長く作っていたジャズ/ブルースシリーズの最後の個展から、作家シリーズには一年で転向した。やれることはやれる時にやっておくべきだ、と父の病気を機に考えた。その時は幸い父は退院してきたが以後個展を続けた。最後となったジャズ/ブルースの個展と最初の作家シリーズの個展は、よく二年の間にこれだけ制作できたな、と未だに思う。個展のタイトルを、乱歩が好んで色紙に書いた『夜の夢こそまこと』を使いたく、乱歩のご令息平井隆太郎先生に使用の許可をいただいた。 作家シリーズで最初に作ったのが澁澤龍彦で、次が乱歩か谷崎のどちらかだったと思う。それまで頑丈な体格の黒人ばかり作っていたので、華奢な澁澤は、なんど胴回りを削り、脚を切断したことであろう。本人にお会いした方に見せると、もっと華奢だ、華奢だといわれたものである。 当時はパソコンに触ったこともなく、当然合成は一切使っていない。妖精のように植物の陰に潜ませたり、オウム貝に乗せて空を飛ばせたりしたかったことと、最初の日本人で、しかも作家。少々おっかなびっくり作っていたので、今見ると30センチないほどの大きさで、他の作家と並べて展示するにもバランスが悪く、展示する機会は少なかった。持ち運びは当然楽で、後に澁澤邸の書斎で撮影できたのは良い想い出である。 パイプの煙を描き足し、拙著の表紙を飾った。背後のクラナッハのヌードを模した物は、クラナッハの画を再現してみたら、メチャクチャな造形になり、一方向からしか撮影できない物になったが、これがきっかけで、一方向から撮影するための造形を試みるようになった。これは全方向的な造形では生み出せない撮影効果がでる。 作家シリーズ第一作の澁澤は、そんな訳で想い出深い作品ではあったが、展示するつもりもなく、展示する機会があるなら作りなおそうと思っていたが、拙著を見てくれた方が是非に、ということで嫁いでいくことがきまった。
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