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デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

1833年、アラバマに星が落ちた

2017-11-19 09:29:07 | Weblog
 記録によると1833年の11月12日から11月13日にかけてとあるから184年前の今頃になる。「この世の終わりだ」とか「世界が火事だ」と大騒ぎになった獅子座流星群の大出現だ。外が昼間のように明るいので寝ていた人が目覚めるほどだったという。今でこそ正確な出現日時や観測できる場所を知ることができるが、コンピューターは疎かケック天文台も建設されていない時代だから驚くのも無理はない。

 アラバマ州でも観測されたこの現象を作家のカール・カーマーが「The Night the Stars Fell」というタイトルで民話集に綴っている。このタイトルからヒントを得て「ハワイアン・アイ」や「サンセット77」、「パームスプリングの週末」等、テレビや映画音楽を手掛けていたフランク・パーキンスが「Stars Fell On Alabama」のタイトルでメロディーを書いた。詞は「Stardust」や「Sophisticated Lady」、「Moonlight Serenade」で有名なミッチェル・パリッシュが付けている。流れ星から恋が生まれるというロマンティックなものだ。雨のように星が降るなかで愛は語れそうにないが、そこは歌の世界である。

 数ある名演からキャノンボールを聴いてみよう。59年にマイルス・バンドがシカゴでライブを行った時、親分の目を盗んで録音したものだ。コルトレーンにケリー、チェンバース、コブ、最高のメンツである。シーンは変わろうとしていた時代だ。それぞれに将来を模索していた頃だけに所謂マイルスの呪縛から逃れて思いっきりプレイした傑作といっていい。この曲はキャノンボールのワンホーンで、ゆったりとしたテンポでめくるめくフレーズを重ねる。音色と曲調がピッタリだ。ケリーのソロは前半盛り上がりを欠くがキャノンボールにつなぐタイミングでケリー節を出す。うまいなぁ、やるねぇ、と思わずため息がもれる。

 1833年の日本というと天保4年で、江戸幕府の将軍は徳川家斉である。歌川広重がゴッホにも影響を与えたと言われる「東海道五十三次絵」を描いたのはこの年だ。広重の「名所江戸百景」の一つに「両国の花火」がある。当時の花火は今と違い多色ではないので浮世絵のように橋を浮かび上がらせるほど明るくなかったそうだが、もし広重が流星群を見たならどんな絵にしただろうか。

Trump Swing , Como Swings

2017-11-12 09:00:00 | Weblog
 「空飛ぶホワイトハウス」とも呼ばれる「エアフォース・ワン」に、どうやって日本に運んだのだろうと頭をひねる大統領専用ヘリコプター「マリーン・ワン」、装甲車並みの防御力を誇り、価格は1台17億円ともいわれる専用自動車「ビースト」こと「キャデラック・ワン」、そしてアリ一匹入れない屈強なシークレット・サービス、大統領が訪日するだけで一体どれだけの経費がかかるのだろうと要らぬ心配をしてしまう。

 日米首脳会談はゴルフで幕を開けた。ゴルフは若い頃かじった程度のド素人だが、トランプ大統領のスウィングをみるとなかなかに力強い。そしてペリー・コモのように自信にあふれているし楽しそうだ。コモはシナトラと並ぶエンターテイナーだが、ジャズヴォーカル・ファンの間で名前が挙がることはない。ポピュラー畑であることと、シナトラと異なり浮いた話もなければ裏社会とのつながりもないからだろうか。何せマフィアとの関係を嫌い、カジノでの公演を拒否したクリーンなシンガーである。少しばかりスキャンダラスな方がジャズファンの好奇心を掻き立てるのかもしれない。

 Como Swings・・・ジャケットとタイトルだけでニンマリするアルバムである。ポピュラーシンガーがジャズ寄りのアルバムを作ろうとしていたなら「やられた」と叫ぶタイトルだ。編曲と指揮はコモの相棒のミッチェル・エアーズで、スウィング溢れる編曲をバックに気持ちよさそうに歌っている。「St. Louis Blues」をトップに「I've Got You Under My Skin」、「Route 66」、「Mood Indigo」、「Begin The Beguine」・・・軽くフェイクするだけの本格的なジャズヴォーカルではないが、メロディーと歌詞の美しさを強調するならこの方がいい。RCAの「Living Stereo」は、この当時のステレオ録音としては群を抜いているのでコンサートホールで聴くような臨場感に包まれる。

