【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「この空の花 長岡花火物語」

2012-06-17 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)

大林宣彦、やりたい放題。
のっけから息つく暇もない松雪泰子のナレーションの氾濫。
テロップもつける、つける。
2時間40分という長尺なんだけど、それでも語りつくせないことがあるとばかり、あらゆる手段を総動員して情報を詰め込む。
おかげで「HOUSE」と「理由」を足して2で割らないような奇妙な味わいの作品ができあがった。
というか、一時期「尾道三部作」のような真っ当な映画をつくっていた大林宣彦も、最近は奇妙にゆがんだ映画ばかり好んでつくるようになった。
この年になると怖いものはないんだろう。初期の作品にあった野心が戻ってきたというか、地を出してきた。
サブタイトルどおり、有名な長岡の花火大会をフューチャーした映画なんだけど、戦争犠牲者を弔うというこの花火大会の来歴から、明治維新の長岡の歴史から、原爆と長岡の関係から、花火のできるまでから山下清から、山古志村の地震から、こんどの大震災にまで話を広げるからもう映画はひっちゃかめっちゃか。
もちろん、時系列で処理するわけではないし、松雪泰子も狂言回しに徹するわけではないし、大林監督が好みそうな若い女優が一輪車で出てきたりするし、思いついたことは全部映像にしている感じだ。
それで話がこんがらがるわけではないし、言いたいことは伝わるからいいんだけどね。
むしろ、この年齢にしてこれだけ創作意欲に燃えているっていることに感心すべきかもしれない。
新藤兼人と真逆の意味においてすごい。
これだけは撮らなきゃ死ねないって脅迫観念かな。
そこまで悲壮感のある映画ではないけど、松雪泰子が最初から最後まで顔をしかめているのには、ちょっと引いたわ。
もう少しユーモアというか、ヌケがあってもよかった。
「尾道三部作」ならぬ「長岡三部作」にすべきボリュームを一気に突っ走っちゃったっていう感じね。
おかげで満腹だ。
嫌いじゃないけど。