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H16年刑法第2問

2004年07月20日 | ③H16年司法試験論文試験再現答案集
【問題】
 甲は,Aとの間で,自己の所有する自己名義の土地を1000万円でAに売却する旨の契約を締結し,Aから代金全額を受け取った。ところが,甲は,Aに対する所有権移転登記手続前に,Bからその土地を1100万円で買い受けたい旨の申入れを受けたことから気が変わり,Bに売却してBに対する所有権移転登記手続をすることとし,Bとの間で,Aに対する売却の事実を告げずに申入れどおりの売買契約を締結し,Bから代金全額を受け取った。しかし,甲A間の売買の事実を知ったBは,甲に対し,所有権移転登記手続前に,甲との売買契約の解除を申し入れ,甲は,これに応じて,Bに対し,受け取った1100万円を返還した。その後,甲は,C銀行から,その土地に抵当権を設定して200万円の融資を受け,その旨の登記手続をし,さらに,これまでの上記事情を知る乙との間で,その土地を800万円で乙に売却する旨の契約を締結し,乙に対する所有権移転登記手続をした。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ。

(出題趣旨)
 本問は,土地の二重売買,その後の抵当権設定及び更なる売却に関わる事例を素材として,売主及び情を知って買い受けた者の罪責を問うものである。ここでは,横領罪,詐欺罪等の成立要件の理解,横領後の横領に関する的確な考察が重視されるとともに,事例を法的に分析して論理的に首尾一貫した論述を行うことが求められる。


【実際に私が書いた答案】(再現率80~90%)評価A(7287人中2000番以内)

1 甲の罪責
(1)Bに本問土地を売却した行為
ア かかる行為は,横領(252条)にあたらないか。

イ 本罪の構成要件は①委託信任関係に基づく占有②他人の物を③横領したことである。

ウ(ア)まず,本件土地は,Aに売却し,代金の支払もあるので,所有権は,Aに移転しており,②他人の物といえる。
 次に,甲とAは売買契約を結んでおり,甲は委託信任関係により,法律上の占有たる登記を有しているといえ,①を満たす。

(イ)では,③横領したといえるか。
横領行為とは,不法領得の意思を発現する行為,すなわち,委託信任関係をやぶり他人の物を自己の物としてふるまうことである。
 他人の物を売却することは,委託信任関係を破ったといえる。
 しかし,自己の物としてふるまったといえるには,売買契約をするだけでは足りず,登記を移転し,Aの所有権を奪って初めていえる。
 よって,登記を未だ移転していない以上,③横領したといえない。

(ウ)よって,横領罪は成立せず,未遂罪がない以上,不可罰である。

エ また,甲は,BにAに対する売却の事実を告げず,かかる売却を行っていることから,代金100万円に対する詐欺罪(246条1項)がしないかが問題となる。
 しかし,Bは登記をAより先に得る予定であり,確実に本件土地の所有権を得ていたのであるから(民法177条),そもそも欺罔行為にあたらない。
 よって,詐欺罪は成立しない。

オ 以上,かかる行為には,犯罪は成立しない。

(2)C銀行に本件土地の抵当権を設定した行為
ア かかる行為は,横領罪(252条)を構成しないか。

イ(ア)まず,本問土地は,Aへの売却によりAの物であり,②他人の物にあたる。
 次に,甲A間の売買契約により,甲はAとの委託信任関係により本件土地を占有しているといえる(①にあたる)。
 また,本件土地に抵当権を設定し,その旨の登記をすることは,委託信任関係を破り,他人の物を自己の物としてふるまったといえ,③横領したといえる。

(イ)以上により,横領罪(252条)が成立する。

ウ また,かかる行為は,融資金2000万円に対する詐欺罪(246条1項)を構成しないか問題となる。
 しかし,CはAより先に登記を得ており,Aに対抗しうるのであるから,財産上の損害もなく,また,そもそも欺罔行為にもあたらない。

エ 以上,かかる行為は,横領罪にあたる。

(3) 乙に本問土地を売却した行為
ア かかる行為は,先に売却している土地を乙に売却し,Aより先に登記を移転しているので,横領罪(252条)にあたる。

イ この点,かかる行為は,C銀行に対する横領罪の不可罰的事後行為にあたるようにも思える。
 しかし,抵当権を設定しても,甲は,なお,Aに所有権を移転登記をしなければならず,乙に対する所有権移転まで,先の横領行為で評価しつくされていないといえる。
 よって,別個に横領罪が成立する。

(4)以上,甲には,2つの横領罪(252条)が成立し,併合罪(45条)になる。

2 乙の罪責
(1)乙は,事情を知って,本件土地を甲から買ったが,これは,横領罪の共同正犯(252条,60条)にあたらないか。

(2)まず,乙は,情を知っており,背信的悪意者なので,違法性を有する。

(3)また,横領罪は身分犯であるが,65条により,共同正犯が成立する。
 65条1項は,真正身分犯の成否の規定であり,共同正犯の場合も含むからである。

以上


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