  「シンゾー・ドナルド」の親密な関係をアピールして日本を後にしたトランプ大統領だが、北朝鮮の脅威を逆手にとってアメリカ製のミサイル防衛システムの売り込みに余念がなかったという。対日貿易赤字を抱えるアメリカにとっては大きな赤字解消につながる。不動産王だけあり国家間でも商売はうまい。2~3基で日本全土を防衛できるとされる「イージス・アショア」は、1基800億円するそうだ。訪日の経費を被せた金額なのだろうか。

ニュージャージー州パターソン市出身バッキー・ピザレリ

2017-11-05 09:25:15 | Weblog
 パターソン・・・映画のタイトルである。米ニュージャージー州のパターソン市に暮らすパターソンさんの1週間を描いた作品だ。日本なら埼玉県川口市に住む川口さん、長野県飯田市の飯田さん、島根県大田市は大田さんだろうか。人のいいご近所さんという印象だ。毎朝決まった時間に起きてバス運転手の仕事に就く。夜は愛犬を散歩させながらバーに寄る。大きな事件や謎もないストーリーだが、ジム・ジャームッシュ監督の語り口に引き込まれた。

 グレートフォールズと呼ばれる滝で知られるパターソンの出身者を調べてみるとアレン・ギンズバーグがいた。ビート世代の詩人である。ラリー・ドビーという黒人としては2人目のMLB選手もいる。1962年にソニー・ロリンズと顔が似ているドン・ニューカムとともに中日ドラゴンズに入団しているのでご存知の方もいるだろう。そして、バッキー・ピザレリ。息子のジョン・ピザレリの方が有名だが、知る人ぞ知る7弦ギターの名手で、ジョージ・バーンズとのギター・デュオやベニー・グッドマン楽団で切れのいいリズムを刻んでいた。近年はウディ・アレン監督の映画「ギター弾きの恋」でリズムギターを担当していたのがバッキーだ。

 多くのアルバムから「Bucky Pizzarelli And New York Swing - Plays Rodgers And Hart」を取り出した。1993年の録音で、ビッグバンドから引っ張りだこのピアニスト、ジョン・バンチに、ジュディ・ガーランドやシナトラのバックに欠かせなかったベーシスト、ジェイ・レオンハート、スザンナ・マッコークルやローズマリー・クルーニーの録音に呼ばれるドラマーのジョー・コクーゾという昔からの仲間と和気あいあいのセッションを繰り広げている。「My Funny Valentine」に「Spring Is Here」、「Thou Swell」、「Fallin' In Love With Love」・・・ロジャース&ハートの佳曲を存分に楽しめる内容で、名コンビの曲作りの見事さに唸ることだろう。

 この映画に赤ちゃんからお年寄りまで多くの双子が出てくる。ウクライナにあるヴェリカヤ・コパンヤ村が双子で有名だが、このパターソン市も多いのだろうか。台詞もなく一瞬映るだけだが、登場する度に頬が緩む。いい作品の基準は主観によるが、映画館を出た後、バーで余韻に浸れるならそれは間違いなくいい映画である。一見代わり映えのしないパターン化した毎日の小さな変化を楽しみたい。

クリント・イーストウッドのピアノは枝垂柳から零れ落ちる涙のようだった

2017-10-29 09:25:37 | Weblog
 日曜日の午後といえば札幌ドームかテレビで野球観戦と決まっているのだが、贔屓のチームは早々とシーズンを終えたので手持ち無沙汰だ。何気なくテレビのチャンネルをひねるとクリント・イーストウッドがピアノを弾いているではないか。小生がジャズを呼ぶのか、ジャズが小生を呼んでいるのか、グッドタイミングだ。慌てて番組表を見る。1993年の映画「ザ・シークレット・サービス」だ。映画館でもテレビでも観たことがない。

