団塊太郎の徒然草

つれづれなるままに日ぐらし

幼児虐待に積極応用したいオキシトシン効果

2010-05-05 20:01:13 | 日記



団藤保晴


新聞記者、ネット・ジャーナリスト。


幼児虐待に積極応用したいオキシトシン効果




 「47Nes」がオキシトシンという「ホルモンで自閉症改善 金沢大が臨床例発表」と伝えました。このホルモン、5年前にも人を信頼させる物質として出たりと時折、浮かび上がってきます。20年ほど前、科学面「心のデザイン」シリーズで最も早い時期にオキシトシンを紹介した者として、この際まとめておこうと思います。

 金沢大の発表は「3歳から自閉症とされてきた20代男性で、会話ができず、人と交流ができずにいた。両親が2008年、スイスからオキシトシンの点鼻薬を輸入し服用すると、男性は診察で担当医の目を見て笑い『はい』『いいえ』と答えるようになり、担当医が驚いた」というものです。「重度の知能障害がある自閉症患者が長期間服用し、改善が確認されたのは初めて」

 オキシトシンは女性が赤ちゃんに乳首を吸ってもらうなどすると脳からリリースされます。男性の血液中にも存在するのですが、自閉症患者には少ないとも言われていました。「心のデザイン・脳内物質」のシリーズでは「母性行動」についてこう書いています。

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 処女ネズミのそばに、生まれたばかりの赤ちゃんネズミを置いて、1週間近くいっしょにすると、母性本能に目覚め、体を丸め赤ちゃんを抱きかかえるようになります。この不思議な行動の秘密は、1979年に米国で解き明かされました。脳の視床下部で造られているホルモン、オキシトシンを処女ネズミの脳に注入してやると、46%のネズミが2時間以内に完全に「母親化」し、あらかじめ女性ホルモンで発情させておけば、その割合は85%にも増えました。「オキシトシン」は出産のための子宮収縮や射乳の作用があるホルモンで、脳内では母性行動をとらせる作用もしていたのです。

 オキシトシンには構造がよく似たバソプレシンという兄弟分があります。こちらは血圧上昇などの作用をします。このふたつのホルモンは、下等な動物の「バソトシン」というホルモンから、ほ乳類に進化する際に分化したと見られています。バソトシンも鳥類などで輸卵管の収縮などの作用をします。

 興味深いことに、バソプレシンは記憶を良くする、物覚えがよくなる働きをするのに対して、オキシトシンは記憶を作ることを阻むのです。さらに、オキシトシンは一度できた記憶を思い出させる作用が強いらしいことも分かってきました。わき目もふらずに子育てに専念し、子のためには少々の危険や困難も厭わない母親の愛情。その裏側を示唆していると思われませんか。そして、母乳で育てることが母性を強化していることも。

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 「科学に佇む心と身体」の「オキシトシン:これが愛情と信頼のホルモン」が「人を信用させる物質オキシトシンを鼻にスプレーしたら効いた」との記事紹介から始めて、【オキシトシンで「かわいい」!】【オキシトシンで愛の対象を記憶に刷り込む】【警戒しないこと、信頼すること、愛すること】など関連分野別に書籍も取り上げてくれています。

 「赤ちゃんにオッパイをあげているときに、親が赤ちゃん怖いとか、吸われてキモイとか感じてくれてはまずいわけで、親の赤ちゃんに対する警戒心はグッと下がってもらわないと困る。『たまらない』ほど、愛おしんでもらわないと赤ちゃんは生きられず人類滅びてしまう。ゆえに、オキシトシンはせっせとヒトの母性本能を刺激する」

 近年、新聞の社会面を賑わせている事件に多数の幼児虐待があります。自分が幼児期に母親から虐待された女性が、我が子の虐待行為に走る例もかなりあります。心理学的な解説もあるのですが、オキシトシンをつくる能力が低い遺伝的な基盤があるのではないかと疑っています。金沢大の点鼻薬は母乳分泌促進用だったようですが、幼児虐待傾向にある母親にも積極的に投与することを検討してよいのではないでしょうか。名目は母乳用でも構いません。母乳で育てて自分の脳内でオキシトシンをつくだすように指導するだけでは間に合わないほど、虐待事件は頻発しているようです。母の日(5月9日)を前に考えたところです。



重度の知能障害がある自閉症患者が、ホルモン「オキシトシン」を使用すると、症状が改善

2010-05-05 19:47:44 | 日記
ホルモンで自閉症改善 金沢大教授らが発表




オキシトシン点鼻薬について説明する東田教授(右)と棟居特任准教授=金大十全講堂会議室
 重度の知能障害がある自閉症患者が、愛情や信頼の気持ちを生み出すといわれるホルモン「オキシトシン」を使用すると、症状が改善したとの臨床結果を、金大などの研究グループが23日、発表した。オキシトシンは知能が高い自閉症患者への効果は確認されていたが、同大によると、重度の知能障害がある患者の改善例は世界で初めて。

 金大子どものこころの発達研究センター長の東田陽博教授と同センターの棟居(むねすえ)俊夫特任准教授らの研究グループが、浜松医科大や大阪大などとの共同研究結果として発表した。長期使用で効果の継続が確認されたのも初めてだという。オランダの科学誌ニューロサイエンスリサーチ5月号に掲載される。

 臨床結果によると、3歳時に自閉症と診断され、棟居特任准教授が診療してきた重度の知能障害がある20代男性の両親が、2008(平成20)年6月から患者にオキシトシン点鼻薬の使用を開始。症状が改善したことを棟居特任准教授が確認した。

 会話ができなかった男性は、使用から1、2カ月後には「よく眠れたか」の問いに「うん」と答えることができるようになり、以前は他人と視線を合わせなかったが、じっと顔を見て笑うようになったという。

 その後も男性の両親は薬の使用を続け、棟居特任准教授は効果が15カ月維持されていることを確認した。

 東田教授は、オキシトシンの分泌には「CD38」というタンパク質の遺伝子が関与していることを明らかにしている。この遺伝子が変異しているとオキシトシンの血中濃度は低くなる。東田教授によると自閉症患者の約1%はCD38が変異しており、男性も血中のオキシトシンの濃度が低かった。

 オキシトシン点鼻薬に自閉症の症状を改善する効果があることは、アスペルガー症候群など知能が高いケースですでに報告されている。オキシトシン点鼻薬は自閉症の治療薬として日本の薬事法で認められておらず、海外から輸入して個人的に使用するしかない。

 東田教授は「自閉症患者がこれまでできなかったコミュニケーションを取れるようになったのは大きな進歩」と話し、棟居特任准教授は「研究が進めば、さらに幅広く自閉症治療に活用できる可能性がある」と期待した。