悠歩の管理人室

歩くことは、道具を使わずにできるので好きだ。ゆったりと、迷いながら、心ときめかせ、私の前に広がる道を歩いていきたい

主人公は誰?

2011-08-13 23:22:02 | 言葉

母をショートステイ先に迎えに行った。対応した担当者は、3泊4日の施設での状況を、
私にでなく、一緒に行った孫に向かって説明しようとした。
孫(私の長男)は、以前この施設に勤務していたので、
担当者が職場の元同僚に向かって話そうとした気持ちは、分からないではない。
しかし、担当者は、母の保護者として迎えに行った私に向かうべきであった。

手話通訳の場面でも、似たようなことがある。
病院通訳の場面で、医師がろう者に伝えるべき場面で、患者であるろう者に話さず、
通訳者に向かって話すことがある。
医師が、患者ときちんと向き合うのであれば、通訳者に向かって話してはいけない。
ここで通訳者は、医師に対し、患者に向かって話してくれと言わなければならない。

30年近く前、完全週休二日制になる前、土曜日は各週で休みだった。
この日は休みで家にいた。あるろう者が、私を訪ねて職場に来た。
職場からの電話で、私が話を聞くことになった。
ろう者は、会社での待遇に不満を持ち、職場に無断で私に会いに来た。
会社に言いたいことがあるので、通訳をしてくれということだった。
会社では、朝礼が毎日あり、その日の仕事の段取りなどが話されるそうだ。
通常の仕事は対応できているが、時に手順その他の変更がある。
当日の変更は、朝礼でなされるが、ろう者には説明がない。
それで時々、変更についていけず同僚や先輩にしかられることがある。
これが度重なり、我慢ができなくなって、無断で職場を離れたとのことであった。

これらの話を職場の上司2名に本人の希望を伝えるという立場で私が通訳をした。
結果として、職場での対応を見直し、朝礼を通訳することはできないが、
仕事上の変更事項や会社の福利厚生などについても、できるだけ筆談や、
メモを渡すことで対応するということになった。
本人も職場の対応に納得し、話し合い(通訳)を終了する間際、
私は余計なことを言った。
「職場を無断で出てくるのは良くない。何か不満なことがあった場合は、
職場の仲間や、上司に話した方がよい」と上司、ろう者どちらにともなく言った。

最後の私の一言は、ろう者のとった行動が、
会社に良い印象を与えなかったかもしれないと気を回し、
これからはこのような非常識なことはしませんということを、双方に伝えたかったので、
余計な一言を言ってしまった。
本人は、これまでの会社の待遇に我慢の限界をこえたので、
このような行動をとったのだと思う。会社も、長い間配慮不足を重ね、
ろう者に情報不足による苦痛を与えてきた。

双方が了解に達した後に、善良な通訳者ぶって、
上から目線で言うべきことではなかった。

この恥ずかしい体験を、その後の手話奉仕員試験の際、作文課題として提出した。
幸い合格し通訳活動を何年か続けたが、通訳の立場を踏み越えず、
ろう者の立場を尊重した活動につなげることは難しいことだった。