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光の道構想

2010-05-18 22:24:58 | 日記

孫正義社長の「光の道」論、5時間にわたり炸裂、Ustreamなどで生中継



「国費ゼロで実現可能か」佐々木俊尚氏と討論




 対して、すでに日本のブロードバンドインフラは世界トップレベルにあり、これからはどうすれば国民がうまく利活用していけるのかを考えることの方が優先だと、「光の道構想」のピンぼけぶりを指摘するジャーナリストの佐々木俊尚氏。ブロードバンドインフラが重要であることに異論はないとしながらも、光100%を整備・維持することなど「本当に国費ゼロで可能なのか?」と疑問を投げかける。


 意見の対立する2人が13日夜、ソフトバンク本社内にある「USTREAMスタジオ 汐留」で対談し、その模様がUstreamなどで生中継された。


 今回の対談は、ニュースサイト「CNET Japan」に佐々木氏が執筆中のブログにおいて、「ソフトバンクの『光の道』論に全面反論する」というコラムを掲載したことがきっかけ。これを読んだ孫社長がTwitterで「佐々木さん、日本の将来の為何を成すべきか一度語り合いましょうか」とつぶやくと、佐々木氏も「オープンな場所でお願いします。」と返答。これに、「ケツダンポトフ」でおなじみのそらの氏が、Ustreamで生中継したいと申し入れ、対談の“ダダ漏れ”が実現した。


 夜8時にスタートした対談は、「納得がいくまで2人で討論」するという方針のもと、日付をまたいだ14日午前1時まで続いた。中継はUstreamのほか、ニコニコ生放送でも配信。合わせて10万人以上が視聴した。


インフラではなく、これから注力すべきは「プラットフォーム」と佐々木氏


 佐々木氏は、原口大臣の言う「光の道構想」の大きな懸念点として、ブロードバンドインフラが普及すれば、電子医療や電子政府などの利活用が進むのだという短絡的な誤解を含んでいることを挙げる。すでに日本は、光アクセス回線の人口カバー率で90%まで達している一方で、実際に加入している世帯は30%にとどまる。利用できる環境にありながら利用しない層は、月額料金が安くなったからといって利用するようになるとは考えにくい。


 政府が2003年に「IT基本戦略II」として掲げたビジョンには、電子医療や電子政府の実現が含まれていたが、この数年間まったく進んでいない状況だ。佐々木氏によると、こうした生活に密着したサービスが本当に国民にとって使えるものになるには、インフラとサービスの間にある「プラットフォーム」こそが重要だが、日本ではその「真ん中」が抜け落ちているという。


 佐々木氏の言うプラットフォームとは、音楽配信でいえば「iTunes Store」のようなもの、電子書籍ならば「iBookstore」や「Kindle」ということになる。


 こうしたコンテンツ分野なら、海外発のプラットフォームが日本で普及することもあるが、例えば電子医療や電子政府といった規制の厳しい分野ではそうはいかない。プラットフォーム部分が進展しないまま、いつまで経ってもサービスが普及しないことになる。佐々木氏は、このプラットフォーム部分にかけられているさまざまな規制を見直し、早急に市場を開放していくことが優先であり、政府はプラットフォームにこそリソースをつぎ込むべきだと主張する。


 これに対する孫社長の回答は明快で、「インフラ、プラットフォーム、コンテンツ、どれも重要」というものだった。



「光100%でなければ利活用が進まない分野もある」と孫社長


 「光の道構想」についての反論ポイントの1つに、インフラの種類を光の固定回線だけに決めうちしていることへの疑問がある。すなわち、インターネットの利用スタイルはモバイルなどが加速し変化している中で、固定回線を全世帯に整備するのは、時代にそぐわないのではないかということだ。また、固定回線でもWiMAXやLTEという無線による方法もあるのだ。


 これについて孫社長は、今後、通信用の無線周波数帯域が拡張されても、激増するトラフィックは収容しきれないとして、光回線であることの必要性を訴える。


 そして、光100%になれば「光(の広帯域)を前提にしたサービスへのパラダイムシフトで、利活用をレベルアップできる」という。従来は速度の遅い方の回線に合わせてサービスやコンテンツを設計せざるを得なかったが、光100%であれば、教育や医療などの分野のアプリケーションが「少なくとも今よりもレベルアップできる」。例えば、クラウド上に豊富な動画などを保存し、小・中学生に無償配布するタブレット端末から参照できるようにする「電子教科書」構想などを示し、広帯域であるべき必要性を訴えた。


 コンテンツがリッチ化し、トラフィックが増加することを前提とする孫社長の考えに対して、「インターネットが必ずしもリッチな方向に行く必要はない」とするのが佐々木氏だ。インターネットは基本的にテキスト文化であり、TwitterやSNSのようなソーシャルメディアが活用できることが大きな魅力になっているとし、「人と人がちゃんとつながること、その間をちゃんと情報が流れること、どうやったら面白い本に出会えるのか、面白い人に出会えるのかという作り込み」が必要と反論する。


 佐々木氏は、現在のデジタルデバイド問題は、PCなどの機器が使えないことや、ブロードバンド回線が提供されていないことの格差ではなく、人と人とがつながるというインターネットの最大の特徴を使い切れていない層がいるという「ソーシャルデバイド」であるとも指摘。それを解決するには、「アクセス回線が太いことはそんなに重要ではない」とも。


