ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

細胞診

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

はじめに

通常行われる細胞診は、対象から採取された検体をスライドグラス上に塗抹後、固定、染色、鏡検して、細胞を形態学的に診断する病理形態学的診断のひとつである。細胞診の検体は、病変との対応のあり方により大きくふたつに分けられる。

ひとつは、腹腔内の病変由来の細胞を含む腹水や、腹腔→卵管→子宮腔→子宮頸部→腟の病変由来の細胞を含みうる後腟円蓋に貯溜する分泌物のように、ある広い範囲内の一部に存在する病変に対応するものであり、他のひとつは、ビラン・潰瘍の擦過物や腫瘤の穿刺検体のように、病変そのものに由来する細胞を含み、細胞診が病変と1対1に対応しうる確率の高いものである。

細胞診の検体採取にあたっては、採取法と得られる検体の病変との対応状況を考え、スクリーニングや診断の目的に沿った採取法を選択すべきである。

細胞診標本の鏡検においては、細胞採取法とスライドグラス上に存在する細胞所見から、主たる病変や随伴する病変の診断の可能性と内分泌環境のような全身的な変化の把握の可否を考慮しなければならない。

細胞採取法

(1)外陰
外陰は角化重層扁平上皮に覆われているので、表面の擦過は診断的意義が少ない。外陰にPaget病のようにビランや潰瘍の形成をみる場合には、生理食塩水で湿した綿棒やスパーテルによる擦過により細胞を採取する。

(2)腟
腟鏡診により腟粘膜に異常を認める場合は、当該部位より、綿棒またはスパーテルの擦過により細胞を採取する。

内分泌細胞診においては、腟鏡診下に、腟上1/3の側壁の綿棒またはスパーテルによる軽い擦過、あるいは、腟に貯溜している分泌物をスパーテルですくい取るように採取する。

後腟円蓋のプールに貯溜している腟内容の採取は、かつては細胞診の主流であったが、現在はほとんど行われていない。

(3)子宮頸部
早期の子宮頸癌および子宮頸部の前癌病変発見のための細胞診の重要性は、歴史的にもルーチンの医療行為としても確立されている。

子宮頸部の前癌病変や初期癌では、扁平上皮系の病変の頻度が高く、細胞診の主たる目的も、このような病変の発見にある。

子宮頸部の異形成、上皮内癌、微小浸潤癌の発生部位は扁平円柱上皮境界であり、当該部位の細胞が確実に採取されている場合には、標本上に外頸部由来の扁平上皮細胞頸管内膜由来の円柱上皮細胞の両者が観察される(どちらか一方の細胞を欠く場合は、診断に不適当な標本と判定される)。

細胞の採取は、内診、腟洗浄、その他の腟内操作の前に、腟鏡診下に行う。腟鏡診にて子宮腟部の大きさ、腟部ビランの範囲、扁平円柱上皮境界の状況を観察したうえで、適切な細胞採取器具を選択する。そして、扁平円柱上皮境界の部位に応じて、粘膜面を擦過して細胞を採取する。妊娠中の婦人にあっては、軟かい器具を選択すると出血が少ない。細胞を採取したらただちに塗抹・固定を行う。

(4)子宮体部(子宮内膜細胞)
子宮内膜の病変部位から直視下で細胞を採取することは、通常の診療では不可能であり、細胞採取は手さぐりの状況下で、吸引法または擦過法で行われる。子宮と採取器具との関係や子宮内膜病変部位との関係から、目的とする部位の細胞が採取されないことがある。

子宮内膜細胞の採取にあたっては、前もって内診を行い、子宮の傾・屈、偏位、子宮頸部と体部の大きさ、形を確認する。次いで、腟鏡をかけ、洗浄・清拭後子宮腟部を消毒し、マルチン単鈎鉗子で子宮腟部前唇を把持する。子宮ゾンデ診にて子宮頸管の太さ、長さ、子宮の位置、子宮腔の形、大きさ、腔内の病変部位、貯溜液等をさぐる。これにより対象に適した採取器具を選択する。また、外筒やチューブに付された目盛のいずれを指標にするかを決定する。次いで、採取器具を子宮ゾンデの挿入方向に従い静かに挿入、細胞を採取する。

i)吸引法
最近では、銀製の吸引チューブよりも、ディスポ吸引チューブがよく用いられる。充分な細胞量を得るためには、吸引回数は20回以上の操作がよく、チューブ抜去時は陰圧状態にしない。

ii)擦過法
本法に用いる器具は、頸管内細胞の混入をさけるため外筒内に装着のまま子宮腔内に挿入する。器具の先端が子宮底に達するか、外筒の目盛で挿入が完全であることを確認したら、外筒のみを目印まで引きもどし、採取器具の中軸を中心に回転させ擦過する。採取後は、採取部位を外筒に収納し、器具を抜去する。

(5)腹腔,卵巣の穿刺細胞診
腹水の細胞診を目的とした腹腔穿刺は、23~24G針付注射器を用い、モンロー・リヒテル線の中央で行う。超音波断層法ガイド下に行うこともある。採取した腹水には、フィブリンの析出を防ぐため、抗凝固剤(二重シュウ酸塩、EDTA、ヘパリン)を加える。

※Monro-Richter line:臍から上前腸骨棘に引いた線

近年、腹腔鏡の普及により、卵巣の穿刺細胞診が注目されるようになり、卵巣腫瘍の穿刺孔からの内容の漏出を防止する装置の開発と診断的意義の検討が行われている。

細胞の読み方

細胞標本をみる前に、検体の種類、検体の採取法と標本作製法、検査の目的、が何であるかを確認する。

鏡検時まず注意すべきことは標本の良否の評価である。細胞は適切に採取されているか、乾燥していないか、固定は良好か、塗抹の状態はよいか、染色はよいか、などをチェックする。

婦人科細胞診のみかたで重要なものは、性周期や内分泌環境の類推と前癌病変および悪性腫瘍由来の細胞の判定である。

以下の所見はパパニコロー染色による。

i)内分泌細胞診
腟側壁から採取された細胞標本には、重層扁平上皮由来の細胞が観察されるが、角化所見を呈する細胞、エオジン好性の細胞質の細胞や核濃縮を示す細胞の比率から、角化指数、好酸指数、核濃縮指数を求めたり、扁平上皮細胞100個あたりの傍基底,中層,表層の各細胞の比率から成熟度指数を計算し、内分泌環境の指標とする。

子宮内膜細胞診では、増殖期、排卵日周辺、分泌期の判定が可能である。

ii)腫瘍関連病変の細胞診
細胞の形態を観察するにあたり、ふたつの原則を知ることが必要である。

そのひとつは、核の形態はその細胞の活動性を、細胞質の形態はその細胞の機能的分化を反映しているということである。そして、細胞の活動性は、正常状態、退行状態、進行状態、悪性腫瘍状態に分類される。

もうひとつの原則は、生理的である正常状態にある細胞は、形態的に均一で規則性があり、円形傾向を示すことである。

a)正常状態
扁平上皮系の上皮細胞では、核は細胞質の中央にあり、球形または卵円形である。クロマチンは繊細で、均等に分布し、核小体は通常みられない。細胞質は均等、対称性で、分化状態により、淡いピンク色からうすい緑~青色に染まる。円柱上皮系の細胞では、核は基底部にあり、細胞の長軸に平行に配列し、卵円形ないし円形で、クロマチンは細顆粒状で、分布は均等である。細胞質は淡染で、空胞、繊毛を有するものがある。

b)退行状態
変性像である。核は大きくなり淡明化したり、小さくなり濃縮状で観察される。細胞質には、染色性の変化、核周囲淡明化や空胞化がみられる。

c)進行状態
この状態では、核は球状でやや大きくなり緊満しており、クロマチンは顆粒状で均等に分布し、核膜は薄く、緊張している。円柱上皮細胞では核小体がやや大きく明瞭となる。

d)悪性腫瘍状態
悪性腫瘍由来の細胞であることを判定する最大の基準は核所見である。

核の形が不整形となり、クロマチンの大きさ、分布が不整となる。核小体は大きく、数を増すが、細胞ごとに大小不同、形態のばらつきが大きい。核膜は肥厚したものが多いが、肥厚の程度が核の部位によって異る所見を呈するものもある。

核/細胞質比は、細胞における核の占める割合で、癌細胞では大きくなる。また分化度が低いほど大となる。

細胞相互の関係では、核の大小不同、核間距離の不整、細胞の極性の乱れがみられる。

iii)扁平上皮系病変
子宮頸部や腟壁の重層扁平上皮から採取された細胞には、傍基底細胞中層細胞表層細胞の三種がある。

これらの細胞の分化をともなったままの状態で、核の増大、核形が球~卵円形、一部不整で、クロマチンの増量、細顆粒状、一部不均等な分布を示す細胞をdysplastic cellと呼び、異形成由来と考えられている。また,HPV感染があればparakeratocytekoilocytesmudged 核などが観察される。

擦過法により採取された標本では、細胞の集塊に注意する必要があり、扁平上皮癌では大型の充実性集塊として観察されるものがある。

iv)腺上皮系病変
子宮頸部の円柱上皮や子宮内膜由来の細胞は、擦過法によりシート状、腺管状構造を保ったまま採取され、鏡検時にはその立体構造を思いうかべながら観察する。

子宮内膜増殖症では、子宮内膜腺細胞の核は葉巻状で長楕円形のものが多く、腺管の形態は複雑なものが多い。

腺癌由来の細胞集塊では、腺管状、篩状、乳頭状、索状、立体的不整形のものがあり、細胞の配列と構成細胞の形態から診断を進める。

v)非上皮性悪性腫瘍
女性性器の非上皮性悪性腫瘍は頻度が低いが、非上皮系細胞に異常をみとめたり、由来不明の異常細胞が観察されたら、本腫瘍の存在を疑ってみる。


細胞診、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Q31 内分泌細胞診でエストロゲン優位の指標とされる細胞はどれか。
a)表層細胞
b)中層細胞
c)傍基底細胞
d)基底細胞
e)予備細胞

解答:a

******

Q32 子宮頸部の細胞診で、検体がよいとされる標本にみられるのはどれか。3つ選べ。
a)扁平上皮細胞
b)化生細胞
c)円柱上皮細胞
d)組織球
e)細網細胞

解答:a、b、c

******

Q33 外陰疾患で細胞診が有用なのはどれか。
a)外陰白斑症
b)外陰萎縮症
c)外陰異形成
d)外陰Paget病
e)急性外陰潰瘍

解答:d

d) 細胞像は比較的特徴的で、大型の広い細胞質をもつ異型細胞がシート状の小集団として出現する。核は偏在し、細顆粒状で、肥大した核小体が認められる。ときに細胞封入像や細胞質内メラニン顆粒が認められる。

******

Q34 婦人科悪性腫瘍のスクリーニングに細胞診が最適なのはどれか。
a)外陰癌
b)子宮頚癌
c)子宮体癌
d)卵巣癌
e)卵管癌

解答:b

******

Q35 固定不良標本の原因で最も多いのはどれか
a)採取器具の不適
b)採取部位の洗浄
c)塗抹後の乾燥
d)採取部位の炎症
e)固定後の劣化

解答:c

******

Q807 ホルモン細胞診の記述のうち,誤りはどれか.
a)高エストロゲン環境では表層細胞が増加し、成熟度指数(Maturation Index : M.I.)は左方移動する
b)閉経後婦人の腟部細胞診にて多数の表層細胞を認めた場合、顆粒膜細胞腫や莢膜細胞腫の存在を考える必要がある
c)乳癌術後のタモキシフェン内服閉経後婦人において、腟部細胞診に多数の表層細胞を認める時がある
d)産褥期婦人の細胞診は、閉経後婦人の細胞診(旁基底細胞の増加)に類似することがある
e)閉経後婦人の腟部細胞診にて成熟度指数(M.I.)が右方移動を示す時、子宮内膜癌の存在も否定できない

解答:a

a)高エストロゲン環境では表層細胞が増加し,成熟度指数は右方移動する。

******

Q808 子宮頸部の扁平上皮病変について、誤りはどれか
a)軽度異形成はThe Bethesda System のlow grade squamous intraepithelial lesion: LSIL に相当し、Richart 分類(CIN 分類)の1 に相当する
b)中等度異形成はThe Bethesda System のhigh grade squamous intraepithelial lesion : HSIL に相当し、Richart 分類(CIN 分類)の2 に相当する
c)高度異形成はThe Bethesda System のHSIL に相当し、Richart 分類(CIN 分類)の3 に相当する
d)上皮内癌はThe Bethesda System のHSIL に相当し、Richart 分類(CIN 分類)の3 に相当する
e)微小浸潤癌はThe Bethesda System のHSIL に相当し、Richart 分類(CIN 分類)の3 に相当する

解答:e

******

Q809 human papilloma virus(HPV)について,誤りはどれか.
a)尖圭コンジローマから検出されるHPV は、大部分が6 型か11型である
b)HPV の感染細胞は、単核又は多核の合胞性の巨細胞となり、核内構造は特有のスリガラス状となる
c)70種類以上の遺伝子型に分類され、そのうちCIN には少なくとも20種類以上のHPVが同定されている
d)子宮頸部扁平上皮癌、上皮内癌は、主にHPV の16型,18型が関与している
e)HPV の感染細胞所見の特徴は,コイロサイトーシスとして表現される

解答:b

******

Q810 子宮頸部上皮内癌(CIS)の細胞所見で,誤りはどれか.
a)壊死性背景は認めない
b)細胞標本上に異形成の細胞は出現しない
c)基底・旁基底細胞に類似した深層型の悪性細胞が特徴的である
d)裸核の頸管腺細胞との鑑別を要する時がある
e)ライトグリーン好性でN/C 比が大である

解答:b


組織診、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

25歳未婚女性が細胞診クラス分類でⅢaで精査目的で来院し、コルポスコピーでSCJは確認され、モザイクの所見が得られた。
Q31 狙い組織診で図のごとくであった。病理診断はどれか。
a)軽度異形成上皮
b)中程度異形成上皮
c)高度異形成上皮
d)上皮内癌
e)微少浸潤癌

Cin2

Cin22

解答:b

上皮の下層2/3に異型細胞が見られるものを中等度異形成とする。写真は表層に著明なコイロサイトーシスを認め、中層ぐらいにまで異型細胞が出現している。表層に見られる大型核を持つ異型細胞はHPV感染によるものととらえる。したがって,本病変を高度異型とするのは病変を強くとらえ過ぎである。

a)軽度異形成上皮

Cin1

表層にコイロサイトーシスが見られるもの、上皮の下層1/3に異型細胞が見られるものを軽度異形成とする。

c)高度異形成上皮

Cin3

上皮の表層1/3にまで異型細胞が見られるものを高度異形成とする。クロマチンに富む核を持つ異型細胞が、表皮の表層1/3に及んで増殖している。表層の上皮は扁平化している。細胞密度が高く、核クロマチンの増量も認められる。

d)上皮内癌

Cis

核クロマチンの増量を伴うN/Cの高い癌としての形態学的特徴を有する異型細胞が、上皮の全層に見られるものを上皮内癌とする。

e)微小浸潤癌

Mic

Mic2

浸潤の深さ5mm以内、縦軸への広がり7mm以内の微小浸潤を示す扁平上皮癌。写真では癌が基底膜を破壊して浸潤性に増殖するため、癌胞巣周囲に間質反応を認める。

******

Q32 この患者の組織診断がCIN3であった場合の適切な処置はどれか。
a)細胞診の3カ月ごとの経過観察
b)円錐切除
c)子宮頸管内掻爬
d)組織診の再検査
e)単純性子宮全摘出

