フィリップ・ファラルドー監督・脚本のカナダ映画「ぼくたちのムッシュ・ラザール」(7月14日公開)は、学校教育の問題を通して、さまざまなテーマを提供する話題作です。女優としても活躍するエヴリン・ド・ラ・シュヌリエールの戯曲を原作としていて、彼女自身も映画の中で主役の少女アリスの母親を演じている。カナダのアカデミー賞といわれるジニー賞では、作品賞はじめ主要6部門を独占。今年開催された米アカデミー賞では、外国語映画賞にノミネート。2011年のカナダ映画を代表する作品になっています。
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物語の舞台は、モントリオールの小学校。ある冬の朝、教室で担任の女教師が首を吊って死んでいる。生徒たちはショックを受け、学校は生徒たちの心のケアと、後任探しの対応に追われる。そんな中、アルジェリア移民の中年男性バシール・ラザール(フェラグ)が代用教員として採用される。朴訥で、少々野暮ったいラザール先生は、授業内容も古臭い。だが、いつも真剣に向き合ってくれる彼に、生徒たちは次第に心を開き始める。このラザールにも、祖国で心に傷を負った経験があり、彼自身、政治難民の申請中だった。
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まず主要なテーマは、生と死に直面する生徒たちの問題です。女教師の死が自分のせいではないかと動揺するシモン少年(エミリアン・ネロン)。彼と同時に先生の死を目撃しながらも、後任のラザールを信頼し、新しい環境を受け入れようとする少女アリス(ソフィー・ネリッセ)。彼ら生徒たちのキャラがフレッシュで、それぞれが抱える悩みが生き生きと浮きぼりにされます。そして、ラザールが象徴する難民問題。ラザールは祖国アルジェリアで先進的な教師だった妻と娘たちをテロで失い、ケベック州で難民申請中の身。彼は教員の資格も持っておらず、ましてや永住権すら無いことが最後に公になってしまう。
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いわば本作は、難民先生の目を通して、教育や学校内の矛盾、文化の落差をクローズアップしていきます。先生の死を生徒の目から逸らし、極力刺激を与えないで穏便に済まそうとする学校側。対してアリスやラザール先生は、子供たちが愛する人の死を乗り越えなければならないことを自覚している。そこから起こる学校側との確執。カナダでは、毎年100以上もの国から平均44,500人の移民を受け入れ、合計すると約70万人の移民が住んでいるというが、彼らの価値観が新しい血を導入している、ということなのでしょうか。
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ファラルドー監督は、教室や校庭での子供たちの生態を淡々とみつめ、ラザール先生の飄々とした態度が現実と対峙していく過程を、ほんわかととらえていきます。そんなカナダの小学生の物怖じしない、真実と向き合う態度を見ていると、日本の生徒たちよりも遙かに大人に思えてくる。ムッシュ・ラザールを好演するフェラグは、自身アルジェリア生まれ。フランスとカナダを旅しながら舞台活動に参加。のちチュニジアに移住するが、1995年、舞台出演中に劇場の女子トイレで爆発が起こり、危険を感じてパリに亡命。コメディアン、演出家、作家として活躍、映画にも多数出演しているという。 (★★★★)
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