あなたは出勤時間のどれくらい前に会社に到着しますか?「1時間から30分前には出社したい…」と思いつつも、「ギリギリ10分前」という方が多いかもしれません。でも、それだと始業したら仕事に追われてドタバタしませんか?
その一方で、最近の“朝活ブーム”の影響か、定時の2時間以上も前に出社する『早起き社員』が増え始めています。
こうした『早起き社員』 の増加に伴って、出社時間の違う社員同士が職場でぶつかる出来事が起こり始めているそうです。それは一体なぜなのでしょうか。今回は、『早起き社員』に学ぶ早起きの秘訣と『ギリギリ社員』の『早起き社員』との共存方法を考えていきましょう。
やっぱり早起きは3文の得?
集中力高まる早朝の職場
最近は、満員電車に乗るのが嫌で、通勤ラッシュで混雑する時間帯を避けて早朝に出社するビジネスパーソンが増えています。普通の会社では始業が9時頃ですから、通勤時間を考えると7時から8時台は通勤ラッシュで「押すな押すな」の状況です。ところが、時計を2時間ほど早めた5時台の電車だと、座れるほどガラガラ。この時間帯に自宅から通勤すれば、確かにして気分よく仕事を始められることでしょう。
おまけに早朝の職場は静かで、仕事もはかどります。
「ちょっといいですか?」
などと上司や同僚から声をかけられ、集中したいときに仕事を中断されることもありません。だから、どんどん作業がすすみます。私もメールのチェックなどを早朝にすると、普段の倍以上も早くできる気がします。
さらに、朝は頭の回転がいいので、新しいアイディアを考えるにはうってつけと言われています。私自身も職場でニュースチェックしていると、早朝ゆえの有意義なビジネスアイディアが浮かんだりします。
ここまで書き並べれば
「早起きで仕事すればいいことばかり。すぐに実行しよう」
と思うことでしょう(でも、簡単ではありません)。だから、「朝4時に起きて朝時間を仕事に活用…」といったテーマのビジネス書がベストセラーなるのです。それくらい“早起き人間”は、憧れの存在、といえます。
ところが、早起き人間目指して早起きをしようと決意しても、実行できるのはごく僅か。なぜ、なかなか早起きすることができないのでしょうか?
“規則正しく”夜型生活
社会人の早起きが難しいワケ
社会人経験が長くなると、学生時代とは違った「夜型人間」になりがちです。学生時代は朝まで起きていたり、一日中寝ていたりと睡眠時間が不規則です。ところが社会人になると“規則正しく”夜遅くまで起きています。
例えば、遅くまで残業して帰宅しても、大抵の人はすぐに寝ません。少しでも自分の時間がほしくて、本を読んだり、サイトを検索したりします。こうして、寝る時間が削られていきます。
先日、取材した広告業界に勤務する40代の管理職は、
「帰宅してすぐには、仕事モードから抜け出せません。なので、ユーチューブでお手軽な動画を眺めて気分転換してから寝ます。1時間とか、つい2時間とか見てしまいます。起きるときには後悔するんですがやめられませんね」
と答えてくれました。本音では早く寝て早く起きる方が健康に良いし、早朝に自分の時間を持った方がよいと思っているようです。ところが、大抵の人はたまに早起きして出社するも、翌日になるとまた起きられなくなり、「明日から再開」などという言い訳をして続きません。私も社会人になってから何回も早起きを決意しましたが、3日と続いたためしがありません。それくらい早起きは強い意志が無いと続かないのです。
マクロミル社の調査によると、ビジネスパーソンの平均就寝時間は午前0時過ぎ。となると、5時台の電車に乗るには、睡眠時間を4時間くらいで済まさなければなりません。そのため「あと1時間」という眠気との攻防が寝室で繰り広げられるのも無理はありません。
気合だけでは続かない!
