく似ております。しかし、切歯(牙)が上顎にあるか下顎にあるかは大変な違いのように思います。

     さて、デイノテリウムは確かにわれわれが知っているアジアゾウやアフリカゾウといった現生のゾウと前述したことを前提にするなら、大変よく似ていますが、わたしはデイノテリ祖先が祖先が、現生のゾウの直接の祖先ではないと考えています。むしろデイノテリウムは、シャベルゾウの異名を持つプラティベレドンやアメベレドン(Amebelodontidae)とか、体の長さ4m、長さ3mの牙が露払いをしているような形態を有するアナンクス(Anancus)の近縁種と考えた方が良さそうです。

 デイノテリウムは、現生のゾウの祖先とは異なるのですが、それらとともに進化してきたと言えそうです。そのため形態的には、下顎の逆向きの牙さえなければゾウに似た体型をしていたようなのです。こうした見方は、仮にホモ・サピエンスが出遭っていたとしても、書き残したものがあるわけではありませんから、歴代古生物学者の化石骨からの推測でしかないのです。

    アナンクスについては、三枝春生(1958-2022)が、2007年度科研費「研究成果報告概要、後期中新世の旧世界における長鼻類の進化」の中で、ゴンフォテリウム(Gomphotherium)類の一種であるアナンクスは、アフリカにおいては独自に草食獣(grazer)に特殊化し、ゾウ科と同等の咀嚼機能を異なった様式で実現していたことが、アナンクスの咬耗面の研究で明らかになったと述べています。

   ところで、ティム・ヘインズ&ポール・チェンバーズらが「最大のゾウ」と形容したように、巨大哺乳類の「タイプ種」であるデイノテリウム・ギンガンテリウム(Deinotherium giganteum)は、19世紀初頭にドイツのエッペルハイム(Eppelsheim)で、1829年カウプによって発見されましたがその後の発掘調査によって、新生代新第三紀中新世中期から第四紀更新世前期(約2,400万 - 100万年前)に生息していたことも、そしてその間の拡散の道筋も明らかになりました。

                       Deinotherium giganteum 顎の化石骨

                        画像:デイノテリウム・ババリカム

                     出典:この画像は、福井県立恐竜博物館

                     「画像ライブラリー」から借用したものです

 

    すなわち、アフリカケニヤを振り出しにドイツ、チェコなどヨーロッパを拠点に東へ進み、そしてインド、パキスタン、ミャンマーとアジア諸国にも広がったのです。しかし、おそらく更新世に入り地球は厳しい寒冷化など気候条件の変化、そしてホモ・サピエンスの出現に屈し、初期中新世から中期中新世にかけて生息したと言われるプロデイノテリウム(Prodeinotherium)同様に、絶滅の道を歩まざるを得なかったものと考えられます。

                                        

 

〔参考文献〕

(1)富田幸光 『絶滅哺乳類図鑑』 伊藤丙雄、岡本泰子、丸善、平成14(2002)年.

(2)今泉忠明 『絶滅巨大獣の百科』、日本ネコ科動物研究所編、データハウス〈動物百科〉1995年.

(3)エドウィン・ハリス・コルバート・マイケル・モラレス 『脊椎動物の進化(原著第5版)』 田隅本生、築地書房、2004年.

(4)ティム・ヘインズ・ポール・チェンバーズ 『よみがえる恐竜・古生物』【超ビジュアルCG版】(群馬県立自然史博物館監修)、椿正晴訳、ソフトバンククリエイティブ、2006年.

(5)三枝春生「中部ミャンマーの上部新生界より産出した長鼻類化石の新標本について」・『化石』(104)、2018年.

(6)髙井, 正成; 楠橋, 直; 西岡, 佑一郎; タウン・タイ; ジン・マウン・マウン・テイン「ミャンマー中部の新第三系の地質と動物相の変化」・『化石』 (103)、2018年.

(7)Huttunen,K., Systemmatics and Taxonomy of the European Dienotheridae (Proboscdes,Mammalla). Annalen des Naturhistorischen Museums in Wien,103A.

(8)Arambourg, C., 1934, Le Dinotherium des gisements de l'Omo: Compte Rendu Sommaire des Séances de la Société Géologique de France(フランス地質学会『学会報告書』), v., 1934.