 インターネットがリッチに向かうべきか否かという点については、2人の合意点は見出せなかったようだ。



田舎にこそ光化が必要? 孫社長の「国費ゼロ」推計値、今後の徹底議論を


 孫社長は、5年間で一気に効率よく光への置き換えを進めれば、整備費用は2.5兆円で済むという数字を示している。また、メタル回線の維持費が年間3900億円、10年間では3.9兆円かかるのに対して、光100%にすれば2.9兆円で済むと算出しているが、これらの数字の根拠が明らかにされていないなどという指摘もある。実際、山村や離島まで含めるとなれば非効率的ではないのだろうか? 採算の合わない膨大なコストがかかることが予想され、結局、国費を投入せざるを得なくなりそうなことは容易に想像できる。


 この点について孫社長は、メタル回線は信号が減衰する関係上、長距離敷設が不可能であり、途中にRT局を設置する必要があるが、光であればその距離が伸び、RT局の設置コストも省けると説明する。また、現在のメタルケーブルの総延長47.8万キロメートルのうち、60%以上がすでに敷設から20年以上を経過しているとの推計データも紹介。架空メタルケーブルでは距離が長いほど故障件数が増え、年数が経つほど故障比率も増加するとのデータも示し、「田舎ほど赤字“ダダ漏れ”状態なのがメタルケーブル。3人しか住んでいないような村こそ、1日も早く光にしないと維持できない」と反論した。


 このほか、根拠が不明と指摘された光の整備費用や維持費用についても、NTTが公表している2008年度の接続会計報告書のデータをもとにソフトバンクが算出した内訳を、「今日、UstreamやTwitterを見ているみなさんに全面公開する」として説明。現在、メタルと光の二重構造になっているネットワークを光だけにすることで、NTT東西のアクセス事業の営業損益が年間2578億円の赤字から3449億円の黒字に改善するといった推計値も提示。2.5兆円という整備費用についても、アクセス事業の6年分のフリーキャッシュフローで返済できるとし、国費を投入することなく、銀行や民間からの資金調達が可能とした。










光100%化整備費2.5兆円の内訳 光100%化前・後のアクセス回線維持費の内訳









メタル回線の経過年比率と故障状況 光100%化前・後のアクセス回線事業の収支比較

 佐々木氏は、これらの数字について、実務ベースで妥当なものかどうか徹底的に検証する必要があるとの前提条件付きで、「本当に国費ゼロで実現するなら、孫社長の光の道論に何の反論もない」とコメントした。


 孫社長も、「公開した資料は、今日、すべての国民に対して公開する。その数字をベースに、NTTの人も含め、多くの国民が検算してもらえればいい。重大な計算違いをしていれば謙虚に聞く。しかし、NTTの公開した接続会計をベースに、この業界に何年も生きているソフトバンクの専門家が算出した数字であり、そう大きくは外れていないはず」とし、「僕が間違いを認めるのは、光の道に国費が1円でも必要になった時。その時は頭を剃るとこともいとわない」と約束した。


 対談の中盤以降は、ほぼ孫社長が饒舌に語り続けるペースで進行。特にワインが入った後は、「光の道構想」に限らず、現在のさまざまな政策決定プロセスの問題点を批判するなど天下国家論となり、特に2人の対立点もなく、互いに「おっしゃるとおり」「同意します」とのコメントが多くなった。


 「光の道構想」の政策についても、限られた有識者だけで密室で決定するのではなく、孫社長の示した数字の妥当性も含め、堂々とオープンな場で議論していく必要性を両者で確認。孫社長が「じゃあ、とりあえず乾杯しましょうよ」と述べ、討論を締めくくった。


総務省が800MHz帯をくれたら、iPhoneのSIMロック解除に応じる?


 その後、ニコニコ生放送の中継担当者から、視聴者を代表して孫社長に質問。国民のために「光の道構想」を推進すべきと訴える一方で、iPhoneやiPadにSIMロックをかけていることは「国民の利便性の観点から疑問」との声があったとして、コメントを求めた。


 孫社長は、「天下国家を語る一方でSIMロックするなんて偽善者。おまえが坂本龍馬を語るな」といったツイートがあることも認識しているとした上で、「龍馬が幕府と戦っている途中で、龍馬は、外国から仕入れた兵器を幕府に渡したりしましたか? 僕がいま戦っているNTTドコモは、僕から見れば、長い間既得権益を得ていた幕府なんですよ」とのたとえ話で回答。


 電波の到達効率のいい800MHz帯を総務省から割り当てられていないソフトバンクモバイルは、NTTドコモに比べて不利な競争を強いられているため、その短所を補う“兵器”を、競争相手にみすみす渡すわけにはいかないと説明。「まだ戦いの途中だということを認識してほしい」と訴え、SIMロック解除は、今後、800MHzが同社に割り当てられるなどして、NTTドコモと平等な条件で競争できる環境になってからの話だとした。



なお、対談の中継中には視聴者に対してニコ生アンケートが実施されたが、どちらの議論を支持するかとの設問では、孫社長が52.1%、佐々木氏が12.3%、どちらでもないが35.6%だった。中継の動画はアーカイブさており、現在でも視聴可能だ。