わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

菅野美穂がヒロインに!「ジーン・ワルツ」

2011-02-02 18:25:22 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img396 海堂尊のメディカル・ミステリー小説「ジーン・ワルツ」が映画化(2月5日公開)。菅野美穂が、産婦人科医兼大学医学部助教で、顕微授精のスペシャリストである<遺伝子(ジーン)の女神>といわれるヒロイン・曾根崎理恵を演じています。作品の主題は、体外人工授精や代理母出産などの問題。日本では、まだ代理出産をはじめとする生殖補助医療の法律はないという。体外人口受精の専門家として研究を続ける理恵は、いまだに法制化されていないタブーに挑戦、日本の医療体制に対しての痛烈な批判を試みます。そして、「生命の誕生は、それ自体が奇跡」という信念を貫きとおす。
                    ※
 物語では、そんな理恵に、ある疑いが向けられる。彼女が院長代理をつとめる廃院寸前の産婦人科クリニックで、禁じられた治療をしているというのだ。そこに通うのは、それぞれの事情を抱えた4人の女性たち。理恵と同じ大学病院に勤め、教授の地位が約束されているエリート医師・清川吾郎(田辺誠一)が、彼女にまつわる噂と謎を追及する。理恵がクリニックで接するのは、胎児が無脳症だったり、未婚で妊娠して中絶を望んだり、不妊治療の末に妊娠、あるいは顕微授精で双子を妊娠した女性たち。「私も一緒に闘っているんです、あの4人の妊婦さんたちと…」と主張する理恵は、一体なにを計画しているのか?
                    ※
 監督は、「NANA」シリーズの大谷健太郎。多摩美術大学在学中から映画を製作、ぴあフィルムフェスティバルで多数の賞を受賞するという経歴を持つ。だが今回は、ドラマがセリフのやりとり主体で進行し、映像や心理描写が伴っていないような気がします。中でも、大学病院の仕組みや、理恵の主張や孤立感の描きわけが曖昧で、医療体制に対する批判も手ぬるい。先鋭的な美貌の医師を演じる菅野美穂は魅力的だけれども、どうも演技に実感がわかない。要するに、社会性を持った深刻なテーマなのに、それぞれに役をふられた俳優たちが、医療ゲームを演じているみたいで、ミステリーになっていないのです。
                    ※
 よく言えば演劇的、でも下手をすると、その語り口のまずさが苦笑をさそってしまいそう。ま、医療メロドラマとでも言ったらいいでしょうか。キャストでは、がん発症のために理恵にあとを託すクリニック院長を演じる浅丘ルリ子が迫力十分。また、55歳で顕微授精による双子を妊娠、理恵と深い関係を持つ女性役の風吹ジュンが、それなりの貫禄を見せる。医療の詳細については、よくわからないけれども、もう少しプロットを練りあげて、生命の誕生に対する尊厳を謳いあげた作品にならなかったかと、残念な気がします。


コメントを投稿