どうしてあんなことをしてしまったんだろう…。
直行はあの時と同じに心臓がどきどきしてくるのを覚えた。
清水の提案でタロット占いを担当する時は魔女に扮することになっていたが、黒服は用意したものの直行は光り物を持っていなかったので、それらしく見せるために亮からチェーンを借りた。
西沢の講演中でほとんどの客や学生は大講義室へ集まってしまっていたので、直行の待つ部室にはめったに訪問客が来なかった。
これなら自分も見に行けばよかったな…などと思いながら首のチェーンに手をやり、普段あまり飾りを身につけない直行は重いチェーンが気になってはずした。
その高価な金のチェーンは亮が知り合いに貰ったものだと言っていた。
五月病に罹っていた頃とは打って変わって、亮はこの頃楽しげで亮の体調を心配していた直行の方がずっと落ち込んでいる。
こんなのプレゼントしてくれるような相手がいるんじゃ楽しいはずだよな…。
そう思うとやたら腹が立ってきた。
亮に対してというよりは…自分の置かれた状況に対して…。
言い訳みたいだが…決してそうしたいと思ったわけじゃない。
だけど気がついたらチェーンを壊そうとしていた。
慌ててもとに戻そうとしたけど上手くいかなかった…。
無理にいじれば余計に壊れそうで…そのまま返してしまった。
亮は気付いていなかったみたいだけど…。
謝ればいいことなんだけど…なんて説明したらいいのか…。
無意識に…なんて信じて貰えないだろうし…。
「あれ…まだひとり…? 」
講義を受け終えた亮がいつもと変わりない様子で部室に入ってきた。
首にチェーンが…。
「そのチェーン…? 」
直行は思わず訊いた。亮の首には違うチェーンがかかっていた。
「ああ…あれさぁ…どこかで引っ掛けたらしくって打ち上げの後で切れちゃったんだよね…。
くれた人に見せたら修理できるから大丈夫だって…これ代わりに貰ったんだ。」
何も気付いていないかのように亮は言った。
「僕が…どこかで引っ掛けたのかな…? ごめんな…。 」
内心どきどきしながら直行はしらばくれて謝った。
「謝ることないよ…。 僕が引っ掛けたのかも知れないしさ…。 」
そう言って亮は笑った。
「ごめんな…。 」
直行はもう一度繰り返した。
まだ4時をまわったばかりだというのに外はまるで夜のよう…。
霧のように漂う小糠雨に傘を差しても役には立たない。
亮は店頭の照明をいつもより早めにつけて夕方からの客に備えた。
店内を回って客がいい加減な場所に置いた本を元の場所へ戻し、文房具や雑貨コーナーの商品の乱れを直し、不足商品と在庫を調べた。
ふと誰かが覗いたような気がして、自動ドアの外に目を向けると黒いコートを着た女の人が店から離れていくところだった。
新刊案内のコーナーでも覗いていたのかな…と思いながら亮は仕事を続けた。
ドアが静かに開いて先ほどとは違う女性…少しぽっちゃり系の可愛い女の子が入ってきた。
女の子は入り口付近においてある若い女性向けのファッション雑誌を手に取るとあれこれ棚の中を見ながらこちらに向かって近付いてきた。
「あら…? 」
女の子は亮の顔を見てにっこりと笑った。
なんだろう…? 亮は思わず頬に手をやった。何かついているのか…?と思った。
「ここでバイトしてたんだぁ…? 」
えっ? 誰…? 亮は記憶の糸を辿った。
「あ~! きみ…あの時の…? 」
痴漢…と言いかけて口を押さえた。
そんなこと言ったら他の客に誤解されそうだ。
「ほんとありがとう。 あいつ…しつこくて…困ってたの。
でも…あれ以来近付いて来ない。 」
女の子は可愛い顔いっぱいに笑みを浮かべ嬉しそうに言った。
亮はどう答えていいか分からなくてただ頷いた。
「わたし千春…。 またね。 」
千春は小さく手を振りながらレジの方へ歩いていった。
レジの音がして…ありがとうございました…という店長の声が聞こえた。
西沢に頼まれた買い物を済ませて、いつものように何気なく玄関の扉を開けた瞬間…はっきりそれと分かる嬌声が聞こえて亮は思わず立ち止まった。
黒いヒールの靴がきちんと揃えて脱がれてあった。
慌てて部屋を出ようとした亮の耳に西沢の声が聞こえた。
「亮くん? 上がってきて…構わないから…。 」
そう言われても…亮は玄関で身動きが取れなくなった。