 イーストウッドが大統領の警護官を演じているのだが、自宅でCDをかけるとマイルスの「All Blues」が流れたり、レコード棚も見えるので、まるでイーストウッド本人の物語にみえる。弾いているその曲は「Willow Weep for Me」で、枝垂柳から零れ落ちる涙の風情とでもいえばいいか。ピアニストなら一度は録音する曲だが、不思議と主役になれない。パウエルの「Piano Interpretations」、ケリーの「Kelly Blue」、ガーランドの「Groovy」、ブライアントの「Little Susie」、トップ収録とはいえB面だ。フラナガンの12吋盤「Overseas」は申し訳なさそうにラストに収録されている。ジャズアルバム全体を眺めてもアルバムタイトルになっているものはない。

 アル・ヘイグの「Today! 」もB面ラス前で印象は薄いが、じっくり聴くとこれがなかなかに味がある。パーカーやガレスピーと共演歴があるバップピアニストのモダンな一面を捉えた傑作と言っていい。60年代に残した唯一のリーダー作という点でも貴重だ。今でこそ簡単にCDで聴けるが、かつては幻の名盤と騒がれ入手困難な1枚だった。マイナーレーベルの「Del Moral Records」が原盤で、ラベルにミントの葉がデザインされていることから「ミントのヘイグ」と呼ばれているレコードだ。そのラベルもグリーンミントとブラックミントの2種があり、どちらがオリジナルかとコレクターと悩ました経緯もある。

 劇中、上司がイーストウッドに引退をすすめるシーンがある。「ジャズのレコードを買うだけだから年金で生活できるだろう」と。イーストウッドさんなら年金生活でも好きなだけ買えるかもしれないが、庶民はそうはいかない。数万円のオリジナル盤を買うために昼飯を抜いたり、バーゲンセールときけば早朝から並んだり、家が建つほどレコードにつぎ込んだ方もいるはずだ。コレクターにとってジャズレコード係数が高いのは誇りである。

チャールス・マクファーソンは遅れるどころか先を行っていた

2017-10-22 09:28:38 | Weblog
 先週、過小評価されている一人としてチャールス・マクファーソンを挙げた。600稿近くアップしているので、とうの昔に話題にしたと思っていたが、何とまだ一度も名前すら出たことがない。正当な評価を下すのはジャズを愛する者の務めである、と大見得切ったので反省しきりだ。遅れてきたビ・バッパーという三文形容詞を覆す如く、遅れての紹介で魅力をお伝えしよう。

 60年にミンガス・グループに参加したことで名前が知られたマクファーソンだが、あの灰汁の強い稀代のベーシストと共演していたのが不思議なくらい王道を行くアルト奏者だ。このバンドや師匠であるバリー・ハリスと共演してキャリアを積み上げ、プレスティッジから初リーダー作を録音する運びになる。その名も「Bebop Revisited! 」である。このタイトルと、バップの代表曲「Hot House」にファッツ・ナヴァロの「Nostalgia」、パウエルの「Wail」、パーカーの名演で知られる「Embraceable You」というガチガチの選曲、ハリスにカーメル・ジョーンズ、ネルソン・ボイド、アルバート・ヒースという人選、間違いなくビ・バップだ。

 録音された64年に戻って検証しよう。東京オリンピックが開催された年である。ミンガス・グループで共演したエリック・ドルフィーが亡くなっている。マイルスが初来日した。コルトレーンが「至上の愛」、ピーターソンが「We Get Requests」を録音。ニュージャズの動きが活発化する。いわゆる「ジャズの10月革命」だ。銀座に「ジャズ・ギャラリー8」が開店したのもこの年だ。モダンとフリーが混然とするシーンにビ・バップとなれば、仮にリアルタイムで聴いていたとしたら間違いなく違和感を覚えるだろう。もしジャズ喫茶で今月の新譜と紹介されたら、小生だって今頃バップかい?と言ったかもしれない。

 日本と本国の評価の違いは先の稿でも触れたが、本国では人気がありプレスティッジを皮切りにMainstream、XANADU、Timeless、Arabesque、Enja等のレーベルから順調にリリースされている。勿論スタイルは大きく変わらない。「Bebop Revisited! 」から半世紀経った今、フリージャズやフュージョンに走った連中もスタンダード回帰でバップ・ナンバーを取り上げている。マクファーソンは先を行ったビ・バッパーかも知れない。