解答:b

******

Q33 子宮腟部擦過細胞診異常者のルーチーンの頸管内掻爬の目的はどれ
か.
a)HPV感染の検出
b)クラミジア頸管炎の診断
c)卵管癌や卵巣癌の検出
d)頸管内CINや腺癌の診断
e)体部癌の頸管侵襲の診断

解答:d

******

Q34 子宮腟部擦過細胞診異常者で円錐切除の禁忌となるのは。
a)コルポスコピー不適格症例
b)子宮頸管内掻爬で悪性細胞陽性の症例
c)細胞診と組織診が不一致例
d)微少浸潤が疑われる症例
e)肉眼的な癌の症例

解答:e

円錐切除術の適応
①細胞診断と組織診断の不一致例
②コルポスコピー不適格症例
③子宮頸管内掻爬で悪性細胞陽性
④微小浸潤癌を疑う症例
⑤浸潤癌の診断に疑問である症例

円錐切除の禁忌
①肉眼的に明らかな癌においては組織型や分化度を知るためにパンチ生検を行うが、円錐切除はむしろ禁忌である。
②強度の炎症所見を伴う感染症の場合、治療後に施行する。急性炎症期には出血の頻度が増すとされる。
③妊娠中は原則として行わない。ただし、微小浸潤癌を疑う場合や浸潤癌の鑑別が必要な場合はこの限りではない。できるだけ妊娠中期が望ましい。この場合破水に注意する必要がある。頸管深く切除することは避ける。

Q35 この患者が妊娠16週で、CIN3であった場合適切な治療は。
a)分娩まで細胞診にて経過観察する。分娩後円錐切除術を行う
b)毎月に組織診を行い浸潤開始を早期に診断する。浸潤の開始が疑われればただちに子宮摘出術を行う
c)病変の妊娠による進展を防ぐため、ただちに円錐切除術を施行する。その後、妊娠を継続する
d)妊娠中絶後ただちに円錐切除術施行し、次回の妊娠に備える
e)患者の生命を第一とする立場から妊娠子宮を単純性に全摘出する

解答:a


コルポスコピー

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

新コルポスコピー所見分類日本婦人科腫瘍学会2005

A) 正常所見 NCF

 1 扁平上皮  S
 2 円柱上皮  C
 3 移行帯  T

B) 異常所見  ACF

 1 白色上皮  W
    軽度所見 W1
    
高度所見 W2
       腺口型(腺口所見が主体の場合) Go
    軽度所見 Go1
    
高度所見 Go2

 2 モザイク  M

    軽度所見 M1
    
高度所見 M2

 3 赤点斑  P
    軽度所見 P1
    
高度所見 P2

 4 白斑  L
 5 異型血管域  aV

C) 浸潤癌所見 IC

 コルポスコピー浸潤癌所見 IC-a
 肉眼浸潤癌所見 IC-b

D) 不適例  UCF

 異常所見を随伴しない不適例 UCF-a
 異常所見を随伴する  UVF-b

E) その他の非癌所見 MF

 1 コンジローマ Con
 2 びらん Er
 3 炎症 Inf
 4 萎縮 Atr
 5 ポリープ Po
 6 潰瘍 Ul
 7 その他 etc

****** 問題と解答

問題013 新コルポスコピー所見分類(日本婦人科腫瘍学会、2005)で正しいのはどれか。
a)ヨード塗布試験が必須である。
b)移行帯は異常所見に分類される。
c)白色上皮は軽度または高度にgradingする。
d)白斑は異常所見から除かれた。
e)HPV感染所見を特別に分類する。

解答:c

b)移行帯は正常所見に分類される。

******

Q36 HPV 感染と関連の深いコルポスコピー所見はどれか.
1)×移行帯
2)×異型血管域
3)○白色上皮・微小乳頭型
4)○微小乳頭状病変
5)○コンジローマ

a)1-2-3 b)1-2-5 c)1-4-5 d)2-3-4 e)3-4-5

解答:e

******

Q37 コルポスコピー所見と細胞診クラス分類との組み合わせで正しいのは
どれか.
a)○白斑(軽度)……クラスⅢa
b)×赤点斑(高度)……クラスⅡ
c)×白色上皮・腺口型(軽度)……クラスⅤ
d)×びらん……クラスⅣ
e)×扁平上皮……クラスⅢb

解答:a

******

Q38 コルポスコピー所見と組織所見との組み合わせで正しいのはどれか.
1)○移行帯……扁平上皮化生
2)○白色上皮・扁平型(高度)……高度異形成
3)×モザイク(軽度)……微小浸潤癌
4)×不適例……浸潤癌
5)×コンジローマ……頸管ポリープ

a)1-2 b)1-5 c)2-3 d)3-4 e)4-5

解答:a

******

Q767 子宮頸部病変の診断について正しいのはどれか。
a)×病変の確定診断は細胞診により決定する
b)○コルポスコピーにより病変の局在と広がりの確認ができる
c)×組織診により病変の有無をスクリーニングすることができる
d)×細胞診,組織診,コルポスコピーのなかではコルポスコピーが最も診断能力が高い
e)×コルポスコピーでは病変の推定をすることは困難である

解答:b

******

Q769 コルポスコピーについて次のうち正しいのはどれか。
a)×粘膜の観察が最も重要である
b)○血管の分布の観察により間質の状態がわかる
c)×毛細血管の間隔は正常上皮ではむしろ不規則となる
d)×酢酸加工は表面の性状を観察するときに不可欠である
e)×酢酸加工により健常部と病変部の境界はつねに明確となる

解答:b

******

Q770 コルポスコピー所見について正しいのはどれか。
a)×移行帯内病変しか観察できない
b)×所見の質(Grading)は5 段階に分類されている
c)○白色上皮は酢酸加工後にみられる限局性の異常病変である
d)×赤点斑は腺開口が点状にみえる限局性の異常病変である
e)×白斑は酢酸加工後にみられる隆起した白色の限局性病変である

解答:c

******

Q771 35歳の女性.帯下を主訴として来院した。腟壁に異常所見は認められない。子宮腟部のコルポスコピーで白色上皮が認められ、子宮頸部擦過細胞診はⅢaでkoilocytosis が認められた。この疾患の原因はどれか。

a)×単純ヘルペスウイルス
b)○ヒトパピローマウイルス
c)×Candida albicans
d)×Chlamydia trachomatis
e)×Trichomonas vaginalis

解答:b


腫瘍マーカー

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

腫瘍マーカーの定義と分類

定義:悪性腫瘍の診断に役立つ生体産物あるいは生体反応

腫瘍マーカーの分類法:
汎用性腫瘍マーカーCEABFPTPAフェリチン
組織選択性腫瘍マーカー:絨毛性疾患のhCG、扁平上皮癌のSCC抗原、卵黄嚢腫瘍のAFPなど

腫瘍マーカーの評価基準

腫瘍マーカーの評価は、
・ 感度:癌患者における腫瘍マーカー陽性率
・ 特異度:非癌例における陰性率
で行うことが多い。

癌患者における陽性例(真陽性)と非癌例における陰性例(真陰性)を加えた和が全症例に占める割合を「正診率」として,腫瘍マーカーの総合的有用性の指標とする。

理想的には感度100%で特異度100%のものが望ましいが、病巣の小さいときは当然陽性率も低く、また現在報告されている腫瘍マーカーはすべて非癌状態でも出現するので偽陽性も避けられない。

カットオフ値を設定するには通常ROC曲線(reactive operation curve)を用いる。ROC曲線はカットオフ値を変えた際の感度と特異度を二次平面にプロットしたもので、最も感度と特異度が高くなる値をカットオフ値とする。一般に、感度を上げようとしてカットオフ値を下げると偽陽性も多くなり特異度が下がる。特異度については、できるだけ特殊で鑑別しやすい偽陽性を示す腫瘍マーカーが使いやすい。

IAPは多くの悪性腫瘍に用いられる汎用性腫瘍マーカーであるが、炎症などでも高値となる。癌患者ではしばしば各種の炎症が合併するので、IAPの異常値を評価するには注意が必要となる。

病状管理では、病状変化に応じて迅速に変動する腫瘍マーカーが望ましい。SCC抗原の血中濃度半減期は約2時間で腫瘍摘出後遅くとも2日目には陰性化する。一方、CEAは優れた腫瘍マーカーであるが、血中濃度の変化速度が遅く、明らかな変化を示すのに4~6週間を要する。

腫瘍マーカーの保険適用

十分な感度をもつ腫瘍マーカーがないだけに、多くの腫瘍マーカーを組み合わせて測定しがちであるが、医療費節約の面からも,効果的な使用を心がけたい。現行の保険制度では、診断が確定する前の測定は1回限り4項目までの加算があり、診断確定後は1カ月に1回の悪性腫瘍特異物質治療管理料の中で2項目までの加算算定がされる。もっとも、化学療法や放射線療法施行中は2週間に1度位腫瘍マーカーを測定したいが、これは保険適用外となる。なおhCG、hCGβ、エストロゲンなどの測定は内分泌検査の項目に含まれている。

腫瘍マーカーの実施料と管理料

1.診察及び腫瘍マーカー以外の検査の結果から悪性腫瘍の患者であることが強く疑われるものに対して、当該傷病の診察開始から悪性腫瘍の診断の確定または転帰の決定までの間に1回を限度として検査実施料を算定できる。

2.悪性腫瘍の診断が確定し、計画的な治療管理を開始した場合、当該治療中に行った腫瘍マーカー検査の費用は悪性腫瘍特異物質治療管理料として同一暦月につき1回に限り算定できる。

3.腫瘍マーカー検査実施料と悪性腫瘍特異物質治療管理料を同一月に併せて算定できることはできない。

実施料と管理料の比較

・検査実施料
一般測定 2項目以上 75点
精密測定 2項目 230点
        3項目  290点
                4項目以上 420点

・悪性腫瘍特異物質治療管理料
一般測定 220点
精密測定 1項目 360点
        2項目以上  400点

婦人科悪性腫瘍と主な腫瘍マーカー

子宮癌:頸癌の約87%は扁平上皮癌で、腫瘍マーカーとしてはSCC抗原が用いられる。体癌の約86%は腺癌で、これら体癌や頸癌の腺癌の腫瘍マーカーとしては、CEA、hCGβコア、CA125などが推奨される。

コンビネーション・アッセイには子宮頸癌ではSCC抗原とCEAあるいはhCGβ コアの組み合わせ、子宮体癌ではCA125、CA19-9、CA72-4の組み合わせで感度が向上したと報告されている。

なおCA130やCA602はCA125と同一分子で、血中濃度の相関性も高いので重複して測定する意義は少ない。

子宮肉腫は術前の診断が難しく、子宮筋腫の保存的療法に際しては特に注意すべき疾患である。腫瘍マーカーでは血中CA125値が上昇すると報告されているが、これはむしろ腫瘍により刺激された子宮内膜の産生によるものであろう。

卵管癌でもCA125が利用できるが、卵管内膜も腹膜や子宮内膜と同様にcoelomic上皮由来で、元来CA125産生能を有しているためである。

卵巣悪性腫瘍の約80%は腺癌で、他に胚細胞性腫瘍性索間質性腫瘍皮様嚢胞の悪性転化転移性腫瘍などがある。したがって腫瘍マーカーの第一選択は腺癌で陽性率の高いCA125で、特に漿液性嚢胞腺癌で陽性率が高いが、子宮内膜症や腹水貯留疾患などの偽陽性に注意する。
 糖鎖抗原であるCA72-4STNCA54/61粘液性腺癌での陽性率が比較的高く、子宮内膜症や妊娠による偽陽性が少ない。

 特殊なものでは胚細胞性腫瘍AFPhCG性索間質性腫瘍エストロゲンアンドロゲンLDHがある。

 卵巣悪性腫瘍は自覚症状に乏しく初期癌の発見が難しいので、腫瘍マーカーによるスクリーニングも試みられているが、初期癌における陽性率は低い。例えば直径6cm以上の卵巣癌に対するCA125の感度は約80%といわれており、またsecond look手術で残存腫瘍が認められた例でも約半数では術前の血中CA125値が陰性である。

コンビネーション・アッセイでは、CA125、TPA、IAP、ALP、アルブミン、血清鉄の組み合わせによるCAMPASOV2が有名で85%の陽性率が報告されている。またCA72-4、TPA、LDHの組み合わせや、CA125hCGβコアの組み合わせでも70%以上の陽性率が報告されている。

病状モニターに関しては腫瘍マーカーは有効な指標で、臨床現場でも盛んに利用されている。いずれの腫瘍マーカーも血中濃度の変化はhCGやSCC抗原を除くと比較的遅く、例えばCA125では腫瘍摘出後血中濃度が半減するのに約2~3週間を要する。

絨毛性疾患におけるhCGは感度、特異度ともに理想的な腫瘍マーカーであり、日産婦学会では胞状奇胎娩出後の尿中hCGの推移パターンによる経過判定基準を定めている。また低濃度のhCGモニターにはhCGの関連蛋白であるhCGβhCGβ-CTPの測定も有用であり,SP1(Schwangershaftsprotein1)、PP(placental protein)、Reagan enzymeなどの胎盤性蛋白も腫瘍マーカーとして利用されている.

