【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「一命」

2011-10-17 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)

「切腹」を観たときも、竹光痛そうと思ったけど、この映画も、やっぱり竹光痛そう。
2Dで観たけど、3Dで観るともっと痛そうなのかしら。
それは、どうかな。そもそもこの映画、うざったいめがねかけてまで3Dで観たほうがよかった、って思えるシーンあったか。
・・・シーン。
どうせ3Dにするなら、「十三人の刺客」のような破天荒なアクション時代劇のほうがその効果が出んじゃないか。
今回は、むしろじっくり見せる重厚な時代劇だからね。黒光りのするような画質を余計な神経使わずに堪能できて2Dで観て正解だったかもしれないわね。
十三人の刺客」ではまだまだ遊び心満載だった三池崇史監督も、いよいよここまで正統派の映画を撮るようになったんだな。
個性的な監督がその個性を封じて正統派の映画を撮ることに徹すると、技術がうまい具合に生かされた傑作が出来上がるという典型のような映画ね。
食い詰め浪人が大名屋敷の前で狂言切腹を図ろうとしたら、ほんとに腹を切らされる。それも自分の持っていた竹光で、っていう泣くに泣けない話。
その浪人を、苦痛にゆがんだ真っ赤な顔で演じるのが、瑛太。彼の恨みをはらそうと屋敷に乗り込む義理の父親役が、市川海老蔵。
赤く血走った目で演じるのかと思ったら、ちゃんとした白目で演じていた。
赤い目で演じたらリアルに凄味が出て良かったかもしれないのに、事件の前に撮っていたのね。惜しい。
でも、海老蔵は恨みを晴らそうというより、関ヶ原の戦いから何十年も経って武士が戦う場面なんてない世の中なのに、対面ばかり重んじる武家社会の愚かさを訴えるために、身を賭して屋敷に乗り込んだんだろ。
そういう点では、小林正樹監督の「切腹」のほうが武家社会の矛盾をあぶりだすことに徹していたかもしれないわね。
こんどの映画は、後半ちょっと情に流れちゃったようなところがあって、それも悪くはないんだけど、冷徹さでは「切腹」のほうに軍配が上がるかもしれないな。
でも、歌舞伎俳優の海老蔵の立ち居振る舞いは、さすが。眼力なんて、相変わらずだし。
あれだけ磁力があると、ほとんどワンマンショー。「柳生一族の陰謀」の萬屋錦之介とまでは言わないけど。
海老蔵もまた“真剣”では戦わない。そこが今回の映画のミソね。
リアリティからすればどうかなとも思うけど、彼のあの形相であの刀で来られると、かえって敵が怖気づいてしまうっていうのは、案外あるかもしれないな。
それでなくても、海老蔵なら怖気づいちゃうけどね。
それって、映画の中の話、実生活の話?
それは、みなさんのご想像におまかせするけど。