プリンストン大学教授ベニー・カーターのセミナーを聴いてみよう

2017-10-15 09:37:45 | Weblog
 過小評価されているミュージシャンは数多くいる。例えばウディ・ショウ。ハード・バップからアバンギャルドまで幅広い音楽性を持ちながら、複雑で難解なフレーズのため大きな脚光を浴びることはなかった。パーカーを彷彿させる閃きで知られるチャールス・マクファーソンは、遅れてきたビ・バッパーと揶揄された。アーマッド・ジャマルのようにビッグネイムとの共演がないばかりに知名度が低く、日本でレコードが出なかったケースもある。

 そして、ベニー・カーター。ジョニー・ホッジス、ウィリー・スミスと並びスウィング期の三大アルト奏者と呼ばれながらも日本での評価は芳しいものではない。かなりジャズを聴き込んでいる方でもリーダー作を10枚挙げるのは難しいだろう。ホッジスはエリントン楽団の看板スターで、スミスはハンプトン楽団のスターダストの名ソロでつとに有名だが、カーターの場合、何度か率いた楽団は商業的に失敗で決定的なヒット曲もない。また、高い音楽性から「King」と称されながらも、1940年代半ばに映画音楽の世界に身を移し、ジャズシーンから遠ざかったことも低評価につながったのだろう。

 本国での評価は正当なもので、プリンストン大学で客員教授として数年間に亘り講義を受け持ち、セミナーの一環として演奏会を開いている。以前、ブルーベックのキャンパスコンサートでも触れたがアメリカ人が皆ジャズを聴いているわけではないので、学生にジャズを聴く機会を与えるのは大切なことだ。「All That Jazz」は、クラーク・テリーをはじめケニー・バロン、ルーファス・リード、ケニー・ワシントンと共演したセミナーのライブを記録したもので、ジャズのエッセンス全てが詰まっている。「Hackensack」、「Misty」、「Now's The Time」、「All Of Me」、楽しいのがジャズという選曲もさすがだ。

 録音数が少ないからといって実力がないわけではない。機会に恵まれなかっただけだ。リーダー作がないからといって人気がないわけではない。縁の下の力持ちも必要なのだ。過小評価もあれば過大評価もある。ジャズ誌で大きく取り上げているからといって評価されているわけではない。広告を出す見返りだ。アルバム数が多いからといって人気があるわけではない。CDとジャケットを入れ替えても気づかない金太郎飴だ。本物を聴き分ける耳を養い、正当な評価を下すのはジャズを愛する者の務めである。

Jアラートが鳴ったとき、Lou Takes Off のジャケットが浮かんだ

2017-10-08 09:36:16 | Weblog
 「テポドン」や「ノドン」、「北極星」といった将軍様の玩具ではない。Jアラートが鳴る昨今、何かとニュースで目にするものだから、ついこのジャケットもミサイルに結びつくが、1957年に打ち上げに成功した人工衛星スプートニクである。宇宙開発、即ちミサイル研究のリーダーと信じていたアメリカが、ソ連に先を越された衝撃と危機感から「スプートニク・ショック」という言葉も生まれた程の歴史的快挙だった。

 ルー・ドナルドソンの「Lou Takes Off」は、この人類初の人工衛星からヒントを得たアルバムだ。ルーといえばアーゴ盤や「Alligator Bogaloo」、「Midnight Creeper」のポップス・ヒットで硬派のジャズファンからはB級扱いされている。また、60年代中期のソウル・ジャズへの路線変更後のレコードは一切置かないというジャズ喫茶も珍しくなかった。だが、54年にバードランドでクリフォード・ブラウンと繰り広げた「ハード・バップの幕開け」と呼ばれるパーカー直系の熱いソロは一級品と誰しも認めるところだ。このアルバムはそのスタイルに磨きをかけアルトサックス界を牽引していた57年の作品である。

 ドナルド・バードとカーティス・フラーをフロントに据えたブルーノートお得意の3管編成で、ゴリゴリ感を前面に出した好作品だ。ルーの自作曲「Sputnik」と「Strollin' In」に加え「Dewey Square」と「Groovin' High」というパーカー・ナンバーを入れていることからも「パーカーより他に神はなし」という姿勢がみえる。圧巻は急速調のバップナンバー「Groovin' High」で、お馴染みのテーマから抜け出すルーのソロの美しいことこの上ない。続くバードとフラー、そしてソニー・クラークのソロも何気ない中に閃きがあるし、ジョージ・ジョイナーとアート・テイラーのメリハリあるバックキングも気持ちがいい。

