ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

初公判は来年1月26日に 福島の病院医療事故

2006年10月13日 | 報道記事

コメント(私見)

県立大野病院事件に関して、福島地裁で第4回公判前整理手続きが行われ、今後の裁判では、「手術中に胎盤の癒着が分かった時点で(手術の)中止義務があったか」が主な争点になるということらしいです。

癒着胎盤かどうか?は胎盤の癒着剥離中に大出血が始まった時点で初めてその疑いを持つことができ、摘出子宮の病理検査によって初めてその診断が可能となります。

実際の臨床の場で、胎盤が剥がれにくいケース(付着胎盤)はいくらでもあります。しかし、真の「癒着胎盤」は1万分娩に1例とも言われている非常にまれな疾患です。胎盤がいくら剥がれにくくても、実際は、ほとんどの場合(99.99%)で胎盤は剥離可能なのです。

 癒着胎盤で母体死亡となった事例

 癒着胎盤について

産科では1リットル程度の出血は正常範囲で、2リットル近い出血も日常茶飯事です。時に、10リットルを越すような大出血が突然始まって母体は出血性ショックで意識を消失し、緊急大量輸血を実施しながら全身麻酔下の緊急子宮摘出手術を実施しなければならないような場合もあります。そういう緊急事態がいつ発生するのかは全く予測できません。

産科の歴史は出血との闘いの歴史で、『大出血が始まる前に、それを予見すること』ができないので太古の昔からみんなさんざん苦労してきたのです。

Williams Obstetrics, 22nd Edition
Chapter 35. Obstetrical Hemorrhage

Obstetrics is "bloody business."
Even though hospitalization for delivery and the availability of blood for transfusion have dramatically reduced the maternal mortality rate, death from hemorrhage still remains a leading cause of maternal mortality. From 1991 through 1997 in the United States, hemorrhage was a direct cause of more than 18 percent of 3201 pregnancy-related maternal deaths, as ascertained from the Pregnancy Mortality Surveillance System of the Centers for Disease Control and Prevention (Berg and colleagues, 2003).

ウイリアムス産科学、第22版  第35章 産科出血
産科は出血との闘いである。分娩のために入院するようになり、輸血もしやすくなって、母体死亡率は劇的に減少したが、いまだに出血が母体死亡の最大原因であることに変わりがない。1991年から1997年までの米国における妊娠関連母体死亡3201例のうちの18%以上において、出血が直接の死因であった。

****** 毎日新聞、2006年10月12日

大野病院医療事故:初公判は来年1月 弁護側が意見書提出----公判前手続き /福島

地裁で第4回公判前整理手続き

県立大野病院で帝王切開の手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(39)の第4回公判前整理手続きが11日、福島地裁であった。この日は手続きを12月で終了し、初公判を来年1月26日午前10時から開くことを決めた。

手続きでは、第2回公判を2月23日、第3回を3月16日に開くことも決めた。また弁護側は、(1)手術前の癒着胎盤の予見可能性(2)手術中の大量出血の予見可能性(3)医師法の異状死の定義のあいまいさ(4)今回の起訴が医療現場に与えた悪影響----といった内容を柱とする「予定主張等記載書面」と証拠に対する意見書を提出した。

争点とみられる「手術中に胎盤の癒着が分かった時点で(手術の)中止義務があったか」については、「義務があった」とする検察側に対し、弁護側は「止血をするために胎盤剥離をするのが臨床では当然のこと」と主張している。また、弁護側は医師法違反については、異状死の定義があいまいなうえ、被告は院長に報告し違法性はないとの主張をする予定だ。

次回手続きは11月10日に行われ、弁護側が提出した書面に対して検察側が意見を述べる。12月14日の手続きで争点を最終的に整理し、手続きを終える予定だ。【松本惇】

(毎日新聞、2006年10月12日)

****** 共同通信社、2006年10月12日

初公判は来年1月26日に 福島の病院医療事故

帝王切開手術で女性=当時(29)=を死亡させたとして、業務上過失致死などの罪に問われた福島県立大野病院の産婦人科医加藤克彦(かとう・かつひこ)被告(39)の第4回公判前整理手続きが11日、福島地裁で開かれ、初公判を来年1月26日に開くことで地裁、検察側、弁護側が一致した。

この日、弁護側は公判で主張する内容をまとめた書面を提出。今後、これに対し検察側が意見を述べ、争点を絞り込んで年内に公判前整理手続きが終了する見込み。

これまでの手続きで、胎盤が子宮に癒着していると認識した際、胎盤のはく離を中止すべきだったかどうかが、公判の主な争点となる見通しになっている。

(共同通信社、2006年10月12日)

****** 福島民報、2006年10月12日

来年1月26日初公判/福島地裁/2大争点、全面対決/大野病院医療過誤訴訟

大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件で、公判前整理手続きによる第4回協議が11日、福島地裁で開かれ、来年1月26日に初公判を開くことを決めた。

弁護団によると、初公判は午前10時から午後5時まで審理を行い、冒頭手続きのほか証人尋問まで進む。第2回は2月23日、第3回は3月16日を予定している。3回では結審しない見込みで、4月以降の予定は年明けに決める。公判前整理手続きは11月10日の第5回、12月14日の第6回で終える。

第4回協議では弁護団が主張や証拠をまとめた書面を提出した。検察側の証拠についてカルテなどは同意するが、供述調書はほぼすべて不同意とする意思を示した。公判では無罪を主張し、全面的に争う。

起訴されたのは大熊町下野上、産婦人科医の被告(39)。起訴状によると、被告は平成16年12月17日、楢葉町の女性の帝王切開手術を執刀した際、癒着した胎盤をはがし、大量出血で死亡させた。女性が異状死だったのに、24時間以内に警察署に届けなかった。

(福島民報、2006年10月12日)

****** 福島民友、2006年10月12日

初公判は来年1月26日/大野病院医療過誤

業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた県立大野病院の産婦人科医加藤克彦被告(39)=大熊町下野上=の公判前整理手続きの第4回協議が11日、福島地裁(大沢広裁判長)であり、初公判は1月26日に開かれることが決まった。以降の公判は2月23日、3月16日の予定。弁護側はこの日、検察側が出した供述調書について、内容と証拠採用を不同意とし、胎盤に関する病理医の岡村州博(東北大)、池ノ上克(宮崎大)、解剖医の中山雅弘(大阪府立母子総合医療センター)の3医師を証人として裁判所に申請する方針を示した。

(福島民友、2006年10月12日)