同じ事柄でも感じ方は… |
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まず、これは実社会での話。1998年11月、北米に多くの店舗を構えるスーパーマーケットチェーン“Safeway“が、店員たちから訴えられるという事態が起こりました。この年、Safewayは“上質顧客サービス”なるプログラムを採用し、店員は必ずお客さんとアイ・コンタクトをしてほほ笑むように、そして「ありがとうございます、○○さん」と名前を呼ぶように義務づけられたのです。
結果はどうなったと思いますか? 女性店員に親しげに振る舞われた男性客の中には、このサービスを自分に対する性的な好意と勘違いする者が続出しました。女性店員に性的なコメントをしたり、「セックスをさせろ」というメモ書きを握らせたり、挙げ句の果てには店員を襲ったりストーカー行為をはたらくような人まででてきました。
男性は、女性の友好的な振る舞いを、自分に対する性的な関心と勘違いしやすいという例です。このケースでは女性店員が状況に応じて親しげな振る舞いを控えるという選択が許されていなかったため、男性客による勘違いがエスカレートするのを止めるすべが無かったのです。
男女での性的な意図の読み違いを実験で検証
こうした男女での性的な意図の読み違いを、実験的にも検証した研究結果がいくつかあります。そのうちの一つをご紹介します。
女子学生が男性教授の研究室を訪れて、期末レポートの提出期限を延ばしてもらえないか相談しているという場面をビデオに納めます。双方とも友好的に振る舞ってはいますが、誘惑的であったり性的であるような態度は見せません。実はこの「学生」も「教授」も研究者の用意した役者なのです。
こうしてできたビデオを男女の学生に評定させます。男性の評定者も女性の評定者も、このビデオを見て「女子学生がフレンドリーに振る舞っている」と解釈するのですが、女性の評定者はビデオの女子学生がセクシーに振る舞っているとか、誘惑的に振る舞っているとは理解しない。
同じシーンも男性が見ると…
しかし、男性の評定者が同じビデオを見たときには、女子学生がセクシーに振る舞っている、あるいは誘惑的に振る舞っていると評価しやすいという結果が出ています。
社会や文化によって差があるかを調べた研究結果もあります。例えば、米国の学生とブラジルの学生との差を見た結果があります。パーティーで男女が出会って、男性が自分の部屋に来るように女性を誘おうとするというストーリーを、評定者の学生に読ませます。同じストーリーに対して、アメリカの学生よりもブラジルの学生のほうが、「登場人物は性的な意図を持っている」と考えやすいのですが、どちらの国でも「男性評定者の方が女性評定者よりも性的な意図を感じ取りやすい」という傾向が見られました。
ただし、ブラジル人学生評定者における男性と女性の感じ方の違いは、アメリカ人学生で見られたほど大きなものではありませんでした。
以上のように程度の差はありますが、概して男性のほうが人のしぐさや振る舞いについて「性的な意図がある、誘惑的である」と解釈しやすい傾向にあるのです。
「自分は魅力的」と考えている男性ほど
女性の関心を過大評価する
「エラーマネージメント・セオリー」(ここでは「誤検出理論」とでも訳しておきます)という、進化心理学者が考えた理論があります。
「誤検出」=「誤って認識する」場合に、過大評価(オーバーエスティメイト)、過小評価(アンダーエスティメイト)の両方があります。
過大評価したほうがいいのか、過小評価したほうがいいのか、どちらに転んだほうがその人にとって得かを考えることによって、認識の誤りの方向性のパターンが予測できるというものです。
女性側にあまり性的な関心がない場合であっても、男性はそれを過大評価(オーバーエスティメイト)して性的活動をしたほうが、男性にとっては有利だと考えられます。
なぜかというと、性行動が起こったときに、女性はもしかしたら妊娠して、子どもができたら育てなければならない可能性がありますが、男性は逃げることが理論上可能だからです。多くの女性を渡り歩くことで、多くの子孫を残すことに成功した男性も実際にいたことでしょう。逆に、女性はそういった男性にひっかかっては大変なので、男性と性的関係を持つことに対し慎重になります。
集団としての男女の違いでいうと、男性のほうが短期的な(カジュアルな)性的関係に対してより許容的。逆に、女性のほうは、カジュアルな性的関係には許容的でない。この性差は、様々な国の調査結果で一貫して見られるものです。
男性は、ほんのちょっとでも可能性があれば(たとえ実際には可能性がなかったとしても「可能性がある」と思い込むことで)、性的な行動を起こし、それによって得をしたこと(子どもを残すこと)が多少でもあったため、女性の性的関心を過大評価するという認知的バイアスができたのではないかと考えられています。
さらに、男性は実際に魅力的かどうかにかかわらず、「自分は魅力的である」と考えている場合のほうが、過大評価(オーバーエスティメイト)を起こしやすいというデータがあります。自分に自信を持っている人、魅力的だと思っている人は過大評価しやすいということです。
女性側は「この男、本気じゃないのでは?」と過小評価
一方、この「エラーマネージメント・セオリー」で、女性について見るとどうなるでしょう。
男女の付き合い始めのころ、女性は相手の男性に対して「この男性は本気じゃないのではないか?」と、男性の自分に対するコミットメントを過小評価するバイアスがある。
それはなぜかというと、先ほども言いましたが、男性のほうが概して女性よりカジュアルな性的関係に対してオープンなので、女性側がだまされる可能性が高いからです。
だから女性の方は、「プレゼントがほしい」などと、男性の本気度を試すような行動をするのではと言われています。
同じ行動でも男女では考えていることが違う
このように、同じ行動についても男女では考えていることが違う場合があるのです。
よく、「女性が男性にくっついて行くということは性的な扱いをされるというリスクを選んでいること。子どもじゃないんだから分かっているはず」と言われることがあります。でも、若い女性はそれほど分かっていない場合が多い。
男性が持っている性的な意図と、女性が感じている性的な意図は違う。女性は普通に生活していたら、そういった意図の違いはわからないものです。
「相手は自分と同じ」と思い込まないこと。「違う」ということを念頭に置いて行動するほうが、円滑に事は運ぶということです。自分の常識を他人に押し付けないことですね。
今回は男女の感じ方の違いについて述べてみましたが、こういった知識は何の役に立つのか? 最も役に立つのは、「自分と人とは違うということ」を認識することなのだと思います。
自分と違うような社会行動する人は「おかしい」とか「犯罪者に違いない」とか思いがち。でも、いろんなパターンの人がいるのだということを理解することが重要なのではないでしょうか。
※BPnet 「セカンドステージ 自分で健康を守る100の知恵」より転載