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H16年刑事訴訟法第1問

2004年07月20日 | ③H16年司法試験論文試験再現答案集
【問題】
 警察官は,被疑者甲及び乙について,Aをナイフで脅迫し現金を奪った旨の強盗の被疑事実により逮捕状の発付を得た。
 1  警察官は,甲を逮捕するためその自宅に赴いたが,甲は不在であり,同居している甲の妻から,間もなく甲は帰宅すると聞いた。そこで,警察官は,妻に逮捕状を示した上,甲宅内を捜索し,甲の居室でナイフを発見し,差し押さえた。この捜索差押えは適法か。
 2  警察官は,乙の勤務先において逮捕状を示して乙を逮捕し,その場で,乙が使用していた机の引き出し内部を捜索したところ,覚せい剤が入った小袋を発見した。警察官はこれを押収することができるか。

(出題趣旨)
 逮捕に伴う捜索・差押えについて,逮捕着手前に捜索差押えを行うことの可否と,逮捕の原因となった被疑事実以外の事実に関する証拠の捜索差押えの可否を問うことにより,刑事訴訟法第220条第1項が無令状で捜索差押えを認めている趣旨,その要件,捜索の場所及び差押えの対象物の範囲などについて,基本的知識及び論理的思考力の有無並びに具体的事案に対するあてはめの応用力を試すものである。


【実際に私が書いた答案】(再現率80%~90%)評価A(7287人中2000番以内)

1 小問1
(1)本問において,警察官は捜索差押令状なく,甲宅を捜索・差押をなしえているが,これは,令状主義(憲法35条,法218条,219条)に反し,許されないのが原則である。
 しかし,本問では,警察官は,甲を逮捕するために甲宅に赴き,その際に捜索・差押をなしたのであるから,逮捕に伴う捜索・差押として(220条1項2号・3項),例外的に許されるのではないかが問題となる。

(2)ア 本問では,甲を逮捕するより前に行っていることから,「逮捕する場合」といえるか,また,甲宅の玄関のみならず,居室等甲宅全体に捜索・差押をなしていることから,「逮捕の現場」にあたるかそれぞれ問題となる。

イ まず,「逮捕の場合」といえるか。
 本条が令状によらず捜索・差押を認める根拠は,逮捕の現場においては,証拠が存在する蓋然性が高く,証拠確保の必要性が高いこと,また,逮捕者の身体の安全等の必要性が高いことにある。
 また,すでに逮捕により平穏が害されており,捜索・差押をしても特に新たな平穏が害されないこと,逮捕の令状の審査のとき,実質的に捜索・差押の必要性・相当性という要件もチェックされていることから,許容性があることにある。
 かかる220条1項の根拠にかんがみれば,逮捕の後でなくても,逮捕が近い将来行われるのであれば,その現場に証拠が存在する蓋然性は高く,逮捕者の身体の安全を図る必要性もあるので,「逮捕の場合」といいうる。
 もっとも,無制限にこれを認めることは,人権侵害のおそれもあるので,捜査比例の原則(197条1項)により,必要性・緊急性・相当性があれば許されると解する。
本問では,ナイフを使った強盗被疑事件という重大事件であり,捜索・差押の必要性は極めて高い。また,甲宅には,甲の妻がおり,かかる者は,証拠隠滅しても刑が免除される可能性がある者なので(刑法105条),黄河帰宅するのを待っていると,この者により証を隠滅されるおそれも高く,甲の帰宅前に捜索・差押をする緊急性もある。
 また,甲の妻に令状を示していることや,甲が間もなく帰宅することを確認して行っており,相当性もある。
 よって,本問捜索・差押は「逮捕の場合」にあたる。

ウ また,甲宅全体は,「逮捕の現場」といえるか。
 証拠存在の蓋然性は,甲の管理権の及ぶ範囲にはあるといえるので,甲の管理権の及ぶ甲宅全体も「逮捕の現場」といえる。

(3)以上,本問捜索・差押は,220条1項2号・3項により無令状でも適法である。

2 小問2
(1)まず,乙の机の捜索は,乙の逮捕の現場の直後に行われた場合であり,乙が机から凶器を出す等の危険もあるので,捜索の必要性・緊急性・相当性もあり,逮捕に伴う捜索(220条1項2号,3項)として許される。

(2)もっとも,強制捜査に令状が必要とされる令状主義の趣旨は,令状による事件の明示により,捜査機関の権限濫用を防ぎ,また,被疑者に防御の機会を与えることにある。
とすれば強制捜査においては,事件単位原則が及び,本罪である強盗罪についての捜索により,明らかに別罪の証拠である覚せい剤を押収することは原則許されない。

(3)ア では,かかる覚せい剤を押収する方法はないか。
 適法な捜索により発見された明らかな他罪の証拠を差し押さえることは許されないか。いわゆる緊急捜索・差押の可否が問題となる。
 法律の明文なくかかる無令状の捜索・差押を認めることは,強制処分法定主義(197条1項但書)にも反するし,また,実質的にも,別罪の証拠の偶然の発見を狙って捜索することが増え,令状主義(憲法35条)の精神にも反するので,許されないと解すべきである。

イ 他の方法はないか。まず,乙や乙の会社の同僚による任意提出があれば,領置(221条)しうる。
 また,乙が覚せい剤の所持を認めれば,現行犯逮捕(212条,213条)ができ,またそうでなくても,緊急逮捕(210条)ができ,それに伴い,220条1項2号・3項により差押ができる。

以上


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