素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

ナウマンゾウについて、その補遺編(7)中本博皓

2023年01月10日 12時08分32秒 | ナウマンゾウについて

      ナウマンゾウについて、その「補遺編」(7)

(2)ナウマンゾウ研究の成果、高橋啓一著『ナウマンゾウ研究百年』―その紹介

 ナウマンゾウについては多くの日本の古生物学者によって研究が行われて来ましたし、いまもさらに研究が進められています。このほど(2022年12月)、その総括の第2弾とも言うべき研究報告が、滋賀県立琵琶湖博物館から公表されました。それが、琵琶湖博物館研究調査報告第35号として公刊された高橋啓一著『ナウマンゾウ研究百年』です。

 著者の高橋啓一氏は、ナウマンゾウに関する長い研究歴を有されており、日本におけるナウマンゾウ研究の専門家として知られています。高橋氏は、1976年2月26日、東京日本橋の地下鉄(都営10号線)の工事現場から発見されたナウマンゾウの化石の発掘調査にも参加(日本橋ナウマンゾウ研究グループ編「東京日本橋浜町に於けるナウマンゾウ化石の発掘について」・『地球科学』第33巻2号、1978)されています。

 また、千葉県市原市引田ではナウマンゾウの切歯や肩甲骨を発見されています。さらには、1991年2月に出版された亀井節夫(1925-2014)編著『日本の長鼻類化石』(築地書館)がありますが、高橋氏は、その第3章で「ナウマンゾウの古生物学」を執筆収載されています。その意味では亀井氏の『前掲書』において、すでに第1弾を放たれていたと言えるのではないかと思います。

 他にも1969年7月26日に発見された北海道旧忠類村晩成地区(現在は幕別町忠類)で発見されたナウマンゾウの化石については、後のことになりますが、重要な提言(「北海道のゾウ化石とその研究の到達点」・『化石研究会会誌(2013)』)をされています。

 素人のわたしの考えでは、「ナウマンゾウ研究」に関する総括的な研究の第1弾は1991年の亀井氏の『前掲書』ではないかと見ています。それから30年を経て、2022年12月の高橋啓一氏の琵琶湖博物館研究調査報告第35号『ナウマンゾウ研究百年』は第2弾と考える次第です。しかしこれまでにも、ナウマンゾウに関する研究は行われて来ましたが、今回の高橋氏による『前掲書』(2022)は、大がかりな研究成果と考えられます。その目次に目を通してみますと、Ⅰ.研究史として3つの節が設けられています。その内の一つは、1.黎明期として、最初にナウマンが科学的に分析したと言われる研究について言及されています。

 また、ナウマンが1881年に著したÜber Japanische Elephanten der Vorzeit(先史時代の日本のゾウについて)を取り上げ、ナウマンが「記載」した日本に生息していた「クリフチゾウ(Stegodon cliftii)」、「インシ グニスゾウ(Stegodon insignis)」、「ナマディクスゾ ウ(Elephas namadicus)」、そして「マンモスゾウ(Elephas primigenius)」の 4 種類 7 点の化石について取り上げています。
高橋氏によりますと、「日本人研究者として初めてナウマンゾウを研究 したのは,後に早稲田大学理工学部教授となる徳永重康である(Tokunaga,1906)」であると記しています。  

 ナウマンゾウ研究の発展期は1920年代以降で、代表的な研究者として松本彦七郎(1887-1975)博士がいます。『前掲書(2022)でも松本彦七郎の研究が取り挙げられています。この時代は、高橋氏に依拠しますと、「1920 年代終わりから 1930 年代にかけて,各地から新たなナウマンゾウ化石が発見されるのに伴って,競い合う様にパレオロクソド(Palaeoloxodon)の新種や新亜種が設立されていった」時代で、系統学的な研究、層序学的な研究、そして形態復元の研究が行われた時代であったことから、「発展期」として位置付けられています。

 松本彦七郎博士について敢えて付言しておきますと、博士は日本最初の層位学的な研究を実施したことでも知られており、考古学や古生物学における層位論研究の創始者と言われています。また、さらに博士は石器時代人骨や古人類、大型哺乳類の化石の研究者であります。そして松本は、ゾウの臼歯化石から日本列島には固有のゾウがいたことを最初に発見したと言われています。アケボノゾウがそれでありま。そして松本のゾウ化石を基にしたゾウの系統進化の研究は日本国内だけでなく、国際的に高い評価を受けています。

 高橋啓一氏の『ナウマンゾウ研究百年』の目次を一瞥しますと、次のように構成されています。以下では「章」・「節」に相当する大きな目次だけを拾い挙げておきます。
Ⅰ.研究史、1.黎明期、2.発展期、3.新たな検討の時代、Ⅱ.産地、1.産地リストについて、2.産地リスト、Ⅲ.生息年代、1.生息年代の研究史、2.出現の時代、3.関東平野の形成とナウマンゾウの堆積層、4.絶滅の年代と原因、Ⅳ.形態、1.各部位の形態、2.復元、3.足跡化石、Ⅴ.系統・分類。1.パレオクソドン属の分類学的位置、2、パレオロクソドン属の放散、3.ナウマンゾウの位置づけ、Ⅵ.生息環境と動物相、1.生息環境、2.垂直分布、3.動物相、引用文献、謝辞、英文要旨、補遺(中嶋雅子「浜名湖周辺のナウマンゾウ情報」)。

 以上で、「ナウマンゾウについて、その補遺編」を終わります。