なおhCGβコアの適応は絨毛性疾患でなく,頸癌体癌卵巣癌である。

腟癌、外陰部癌:これらはほとんどが扁平上皮癌でありSCC抗原が用いられる。

主な腫瘍マーカーの解説

SCC抗原:
SCC抗原は1977年に加藤らによって発見された扁平上皮癌の腫瘍マーカーで、食道癌、肺癌、皮膚癌、頭頸部癌など各種臓器の扁平上皮癌で利用できる。初期癌での陽性率はあまり高くないが、治療前に高値(6ng/ml 以上)を示す場合は進行例や予後不良例が多い。また血中半減期が短く、腫瘍摘出後は2日以内に陰性化し、NACが有効な場合は2~3コース終了時点で急速に低下するので、主治療への切り替え時期の判定に便利な指標となる。偽陽性は、天疱瘡、乾癬、紅斑などの皮膚疾患や重症呼吸器疾患などである。また腎透析患者でも血中SCC抗原値が上昇する。

CA125:
CA125は漿液性嚢胞腺癌で発見された糖蛋白質で、卵巣癌の代表的な腫瘍マーカーである。カットオフ値は35U/ml であるが、閉経後や卵巣摘除後は16U/ml とすることも提唱されている。CA125は、正常の腹膜、胸膜、心嚢膜、子宮・卵管内膜などcoelomic上皮由来の器官に発現するので、これらの組織の生理的変化(妊娠、月経、加齢など)や病的変化(子宮内膜症、腹水・胸水貯留疾患、卵管留膿腫など)では血中濃度が上昇する。

CEA:
CEAは結腸癌で発見された高分子蛋白質で、多くの悪性腫瘍に出現する代表的な汎用性腫瘍マーカーである。もっとも、利用頻度が多いだけに測定用キットも数種類市販されており、それぞれにカットオフ値も異なるので、血中濃度の変化をモニターする際には測定に使用されたキットに注意する必要がある。血中濃度の半減期は比較的長く、腫瘍摘出などで血中濃度が変化するには6~8週間を要する。偽陽性は喫煙、加齢、肝疾患などである。

hCG:
hCGは、絨毛性疾患の腫瘍マーカーとして感度、特異度、変化速度の3拍子揃った極めて優秀な腫瘍マーカーであり、hCG測定法の改良と化学療法の発達により絨毛癌の死亡率が激減した。

hCGはα とβ のサブユニットからなるが、αサブユニットのアミノ酸構成は他の糖蛋白ホルモンと共通であり、特にLHとの交叉反応を避けるために、hCGβhCGβ-CTPを測定することもある。なお絨毛癌に用いられるSP1は、絨毛細胞から分泌される蛋白質で、hCGやその関連蛋白との交叉性がなく、hCGが陰性の症例でも陽性になることがある。

hCGβコア(又はhCGβ-corefragment、β-CF):
hCGβコアはhCGが腎臓で排泄される際に作られて尿中に出現する蛋白質で、各種の悪性腫瘍に出現する汎用性腫瘍マーカーである。カットオフ値は0.2ng/ml で、他の腫瘍マーカーとの相関性が低いので、頸癌ではSCC抗原と、また卵巣癌ではCA125との組み合わせて試してみるのもよい。

腫瘍マーカーの一般的留意点と展望

対癌戦略の第一目標は初期癌の発見である。腫瘍マーカーは初期癌に対する感度が悪く、特にマス・スクリーニングに利用するには新しい工夫が必要である。適当な腫瘍マーカーの組み合わせにより確かに感度が改善されることから、卵巣癌を中心に「コンビネーション・アッセイ」も試みられているが、できるだけ早く適当な腫瘍マーカーを1~2種類みつけて、以後はその腫瘍マーカーを測定するのが経費の面からも得策である。

一方、ハイリスク例の選別や病状のモニターには腫瘍マーカーは有効な武器で、侵襲性が低いことも長期間の利用に適している。

腫瘍マーカーの生物活性も次第に明らかにされつつあり、例えばSCC抗原アポトーシス抑制作用CA19-9細胞接着への関与が報告されている。将来は腫瘍マーカーの生物活性を利用した新しい診断や治療も可能になるものと期待される。

****** 問題と解答

Q 36 正しいものを2 つ選べ。
a)癌患者の中で腫瘍マーカーが陽性となる率を「感度」という
b)癌患者の中で腫瘍マーカー陰性となる率を「特異度」という
c)カットオフ値を下げると偽陽性が減る
d)ROC曲線では感度と特異度によりカットオフ値を決めるものである
e)CA125のカットオフ値は閉経後には上げるべきである

解答:a,d

a)感度=癌患者の中で腫瘍マーカーが陽性となる率

b)特異度=非癌例における陰性率

c)一般に、感度を上げようとしてカットオフ値を下げると、偽陽性が多くなり特異度が下がる。

d)ROC曲線はカットオフ値を変えた際の感度と特異度を二次平面にプロットしたもので、最も感度と特異度が高くなる値をカットオフ値とする。

e)CA125のカットオフ値は35U/ml であるが、閉経後や卵巣摘除後は16U/ml とすることも提唱されている。

******

Q 37 腫瘍マーカー測定の保険請求につき正しいものを2 つ選べ。
a)悪性腫瘍が強く疑われる場合、診断の確定または転機の決定までは数回請求できる
b)上記の場合、4項目以上は同額の請求となる
c)診断確定し、計画的な治療管理を開始した場合、腫瘍マーカー検査は悪性腫瘍特異物質治療管理料として請求する
d)悪性腫瘍特異物質治療管理料では4項目以上は同額となる
e)子宮内膜症の病名でCA125測定とCA130測定を同時に請求できる

解答:b、c

現行の保険制度では、診断が確定する前の測定は1回限り4項目までの加算があり、診断確定後は1カ月に1回の悪性腫瘍特異物質治療管理料の中で2項目までの加算算定がされる。

hCG、hCGβ、エストロゲンなどの測定は内分泌検査の項目に含まれている。

******

Q 38 次の文章のうち正しいものを選べ。
a)CA125は卵管膿腫で増加することがある
b)hCGβコアは絨毛癌の腫瘍マーカーである
c)SCC抗原は妊娠時に増加する
d)SCC抗原の半減期はCEAの半減期より短い
e)AFPが増加すれば粘液性腺癌である

解答:a,d

b)hCGβコアの適応は絨毛性疾患でなく,頸癌体癌卵巣癌である。

d)SCC抗原の血中濃度半減期は約2時間で腫瘍摘出後遅くとも2日目には陰性化する。一方、CEAは優れた腫瘍マーカーであるが、血中濃度の変化速度が遅く、明らかな変化を示すのに4~6週間を要する。

e)AFPは卵黄嚢腫瘍で高値となる。糖鎖抗原であるCA72-4STNCA54/61は粘液性腺癌での陽性率が比較的高い。

******

Q 39 妊娠により増加する腫瘍マーカーはどれか。
a)AFP
b)SCC抗原
c)CA125
d)IAP
e)CEA

解答:a,c

******

Q 40 次の腫瘍マーカーの中で生体内での生理活性が判明しているものはどれか。
a)hCG
b)SCC抗原
c)CA125
d)IAP
e)TPA

解答:a,b

a)hCG:黄体の保持を促進しプロゲステロンを分泌させる。

b)SCC抗原:アポトーシス抑制作用。
  CA19-9:
細胞接着への関与


婦人科疾患のCT診断

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

読影に必要な基礎知識

1.原理と歴史

CT は、基本的には撮影される人体を挟んでX 線管球と検出器を対向させ、多くの方向からX 線を照射して人体のX 線吸収値を測定し、その情報をコンピュータ処理して画像の再構成を行い、人体の横断面の断層像を得る方法である。それが、検出器が多くなることで感度が高くなり、回転が早くなることで撮影時間が短くなった。螺旋状にスムーズに動かして撮影できたことからヘリカルCT と呼ばれる三次元表示も可能となり一般化しつつある。

2.読影に必要な理論

CT 値:水が基本。X 線吸収係数を水のX 線吸収係数を基準として相対値として表示する。水のCT 値は0 である。CT 値は骨が最も高くて1,000(最も白く映る)、順に軟部組織や種々の病巣は-100~-50(濃淡種々のグレー)、水は0(薄い黒)、脂肪組織は-100~-50(黒)そして空気は-1,000(最も黒い)である。

画素(ピクセル):画素の数が多いほど画像はきめ細かく、小病変を見つけやすいが、反面、画像のコントラストは悪くなる。

ウィンドウ幅、ウィンドウレベル:白から黒までをCT 値で2,000段階に分けても、わずかなCT 値の違いは人間の目にはわからない。そこで、注目したい病変部のCT 値を新たに0 として(ウィンドウレベル)ある一定のCT 値の範囲のみ(ウィンドウ幅)を濃度差として表示すると、観察したい病変はより効率よく描出しうる。

アーティファクト:存在しない像が抽出されることで、撮影部位の動きによるもの、高吸収あるいは低吸収物質の存在によるもの、骨組織の影響によるものおよび装置によるものがある。

部分容積効果:CT 像はある一定の厚みのスライスで抽出されており、そのなかの組織でX 線吸収係数の異なった2 種類の物質が含まれていると、CT 値がこの2 種の物質の平均値として表されるため、この2 つの物質の辺縁の分解能を低下させる現象。

3.CT 検査の実施にあたって注意すべきこと

1)適応:婦人科疾患では、画像検査としてまず行うべきは超音波検査である。その次の段階としてねらう病変・病態に応じて、CT を行うべきか、MRI を行うべきか、考えるべきである。

CT の利点としては、
① 広い範囲を短時間でスキャンできること
② 石灰化の描出に優れていること
③ 脂肪組織の抽出に適すること

①については、癌の広がりの検索や骨盤リンパ節および傍大動脈リンパ節転移の検索を行う際に、上腹部から骨盤のCT を撮影しているが、造影CT を含めても撮影は10分弱で済む。一方、MRI の方は以前より撮影時間は短縮されてきたが、骨盤MRI で造影すると30分、造影なしでも20分以上かかる。したがって、MRI の方はCT に比べこなせる患者数に制限が大きい。

②、③の所見を含んでいる皮様嚢胞腫の診断には優れている。

CT の欠点としては、
① 軟部組織の抽出において、組織コントラストはMRI に比べ劣る
② MRI ではあらゆる断面の撮影が可であるが、CT は横断像しか得られない

①について、子宮の腫瘍では頸癌や体癌でも周囲組織とコントラストが不十分で腫瘍を描出できないことも多い。良性腫瘍である子宮筋腫の抽出も不十分で、子宮腺筋症との鑑別も困難である。

②について、通常は横断面像を何枚もみながら頭のなかで立体画像に構成していかねばならない。したがってMRI の撮影に比べ、より断面像ごとの解剖の理解が必要となる。

以上から、子宮疾患については、良性疾患に関してCT の適応はほとんどないと考えられる。悪性腫瘍においても主病変そのものの描出は困難であり適応ではないが、広い範囲のリンパ節や遠隔転移の診断に適応があると考えられる。

2)CT 検査実施時の注意点

前処置:造影剤を使用する患者では、検査前の絶食を原則とする。脱水状態ではむしろ危険なので、適度の水分摂取は可とする。子宮頸癌などの腫瘍の膀胱への浸潤を観察するために適度な蓄尿をしたり、骨盤CT を撮影する際には、時に、目印として腟内タンポン挿入などを行う。

造影剤使用時の注意点:

造影剤使用の目的は以下の3 つの点に集約される。
① 病変の検出能を高めること
② 病巣内の血行動態を描出すること
③ 解剖学的構造,特に血管との関係をよく描出すること

以前はヨードテスト(プレテスト)として、病棟・外来などで少量の造影剤を静脈注射して造影剤過敏症の検査をした時期もあったが、信頼度に乏しいことが明らかとなり、現在は不必要であるとされている。大事なことは、検査前に十分な説明とヨード過敏、アレルギー歴などの問診を行うことと、CT 室で造影剤投与時に確実な静脈確保を行ったあと救急対応まで意識して検査を行うことである。

放射線被曝の問題:X 線使用時に常に問題となることであるが,国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告では、妊娠可能年齢の女性および妊婦に対する医療行為の適応の決定については、これまでの勧告に比べると医療従事者の判断にまかされている部分が多い。ただし確率的影響(性腺被曝による悪性腫瘍,胎児期の被曝による小児癌の発生)に関してはまだ結論は出ておらず、妊婦への放射線照射を控えることはもちろんのこと、妊娠可能な若い女性についても検査適応の正確な判断と、無駄な被曝のない慎重な検査を行うべきである。

各種疾患・病態におけるCT の有用性と限界

まず正常CT 解剖について知っておくべき事項がいくつかある。子宮、卵巣は可動性が高いため思わぬ部位まで移動しているようなことがある。生殖器も年齢と共に大きく変化する。骨盤内腸管の長さや走行は一定していない。つまり個人差が大きいことを知っておく必要がある。

1.MRI と比較したCT の適応

以下の項目は、代表的な産婦人科疾患について、MRI と比較する形でCT の適応を述べた。
1)超音波の次に画像診断を行う際にMRI と共にCT が必要な疾患
 子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌
2)超音波の後,CT かMRI のいずれかでよい疾患
 卵巣類皮嚢胞腫、卵巣嚢胞腺腫
3)基本的にCT が適応とならない疾患
 子宮筋腫、子宮腺筋症、双角子宮、内膜症性嚢胞、卵巣線維腫
4)妊娠患者のためCT が適応とならない疾患
 胎児奇形、母体の腫瘤性病変、前置胎盤のうち、超音波診断では確診できない場合で、なおかつ2nd trimester 以降の場合。

2.各疾患・病態のCT 像

各疾患や病態のCT 像による解説をCT が適応となる疾患について行う。その際、CT 像の読影における注意点を一部MRI との比較で述べる。

1)CT は横断像しか得られないため、矢状断像が有用な子宮疾患の診断には不利になる。またCT は組織コントラスト分解能が低いため、子宮の内部構造を明瞭に描出できず、腫瘍の検出能も低い。このためMRI に比べて、局所の病巣を抽出することについてはその有用性は低い。

a.子宮頸癌

主病変の描出はある程度は可能だが、傍結合織、膀胱・直腸などへの浸潤の評価は困難である。頸部間質への癌の深達度の評価にはMRI が必要である。CTはリンパ節転移が疑われた時の上腹部等の検索などに有用である。

b.子宮体癌

主病変の描出は子宮溜水腫が合併している時は可能であるが、基本的にはMRI が優れている。筋層浸潤の評価はCT では困難である。頸癌の場合と同じく、進行癌が疑われた時の上腹部等の検索などに有用である。

2)卵巣腫瘤の多くは嚢胞成分を有しているが、嚢胞部分と充実性部分の区別にCT、特に造影CTは有用である。ただし、嚢胞内容液については、漿液性内容液、粘液性内容液の鑑別にMRI がより有用で、特に、内膜症性嚢胞のような血腫の診断にはMRI が必須である。一方、石灰化成分や脂肪の判定にはCT の有用性は高い

a.良性嚢胞性卵巣腫瘍

薄い壁であり、内部は水と同濃度。漿液性の場合は単房性,ムチン(粘液)性の場合は多房性のことが多い。いずれにしても壁が薄いことと充実性部分がないことをよく確認することが大切である。

b.卵巣類皮嚢胞腫(皮様嚢腫)

腫瘍の中に非常に低濃度の脂肪成分が認められる。毛髪塊や歯牙や軟骨などによる石灰化の存在も診断の一助となる。嚢胞内に実質成分や水と脂肪による液面形成がみられることもある。脂肪成分の判定にCT は有用であるが、最近は脂肪抑制MRI などを用いてMRI で診断することが多い。

c.悪性嚢胞性卵巣腫瘍

大きさが6cm 以上で、充実性部分が存在する、壁が厚い時や隔壁厚が3mm 以上あるいは結節形成などの所見があれば悪性を疑う。骨盤壁や骨盤内臓器への浸潤など含めてMRI で診断することがほとんどである。

