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中国のカイラス山付近で巡礼の旅をするチベット人の父親と息子。 (Photograph by Lynn Johnson National Geographic) |
チベット高原の標高は4000メートルを超える。このような高地では、ほとんどの人は体の細胞に届く酸素が過度に減少する低酸素症を発症しやすくなり、重篤化すれば肺や脳の炎症を起こして命にかかわる恐れもある。
チベット人の多くは高地で生き延びるために、血中のヘモグロビンの量を抑えるよう独自に変異した2つの遺伝子を持つことが今回の研究で発見された。
この研究を率いた、ユタ州ソルトレークシティにあるユタ大学エクルズ人類遺伝学研究所のテータム・サイモンスン氏は、ヘモグロビンは赤血球の中にある酸素を運ぶ成分であるため、この発見は「直感に反するように感じられるかもしれない」と話す。
「高地に適応していない人が高地に行った場合、酸素の減少を補うためにヘモグロビンの濃度が上がるのが普通だ」。しかし血中のヘモグロビンが増えると、高血圧や慢性高山病のような合併症の原因となることがこれまでにも指摘されており、そのような体への悪影響を避けるために、チベット人の遺伝子は「ヘモグロビンをあまり多く作らないように変異した可能性がある」と同氏は説明する。
これまでの研究で、チベット人は海に近い低地に住む人に比べて酸素不足を補うために1分間の呼吸数が多いことが判明している。加えて、チベット人の血管は太く、体の細胞に酸素を運ぶ効率性に優れている。
サイモンスン氏の研究チームは、チベット人が高地生活に適応できる遺伝的要因を探すために、標高4486メートルに住むチベット人の血液サンプルを集めた。次に、チベット人のDNAの遺伝的変異のパターンを解析し、チベット人と遺伝的に近いとされる低地に住む中国人と日本人の遺伝的変異に関する既存のデータと比較した。
その結果、チベット人には酸素の運搬など高地生活に関連した複数の遺伝的変異が見られたが、低地の中国人と日本人には見られなかった。チベット人のみに見られた変異には、ヘモグロビンの生成を抑えることと深い関わりを持つ2つの遺伝子も含まれていた。
今後は、変異した遺伝子が具体的にどのような働きをするかについて詳細を明らかにする研究が続けられ、その成果は高山病の予防法の開発に役立つかもしれないとサイモンスン氏は期待を深める。