弁護士NOBIのぶろぐ

マチ弁が暇なときに,情報提供等行います。(兵庫県川西市の弁護士井上伸のブログです。)

H16年民事訴訟法第2問

2004年07月20日 | ③H16年司法試験論文試験再現答案集
【問題】
 Xは,Yに対し,200万円の貸金債権(甲債権)を有するとして,貸金返還請求訴訟を提起したところ,Yは,Xに対する300万円の売掛金債権(乙債権)を自働債権とする訴訟上の相殺を主張した。
 この事例に関する次の1から3までの各場合について,裁判所がどのような判決をすべきかを述べ,その判決が確定したときの既判力について論ぜよ。
 1  裁判所は,甲債権及び乙債権のいずれもが存在し,かつ,相殺適状にあることについて心証を得た。
 2  Xは,「訴え提起前に乙債権を全額弁済した。」と主張した。裁判所は,甲債権が存在すること及び乙債権が存在したがその全額について弁済の事実があったことについて心証を得た。
 3  Xは,「甲債権とは別に,Yに対し,300万円の立替金償還債権(丙債権)を有しており,訴え提起前にこれを自働債権として乙債権と対当額で相殺した。」と主張した。裁判所は,甲債権が存在すること並びに乙債権及び丙債権のいずれもが存在し,かつ,相殺の意思表示の当時,相殺適状にあったことについて心証を得た。

(出題趣旨)
 判決及び既判力の意味内容を正しくかつ深く理解しているかを問う問題である。まず,請求認容判決になるか請求棄却判決になるかとの結論を述べ,その判決主文の判断について生じる既判力の根拠,範囲及び内容を論ずべきである。それを前提として,相殺の主張に関する理由中の判断に認められる既判力について,その制度趣旨と前記既判力に関する基本的理解の両面から,その範囲及び内容を論ずべきである。


【実際に私が書いた答案】(再現率80%~90%)評価A(7287人中2000番以内)

1 小問1
(1)どのような判決をなすべきか
 甲債権及び乙債権の両方が存在し,かつ相殺適状にあるのであるから,甲債権は,乙債権による相殺により消滅し,不存在になる。
 よって,裁判所は,Xの請求の全部棄却判決をすることになる。

(2)既判力について
ア 既判力は,原則として,主文に包含されるもの限り及び,理由の判断には及ばないが,相殺の抗弁が提出された場合は,例外的に理由の判断に及ぶ(114条)。
 よって,本問既判力は,以下の理由により,甲債権の不存在と,乙債権の不存在について及ぶ。

イ 既判力が原則として主文にのみ及ぶのは,当事者は,手続保障の下,訴訟物について攻撃防御を尽くし,その結果について受けた判断に自己責任を負うからである。これを理由中の判断にまで及ぶとすると,当事者に対して不意打ちを与えるし,裁判所の判断が硬直化するので妥当でないからである。
 もっとも,相殺の抗弁が出され,これが判断されたのに,かかる判断に既判力が及ばないとすると,反対債権についての後訴において,訴訟物についての争いが蒸し返され,紛争解決が無意味となり,これに拘束力を認める必要性が特に高いからである。
 この点,相殺の抗弁の場合の既判力につき,両債権が存在したこと,及び,それらが相殺により消滅いたことにまで既判力を及ぼすべきとする説がある。
 しかし,かかる説は,理由中の判断のさらにその理由に拘束力を認めるものであり,妥当でない。
両債権の不存在につき拘束力を認めれば十分である。

ウ 以上,甲債権全部の不存在と乙債権200万円の不存在につき既判力が及ぶ。

2 小問2
(1)どのような判決をなすべきか
 甲債権の存在と,その反対債権でについて不存在という心証を得ており,甲債権は,相殺によって消滅せず,存在するのであるから,裁判所は甲債権の全部認容判決をすべきである。

(2)既判力について
ア 既判力は,甲債権の存在と乙債権の不存在について及ぶ。

イ なぜなら,114条2項は,反対債権の「成立」のみならず,「不成立」についても及ぶとしている。
 また,反対債権の後訴において,訴訟物についての紛争が蒸し返されるおそれがあるからである。
さらに,乙債権の存否につき,両当事者は,手続保障の下争っているからである。

ウ よって,甲債権の200万円の存在と,乙債権の全部の不存在について既判力が及ぶ。甲債権が全部存在するということは,乙債権が全部不存在であるからである。

3 小問3
(1)どのような判決をなすべきか,と既判力について
 裁判所は,Xの請求認容判決をなすべきである。
 既判力は,甲債権の全部の存在,乙・丙債権の全部の不存在について及ぶ。

(2)その理由
 相殺の抗弁に対する相殺の再抗弁は原則許されない。
 なぜなら,仮定的なものの上にさらに仮定的なものを重ねることになるからである。
 しかし,本問の場合,訴え提起前に相殺しており仮定的なものといえないので,例外的に再抗弁なしうる。
 また,乙・丙債権につき,手続保障の下争っており許容性もある。
そして,紛争の一回的解決の必要性から,既判力は全部に及ぶ。

以上


最新の画像もっと見る

コメントを投稿