 暗殺を恐れ同じ形の寝室を複数作ったスターリンをはじめ、地下壕で自殺したヒトラー、毒殺された後、古タイヤと一緒に焼かれたポル・ポト、絞首刑になったフセイン、殺害後、生存説を払拭するために遺体が一般公開されたカダフィー大佐、何の影響力も効力のない命令書を書き続けたアントニオ・サラザール、葬列は群衆のブーイングを浴び、棺に唾を吐きかけられたレオポルド2世等々、独裁者の末路はみえている。

情熱の赤が似合う女、アビ・レーン  

2017-10-01 09:00:00 | Weblog
 ジャズ誌でエロティックなジャケットを特集するとき必ず登場するレコードを、ここ数回話題にしてきた。インストばかりだったので、ここらでヴォーカルといこう。シンガーとなると声やテクニックは勿論のこと、容姿も重要視されるだけにジャケットも色気を前面を押し出したものが多い。数枚並べるだけで雑誌をめくりながら今宵はどのプレイメイトと過ごそうか、と妄想逞しくした若いころを思い出す。

 ホット・リップス・ペイジのヒット曲に「The Lady In Bed」というそのものズバリのタイトルがあったが、こちらは「The Lady In Red」だ。まだ国内盤が出ていないころ、レコード店で初めて見たときはアビ・レーンを知らなかったので、艶めかしい写真はモデルで喘ぎ声入りのムードミュージックにみえた。裏ジャケットを見ると背中が大きく開いたドレスを着た彼女が髪をかき上げながらこちらを振り返っている。すれ違いざまに思わず振り返るという最高のシチュエーションだ。「Abbe Lane With Sid Ramin's Orchestra」というクレジットでシンガーと分かったが、それにしても魅力的なグラマーである。

 「Ain't Misbehavin'」に「You're Driving Me Crazy」、「All of Me」、「It's Been a Long, Long Time」とスタンダードが並ぶ。全体にまったりとしたバラードで耳元でささやくような歌唱はこのテンポがいい。なかでもコール・ポーターの「I Get a Kick out of You」はメリハリもありドラマチックな仕上がりだ。歌詞に「cocaine」が出てくる曲として有名だが、ここでは「perfume from Spain」に変えて歌っている。スペインには王室御用達の伝統あるブランドがあるそうだが、なるほどこの女性ならそんな香水より刺激的だ。「Get a Kick out of」は、「快感を得る」という意味だが、この美しい脚で文字道り「Kick」されたいと願うのは小生だけだろうか。

 アビ・レーンはルンバの王様ザビア・クガート夫人だ。正確に言うと5回の結婚歴があるクガートなので、「だった」が正しい。バンド・リーダーがシンガーを口説くのが当たり前の時代だった。美人でグラマー、歌も上手い、テレビにも引っ張りだこという人気者、これだけで十分なのだが、何と語学も堪能でその母国語で歌うそうだ。クガートと演奏旅行で各国回るうち覚えたというから大したものである。才色兼備とはアビ・レーンをいうのだろう。

この1曲を聴くために「The Hard Swing」を買った

2017-09-24 08:30:55 | Weblog
 「Jazz Erotica」に「Moods In Jazz」ときたら次はあれだろう、と予想された方を裏切れないので、「The Hard Swing」を出した。これらの3枚はジャケットで売ろうというレコード会社の魂胆が見え見えではあるが、どこぞのレーベルの薄ぺっらな音の金太郎飴と違って中味もしっかりしている。ただ残念なことにこの類のジャケットは正統派ジャズファンからは好奇の目で見られるため蒐集の対象にならないし、聴かれることも少ない。