早起き人間への近道
さて、実際に早起きを続けているのはどんなタイプの人なのでしょうか?何人かインタビューをした中で共通して出てきたキーワードは、「合理性」でした。
「帰宅したら、明日のためにできるだけ早く寝ます」
「残業は効率が悪いので、極力避けて早朝に仕事します」
誰もが残業をするより、早朝に仕事した方が効率的なことはわかっています。ですから調査すると、「残業は避けて早起き人間になりたい」と半数以上の人が答えます。
では、早起き人間への近道は何でしょうか?「強い意志」と言いたいのですが、意志だけでは続きません。残業を減らし、夜更かしを極力避けなければ体が持ちません。朝の6時から仕事しても、大事な日中の打ち合わせでウトウトするくらいなら、逆効果です。
早起き人間への華麗なる転進を果たした人の成功の秘訣を聞いてみました。
すると、最低限の睡眠時間をキープするために
◆夜の打ち合わせをすべて午前中に変更
◆家族が協力で部屋の電気をすぐ暗くする
◆朝5時にカーテンが開く仕組みにした
などの工夫を計画的に実行していました。つまり、気合で早起きは続かない、ということです。
会議が朝8時開始に…
早起きを他人にまで強要する「早起き社員」
実際、早起き社員に変貌をと遂げた人は、驚くことに仕事の考え方も合理的なものに変わっているようです。彼らは、時間の使い方や情報の整理法などに関するビジネス書などを読んで、自分なりの仕事術をもっていました。
ただし、自分自身に合理性を課すまではいいのですが、他人にまでその価値観を求めてしまうと、対立の元になりかねません。
ある専門商社に勤める35歳の男性は、
「今となっては、深夜まで起きている人の気が知れない」
と言い切っていました。確かに「早起きは三文の得」と言いますが、早起き社員のなかには、残業が多くて、出社が始業ギリギリの社員のことを厳しい目でみている人もいるようです。
早起き社員が職場で数人なら「貴重な存在」で済みますが、2、3割ほどにまで増えてくるとどうでしょうか。ギリギリ社員に対抗できる勢力になります。そしてついには、「早起きが仕事の効率を上げる」とギリギリ社員の仕事スタイルにまで注文を出し始めます。
まず、一番目に出てくる注文は「会議の時間帯」についてです。
「営業会議が長すぎます。夜に開くから議論が拡散して、集中できないのです。時間帯を朝8時からに変えて効率化を図りましょう」
こう提案するだけではありません。さらに、「朝は脳が活性化しているので、会議でアイディアが豊富に出る」などという効用まで説明して押し切ろうとします。この提案に対して、朝が苦手なギリギリ社員は反対意見を出します。
「朝は眠くて議論にならないんじゃないの。それに家が遠い人は大変だから無理だと思います」
この反対意見が数年前までならメジャーだったことでしょう。ところが、最近は不況などの影響から時間管理が厳しくなったこと、“朝活ブーム”などの影響で、部長や課長も会議を早朝に移動することに賛成でした。結果として、営業会議は毎週月曜日の朝8時からとなってしまいました。ギリギリ社員にはつらい決着です。
こうして早起き社員には好都合な職場へと変化し、一方のギリギリ社員は必死に起きて早朝の会議に参加する羽目になりました。ここで些細なことから、イザコザが起きてしまいます。
8時からの会議に向けて、早起き社員は2時間近くも前に出社しているので準備万端で臨みます。一方のギリギリ社員は、やはり出社が8時5分前となり、慌てて会議室に飛び込んでいる状況です。いざ会議が始まり、ギリギリ社員が発言する機会があったのですが、どうも頭は整理ができていません。事前に配布された資料を十分に読んでいなかったのが原因のようです。
この様子を見た早起き社員は、こう注意しました。
「会議が始まる前にしっかり資料は読んでから参加してください」
もっともな意見ながら、ギリギリ社員は「カチン」ときたようです。早起き社員をギリギリ社員が睨んでいます。
それでも気にせずに
「残業を減らすためのノー残業デーを定めましょう」
と早起き社員が提案してきました。ノー残業デーは多くの企業が労働時間を減らすために取り組む施策です。会議ですんなりと了承されました。こうして会議ごとに残業が多い、ギリギリ社員は肩身が狭い状況に追いこまれていきました。
全員が早起き社員にはならない!
ギリギリ社員は仕事に少しの余裕を
「発言はもっともだけど、何故か納得できない。何故だろう?」
自分が世の中の流れで古い考え方になってきているのは納得しつつも、同じような気持ちの同僚がたくさんいました。こうしたギリギリ社員たちは、仕事帰りに居酒屋で早起き社員の悪口をネタに飲む機会が増えました。
ただ、そんな徒党を組んだ同僚も
「健康のために早く起きて、1駅前で降りて歩くことにした」
などと徐々に早起き社員になって、離脱していく人が増えていきました。残るギリギリ社員たちは、不安なはずです。
とはいうものの、やがて、会社の社員がすべて早起き社員になってしまうのでしょうか?
それはありえないでしょう。現在、夜型の人で朝型にしたいと考えている人は7割近いですが、実行できている人はその2割もいないのですから。
ギリギリ社員が無理して朝5時に起きる必要はありません。お互いの論点になっているのは、「仕事前に準備する余裕をもつこと」の必要性です。要するに、会議の30分前に来て資料を読んでおけばいいのです。多少は帰宅してリラックスする時間だって必要です。それが無くなったら精神的にまいってしまうかもしれません。
ギリギリ社員は無理をせず、いらいらせずに、自分のペースと最低限のルールだけ守って早起き社員と共存していきたいものです。
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