3)転移リンパ節については、CT、MRI ともに腫大したリンパ節の大きさを基準に診断しているため、診断能に差はない遠隔転移の評価については、短時間に広い範囲を検査できるCT の有用性が高い。卵巣癌の症例では、範囲を広げて、腹膜、腸間膜、大網への播種や腹水の存在、傍大動脈リンパ節まで検索するのが常であるが、今のところCT が有用である。

4)悪性腫瘍では体の各部への転移についても考えておくべきである。胸部X 線で検出された肺内病変(肺転移)の精査にはCT がMRI より適している。脳転移が疑われる時もあるが、頭部の腫瘍性疾患に関しては、ある程度の大きさであればCT でもMRIでも診断可能である。肝、胆、膵、消化管領域の腫瘤性病変もCT の適応となる。

****** 問題と解答

Q46 誤っているものを選べ。
a)○ 一般的にMRI はX 線CT より腫瘍の質的診断において有用性が高い
b)○ X 線CT はMRI と比較して短時間で広い範囲の撮影が可能である
c)○ 妊娠中に母体や胎児の病態の検索にはMRI が有用である
d)○ 造影CT の際に,前もって造影剤の注入などのプレテストを行うことは必須ではない
e)× CT 値は,脂肪組織のX 線吸収値を基準として定められている

解答:e

CT 値:水が基本。X 線吸収係数を水のX 線吸収係数を基準として相対値として表示する。水のCT 値は0 である。CT 値は骨が最も高くて1,000(最も白く映る)、順に軟部組織や種々の病巣は-100~-50(濃淡種々のグレー)、水は0(薄い黒)、脂肪組織は-100~-50(黒)そして空気は-1,000(最も黒い)である。

******

Q47 誤っているものを選べ。
a)○ X 線CT 画像で,最も白く映るのは骨組織や石灰化部位である
b)× X 線CT は、子宮筋腫と子宮腺筋症を鑑別するのに有用である
c)○ 骨盤リンパ節転移の検索では,CT とMRI は同等である
d)○ X 線CT は,MRI に比べ呼吸性変動の影響を受けにくい
e)○ 造影CT を予定する場合は撮影前の禁食が必要である

解答:b

X 線CT は、良性腫瘍である子宮筋腫の抽出も不十分で、子宮腺筋症との鑑別も困難である。

******

Q48 誤っているものを選べ。
a)× 子宮頸癌や子宮体癌の頸部浸潤の検索にはX 線CT が有用である
b)○ CT において異なる組織の境界面が不鮮明になる現象として部分容積効果がある
c)○ ウィンドウ幅を小さくするとコントラストの強い画面に,これを大きな値に設定するとコントラストの弱い画面になる
d)○ ウィンドウレベルは低い値に設定すれば濃度の薄い画像に,これを高い値に設定すれば濃度の濃い画像になる

解答:a

子宮頸癌主病変の描出はある程度は可能だが、傍結合織、膀胱・直腸などへの浸潤の評価は困難である。頸部間質への癌の深達度の評価にはMRI が必要である。CTはリンパ節転移が疑われた時の上腹部等の検索などに有用である。

子宮体癌主病変の描出は子宮溜水腫が合併している時は可能であるが、基本的にはMRI が優れている。筋層浸潤の評価はCT では困難である。頸癌の場合と同じく、進行癌が疑われた時の上腹部等の検索などに有用である。

部分容積効果:CT 像はある一定の厚みのスライスで抽出されており、そのなかの組織でX 線吸収係数の異なった2 種類の物質が含まれていると、CT 値がこの2 種の物質の平均値として表されるため、この2 つの物質の辺縁の分解能を低下させる現象。

ウィンドウ幅、ウィンドウレベル:白から黒までをCT 値で2,000段階に分けても、わずかなCT 値の違いは人間の目にはわからない。そこで、注目したい病変部のCT 値を新たに0 として(ウィンドウレベル)ある一定のCT 値の範囲のみ(ウィンドウ幅)を濃度差として表示すると、観察したい病変はより効率よく描出しうる。

******

Q49 誤っているものを選べ。
a)○ 体動や腸管の蠕動によるアーティファクトは高速CT の導入により改善がみられた
b)○ 骨盤部の金属(人工関節など)や腸管に遺残するバリウムの存在は,高いX 線吸収値により近接部へのアーティファクトを生じ著しい画質の劣化につながる
c)○ ヘリカルCT の登場で高精度の三次元画像の作成が可能となった
d)× 造影CT では,正常子宮体部筋層は弱く,内膜は強く造影され,中心部は高吸収域として認められる

解答:d

******

Q50 誤っているものを選べ.
a)× 腹水の存在はたとえ少量でも病的所見である
b)○ 子宮体癌の筋層浸潤の程度は,X 線CT よりもMRI の方が診断精度が高い
c)○ 子宮頸癌は,X 線CT では患部と正常頸管筋層に濃度差がなく描出が困難である
d)○ X 線CT では,卵巣腫瘍内の隔壁や充実成分の有無は造影により明瞭となる
e)○ X 線CT では,腹腔内播種やリンパ節転移,肝転移も造影検査が有用で,かつ水腎症の有無を含めて一度に検査できる利点がある

解答:a


婦人科疾患のMRI診断

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

MRI の安全性

MRI の強い静磁場や変動磁場が生体に与える影響については、これまでの研究により安全性は確立されているが、胎児への影響については未解決の部分があり、妊娠初期の女性への適用はできるだけ避けるべきである。National Radiological Protection Boardのガイドラインによると、MRI が胎芽に対してはっきりとした障害があるという証拠はないものの、1st trimester における使用は控えるべきであると勧告している。現時点では無侵襲でリアルタイムに胎児を観察できる超音波断層法が胎児診断のfirst choiceであるが、胎児疾患によりMRI の方がより多くの情報が得られる場合もある。妊娠中のMRI の適応は、胎児奇形、母体の腫瘤性病変、前置胎盤のうち、超音波診断では確診できない場合で、なおかつ2nd trimester 以降に限られる。

また、誤作動の可能性がある、心臓ペースメーカー使用者や電気的人工臓器使用者のMRI 検査は禁忌である。さらに、危険で禁忌なものとして,脳動脈瘤のクリップ(非磁性体のクリップは除く)の使用者や眼球内金属異物の使用者がある。

MRIの基礎知識

MRI は生体内の水の水素原子(プロトン)の分布とその状態を画像化したものである。

変動磁場を加えることにより、静磁場と直角な方向に倒れた生体内の水のプロトンがつくるベクトルがふたたび静磁場の方向にもどっていく過程が緩和現象であり、縦磁化の回復(縦緩和)と横磁化の消失(横緩和)から成る。この過程はいずれも指数関数的に表現でき、それぞれの時定数をT1およびT2と定義している。また、核磁気共鳴信号からMRI画像を構成するためには何百回も励起を繰り返して信号を収集する必要があり、この繰り返し時間をTR と呼ぶ。また、プロトンが励起されてから信号が得られるまでの時間をエコー時間(TM)と呼ぶ。

T1時間はTR だけに、T2時間はTE だけに影響を受けており、T1 強調画像はTR の短縮により、T1 コントラストを強調し、TE の短縮によってT2 値の影響を少なくする。同様に、T2 強調画像はTE の延長により、T2 コントラストを強調し、TR の延長によってT1値の影響を少なくする。よって、T1値が大きい組織はより信号が弱く、MRI 画像(T1強調画像)上はより黒くみえ、T2 値が大きい組織はより強い信号を出し、MRI 画像(T2強調画像)上はより白くみえる

一般的には皮質骨はプロトンに乏しいので、いずれの画像でも低信号となり、黒くみえる。水はT1 値、T2 値ともに非常に長いので、T1 強調画像では黒く、T2 強調画像では白くみえる。脂肪はT1 値が短く、T1 強調画像で白くみえるが、水よりはT2 値が短く、T2強調画像では灰白色にみえる。血液は経時的に多彩な変化を示し、信号強度も経時的に変化するが、子宮内膜症性嚢胞などにみられる亜急性期の血腫ではT1 強調画像、T2 強調画像のいずれにおいても高信号となり、白くみえる。もっと古い血腫となると、粘稠となり、T2 強調画像で黒くなり、shading と呼ばれる。また、出血が組織に吸収されるとヘモジデリンとなりT2 値が短縮し、T2 強調画像で黒くなってくる。

婦人科疾患のMRI

1.婦人科疾患の診断のための標準的なMRI 撮像法

婦人科疾患のMRI はspin echo 法を標準として、T1 強調画像、T2 強調画像の撮像が基本であり、横断像・矢状断像・冠状断像などの断面は症例に適したものを適時応用する。また、出血と脂肪組織の鑑別のために脂肪抑制法を併用することが多く、Gd-DTPA 造影を行う場合も、脂肪抑制法を併用するとよい。子宮体癌の広がりの診断と卵巣腫瘍の良悪性の鑑別にはGd-DTPA 造影を行うべきである。一般的にT1強調画像、T2 強調画像でともに不均一な高信号があり、 Gd-DTPA 造影でも不均一な造影効果が認められれば、悪性病変を疑う。Gd-DTPA 造影の注意点としては気管支喘息患者には禁忌であり、造影剤は乳汁中に分泌されるため、投与後24時間は授乳を避けることが望ましい。

2.子宮・卵巣・卵管の正常構造の同定

T1 強調画像では子宮、卵巣ともに均一な低信号を示し、層構造や内部構造は認識できないので正常構造の同定にはT2 強調画像が基本となる。以下、次の順序で正常臓器をT2強調画像により同定していく。

1)子宮体部

矢状断像で高信号の子宮内膜、低信号のjunctional zone、中等度信号の子宮筋層の3 層構造を確認する。なお、小児や閉経後女性では子宮内膜やjunctional zoneは同定しにくい。

2)子宮頸部

低信号の頸部間質と高信号の頸管上皮および粘液の2 層構造を確認する。横断像で高信号の領域を低信号のstromal ring が全周を取り囲む像を確認する。

3)卵巣

子宮体部のレベルの横断像を用い、外腸骨動・静脈の背側に認められる低信号の間質と、高信号の卵胞より成る構造を確認する。性成熟期の女性、特に20~30代ではほぼ100%で同定できるが、小児や閉経後女性では同定が困難である。

4)卵管

正常卵管は描出されない。

3.よく遭遇する疾患

A)子宮の疾患

1)子宮筋腫

他の画像診断よりもMRI が有用であり、正確に大きさ、数、位置、種類が診断可能である。典型的な子宮筋腫はT1 強調画像で子宮筋層と等信号、T2強調画像で子宮筋層よりも低信号を示す境界明瞭な腫瘤として認められる。Gd-DTPA 造影では子宮筋層と同等か、それ以上の造影を受けるものが多い。また,筋腫の周囲に発達した流入血管が無信号域としてみられるsignal void も特徴の一つである。しかし,実際の子宮筋腫は、さまざまな程度の変性をきたしており、T2 強調画像での信号は一定でない。一般的に変性のない領域は低信号を保つが、浮腫や嚢胞変性では、信号が上昇し、ヒアリン変性が生ずると、信号が低下する。これらの変化が同一筋腫のなかに混在する像も数多く認められる。これらの子宮筋腫の変性の有無と種類を推測するためにはGd-DTPA 造影との組み合わせが役立ち、GnRH analog 療法の治療効果の判定に利用可能である。

子宮筋腫との鑑別を要するものとして、平滑筋肉腫があるが、MRI での鑑別は困難である。平滑筋肉腫は出血壊死を伴うことが多く、Gd-DTPA 造影T1 強調画像で不均一な造影効果が認められれば平滑筋肉腫を疑う。

2)子宮腺筋症

T2 強調画像でjunctional zone の肥厚やjunctional zone に連続する境界不明瞭な低信号域が認められる場合、子宮腺筋症を疑う。この境界不明瞭なびまん性に不均一な低信号域の内部に数mm 大の点状の高信号が多発することがあり、増生した異所性内膜組織やその内部への出血が考えられる。これらの点状の高信号の数が多いほど月経痛が強いものと推測される。また、本疾患は子宮内膜症と高率に合併するため、本疾患が疑われる場合には、卵巣および腹膜の子宮内膜症病変の有無にも注意することが肝要である。

3)子宮体癌

MRI では子宮体癌は子宮内膜の肥厚として認められ、性成熟期婦人においては10mm、閉経後婦人では5mm を越える場合、異常と考える。腫瘍はT2 強調画像で、正常内膜と同等の高信号を示すことが多いが、中等度から低信号を示すこともあり注意を要する。しかし、子宮筋腫のように辺縁明瞭な限局性腫瘤とはならず、腫瘍のGd-DTPA 造影効果は正常内膜や正常筋層よりも弱い。子宮体癌は子宮内膜増殖症、子宮内膜ポリープ、子宮粘膜下筋腫との鑑別が求められるが、これらの病変はいずれも正常子宮筋層と同等かそれ以上の造影効果を受けるものが多い。また、子宮内腔に貯留した液体や血液(子宮留水症、留血症)はGd-DTPA 造影効果を受けないので、腫瘍との鑑別は容易である。

MRI は腫瘍の筋層浸潤の評価に役立つ。すなわち、T2 強調画像でjunctional zone が全周にわたって保たれている場合は筋層浸潤はないが、junctional zone に断裂を認める場合は筋層浸潤ありとする。しかし、閉経後でjunctional zone が認められない場合の診断はGd-DTPA 造影T1 強調画像を用い、淡く造影される腫瘍と、強く造影される正常子宮筋層との境界を目安として、筋層浸潤を診断する。

4)子宮頸癌

腫瘍はT2 強調画像で高信号を示し、低信号を示す頸部間質と容易に区別可能である。腫瘍径が10mm 以上あれば容易に診断できる。通常のGd-DTPA 造影にて腫瘍は淡く造影されるが、頸部間質組織との造影度の差がなく、診断能の向上は得られない。

しかし、dynamic法で造影を行えば腫瘍が早期濃染され、頸部間質は淡く造影され、コントラストが明瞭となり、診断に寄与しうる

MRI は腫瘍が頸部を越えて広がっているかどうかの評価に役立つ。すなわち、T2強調画像でstromal ring の断裂の有無を確認する。断裂が認められる場合、そこより腫瘍が頸部を越えて浸潤していることが判る。

5)子宮奇形

双角子宮はT2 強調画像でそれぞれの内腔がjunctional zone と高信号の子宮筋層により囲まれて認められるが、子宮中隔は内腔を分離する低信号帯として描出されるにすぎない。

B)卵巣の疾患

卵巣の疾患の診断にあたっては、まず、T1 強調画像をみて、高信号を示すか否か。次に、T2 強調画像をみて病巣が嚢胞性か充実性かで鑑別を進めるのがよい。この時、Gd-DTPA 造影は必須である。

