とはいえ、大手マスコミが新卒定期採用の見送りに踏み切るのは、異例中の異例のこと。その深層と真相をめぐり、社内外で様々なさまざまな臆測が飛び交っている。
時事通信は電子メディアなどとの競争激化で収益がジリ貧状態に陥り、09年3月期まで9期連続の営業赤字が続いている(09年3月期の単体営業赤字は44億3400万円)。関係者によると10年3月期も10期連続の営業赤字へと沈んだもよう。
そのうえ社内の試算では11年3月期、12年3月期も「営業赤字が不可避」とされており、いまや「業績浮上のメドすら立たない」(事情通)情勢となっている。
■新卒採用だけは死守してきたが…
憂慮すべきは「虎の子」ともいえる唯一の資産=電通株が、急速に底を突きつつあることだろう。営業赤字の穴を埋めるため毎年のように切り売りを重ねてきた結果、08年には持ち株比率が12.4%から10.8%へと落ち込んで筆頭株主から転げ落ち、いまでは持ち株比率7.0%の第3位株主に甘んじるありさま(09年9月時点)。
このままのペースで電通株の含み益を食い潰していけば、「数年のうちにゲームオーバー」(同)と予測する向きも少なくない。
こうしたなか展開されてきたのが、希望退職を柱としたリストラだ。40歳以上の社員を対象に08年から募集を開始、09年にも約30人の社員がこれに応じたとされている。さらにはタクシーチケットや取材費のカット、オフィススペースの縮小による賃借料の削減など、徹底した経費の切り詰めにも取り組んできた。
だが、そんな苦境にあってもかたくななまでに死守してきたのが、新卒定期採用だった。報道機関としての活力とネットワークを維持し、社内の士気を保つには「新陳代謝をつねに繰り返していく必要がある」(関係者)からだ。実際、09年春には56人の新卒を採用、今年春にも35人を入社させている。それなのになぜ、ここにきて凍結に踏み切るのか。
その最大の理由として中堅社員らの間で囁かれているのが、再編への布石では――との観測だ。
■経営統合前に新卒採用は必要なし
事情通らによると、時事に対しては昨年後半あたりから読売新聞グループがしきりと経営統合の秋波を送ってきているという。とりわけ年明け以降は、中田正博社長ら時事経営陣と読売首脳陣が頻繁に接触を繰り返しているとされ、一部では「秒読み」観測も取りざたされるほど。
要するに「統合に伴ってどうせ余剰となる人員の整理を余儀なくされるなら、何もいまわざわざ新入社員を採る必要はないとみて採用停止を決断したのではないか」(時事中堅社員)というわけだ。
時事の前身は戦前の国策会社「同盟通信」にさかのぼる。それが戦後の45年に自主解散して電通と、一般報道部門を継承した共同通信社、そして経済報道を引き継いだ時事に3分割されたというのが誕生の経緯だ。それだけに時事の経済分野に対する取材力にはかねて定評があり、相対的に経済部の強くない読売にとって「その取材基盤やデータベースは魅力的」(業界筋)だ。
といって未曾有の広告市場の収縮に直面するいまの読売にとって、時事の人員を丸ごと抱えられるゆとりなどあろうはずもなく、仮に統合するとするなら、事前に少しでも負担を減らしておきたいというのが本音だろう。こうした両者の思惑が絡み合ったうえでの採用凍結か。
時事にとどまらず、マスコミ大手各社は軒並み業績悪化に見舞われ、再編のうわさが絶えない。ただいずれも表面化することはなく、現時点では水面下の動きにとどまっているのが実情。
はたして今回の時事の新卒採用凍結がマスコミ大再編への序章を暗示しているのか。その「解」が示されるのは、そう遠いことではない、との見方が有力だ。
(フリーライター:高橋正俊 =東洋経済HRオンライン)