明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 

笑顔  


森鴎外の『寒山拾得』は『寒山詩集』の序に書かれているほとんどそのままの内容である。 私は“詩”と付く物はすべからく苦手で、特例としては陶芸家の河井寛次郎と画家の村山槐多だけある。歌詞でさえ、憶えているのは幼い頃の童謡くらいである。頭に入って来ないから歌の内容で感動することはほとんどない。人の顔や、文字を認識できないという病気があるそうだが、ひょっとしてあれに近いのではないか、と思うくらいである。カラオケではモニターに歌詞がでてくるからいいようなものの、そうでなければ幼稚園児のレパートリーしか歌えないところであった。 届いたのが『座右版 寒山拾得 』(久須本文雄著)。平易な訳文が並記してあり、適当なページを開いては毎回これを読む、という読み方が良さそうである。まさに座右版。読むと場面が浮ぶ。 頭の弱い、イカレたコンビと思われていだが、ポロッと洩らす言葉が深い。まさにバカボンのパパである。三島由紀夫は大の「 もーれつア太郎」ファンであった。 そういえば近所に寒山拾得なみの笑顔の持ち主がいる。笑うと「カナカナカナ」と聴こえるのだが、私の分析によると、あれは笑い声ではなく、乾燥してくるみ大に萎縮した脳が、丁度マラカスのように頭蓋骨の中で鳴っているのだと思う。勿論、寒山拾得のような深いセリフは一度も聞いたことがない。この人物に何十回も聞かされたセリフがある。「みんな言わないだけで男はみんなオナゴが好きなの!」。『貝の穴に河童の居る事』を制作中のこと。河童の三郎が娘の白いふくらはぎに見惚れる話に、鎮守の杜の翁が「ちと聞き苦しゅう覚えるぞ。」そこで三郎はいう。「口へ出して言わぬばかり、人間も、赤沼の三郎もかわりはないでしゅ。」河童と同じこといってる、と感心したことはある。

HP

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