わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

チョウ・ユンファが春秋時代の思想家に「孔子の教え」

2011-11-15 18:02:54 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

14「義を見てせざるは、勇なきなり」「己の欲せざるところ、人に施すなかれ」「朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」……。はるか2,500年前、春秋時代の中国に生を受けた孔子は、有名な言行録「論語」を後世に残した思想家であり儒家であった。常に挫折を繰り返しながらも、時代の流れに抗おうとする人間・孔子像をとらえた作品が、中国映画「孔子の教え」(11月12日公開)です。紀元前6~5世紀に生きた孔子を演じるのは、なんと香港&ハリウッドで活躍するチョウ・ユンファ。中国語圏映画界を支えるスタッフとキャストが、緻密で流麗な語り口と映像で創造した異色の孔子伝です。
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 なによりも面白いのは、謹厳な思想家・孔子の言行を生々しく、人間臭く描いている点にある。生国・魯(ろ)の国政や因習の改善に挑み、国相代理にまで出世した孔子が、権力者の謀略によって孤立し、妻子を置いて放浪の旅に出るくだり。衛の国では、君主の妻・南子(ジョウ・シュン)に誘惑されたりする。その後、各国を回るが、疎まれ蔑まれて、蔡の山奥の廃村でひっそりと暮らす。孔子のあとを追ってきた弟子たちが、教えの書かれた木簡を積んだ馬車を事故で凍った湖の中に沈めてしまうくだり。孔子の名言とともに、その紆余曲折や絶望感の深まりがとらえられ、なおかつ特撮を用いた戦争スペクタクル・シーンもあったりして、良い意味でのヘンな映画になっています。
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 演出を手がけたのは、チャン・イーモウ、チェン・カイコーらとともに中国映画の第5世代と呼ばれる女性監督フー・メイ。はじめは60回シリーズのTVドラマとして脚本を仕上げたが、なにせ孔子は毛沢東による文化大革命時代に批判された存在でもある。あれこれと議論を巻き起こすのは必至なので、2時間余の映画にしたという。アイデアが浮かんで5年、脚本執筆開始から完成まで3年、撮影期間90日、製作費2,300万ドルという大作になった。アクション・スターのイメージが強いチョウ・ユンファも、大人風に孔子を好演。孔子が魯国を捨てて旅に出る際、師である老子の幻が現れて言う。「要職たれど、公僕なり。長く留まることなかれ」と。どこかの国の政治家にも聞かせたい名言ですね。


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