1)T1 強調画像で高信号を示す卵巣疾患

a)子宮内膜症性嚢胞

MRI で特異的に診断可能なものの一つである。子宮内膜症性嚢胞の内容物は亜急性期の血液が多く、T1、T2 強調画像いずれにしても高信号となるのが特徴である。慢性期の血液が混在する場合には、T2 強調画像で高信号のなかに低信号が混じった像(shading)が認められる。また、複数の小嚢胞が認められるのも特徴である。病巣は卵巣のほか、卵管、ダグラス窩、子宮表面、仙骨子宮靭帯など広く骨盤内に好発する。脂肪抑制法併用T1 強調画像では径2mm 大の小病巣の検出も可能である。

子宮内膜症性嚢胞とMRI 上で鑑別困難なものとして、出血黄体があることを念頭に入れておく必要がある。

また、子宮内膜症性嚢胞に、類内膜癌や明細胞癌といった卵巣悪性腫瘍を合併することがあるので嚢胞内部に充実性構造が疑われる場合は、卵巣腫瘍のMRI 診断に準じて、Gd-DTPA 造影を追加し、評価することが望ましい。

b)奇形腫

T1強調画像で高信号を示し、脂肪抑制法で信号が抑制されれば、脂肪成分を含む卵巣腫瘍で大部分は成熟嚢胞奇形腫である。内部に水様内容液を含むものでは、水様内容液が背側、脂肪成分が腹側に分離して液面を形成し、その液面との境界にchemical shift artifactがみられ、hair ball が界面に浮遊する独特の像を示す。脱落上皮や変性成分によりdebris、protrusion と呼ばれる充実性、結節性の構造を認めることも多く、この部分に弱い造影効果をみることもある。未熟嚢胞奇形腫は脂肪の分布が成熟奇形腫とは異なり、さまざまな信号強度の混ざる小さな嚢胞の集簇が認められ、この部分は比較的強い造影効果を受けることが多い。成熟嚢胞奇形腫の約2%に悪性転化があり、特に閉経後にみられる10cm 以上の大きな腫瘍は注意を要する。

2)T1 強調画像で高信号を示さない卵巣疾患

a)良性嚢胞性腫瘍

漿液性嚢胞腺腫は境界明瞭な薄い壁をもつ単房な腫瘤として認められ、内部は水と同等の信号を呈する。したがって、T1 強調画像で低信号、T2 強調画像で高信号の均一画像が多い。また、造影では嚢胞壁のみ造影される。

ムチン性嚢胞腺腫は多房性で内部は蛋白含有量の多い液体でT1 強調画像で水よりも高信号を示す。蛋白の濃度差により、各々の胞によって内部の信号が異なり、ステンドグラス状となる場合がある。

b)良性充実性卵巣腫瘍

腫瘍の全体が充実性である場合、線維腫を疑う。線維腫はT1、T2 強調画像でいずれも均一な低信号を示す境界明瞭な腫瘤として認められ、信号強度は子宮筋腫に類似する。

c)嚢胞性と充実性部分の混在した腫瘍

一般的に腫瘤がT2 強調画像で嚢胞性部分と壁在する充実性部分より成り、充実性部分はGd-DTPA 造影T1 強調画像で不均一な造影効果を受ける場合、卵巣癌が最も疑われる。

MRI での卵巣癌の診断基準
主所見

 嚢胞性構造と充実性構造の混在
 壁/隔壁の不規則な肥厚、壁在結節の存在
 腫瘍内の壊死、出血の存在
 内部構造の不均一な造影効果の存在
随伴所見
 生理的範囲を逸脱した腹水の存在
 リンパ節腫大
 腫瘍周囲への浸潤傾向
 腹膜,腸間膜,大網への播種

上の表のような所見が認められる場合、悪性卵巣腫瘍の可能性が高い。

なお、リンパ節腫大はT1 強調画像で同定するのが基本である。

****** 問題と解答

Q51 MRI の絶対的禁忌として正しいものを選べ。
a)○心臓ペースメーカー使用者
b)×妊娠
c)○脳動脈瘤クリップ使用者
d)○眼球内金属異物の使用者
e)×人工骨頭使用者

解答:a、c、d

誤作動の可能性がある、心臓ペースメーカー使用者や電気的人工臓器使用者のMRI 検査は禁忌である。さらに、危険で禁忌なものとして,脳動脈瘤のクリップ(非磁性体のクリップは除く)の使用者や眼球内金属異物の使用者がある。

妊娠中のMRI の適応は、胎児奇形、母体の腫瘤性病変、前置胎盤のうち、超音波診断では確診できない場合で、なおかつ2nd trimester 以降に限られる。

******

Q52 正しいものを選べ.
a)○MRI は生体内の水の水素原子(プロトン)の分布を画像化したものである
b)×MRI に用いる静磁場の強さは地磁場の約1,000倍である
c)○大部分の病変において、T1 値は正常組織より延長する
d)×T2 強調画像ではT2 値が長いほど低信号となる
e)×漿液性嚢胞腺腫のT1 値、T2 値は、いずれも正常卵巣実質組織のそれより短い

解答:a、c

b)現在臨床で使用されているMRIの静磁場は、0.2~1.5テスラ(2000~15000ガウス)で、地磁場は0.5ガウスである。従って、MRIで用いる静磁場の強さは地磁場の4000~30000倍である

d)T1値が大きい組織はより信号が弱く、MRI 画像(T1強調画像)上はより黒くみえ、T2 値が大きい組織はより強い信号を出し、MRI 画像(T2強調画像)上はより白くみえる

e)漿液性嚢胞腺腫は境界明瞭な薄い壁をもつ単房な腫瘤として認められ、内部は水と同等の信号を呈する。したがって、T1 強調画像で低信号T2 強調画像で高信号の均一画像が多い。また、造影では嚢胞壁のみ造影される。

水はT1 値、T2 値ともに非常に長いので、T1 強調画像では黒く、T2 強調画像では白くみえる。

******

Q53 誤っているものを選べ.
a)○X 線被曝はまったくない
b)×妊娠初期の婦人に行っても問題ない
c)×MRI の長所の一つは検査時間がCT スキャンより短いことである
d)○成熟奇形腫の診断についてはCT スキャンの方が優れている
e)○MRI は任意の断層面が撮影でき,病巣をさまざまな方向から検討できる

解答:b、c

b)National Radiological Protection Boardのガイドラインによると、MRI が胎芽に対してはっきりとした障害があるという証拠はないものの、1st trimester における使用は控えるべきであると勧告している。

c)MRI の短所の一つは検査時間がCT スキャンより長いことである

******

Q54 誤っているものを選べ.
a)×子宮,卵巣の正常構造の同定にはT1 強調画像が基本となる
b)○子宮腺筋症は造影しなくても診断が可能である
c)×T1 強調画像で高信号を示す卵巣病変は出血性嚢胞や内膜症性嚢胞がある
d)×典型的な子宮筋腫はT1、T2 強調画像で境界明瞭な高信号腫瘤として認められる
e)×子宮筋腫と平滑筋肉腫との鑑別がMRI で容易となった

解答:a、c、d、e

a)子宮,卵巣の正常構造の同定にはT2 強調画像が基本となる。T1 強調画像では子宮、卵巣ともに均一な低信号を示し、層構造や内部構造は認識できない。

b)T2 強調画像でjunctional zone の肥厚やjunctional zone に連続する境界不明瞭な低信号域が認められる場合、子宮腺筋症を疑う。この境界不明瞭なびまん性に不均一な低信号域の内部に数mm 大の点状の高信号が多発することがあり、増生した異所性内膜組織やその内部への出血が考えられる

c)T1 強調画像で高信号を示す卵巣疾患:子宮内膜症性嚢胞、出血黄体奇形腫

d)典型的な子宮筋腫はT1 強調画像で子宮筋層と等信号(低信号)、T2強調画像で子宮筋層よりも低信号を示す境界明瞭な腫瘤として認められる。

e)子宮筋腫との鑑別を要するものとして、平滑筋肉腫があるが、MRI での鑑別は困難である。平滑筋肉腫は出血壊死を伴うことが多く、Gd-DTPA 造影T1 強調画像で不均一な造影効果が認められれば平滑筋肉腫を疑う

******

Q55 正しいものを選べ.
a)×正常卵巣の同定は性成熟期の女性では約70%に可能である
b)○卵巣の線維腫および莢膜細胞腫の信号は子宮筋腫に類似する
c)×子宮体癌はT1 強調画像で、正常子宮内膜と同等の高信号を示すことが多い →低信号
d)○子宮体癌の造影効果は正常子宮内膜、正常子宮筋層よりも弱い
e)○子宮頸癌はT2 強調画像で高信号を示し、低信号を示す頸部間質と区別可能である

解答:b、d、e

a)性成熟期の女性、特に20~30代では、正常卵巣はほぼ100%で同定できるが、小児や閉経後女性では同定が困難である。

c)T1 強調画像では子宮、卵巣ともに均一な低信号を示し、層構造や内部構造は認識できない。

MRI では子宮体癌は子宮内膜の肥厚として認められ、性成熟期婦人においては10mm、閉経後婦人では5mm を越える場合、異常と考える。腫瘍はT2 強調画像で、正常内膜と同等の高信号を示すことが多いが、中等度から低信号を示すこともあり注意を要する。


外陰の腫瘍・類腫瘍

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

(1) 外陰原発の悪性腫瘍

外陰に原発する悪性腫瘍の発生頻度は全女性性器癌の約4%とされる。すなわち女性人口100万人当たりの年間発生数が10例前後と推定される比較的まれな疾患である。

外陰悪性腫瘍の組織型は、扁平上皮癌がその大部分を占め、悪性黒色腫がそれに次ぐ。

扁平上皮癌 Squamous cell carcinomaは、角化型 Keratinizing、非角化型 Nonkeratinizing、類基底細胞型 Basaloid、疣状型 Verrucous、湿疣型(コンジローマ様癌) Warty (condylomatous)、その他 Othersに分類される。このうち類基底細胞型、湿疣型は、ヒトパピローマウイルス16型との関連が指摘されている。

臨床進行期分類として国際産科婦人科連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics: FIGO)の分類が使われている。

ちなみにFIGOのAnnual reportでの5年生存率は、Ⅰ期69.4%、Ⅱ期48.8%、Ⅲ期31.7%、Ⅳ期12.6%である。

外陰悪性腫瘍の組織型と頻度
組織型               %
扁平上皮癌 Squamous    86.2
悪性黒色腫
Melanoma      4.8
肉腫 Sarcoma          2.2
基底細胞癌 Basal cell     1.4              
バルトリン腺癌
Bartholin gland carcinoma
   扁平上皮癌 Squamous     0.4 
   腺癌 Adenocarcinoma      0.6
腺癌 Adenocarcinoma            0.6
未分化癌 Undifferentiated     3.9

******

外陰癌の進行期分類

1994年FIGO進行期分類

0期:上皮内癌

Ⅰ期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍。リンパ節転移はない。
 Ⅰa期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍で、間質浸潤の深さが1mm以下のもの※。
 Ⅰb期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍で、間質浸潤の深さが1mmを超えるもの。
 ※浸潤の深さは隣接した最も表層に近い真皮乳頭の上皮間質接合部から浸潤先端までの距離とする。

Ⅱ期:外陰および/または会陰のみに限局した最大径2cmを超える腫瘍。リンパ節転移はない。

Ⅲ期:腫瘍の大きさを問わず、
(1) 隣接する下部尿道および/または膣または肛門に進展するもの。
  および/または
(2) 一側の所属リンパ節転移があるもの。

 所属リンパ節:大腿リンパ節鼠径リンパ節

Ⅳa期:腫瘍が次のいずれかに浸潤するもの:
上部尿道、膀胱粘膜、直腸粘膜、骨盤骨および/または両側の所属リンパ節転移があるもの。

Ⅳb期:骨盤リンパ節を含むいずれかの部位に遠隔転移があるもの。

******

TNM分類

T- 原発腫瘍
 TX  原発腫瘍の評価が不可能
 T0  原発腫瘍を認めない
 Tis  上皮内癌(浸潤前癌)
 T1  外陰/会陰に限局し、最大径が2.0cm以下
  T1a 間質性浸潤が1.0mm以下
  T1b 間質性浸潤が1.0mmを超える

 T2  外陰/会陰に限局し、最大径が2.0cmを超える
 T3  次のいずれかに浸潤:下部尿道肛門
 T4  膀胱粘膜直腸粘膜上部尿道恥骨

N- 所属リンパ節
 NX  所属リンパ節転移の評価が不可能
 N0  所属リンパ節転移なし
 N1  片側の所属リンパ節転移
 N2  両側の所属リンパ節転移

 所属リンパ節:大腿リンパ節鼠径リンパ節

M- 遠隔転移
 MX  遠隔転移の評価が不可能
 M0  遠隔転移なし
 M1  遠隔転移あり(骨盤リンパ節転移を含む) 

******

病期分類

0期  Tis  N0  M0
Ⅰ期  T1  N0  M0
ⅠA期  T1a  N0  M0
ⅠB期  T1b  N0  M0
Ⅱ期  T2  N0  M0
Ⅲ期  T1  N1  M0
     T2  N1  M0
     T3  N0, N1  M0
ⅣA期  T1  N2  M0
      T2  N2  M0
      T3  N2  M0
      T4  Nに関係なく  M0

ⅣB期  T、Nに関係なく  M1

****** 

治療:治療の基本は手術療法であるが、術式については原発巣の摘出方法、リンパ節の郭清範囲によってバリエーションがある。

高齢者が多いため全身状態が不良で手術に適さないこともあり、そのような場合には放射線療法や化学療法、あるいは両者の併用療法が考慮されるが、手術なしではいずれも根治の可能性は低いと考えられる。

Ⅰa 期については鼠径リンパ節転移はないと考えられ、最低1cm 以上病変から離れて切除する根治的外陰部分切除術のみでよいと考えられる。

Ⅰb 期では根治的外陰部分切除術+病変側の鼠径リンパ節郭清術を基本とする。ただし,病変が正中から1cm 以内の場合や、郭清した片側のリンパ節転移が陽性だった場合には両側の郭清を施行する。

Ⅱ期については現在のところこれまで通り広汎外陰切除術+両側鼠径リンパ節郭清が基本と考えられるが、病変が片側に限られる場合には根治的外陰部分切除術と片側のリンパ節郭清術で根治可能としている報告もみられる。

Ⅲ期以上の進行例に対しては病変の完全切除が可能と考えられる場合には広汎外陰切除術および周辺臓器の部分切除さらには骨盤内臓全摘術まで施行する場合もあるが、手術侵襲が大きくなるためにその適応は限定される。このような症例に対し術前に放射線治療、あるいはフルオロウラシル(5-FU)+マイトマイシンC(MMC),5-FU+シスプラチン(CDDP)を併用した化学放射線療法、ブレオマイシン(BLM)を中心とした化学療法を施行してから手術をする試みもなされてきている。

術中の迅速診断にて鼠径リンパ節転移が陽性と診断された場合には、骨盤内リンパ節郭清術を施行せずに鼠径部および骨盤部に放射線療法の追加が勧められる。ただしリンパ節転移が1 個しか認めなかった場合には後療法をせずに慎重な経過観察のみとするという意見もある。