しばらく動けないでいると西沢が顔を覗かせた。
「どうしたの? そんなところで…立ち往生? 」
西沢は笑った。
仕方なく亮は居間の方へ向かった。
寝室を避けたつもりだったが、肩をはだけたブラウスから覗く黒のキャミソールがなんとも艶かしいお姉さまは予想に反して居間にいた。
乱れたままの姿が妙に生々しくて亮はどぎまぎした。
お姉さまは亮を見ると艶然と微笑んだ。
「シャワー浴びてくるから…ちょっと待ってて…。 輝(ひかり)行くぞ…。」
西沢が手を伸ばすとお姉さまはぶら下がるようにして起き上がった。
待っててね~というようにお姉さまは亮に手を振った。
ふたりがバスルームに引っ込んでしまうと亮はふうっと息をついた。
とんでもない時に来ちゃったな…。
そう呟きながら預かっていたお金の釣銭をテーブルの上に置いた。
がっかりしたような哀しいような複雑な気持ちになった。
いつの間にか亮の中には理想の西沢像が出来上がっていて、それはまるでアニメのスーパーヒーローのごとく聖人のような存在に祀り上げられていた。
ところが現実の西沢はそれほど清浄無垢な人ではないようだ…。
でも当然と言えば…当然だよね…。
まあ普通…あのように美しいお姉さまがOKサインを出してくれたなら…知らん顔して聖人ぶっているわけにはいかないやね。
西沢さんもやっぱり男だってことなんだ…。
そう自分に言い聞かせはしたが…なかなか納得できなかった。
バスルームから出て来た西沢が、亮の何処となく不機嫌そうな顔を見て笑った。
「幻滅しちゃった…? でも…仕方ないでしょ…生身なんだから…。
僕は他人が作り上げたイメージのままでは生きていかれないし、そのイメージに合わせるつもりもないよ。 」
思ったよりこどもなんだ…と西沢は感じた。
「作り物じゃないんだから食事もすれば…女も抱く…別に不思議じゃないだろ?
きみと同じだよ…。 」
僕はまだ…と言いかけて止めた。こどもに思われるのも悔しいから…。
お姉さまが打って変わってしゃきっとして戻ってきた。
「御免ね。 変なとこ見せちゃって…気分悪かったでしょ?。
亮くんのチェーンの修理ができたんで届けに来ただけなんだけど…。
ついね…。 」
あ…そういうお仕事なんだ…このお姉さま。
「紫苑…夕食…なんか作ろうか? 亮くんお腹減ってるだろうし…。」
輝お姉さまはにっこり笑いながら亮の顔を見た。
亮は思わず赤くなった。
「いいよ…僕がやるから…輝…その間に例のこと亮くんに話してあげてよ。 」
紫苑はおいてあった買い物袋を持ってキッチンに行きテーブルに中身を空けた。
例のこと…? 何だろう…? 亮は不安げに輝を見た。
「私の名前は島田輝…。 あなたの友だちの島田直行とはそう遠くない親戚よ。
勿論…宮原夕紀とも同族。 あのふたりが許婚同士だってことは知ってるわね?」
亮は驚いて言葉も出さずにただ頷いた。
直行の…親戚…。そんな偶然があるんだ…。
「私たちの一族はみんながみんな能力者というわけじゃないの。
しかも…昔はお互いに行き来があったから何処何処の誰々は神憑りだなんて言ったものだけど、今ではそれさえ言われなくなってほとんどの家では自分たちがそういう家系だってことを忘れているわ。
どちらかと言うとそういう子が家に居るということを秘密にさえしているの。
夕紀の家は主流に近いからそうでもないけど、直行の家はそういう力を信じてもいないわね。
直行はまあまあの力の持ち主だけれど家族にも言えないでいる。
だからどちらかというと夕紀の家の方が直行にとっては気が楽なのよ。
ところがその夕紀がなんだか妙な組織に関わるようになって、直行をその組織に引き込もうとしているみたいなの。
直行としては逆に夕紀を取り戻そうと必死なわけだけど、夕紀は聞く耳を持たないし、少しでも能力を使えば力の程度がばれてすぐにでも組織に引き込まれることが分かっているし、親には相談できないし…でまったく動きがとれずにいるわけ。
あなたにそのことを言いたいんだけど…下手に話してあなたまで巻き添えを食わせるわけにはいかないと我慢してるわ。 」
直行が…そんなことを…。
我慢しているのは自分の方だと思っていた…力のことを誰にも話せなくて…。
話してしまえばよかったんだろうか…。
「僕は…直行に力を貸すべきなんだろうか…?
