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デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

プリシラ・パリス、ビリー・ホリデイを歌う

2016-02-21 09:13:29 | Weblog
 フィル・スペクターがプロデュースしたことで当たったグループの一つにパリス・シスターズがいる。美人姉妹ヴォーカル・グループとして売り出すも、鳴かず飛ばずだったが、1961年の「I Love How You Love Me」でブレイクした。ラジオ番組「ザ・パンチ・パンチ・パンチ」の初代パーソナリティ「モコ・ビーバー・オリーブ」が、「わすれたいのに」という邦題でカバーしていたので、そちらの方が有名かも知れない。

 そのシスターズの末っ子プリシラ・パリスがソロで出したのが「Priscilla Loves Billy」だ。雑誌で美女ジャケット特集を組むならトップページに掲載される垂涎物である。発売レーベルは阪神ファン御用達の「Happy Tiger Records」で、ジャケットは質感のあるエンボス紙を使っているため飾りにもなる仕掛けだ。「Just Friends」に始まり「He's Funny That Way」、「I Love You Porgy」、「My Man」・・・と続く。何とビリー・ホリデイ集だ。ところがタイトルをよく見ると「Billie」ではなく「Billy」になっている。このアバウトさゆえ熱心なビリー・ファンに無視されたアルバムだ。

 さて内容は?これでアニタ・オデイのようなドスの利いた声だったら面白いのだが、可愛い顔からは甘い声しか出ない。歌い方はパリスなのにフランス人ではないが、アンニュイという表現が似合う。どの曲も同じようなゆったりとしたテンポで歌っているので金太郎飴状態だが、通して聴いても自然と耳に入る。よほどの失恋でもしない限りビリーを13曲続けて聴くのは難しいし、孤独感がひしひしと押し寄せるビリーの「Solitude」を聴いたら涙が出てくるが、パリスを聴くと身体が楽になるし元気も出てくる。癒しのパリスとでも名付けようか。

 私生活では麻薬を常習したり、女優ラナ・クラークソンを射殺したりと問題のあるスペクターだが、音楽プロデューサーとしての才能は素晴らしい。多重録音で重厚な音にするウォール・オブ・サウンドはつとに有名だが、ステレオ録音が主流となってもモノラルにこだわり続けたところにスペクターの音楽に対する哲学や信念がみえる。未だにモノラル盤しか聴かないジャズファンは数多い。
コメント (6)
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