(2) 外陰・腟の悪性黒色腫

外陰・腟に発生する悪性黒色腫は早期に転移を起こしやすく5年生存率も21.7~54%と不良である。

好発部位は大陰唇陰核で特徴的な色素性病変を視認できる。

確定診断には可能な限り病変部の全摘が勧められる。なお現在ではその後のすみやかな手術が可能であれば生検は禁忌とはされていない。

病理診断として、免疫組織染色にてS-100NSEHMB-45などが陽性となり、鑑別に有用である。

治療としては、Ⅰ期では根治的外陰部分切除でも可能と考えられるが、Ⅱ期以上の症例に対して広汎外陰切除、鼠径リンパ節郭清が施行されることが多い。術後の補助療法としてDAVFeron(塩酸ビンクリスチン:VCR、塩酸ニムスチン:ACNC、ダカルバジン:DTIC、インターフェロン:IFN-β)療法などが行われる。

(3) 外陰上皮性腫瘍 vulvar intraepithelial neoplasia: VIN

外陰上皮内腫瘍(VIN)の罹患者数は増加傾向にあり、かつ若年化が世界的に傾向として認められている。

VIN の50~80%にHPV が検出される

VIN1、VIN2、VIN3と3段階に分類される。

Bowen病(Bowen disease):VIN3で基底細胞類似のタイプ。

VIN は多中心性に病変が生じることが多く、腟や子宮頸部にも同様に扁平上皮病変を認める場合が多い。そのために外陰掻痒感、疼痛などを訴えて来院した患者に対する注意深い視診が最も重要である。

VIN は白色、赤色、褐色の平坦または丘疹状に隆起した限局性の病変として認められる。最終診断は組織診によらねばならず積極的な生検が必要である。浸潤をみるためにもメスやKeyes dermatological punch などを用いて皮下組織まで採取するように心掛ける。この際,トルイジンブルーによる染色や酢酸加工した外陰のコルポスコープによる観察も有用である。

VIN1、VIN2では厳重な経過観察も可能であるが、VIN3では外科的切除が基本である。病変が限局している場合には広い局所切除とし、多発性で病変が広範囲に及ぶ場合には単純外陰切除術が確実な方法である。若年者に対しては美容面も考慮し皮下組織を温存して表皮を切除(skinning vulvectomy)し、中間層植皮を併用する手術法も行われている。多発性の病変に対してはCO2レーザーによる蒸散も有効とされているが、美容面では優れているものの確定診断がつかず、浸潤癌の除外など治療前の診断を慎重にすべきである。

(付) Bowen様丘疹症 Bowenoid papulosis
 
若年者に好発する色素沈着を伴った丘疹である。Bowen病と同様の組織像を示すにもかかわらず自然消退することが知られている。HPV16型が関与しているとされる。進行する例もあるともいわれていることから臨床的にはVIN3として取り扱う

(4) Paget病
Paget病は乳腺に好発し、乳腺外に発生したものは乳腺外Paget病と一括される。乳腺外Paget病のなかでは外陰が最も好発部位である。Paget病は通常は扁平上皮に限局する異型腺細胞からなる癌であるが、10~20%には浸潤性腺癌を合併する。若年者はまれで閉経後に好発する。

掻痒感、疼痛などを訴えて受診することが多い。発生は多中心性と考えられるが、受診時には癒合した広い病変として認められ、湿疹様の紅斑に鱗屑(りんせつ)、白斑などを伴うことが多い。湿疹や接触性皮膚炎、カンジダ外陰炎と間違えやすく、難治性の湿疹様の病変に対しては積極的に生検を施行し、確定診断をつけることが勧められる。

病理組織学的診断では、淡明な細胞質をもったPaget細胞を表皮内に認める。毛包、皮脂腺、汗腺などの皮膚付属器を侵襲する像を認めることもある。Paget細胞は免疫染色でCEAEMA低分子ケラチンが陽性で、悪性黒色腫などとの鑑別に有用である。

治療としては、表皮内に留まった病変に対しては健常な皮膚を含めた局所切除が選択される。病変が広ければ単純外陰切除術を施行する場合もある。術前の腫瘍周囲からの多数の生検により切除範囲を決めるか、切除断端を術中迅速診断して腫瘍の残存の有無を調べることが必要である。浸潤した腺癌を合併する場合には通常の外陰癌と同様に扱う

Paget病では乳癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌などの他臓器の癌を重複する場合が多いとも言われ、検索が必要である。

(5) 尖形コンジローマ
外陰、腟、子宮腟部などの外性器に発生する乳頭状、鶏冠状の隆起性病変で、性感染症の一つである。HPV 6型、11型が関与するとされる。発生、発育には宿主側の免疫状態も強く関与するとされ、免疫の低下している妊娠中や移植手術後、担癌、糖尿病の患者では病変が発症しやすく増悪する傾向がある。

特徴的な肉眼所見から診断は容易であるが、VINとの鑑別が問題となる場合もあり確定診断には全層を含めた生検が必要である。組織学的所見では有棘細胞層の肥厚、表層細胞の角化、錯角化などを認める。表層上皮細胞のkoilocyte(細胞の核周囲が広く、空洞状に抜けて見える)は特徴的である。

内科的治療法としては、ポドフィリン5-FU軟膏ブレオマイシン軟膏などがある。外科的治療としては、レーザーによる蒸散や切除、電気焼灼などがある。性感染症でありパートナーの診断、治療も必要である。


腟の腫瘍

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

(1) 腟原発の悪性腫瘍

原発性の腟悪性腫瘍の頻度は全女性性器癌の約1~2%といわれ、婦人科悪性腫瘍の中でもまれな疾患の一つである。分類の前提として、腟病変が子宮腟部を侵しかつ外子宮口に及ぶものは子宮頸癌に、外陰を侵すものは外陰癌にそれぞれ分類される

好発部位は腟の上部1/3であるが、腟からのリンパの流れが複雑であるために、原発腫瘍の発生部位によって所属リンパ節が異なるので注意を要する。

所属リンパ節
腟の上部2/3の場合:骨盤リンパ節
腟の下部1/3の場合:鼠径リンパ節

発生原因については機械的な刺激やHPV との関連性などが報告されている。

腟悪性腫瘍の組織型別頻度では扁平上皮癌が大多数を占めている。

腟悪性腫瘍の組織型別発生頻度
組織型       %
Squamous     85
Adenocarcinoma  6
Melanoma             3
Sarcoma               3
Miscellaneous        3

進行期分類はFIGO(1971)およびUICC(Union Internationale Centre le Cancer)(1992)によって表のように定められている。ちなみに各進行期別の5 年生存率は報告によりばらつきがあるが、Ⅰ期が70~100%、Ⅱ期が50~75%、Ⅲ期が20~50%、Ⅳ期が0~20%程度である。

******

原発性腟癌の進行期分類

T-原発腫瘍
TNM  FIGO
分類  進行期
TX   -   原発腫瘍を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき
T0   -   原発腫瘍を認めない
Tis   0   上皮内癌(浸潤前癌)
T1   Ⅰ   腟に限局する腫瘍
T2   Ⅱ   腟傍組織に浸潤するが、骨盤壁に進展しない腫瘍
T3   Ⅲ   骨盤壁に進展する腫瘍
T4   Ⅳa  膀胱、または直腸の粘膜に浸潤する腫瘍および/または小骨盤を超えて進展する腫瘍   
 注:胞状浮腫のみではⅣ期としない
M1   Ⅳb  遠隔転移

N-所属リンパ節
 NX  所属リンパ節転移の評価が不可能
 N0  所属リンパ節に転移なし 
 N1  骨盤、または鼠径リンパ節転移

腟の上部2/3の場合:骨盤リンパ節
腟の下部1/3の場合:鼠径リンパ節

M-遠隔転移
MX  遠隔転移の評価が不可能
M0  遠隔転移なし
M1  遠隔転移あり

pTNM 術後病理組織学的分類
pT、pN、およびpM分類はTNM分類に準ずる

腟癌のFIGO進行期分類とTNM分類

0期: Tis、N0、M0

Ⅰ期: T1、N0、M0

Ⅱ期: T2、N0、M0

Ⅲ期: T3、N0/N1、M0
      T1/T2、N1、M0

Ⅳa期: T4、any N、M0

Ⅳb期: any T、any N、M1

******

診断
 腟癌では不正出血や血性帯下を訴えて受診することが多い。腟鏡に病変が隠されてしまうこともあり診断の際に注意する。
 基本的には病変部から直視下に生検することによって確定診断をつける。さらに視診(コルポスコピー)、内診、直腸診を行い、また直腸鏡、膀胱鏡も施行し周囲組織への浸潤の程度を評価する。子宮頸癌と同様、DIPなどで尿路系の評価が必要な場合もある。
 所属リンパ節やその他の遠隔転移の評価はCTやMRI、胸部単純X線撮影などの画像診断、鎖骨窩リンパ節などの表在リンパ節の触診で判断する。

治療:
 まれな腫瘍であることからコンセンサスを得られている標準治療はないのが現状であるが、これまでの報告では放射線治療が選択されることが多い。
 Ⅰ期で病変が腟上部に限局した症例や放射線治療後の再発症例、Ⅳa期で膀胱腟瘻を有する症例などでは手術療法の適応となることもある。
 Ⅰ期で手術療法を選択する場合には上部1/3の症例では骨盤リンパ節郭清を含めた広汎子宮全摘術(+腟全摘術)、下部1/3では腟全摘術(+外陰切除術)および鼠径リンパ節郭清術を施行するのが一般的である。
 化学療法についてはCDDP を中心にBLM、VCR、VBL、MMC、MTXなどを組み合わせた多剤併用が報告されているが、現在のところまだ標準治療として確立されたものではない。

(2) 腟上皮内腫瘍( vaginal intraepithelial neoplasia : VAIN)

VAIN はその程度により3 段階(VAIN1、VAIN2、VAIN3)に分類されている。好発部位は腟の上1/3であるが多中心性に発生することが多い。CIN やVIN と互いにしばしば合併して存在するが、その発生率は子宮頸部、外陰に比して低い。

診断:ほとんどが無症状であり、検診の際には扁平上皮系の異常細胞診が出ているにもかかわらず子宮頸部にはっきりとした病変を認めない時などには腟の詳細な観察が必要である。子宮頸部と同様の手技で、コルポスコピーで観察し狙い組織診を施行する。ただし病変が複数存在する場合が多く観察範囲も広いことから子宮頸部よりも難しい。1ヵ所病変をみつけても他に病変はないか腟の全周を根気強く観察することが重要である。ルゴール液を用いたうえでの観察(Schiller テスト)も病変の発見に有効である。

治療:VAIN1、NAIN2であれば経過観察可能と考えられる。VAIN3で単発の病変であれば局所切除可能である.広範囲(多発性)の場合には程度に応じた腟摘出術が必要になるが、レーザーによる蒸散や5-FU 軟膏も有効とされる。ただし保存的治療の際には浸潤癌を術前に否定することが重要である。放射線治療も症例によっては施行されるが治療後の腟の狭小化、再発時の他の治療の困難さなど問題も多い。


外陰・腟の腫瘍・類腫瘍、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Q33 外陰疾患で細胞診が有用なのはどれか。
a)外陰白斑症
b)外陰萎縮症
c)外陰異形成
d)○ 外陰Paget病
e)急性外陰潰瘍

解答:d

d) 細胞像は比較的特徴的で、大型の広い細胞質をもつ異型細胞がシート状の小集団として出現する。核は偏在し、細顆粒状で、肥大した核小体が認められる。ときに細胞封入像や細胞質内メラニン顆粒が認められる。

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Q409 次のうち誤っているものはどれか。
a) ○尖形コンジローマはヒトパピローマウイルスの感染によって発症する
b) ×尖形コンジローマは発癌性ウイルス感染である
c) ○尖形コンジローマは悪性腫瘍ではない
d) ○尖形コンジローマはポドフィリンに良好な感受性がある
e) ○尖形コンジローマは男性パートナーの亀頭に感染することがある。

解答:b

尖形コンジローマの発症には、HPV 6型、11型が関与するとされる。発生、発育には宿主側の免疫状態も強く関与するとされ、免疫の低下している妊娠中や移植手術後、担癌、糖尿病の患者では病変が発症しやすく増悪する傾向がある。

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Q412 腟癌について次の記述で誤っているものを1つ選べ。
a)×腟癌が外子宮口まで及ぶ場合は病変の大きな方を原発とする
b)○腟癌の好発部位は腟の上部1/3である
c)○腟の上部1/3に発生した癌の所属リンパ節は骨盤内リンパ節である
d)○腟悪性腫瘍では扁平上皮癌が多い
e)○腟の上1/3に発生した癌では手術療法も考慮できる

解答:a

a)分類の前提として、腟病変が子宮腟部を侵しかつ外子宮口に及ぶものは子宮頚癌に、外陰を侵すものは外陰癌にそれぞれ分類される。

c)所属リンパ節
腟の上部2/3の場合:骨盤リンパ節
腟の下部1/3の場合:鼠径リンパ節

d)組織型別頻度では、扁平上皮癌が多い(85%)。

e)Ⅰ期で手術療法を選択する場合には、上部1/3の症例では骨盤リンパ節郭清を含めた広汎子宮全摘術(+腟全摘術)を施行するのが一般的である。

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Q413 外陰癌について次の記述で誤っているものを一つ選べ。
a)○外陰癌のほとんどは扁平上皮癌である
b)○Ⅰa期の癌であれば治療は根治的外陰部分切除のみでよい
c)○Ⅰb期であっても病変が正中部に存在する場合には両側の鼠径リンパ節郭清が望ましい
d)×類基底細胞型の扁平上皮癌の大部分でHPV6型が検出される
e) ○両側の鼠径リンパ節に転移のある症例はⅣ期に分類される

解答:d

a)外陰悪性腫瘍の86.2%は扁平上皮癌である。

b)Ⅰa期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍で、間質浸潤の深さが1mm以下のもの。Ⅰa期では鼠径リンパ節転移はないと考えられ、最低1cm以上病変から離れて切除する根治的外陰部分切除のみでよいと考えられる。

c)Ⅰb期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍で、間質浸潤の深さが1mmを超えるもの。Ⅰb期では根治的外陰部分切除術、病変側の鼠径リンパ節郭清術を基本とする。ただし、病変が正中から1cm以内の場合や、郭清した片側のリンパ節転移が陽性だった場合には両側の郭清を施行する

d)類基底細胞型、湿疣型HPV16型との関連が指摘されている。

e)Ⅳa期:腫瘍が次のいずれかに浸潤するもの。上部尿管、膀胱粘膜、直腸粘膜、骨盤骨および/または両側の所属リンパ節転移があるもの。

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Q414 次の記述で誤っているものを一つ選べ。
a)○悪性黒色腫はリンパ節転移を起こしやすい
b)○悪性黒色腫では確定診断のため、術前に生検することがある
c)×悪性黒色腫では免疫染色でCEAが陽性となり有用である
d)○Paget病では主訴として、外陰掻痒感、疼痛が多い
e)○Paget病の手術にあたっては術前に腫瘍周囲の多数の生検が望ましい