直行が困っているなら…一緒に夕紀を取り戻すべきなんだろうか…? 」
亮は呟くように言った。
「逆よ…。 力を使えばあなたも狙われる。 紫苑の努力の意味がなくなるわ。
あなたには…どちらかと言うと直行が動き出すのを止めて欲しいの。
島田も宮原も直行が動くことを望んでいないの。
恋人を想う直行の気持ちは分からないでもないけれど…これ以上若手を洗脳されては困るの。
どの一族も同意見よ。 たとえ…兄弟姉妹であっても洗脳された者の言葉に耳を貸さないようにと通達が回ってるわ。 」
直行を止める…難しいかもな…夕紀に惚れ込んでるから…。
亮は溜息をついた。
キッチンからはいい匂いが漂ってくる。
西沢は結構料理が得意だ…。
現実と非現実の中を行き来しているような人…。
ひとりで悩む直行のことを考えれば相談できる相手がひとりでも傍に居たことを感謝せざるを得ない。
止められるか止められないかは分からないけれど…できるだけのことはしてみようと亮は思った…。
次回へ
直行はあの時と同じに心臓がどきどきしてくるのを覚えた。
清水の提案でタロット占いを担当する時は魔女に扮することになっていたが、黒服は用意したものの直行は光り物を持っていなかったので、それらしく見せるために亮からチェーンを借りた。
西沢の講演中でほとんどの客や学生は大講義室へ集まってしまっていたので、直行の待つ部室にはめったに訪問客が来なかった。
これなら自分も見に行けばよかったな…などと思いながら首のチェーンに手をやり、普段あまり飾りを身につけない直行は重いチェーンが気になってはずした。
その高価な金のチェーンは亮が知り合いに貰ったものだと言っていた。
五月病に罹っていた頃とは打って変わって、亮はこの頃楽しげで亮の体調を心配していた直行の方がずっと落ち込んでいる。
こんなのプレゼントしてくれるような相手がいるんじゃ楽しいはずだよな…。
そう思うとやたら腹が立ってきた。
亮に対してというよりは…自分の置かれた状況に対して…。
言い訳みたいだが…決してそうしたいと思ったわけじゃない。
だけど気がついたらチェーンを壊そうとしていた。
慌ててもとに戻そうとしたけど上手くいかなかった…。
無理にいじれば余計に壊れそうで…そのまま返してしまった。
亮は気付いていなかったみたいだけど…。
謝ればいいことなんだけど…なんて説明したらいいのか…。
無意識に…なんて信じて貰えないだろうし…。
「あれ…まだひとり…? 」
講義を受け終えた亮がいつもと変わりない様子で部室に入ってきた。
首にチェーンが…。
「そのチェーン…? 」
直行は思わず訊いた。亮の首には違うチェーンがかかっていた。
「ああ…あれさぁ…どこかで引っ掛けたらしくって打ち上げの後で切れちゃったんだよね…。
くれた人に見せたら修理できるから大丈夫だって…これ代わりに貰ったんだ。」
何も気付いていないかのように亮は言った。
「僕が…どこかで引っ掛けたのかな…? ごめんな…。 」
内心どきどきしながら直行はしらばくれて謝った。
「謝ることないよ…。 僕が引っ掛けたのかも知れないしさ…。 」
そう言って亮は笑った。
「ごめんな…。 」
直行はもう一度繰り返した。
まだ4時をまわったばかりだというのに外はまるで夜のよう…。
霧のように漂う小糠雨に傘を差しても役には立たない。
亮は店頭の照明をいつもより早めにつけて夕方からの客に備えた。
店内を回って客がいい加減な場所に置いた本を元の場所へ戻し、文房具や雑貨コーナーの商品の乱れを直し、不足商品と在庫を調べた。