 特にこのアルバムは1958年発売当時全て未発表音源とはいえオムニバスなので尚更である。このレコードをお持ちの方に購入動機をアンケート調査したとしよう。50パーセントはジャケ買いだ。次いで「Chet Baker and Crew」からの2曲が収録されていると答えた方が20パーセント。ボビー・ティモンズが参加したセッションだ。次いで10パーセントはジャズ・メッセンジャーズの「Ritual」で、ジャッキー・マクリーンのファンにとっては堪らないテイクである。あとの20パーセントはエルモ・ホープとジャック・シェルドン、ペッパー・アダムスのアルバム化されなかった音源が目当てだろうか。

 タイトル通りハードにスウィングするトラックばかりを集めたもので、アレンジ重視のウエストコーストでは珍しい。この中では比較的地味なジャック・シェルドンを聴いてみよう。お馴染の「It's Only a Paper Moon」だ。シェルドンといえば1960年代に俳優として活躍した人だが、トランぺッターとしてもなかなかのもので一時はチェット・ベイカーのライバル的存在だった。アート・ペッパーのジャズ・ウエスト盤「The Return」でペッパーを鼓舞した溌溂としたプレイを思い出される方もあろう。ここではケニー・ドリュー、リロイ・ヴィネガー、ローレンス・マラブルのリズム隊を背にクリフォード・ブラウンと共演歴があるジョー・マイニと火の出るようなアドリブを展開している。

 パシフィック・ジャズ、及びワールド・パシフィックには「Jazz West Coast Series」と題されたオムニバス・アルバムが10枚以上ある。そのほとんどに未発表曲が入っているので侮れない。今はCDでセッションの全貌を聴くことができるが、レコードは収録時間の制限から素晴らしい演奏でも已む無く没になったテイクが数知れずある。1曲を聴くためにオムニバス盤を買うのは最高の贅沢だった。

貴方が中古レコード店の店主なら「Moods In Jazz」はどのジャンルに置く?

2017-09-17 09:22:55 | Weblog
 先週の続きになるが、中古レコード店の新着コーナーに置かれるのは入荷状況によって差はあるもののせいぜい1週間ぐらいだ。その後はジャンル別の箱に移される。どの箱に置くのかは店主の主観による。大抵のお客さんは好みのジャンルしか見ないので、探しているレコードが違う箱に入っていると頻繁に通っていても探すことができない。逆に全く知らないアルバムに出会うチャンスもある。

 ブルーノートやマイルスなら迷うことはないが、例えばこの「Moods In Jazz」はどうする?タイトルに「Jazz」が付いているのでジャズの箱だろう。否、ジャケットから言えばムードミュージックだ。いやいや、中味度外視のジャケ買いのコーナーだ、と迷う。あくまでも店主がこのレコードを初めて扱ったというケースだ。ディスクの状態は目視で点検したが、店も暇なので試しに聴いてみよう。トップはアップテンポの「Taking A Chance On Love」で、つい音量を上げたくなるほど軽快にスウィングする。心地良いピアノがその流れで2曲続き、エリントンの「Prelude To A Kiss」だ。バラードはきめ細かい。

 ついでにB面も聴いてみる。トップは「You Leave Me Breathless」だ。「ベルリン特急」や「麗しのサブリナ」、「俺たちは天使じゃない」等、多くの映画音楽を手掛けたフレデリック・ホランダーの名品である。曲名を見るだけでミルト・ジャクソンの一気に空間が広がるヴァイヴのイントロからフランク・ウェスのあのむせび泣くテナー、いやフルートが聴こえてきた方もおられるだろう。奇しくもB面頭だ。肝心のバド・ラヴィンといえば甘いバラードということもありカクテルピアノの趣きではあるが、アニタ・オデイやピンキー・ウィンターズの歌伴で鳴らしただけあり良く歌う。さて貴方ならどのジャンルに入れる?

 ある店で美空ひばりの「ひばりジャズを歌う」が歌謡曲のコーナーに入っていた。見開きジャケットのコロムビア・オリジナル盤だ。また、チェット・ベイカーとバド・シャンクのWorld Pacific青ラベル「The James Dean Story」や、「死刑台のエレベーター」のフランス盤が映画音楽の箱に無造作に置かれていたり、クイーンのUKオリジナル盤、「Jazz」がアイク・ケベックとポール・クイニシェットの間に挟まっていたこともある。但し価格はどの箱に入っていようとそれなりである。店主も抜け目がない。