【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「once ダブリンの街角で」:住友ツインビル前バス停付近の会話

2007-11-24 | ★東16系統(東京駅~ビッグサイト)

ここ、ここ。このビルの前で最近、レオス・カラックス監督の新作の撮影があったらしいわよ。
えっ、レオス・カラックスが東京を舞台にした映画をつくっているのか。
そうらしいわよ。
「ボーイ・ミーツ・ガール」とか「ポン・ヌフの恋人」の監督だろ。
期待しちゃうわね。
それまでは、他の”ボーイ・ミーツ・ガール”映画で我慢するか。
今年のボーイ・ミーツ・ガール映画といえば、「once ダブリンの街角で」に尽きるわね。
文字通り、ボーイ・ミーツ・ガールだ。なにしろ、主演の役名がなくて、テロップにもguy、girlとしか表記されない。
中年のストリートミュージシャンとチェコから移民してきた少女がダブリンの街角で出会うっていうだけの、いたってシンプルなラブ・ストーリー。
ラブ・ストーリー?恋人同士じゃないんだから、ラブ・ストーリーじゃないだろう。
そこがとっても微妙で、愛し合っているわけじゃないんだけど、惹かれ合っているっていう、なんともドキドキする関係なのよね。
それって、俺たちと同じ?
まさか。私たちの場合は、愛し合っているわけじゃないけど、傷つけ合っているって関係なんだから。
なるほど。
この映画の主人公たちは結ばれるのでしょうか、っていういわゆる恋愛映画とはちょっと視点が違って、友人と恋人の境界線を綱の上を渡るように進む姿をそのまま温かい視線で見つめている。
綱の上を渡るように進むって、俺たちと同じ?
まさか。私たちの場合は日本刀の刃の上を渡るような関係じゃない。
なるほど。
映画の二人は、心の揺れ具合をことばじゃなくて、歌で表現するのよね。
自分の気持ちを素直にことばにするのがへたなんだよなあ。
そこでストリート・ミュージシャンていう設定が生きてくる。
ことばに出さないぶん、あの歌が切なくてなあ。胸に沁みる。
ミュージカルみたいに不自然なときに突然歌い出すんじゃなくて、ミュージシャンていう現実的な設定の中で歌うから、自然な流れの中で彼らの感情に寄り添っちゃうのよね。
「I love you」じゃなくて、「If you want me」ってところが泣かせるじゃないか。
そうそう。この映画のポイントは積極的な「LOVE」じゃなくてつつましやかな「WANT」だってところかもしれないわね。
それって俺たちと同じ?
だから、私たちの関係は「WANT」じゃなくて、「WANTED」だって。
お尋ね者かい!
アイルランドのダブリンていう街のたたずまいが、またこのつつましやかな物語にぴったりの背景になっている。
ヨーロッパの片隅の小さな島のしっとりした町並み。人間のぬくもりを感じさせる街のたたずまいが、こういう淡い思いの物語にふさわしい色合いを加える。
撮影もきっと気心の知れた少人数で行われたんでしょうね。手持ちカメラとロケで撮り切っている。
ラストもちょっと苦いラストだが、世の中、ああいうものかもしれない、って思わせる余韻の残るラストだった。
ハリウッド映画だったら、空港で劇的再会、めでたし、めでたしなんてなりそうだけど、そういう映画じゃないからね。
レオス・カラックスみたいな絶叫系の映画ともまったく対極にある映画だったが、心に残る映画だった。
心の片隅にいつまでも残る一本よね。


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