ふと誰かが覗いたような気がして、自動ドアの外に目を向けると黒いコートを着た女の人が店から離れていくところだった。
新刊案内のコーナーでも覗いていたのかな…と思いながら亮は仕事を続けた。
ドアが静かに開いて先ほどとは違う女性…少しぽっちゃり系の可愛い女の子が入ってきた。
女の子は入り口付近においてある若い女性向けのファッション雑誌を手に取るとあれこれ棚の中を見ながらこちらに向かって近付いてきた。
「あら…? 」
女の子は亮の顔を見てにっこりと笑った。
なんだろう…? 亮は思わず頬に手をやった。何かついているのか…?と思った。
「ここでバイトしてたんだぁ…? 」
えっ? 誰…? 亮は記憶の糸を辿った。
「あ~! きみ…あの時の…? 」
痴漢…と言いかけて口を押さえた。
そんなこと言ったら他の客に誤解されそうだ。
「ほんとありがとう。 あいつ…しつこくて…困ってたの。
でも…あれ以来近付いて来ない。 」
女の子は可愛い顔いっぱいに笑みを浮かべ嬉しそうに言った。
亮はどう答えていいか分からなくてただ頷いた。
「わたし千春…。 またね。 」
千春は小さく手を振りながらレジの方へ歩いていった。
レジの音がして…ありがとうございました…という店長の声が聞こえた。
西沢に頼まれた買い物を済ませて、いつものように何気なく玄関の扉を開けた瞬間…はっきりそれと分かる嬌声が聞こえて亮は思わず立ち止まった。
黒いヒールの靴がきちんと揃えて脱がれてあった。
慌てて部屋を出ようとした亮の耳に西沢の声が聞こえた。
「亮くん? 上がってきて…構わないから…。 」
そう言われても…亮は玄関で身動きが取れなくなった。
しばらく動けないでいると西沢が顔を覗かせた。
「どうしたの? そんなところで…立ち往生? 」
西沢は笑った。
仕方なく亮は居間の方へ向かった。
寝室を避けたつもりだったが、肩をはだけたブラウスから覗く黒のキャミソールがなんとも艶かしいお姉さまは予想に反して居間にいた。
乱れたままの姿が妙に生々しくて亮はどぎまぎした。
お姉さまは亮を見ると艶然と微笑んだ。
「シャワー浴びてくるから…ちょっと待ってて…。 輝(ひかり)行くぞ…。」
西沢が手を伸ばすとお姉さまはぶら下がるようにして起き上がった。
待っててね~というようにお姉さまは亮に手を振った。
ふたりがバスルームに引っ込んでしまうと亮はふうっと息をついた。
とんでもない時に来ちゃったな…。
そう呟きながら預かっていたお金の釣銭をテーブルの上に置いた。
がっかりしたような哀しいような複雑な気持ちになった。
いつの間にか亮の中には理想の西沢像が出来上がっていて、それはまるでアニメのスーパーヒーローのごとく聖人のような存在に祀り上げられていた。
ところが現実の西沢はそれほど清浄無垢な人ではないようだ…。
でも当然と言えば…当然だよね…。
まあ普通…あのように美しいお姉さまがOKサインを出してくれたなら…知らん顔して聖人ぶっているわけにはいかないやね。
西沢さんもやっぱり男だってことなんだ…。
そう自分に言い聞かせはしたが…なかなか納得できなかった。
バスルームから出て来た西沢が、亮の何処となく不機嫌そうな顔を見て笑った。
「幻滅しちゃった…? でも…仕方ないでしょ…生身なんだから…。
僕は他人が作り上げたイメージのままでは生きていかれないし、そのイメージに合わせるつもりもないよ。 」
思ったよりこどもなんだ…と西沢は感じた。
「作り物じゃないんだから食事もすれば…女も抱く…別に不思議じゃないだろ?