解答:c

b)確定診断には可能な限り病変部の全摘が勧められる。なお現在ではその後のすみやかな手術が可能であれば生検は禁忌とはされていない。

c)悪性黒色腫:免疫染色でS-100、NSE、HMB-45などが陽性。
  Paget細胞:免疫染色でCEA、EMA、低分子ケラチンが陽性。

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Q415 次の記述で誤っているものを一つ選べ。
a)○VAINは多中心性に発生することが多い
b)○VAINの診断にはSchillerテストは有用である
c)○VINの発生とHPVとの関連が指摘されている
d)×Bowen様丘疹症は単純外陰切除術が必要である
e)○VIN3ではCO2レーザーによる蒸散も可能である

解答:d

a)VAINの好発部位は膣の上1/3であるが多中心性に発生することが多い。CINやVINと互いにしばしば合併して存在するが、その発生率は子宮頸部、外陰に比して低い。

b)VAINの診断には、ルゴール液を用いた上での観察(Schillerテスト)も病変の発見に有用である。

c)VINの50~80%にHPVが検出される

d)Bowen様丘疹症Bowenoid papulosis:若年者に好発する色素沈着を伴った丘疹である。Bowen病と同様の組織像を示すにもかかわらず自然消退することが知られている。HPV16型が関与しているとされる。進行する例もあるともいわれていることから臨床的にはVIN3として取り扱う

e)VIN3では外科的切除が基本である。病変が限局している場合には広い局所切除とし、多発性で病変が広範囲に及ぶ場合には単純外陰切除術が確実な方法である。多発性の病変に対してはCO2レーザーによる蒸散も有効とされているが、美容面では優れているものの確定診断がつかず、浸潤癌の除外など治療前の診断を慎重にすべきである。

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Q416 尖形コンジローマについての次の記述で誤っているものを一つ選べ。
a)○HPV 6型の感染が関係している
b)○組織診断上、koilocytosisは特徴的な所見の一つである
c)×内科的治療としてコルチコステロイドの外用が有効である
d)○外科的治療としてCO2レーザーによる蒸散も有効である
e)○妊娠中は増悪しやすい

解答:c

a)HPV 6型、11型が関与するとされる。

b)組織学的所見では有棘細胞層の肥厚、表層細胞の角化、錯角化などを認める。表層上皮細胞のkoilocyte(細胞の核周囲が広く、空洞状に抜けて見える)は特徴的である。

c)尖形コンジローマの内科的治療法としては、ポドフィリン、5-FU軟膏、ブレオマイシン軟膏などがある。

e)発生、発育には宿主側の免疫状態も強く関与するとされ、免疫の低下している妊娠中や移植手術後、担癌、糖尿病の患者では病変が発症しやすく増悪する傾向がある。


子宮頚癌、組織分類

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

A.上皮性腫瘍と関連病変

a.扁平上皮病変

 1)扁平上皮乳頭腫squamous papilloma
扁平上皮に異型がなく、線維と血管からなる茎をもつ良性の乳頭状腫瘍である。通常単発性で、子宮腟部あるいはSCJに好発する。HPV感染の所見は認めない。

 2)尖形コンジローマcondyloma acuminatum
乳頭状発育を示し、間質は線維と血管からなる良性腫瘍である。表層の扁平上皮にはHPV 感染の所見がみられ、通常koilocytosisの形態を示す。

 3)異形成-上皮内癌、
   CIN (cervical intraepithelial neoplasia)

異形成は、上皮の各層において細胞成熟過程の乱れと核の異常を示す病変と定義され、上皮内癌の基準を満たさないものとされる。具体的には、極性の消失、多形性、核クロマチンの粗大顆粒状化、核膜不整、異常分裂を含む核分裂像などを認める。その程度によって軽度異形成・中等度異形成・高度異形成に分類されている。

現在ではCIN を3 段階に分けて軽度異形成に相当するCIN1、中等度異形成に相当するCIN2、高度異形成および上皮内癌に相当するCIN3に分類することが国際的に主流となっており、わが国の取扱い規約でもCIN 分類が併記されることとなった。
 a)軽度異形成mild dysplasia(CIN1)
核異型を示すN/C 比の高い細胞が主として扁平上皮の下1/3に存在するが、上2/3は扁平上皮への分化が明瞭に認められる。細胞質は豊富であり、核異型は軽度である。HPV感染による細胞異型であるkoilocytosis は軽度異形成に含まれる。
 b)中等度異形成moderate dysplasia(CIN2)
異形成が上皮の下層2/3にある扁平上皮内病変である。
 c)高度異形成severe dysplasia(CIN3)
異形成が上皮の表層1/3に及ぶ扁平上皮ない病変である。上皮の層形成や極性の乱れは著しいが、完全には失われていない。
 d)上皮内癌carcinoma in situ(CIN3)
癌としての形態学的特徴をもつ細胞が上皮の全層に及ぶものをいう。本病変にはしばしば腺侵襲を伴うが、これは浸潤としない。

 4)微小浸潤扁平上皮癌microinvasive squamous cell carcinoma
微小浸潤癌とは癌細胞の間質内浸潤を組織学的に確認することができ、かつ浸潤の深さが表層基底膜よりも計測して5mm を越えず、またその縦軸方向の広がりが7mm を越えないものをいう。診断は円錐切除術かそれに準じた方法で行う。

 5)扁平上皮癌squamous cell carcinoma
重層扁平上皮に類似した細胞からなる浸潤癌であり,角化傾向を指標にして組織学的にa)角化型b)非角化型とに分類される。両者の鑑別は角化傾向が著明か否かであり、非角化型では角化はあっても単一細胞角化にとどまり角化真珠(癌真珠)は認められない。このほかに特殊型として疣状癌、コンジローマ様癌乳頭状扁平上皮癌リンパ上皮腫様癌がある。

b.腺上皮病変

 1)内頸部ポリープEndocervical polyp
頸管内へ突出し,内頸腺と線維性間質よりなる良性病変をいう.

 2)ミュラー管乳頭腫Mullerian papilloma
単発または多発の乳頭状病変で、ミュラ-管型の円柱上皮が時に扁平上皮化生を伴って細い線維血管性の茎の表面を覆って増殖する病変をいう。

 3)腺異形成glandular dysplasia
扁平上皮病変の異形成に相当するものとして腺異形成がある。核の異常が反応性異型よりも高度であるが、上皮内腺癌の診断基準を満たさない腺上皮の病変をいう。診断は円錐切除術かそれに準じた方法で行う。なお、腺異形成と上皮内腺癌との鑑別が困難な場合は上皮内腺癌として取り扱う

 4)上皮内腺癌adenocarcinoma in situ(AIS)
組織学的に悪性の腺上皮細胞が正常の内頸腺の構造を保ったまま上皮を置換して増殖するが、間質への浸潤を欠くものである。上皮内腺癌は同一腺腔内あるいは一連の被覆上皮内に、非癌円柱上皮と明瞭な境界を形成するという特徴を有する(フロント形成)。診断は円錐切除術かそれに準じた方法で行う。本病変は40~100%と高い確率で扁平上皮の異形成・上皮内癌・微小浸潤癌と共存し、それらの手術摘出検体中に偶然発見されることもある。術前細胞診での診断は困難であることが少なくない。

 5)微小浸潤腺癌microinvasive adenocarcinoma
正常の内頸腺領域に限局し、微小浸潤を示す腺癌である。微小浸潤とは腺癌上皮の間質への芽出を認め、その輪郭が滑らかなものをいう。診断は円錐切除術あるいはそれに準じた方法で行う。扁平上皮病変とは異なり、腺上皮病変では微小浸潤腺癌の細分類は行われない。なお、上皮内腺癌か微小浸潤腺癌かの判定が困難な症例は上皮内腺癌とされる。また、組織学的に明瞭な浸潤腺癌との鑑別が困難な例は浸潤癌とされる

 6)腺癌adenocarcinoma
 a)粘液性腺癌mucinous adenocarcinoma
浸潤腺癌のうち最も頻度の高いものは粘液性腺癌であり、腫瘍の細胞質内に粘液を認めることが特徴である。
  (1)内頸部型endocervical type
内頸粘膜の円柱上皮細胞に類似する粘液性腺癌をいう。さらに腺構造と細胞の分化度によって高分化型中分化型低分化型に分けられる。

また,特殊型として細胞異型や構造異型をほとんど伴わない(a)悪性腺腫adenoma malignum,特異な絨毛構造を有する(b)絨毛腺管状乳頭腺癌villoglandular papillary adenocarcinomaが付記されている。

  (2)腸型intestinal type
腸の腺癌と類似し、杯細胞と時に好銀細胞を伴う粘液性腺癌を指す。

 b)類内膜腺癌endometrioid adenocarcinoma
子宮内膜の類内膜腺癌と同様の組織像を示す腺癌をいう。本腫瘍と子宮内膜癌との鑑別は腫瘍の発生部位および占拠部位である。類内膜腺癌のほとんどは内頸部下端の変換帯に最も深い病変を認めるため、頸管内と体部にまたがる腺癌の場合、頸部の深達度が体部よりも大きければ頸部腺癌と診断する。一方、頸部と体部の境界である子宮峡部に限局して発生する腺癌は子宮体癌に分類される。

 c)明細胞腺癌clear cell adenocarcinoma
主として明細胞あるいはホブネイル細胞からなり、充実性、管状・嚢胞状、乳頭状構造あるいはこれらの組み合わせからなる腺癌である。

 d)漿液性腺癌serous adenocarcinoma

 e)中腎性腺癌mesonephric adenocarcinoma

c.その他の上皮性腫瘍

 1)腺扁平上皮癌adenosquamous carcinoma
腺癌と扁平上皮癌の両成分が移行・混在する癌

 2)すりガラス細胞癌glassy cell carcinoma

 3) 神経内分泌癌neuroendocrine carcinoma
  カルチノイドcarcinoid

  小細胞癌small cell carcinoma


子宮頸癌、進行期分類

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

子宮頸癌臨床進行期分類
(日本産科婦人科学会1997 年,FIGO 1994 年)

0 期:上皮内癌(注1)

Ⅰ期:癌が子宮頸部に限局するもの(体部浸潤の有無は考慮しない)。
 Ⅰa 期:組織学的にのみ診断できる浸潤癌。肉眼的に明らかな病巣はたとえ表層浸潤であってもⅠ b 期とする。浸潤は、計測による間質浸潤の深さが5mm 以内で、縦軸方向の広がりが7mmをこえないものとする。浸潤の深さは、浸潤がみられる表層上皮の基底膜(注2)より計測して5mm をこえないものとする。脈管(静脈またはリンパ管)侵襲があっても進行期は変更しない。
  Ⅰa1期:間質浸潤の深さが3mm 以内で,広がりが7mm をこえないもの。
  Ⅰa2期:間質浸潤の深さが3mm をこえるが5mm 以内で、広がりが7mm をこえないもの。
 Ⅰb期:臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの、または臨床的に明らかではないがⅠ a期をこえるもの。
  Ⅰb1期:病巣が4cm 以内のもの。
  Ⅰb2期:病巣が4cm をこえるもの。

Ⅱ期:癌が頸部をこえて広がっているが、骨盤壁または腟壁下1/3には達していないもの。
  Ⅱa期:腟壁浸潤が認められるが、子宮傍組織浸潤は認められないもの。
  Ⅱb期:子宮傍組織浸潤の認められるもの。

Ⅲ期:癌浸潤が骨盤壁にまで達するもので、腫瘍塊と骨盤壁との間にcancer free space を残さない。または、腟壁浸潤が下1/3 に達するもの。
 Ⅲa期:腟壁浸潤は下1/3 に達するが、子宮傍組織浸潤は骨盤壁にまでは達していないもの。
 Ⅲb期:子宮傍組織浸潤が骨盤壁にまで達しているもの。または、明らかな水腎症や無機能腎を認めるもの。
 注:ただし、明らかに癌以外の原因によると考えられる水腎症や無機能腎は除く。

Ⅳ期:癌が小骨盤腔をこえて広がるか、膀胱、直腸の粘膜を侵すもの。
 Ⅳa期:膀胱、直腸の粘膜への浸潤があるもの。
 Ⅳb期:小骨盤腔をこえて広がるもの。

[注1]FIGO分類の0期には上皮内癌とCIN3が併記してある。
[注2]浸潤の深さについてFIGO分類では腺上皮の基底膜からの計測も併記されている。

分類にあたっての注意事項

(1)臨床進行期分類は原則として治療開始前に決定し、以後これを変更してはならない。

(2)進行期分類の決定に迷う場合には軽い方の進行期に分類する。FIGOでは習熟した医師による麻酔下の診察を勧めている。

(3)進行期決定のために行われる臨床検査は以下のものである。
 a)触診、視診、コルポスコピー、診査切除、頸管内掻爬、子宮鏡、膀胱鏡、直腸鏡、排泄性尿路造影、肺および骨のX 線検査。
 b)子宮頸部円錐切除術は,臨床検査とみなす。

(4)リンパ管造影、動・静脈撮影、腹腔鏡、CT、MRI 等による検査結果は治療計画決定に使用するのは構わないが、進行期の決定に際しては、これらの結果に影響されてはならない。その理由は、これらの検査が日常的検査として行われるには至っておらず、検査結果の解釈に統一性がないからである。
 CT や超音波検査で転移が疑われるリンパ節の穿刺吸引細胞診は、治療計画に有用と思われるが、進行期決定のための臨床検査とはしない。

(5)Ⅰa1期とⅠa2期の診断は、摘出組織の顕微鏡検査により行われるので、病巣がすべて含まれる円錐切除標本により診断することが望ましい。
 Ⅰa期の浸潤の深さは、浸潤が起こってきた表層上皮の基底膜から計測して5mm をこえないものとする。浸潤の水平方向の広がり、すなわち縦軸方向の広がりは7mm をこえないものとする。静脈であれリンパ管であれ、脈管侵襲があっても進行期は変更しない。脈管侵襲や癒合浸潤が認められるものは将来治療方針の決定に影響するかもしれないので別途記載する。
 ただし、子宮頸部腺癌についてはⅠa1,Ⅰa2期の細分類は行わない。

(6)術前に非癌、上皮内癌、またはⅠa期と判断して手術を行い、摘出子宮にⅠa期、Ⅰb期の癌を認めた場合は(1)の規定にかかわらず、それぞれⅠa期,Ⅰb期とする。従来用いられていたⅠb期“occ”は省かれている。

(7)術前に非癌、上皮内癌、またはⅠa期と判断して子宮摘出を行ったところ、癌が子宮をこえて広がっていた場合に従来は一括して“Ch”群としていたが、このような症例は臨床進行期の分類ができないので治療統計には含まれない。これらは別に報告する。

(8)進行期分類に際しては子宮頸癌の体部浸潤の有無は考慮しない。

(9)Ⅲb期とする症例は子宮傍組織が結節状となって骨盤壁に及ぶか原発腫瘍そのものが骨盤壁に達した場合であり、骨盤壁に固着した腫瘍があっても子宮頸部との間にfree space があればⅢ b 期としない。