きみと同じだよ…。 」
僕はまだ…と言いかけて止めた。こどもに思われるのも悔しいから…。
お姉さまが打って変わってしゃきっとして戻ってきた。
「御免ね。 変なとこ見せちゃって…気分悪かったでしょ?。
亮くんのチェーンの修理ができたんで届けに来ただけなんだけど…。
ついね…。 」
あ…そういうお仕事なんだ…このお姉さま。
「紫苑…夕食…なんか作ろうか? 亮くんお腹減ってるだろうし…。」
輝お姉さまはにっこり笑いながら亮の顔を見た。
亮は思わず赤くなった。
「いいよ…僕がやるから…輝…その間に例のこと亮くんに話してあげてよ。 」
紫苑はおいてあった買い物袋を持ってキッチンに行きテーブルに中身を空けた。
例のこと…? 何だろう…? 亮は不安げに輝を見た。
「私の名前は島田輝…。 あなたの友だちの島田直行とはそう遠くない親戚よ。
勿論…宮原夕紀とも同族。 あのふたりが許婚同士だってことは知ってるわね?」
亮は驚いて言葉も出さずにただ頷いた。
直行の…親戚…。そんな偶然があるんだ…。
「私たちの一族はみんながみんな能力者というわけじゃないの。
しかも…昔はお互いに行き来があったから何処何処の誰々は神憑りだなんて言ったものだけど、今ではそれさえ言われなくなってほとんどの家では自分たちがそういう家系だってことを忘れているわ。
どちらかと言うとそういう子が家に居るということを秘密にさえしているの。
夕紀の家は主流に近いからそうでもないけど、直行の家はそういう力を信じてもいないわね。
直行はまあまあの力の持ち主だけれど家族にも言えないでいる。
だからどちらかというと夕紀の家の方が直行にとっては気が楽なのよ。
ところがその夕紀がなんだか妙な組織に関わるようになって、直行をその組織に引き込もうとしているみたいなの。
直行としては逆に夕紀を取り戻そうと必死なわけだけど、夕紀は聞く耳を持たないし、少しでも能力を使えば力の程度がばれてすぐにでも組織に引き込まれることが分かっているし、親には相談できないし…でまったく動きがとれずにいるわけ。
あなたにそのことを言いたいんだけど…下手に話してあなたまで巻き添えを食わせるわけにはいかないと我慢してるわ。 」
直行が…そんなことを…。
我慢しているのは自分の方だと思っていた…力のことを誰にも話せなくて…。
話してしまえばよかったんだろうか…。
「僕は…直行に力を貸すべきなんだろうか…?
直行が困っているなら…一緒に夕紀を取り戻すべきなんだろうか…? 」
亮は呟くように言った。
「逆よ…。 力を使えばあなたも狙われる。 紫苑の努力の意味がなくなるわ。
あなたには…どちらかと言うと直行が動き出すのを止めて欲しいの。
島田も宮原も直行が動くことを望んでいないの。
恋人を想う直行の気持ちは分からないでもないけれど…これ以上若手を洗脳されては困るの。
どの一族も同意見よ。 たとえ…兄弟姉妹であっても洗脳された者の言葉に耳を貸さないようにと通達が回ってるわ。 」
直行を止める…難しいかもな…夕紀に惚れ込んでるから…。
亮は溜息をついた。
キッチンからはいい匂いが漂ってくる。
西沢は結構料理が得意だ…。
現実と非現実の中を行き来しているような人…。
ひとりで悩む直行のことを考えれば相談できる相手がひとりでも傍に居たことを感謝せざるを得ない。
止められるか止められないかは分からないけれど…できるだけのことはしてみようと亮は思った…。
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