(10)膀胱または直腸浸潤が疑われるときは、生検により組織学的に確かめなければならない。膀胱内洗浄液中への癌細胞の出現、あるいは胞状浮腫の存在だけではⅣa期に入れてはならない。膀胱鏡所見上、隆起と裂溝が認められ、かつ、これが触診によって腫瘍と硬く結びついている場合、組織診をしなくてもⅣa期に入れてよい。

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TNM治療前臨床分類

1.T:原発腫瘍の進展度
 TX:原発腫瘍が評価できないもの.
 T0:原発腫瘍を認めない.
 Tis:浸潤前癌(carcinoma in situ )

 T1:癌が子宮頸部に限局するもの(体部への進展は考慮に入れない)。
  T1a:浸潤が組織学的にのみ診断できる浸潤癌。肉眼的に明らかな病巣は、たとえ表層浸潤であってもT1b とする。浸潤は、計測による間質浸潤の深さが5mm 以内で、縦軸方向の広がりが7mm をこえないものとする。浸潤の深さは、浸潤がみられる表層上皮の基底膜より計測して5mm をこえないものとする。浸潤の深さは、隣接する最も浅い上皮乳頭から浸潤最深部までを計測する。脈管(静脈またはリンパ管)侵襲があっても進行期は変更しない。
   T1a1:間質浸潤の深さが3mm 以内で、広がりが7mm をこえないもの。
   T1a2:間質浸潤の深さが3mm をこえるが5mm 以内で、広がりが7mm をこえないもの。
  T1b:臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの,または臨床的に明らかではないがT1aをこえるもの。
   T1b1:病巣が4cm 以内のもの。
   T1b2:病巣が4cm をこえるもの。

 T2:癌が子宮頸部をこえるが、骨盤壁には達していないもの。癌が腟に進展しているが、その下1/3には達していないもの。
  T2a:子宮傍結合織浸潤のないもの。
  T2b:子宮傍結合織浸潤を伴うもの。

 T3:癌が骨盤壁に達しているもの。直腸診で腫瘍と骨盤壁の間にcancer free space がない。癌が腟の下1/3を侵しているもの。癌によると思われる水腎症または無機能腎がみられるもの。
  T3a:骨盤壁には進展していないが、腟の下1/3を侵しているもの。
  T3b:骨盤壁に進展しているか、水腎症または無機能腎のあるもの。

 T4:癌が小骨盤腔をこえて進展しているか、膀胱または直腸の粘膜を臨床的に侵しているもの。

 [注1]FIGOの臨床進行期分類(1994 年)では,CINⅢもTis のカテゴリーに含まれている。
 [注2]Tis とT0 を混同しないこと。
 [注3]T0 は臨床所見より子宮頸癌と診断したが、原発巣より組織学的な癌の診断ができないもの(組織学的検索をせずに治療を始めたものを含む)。
 [注4]TX は組織学的に子宮頸癌と診断したが、その進行度の判定が何らかの障害で不可能なもの。

2.N:所属リンパ節

 所属リンパ節は,基靱帯リンパ節,閉鎖リンパ節,外腸骨リンパ節,内腸骨リンパ節,総腸骨リンパ節,仙骨リンパ節である.
 [注]鼠径上リンパ節は所属リンパ節に含める.
 [注]傍大動脈リンパ節はM 分類に入れる.

 NX:所属リンパ節を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき。
 N0:所属リンパ節に転移を認めない。
 N1:所属リンパ節に転移を認める。

3.M:遠隔転移

 MX:遠隔転移の有無を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき。
 M0:遠隔転移を認めない。
 M1:遠隔転移を認める。
 MA:傍大動脈リンパ節に転移を認める。

TNM分類の注意

(1)組織診のないものは区別して記載する。

(2)TNM 分類は一度決めたら変更してはならない。

(3)分類評価の判定には以下の検索が必要である。
  TNM 分類に必要な検査

   T分類:臨床的検索、膀胱鏡、直腸鏡、尿路造影を含む画像診断
   N分類:臨床的検索、尿路造影とリンパ管造影を画像診断
   M分類:臨床的検索、画像診断

(4)判定に迷う場合は進行度の低いほうの分類に入れる。

(5)複数の医師によって麻酔下に内診および直腸診することが望ましい。
近年の画像診断の普及を考慮すると、所属リンパ節転移の検索に対しては
腹部・骨盤CT、MRI、超音波検査などを用いることが望ましい。また、転移が疑われるときは、穿刺吸引細胞診をすることが望ましい。

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pTNM 術後分類

「この分類は治療法が決まるまでの情報を基にし、これを手術所見や治療目的で切除された材料の検索で得られた知見で、補足修正したものである」とTNM 分類総則に記されている。したがって、本来この分類はhistopathological な所見によって規定されているにもかかわらず、postsurgical という概念も加わっているため、切除時、切除後の肉眼所見や触診所見も加えるべきなのか、完全な組織学的検索に基づいた所見のみとすべきかが不明確である。この点を考慮して,日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会では以下のごとき注釈を加えた(pT,pN,pM はそれぞれTNM 分類に準ずる)

 [注1]子宮頸部円錐切除術は原則として臨床検査とみなし、これによる組織検査の結果はTNM 分類に入れ、pTNM 分類には入れない。ただし,臨床検査(狙い組織診、円錐切除診を含む)によって術前に確認された癌が、摘出子宮(治療を目的とした頸部円錐切除を含む)の組織学的検索では認められない場合、あるいは術前のものより軽度の癌しか認められない場合には、pT の記述は術前検査で確認された組織診によることとする。

 [注2]摘出物の組織学的な癌の広がりを検索しないときはX とする。

 [注3]不完全手術または試験開腹に終わり、その際バイオプシー程度の組織検査で癌の広がりを検索した結果、癌が小骨盤腔をこえていない場合はpTX とし、癌が小骨盤腔をこえて認められた場合はpT4 として報告する。またこのような場合のpN についての報告は注4 に準ずる。

 [注4]pN の報告に際して、組織学的検索を行わなかった場合は腫大リンパ節触知の有無を加味した以下の分類細目に従って報告する。

 [pN の分類細目]
組織学的検索を施行しなかった場合
 所属リンパ節に腫大を触知したか否かで以下のごとく記載する.
 所属リンパ節に腫大(-):pNX(0)
 所属リンパ節に腫大(+):pNX(1)
組織学的検索を施行した場合
 所属リンパ節に転移(-):pNR(0)
 [注]pN0 の決定:組織学的検査は骨盤内リンパ節10 個またはそれ以上の個数のリンパ節が通常含まれる。
 所属リンパ節に転移(+):pNR(1)


子宮頸癌、放射線治療

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Ⅰ.はじめに

子宮頸癌に対する放射線療法はほぼ確立されており、手術療法に匹敵する治療成績が得られている。本邦では、臨床進行期Ⅰ期、Ⅱ期といった比較的早期の癌には手術療法が適用されており、Ⅲ期、Ⅳ期といった進行癌には放射線療法が適用されているのが実状である。一方、欧米では、手術可能なⅠ期、Ⅱ期の症例にも積極的に放射線療法が適用されている。

Ⅱ.放射線治療の適応

本邦では、臨床進行期に従って治療法が決定されているのが現状であるが、患者の状態によっては、進行期にかかわらず、放射線治療が第1選択となることもある。

放射線治療を優先する条件
高齢者
高度の肥満がある場合
重篤な合併症を有する場合
手術に対する患者の同意が得られない場合
(手術に対する恐怖,術後合併症に対する不安等)
術者の技術が未熟な場合

手術療法を優先する条件(放射線治療が回避される条件)
① 開腹手術既往、あるいは付属器炎・腹膜炎の既往があり、腹腔内に高度の癒着が予想される場合
② 妊娠を合併している場合
腟萎縮あるいは子宮萎縮が高度で、腔内照射が困難な場合
④ 放射線治療設備が十分でない施設
⑤ 患者が子宮残存を不安がる場合

最終的には、臨床進行期と患者の状態の両者の兼合いで治療法が決定される。

Ⅲ.放射線治療の実際

子宮頸癌の放射線治療は、原則として外部照射(体外照射)腔内照射を併用して行う。

1)外部照射

1.照射範囲は骨盤リンパ節を十分含める。照射は原則として腹背(前後)からの対向2門で実施する。
・腔内照射を効果的にするため、外部照射はできるだけ照射野の中央部を遮蔽した照射法を採用する。この場合、中央遮蔽は、4cm幅(A 点間距離)のものを用いる。
・その中央遮蔽をとれば全骨盤照射の照射野となる.

2.外部照射の治療スケジュールは原則として、週5 回の単純分割照射とし、週間病巣線量を10.0Gy前後とする。病巣総線量は40.0Gy以上を必要とする。
全骨盤照射では1回線量1.8
Gy中央遮蔽による照射では1回線量2.0Gyで照射するのが望ましい。
・例外として、腔内照射のみ、あるいは外部照射(全骨盤)のみで治療することがある。

2)腔内照射

1.腔内照射は原則として、子宮内線源(tandem)腟内線源(ovoid)による照射を併用する。

2.腔内照射は腔内照射可能となった時点で、外部照射期間中のできるだけ早期に開始する。

3.Tandem とovoid は同時に使用されるが、別個に使用されることもある。

4.Tandem 線源は子宮底まで挿入する。

5.Ovoid 線源の線源間隔はできるだけ大きいものを使用する。

6.腔内照射の線源配置は歴史のあるマンチェスター法または類似の方法で治療することが望ましい。
・マンチェスター類似の線源配置とはtandem とovoid の各線源の強さ(放射能と照射時間の積)が同程度のことをいう。

7.腔内照射の病巣線量A 点線量を基準にする。

8.A 点の定義:外子宮口を基準として、前額面上、子宮腔長軸に沿って上方2cmの高さを通る垂線上で、側方に左右それぞれ2cmの点とし、腔内照射の病巣線量の基準点に用いる。
・A 点線量は原発巣の治療量、膀胱・直腸の障害量の指標となる。

9.A 点線量は左右2つあるが、左右差があるときは少ない方の線量を用いる。

10.B 点の定義:骨盤腔内にて、前額面上の左右A 点の中間の高さで正中線より側方5cmの点をいう。
・B 点線量は、骨盤壁への浸潤病巣、骨盤リンパ節に対する治療量の指標となる。

11.腔内照射は治療ごとに線量計算を実施する線源位置確認のX線写真は治療ごとに撮影する。撮影の際、腟内にリングを入れておけば拡大率を計算できる。

12.直腸,膀胱の被曝線量は実測または計算によって求めることが望ましい。

13.高線量率腔内照射の略称はRALS(Remote After Loading System)とする。

14.腔内照射の治療は原則として次のような条件で照射することが望ましい。
RALS 治療では中央遮蔽の外部照射の場合、週1回5.0~6.0Gyで5回照射し、病巣総線量を29.0±3.0Gyとする全骨盤外部照射で20.0~30.0Gy照射された場合は、週1回の腔内照射を4 回実施し、病巣総線量を20.0~25.0Gyとする

低線量率治療では、外部照射が中央遮蔽で実施された場合、週1回の照射で3~4回実施し、病巣総線量を50.0±5.0Gyとする

・腔内照射の病巣総線量を示すときは分割回数を明記する。

3)期別による基準治療法

病巣の大きさ、広がり、病理組織など、個人により病状が異なるので、期別による基準治療法を一律に決めることは難しいが、基本的には下に示した参考例に準じて実施することが望ましい。

標準治療スケジュール(日本)
進行期 外部照射(Gy) 腔内照射(Gy/回、A点線量)
全骨盤 中央遮蔽 高線量率 低線量率
45 ~ 50 29/5 50/4
II 45 ~ 50 29/5 50/4
20 30 23/4 40/3
III 小 ~ 中 20 ~ 30 20 ~ 30 23/4 30/2 ~ 40/3
30 ~ 40 20 ~ 25 15/3 ~ 20/4 30/2 ~ 40/3
IVA 30 ~ 50 10 ~ 20 15/3 ~ 20/4 20/2 ~ 40/3

4)術後照射

1.術後照射とは、手術で肉眼的には病巣が十分切除されているが、顕微鏡的な癌細胞の残存が疑われる場合に行う予防照射のことである。

2.術後照射の適応には次のような症例が考えられる。
a)リンパ節転移陽性例
b)子宮傍組織浸潤例
c)上記以外で原発浸潤の著しい例、または脈管侵襲の認められる例
d)腟壁摘出が不十分と考えられる例

3.術後照射は原則として外部照射で実施する。
全骨盤照射か中央遮蔽かは症例ごとに放射線科医と婦人科医で話し合って決める。
1日1.8~2.0Gy、週5回の照射とし、病巣総線量が40.0~50.0Gy程度になるのが望ましい。
・腟断端部の照射のみが必要なときは、ovoid を使用し、病巣線量の基準は断端粘膜表面から5mmの深さとする。病巣総線量は、低線量率治療で40.0Gy/2分割高線量率治療では24.0Gy/2分割程度が望ましい。

5)傍大動脈リンパ節照射

現状では、照射の意義が確立されているとはいえず、標準的指針はない。原発巣の病期や骨盤内リンパ節転移、脈管侵襲等の有無とその程度を考慮し適応を決定する。

6)子宮頸部腺癌の治療

主として手術療法が選択されるが、手術不能例では、集学的治療の立場から放射線治療を行う。照射方法は扁平上皮癌に準じて行う。

7)高齢者の放射線治療

病期(腫瘍因子)だけでなく、合併症の有無や一般状態(患者因子)を十分に検討し、個別化した治療を行う。

Ⅳ.治療成績

東京女子医科大学および慶應義塾大学医学部の放射線科における子宮頸癌に対する放射線治療の5年生存率をみると、Ⅰ期80~84%Ⅱ期71%Ⅲ期47~53%ⅣA 期12~32%と、手術療法と遜色のない成績が報告されている。

Ⅴ.放射線治療による合併症

放射線治療による合併症には、照射中に出現する急性反応と、照射終了後に出現する晩期合併症がある。急性反応は、通常一過性のものであり、永久的な障害を残すことはないが、照射中に強い急性反応を示した症例は晩期合併症も出現する可能性が高い

急性反応
放射線宿酔
直腸炎、小腸炎症状(下痢、腹痛、嘔吐)
膀胱炎症状
皮膚障害
骨髄抑制

晩期合併症
直腸、S状結腸障害(出血、直腸腟瘻)
小腸障害(腸閉塞,穿孔)
尿路障害(出血,感染,膀胱腟瘻・尿管腟瘻)
外陰,腟障害(狭窄,閉鎖)

放射線治療における合併症の程度による分類
Ⅰ度:一過性障害(合併症)で治療の必要のないもの
Ⅱ度:持続的障害(合併症)で内科的治療を必要とするもの
Ⅲ度:高度の障害(合併症)で外科的処置を必要とするもの
Ⅳ度:障害(合併症)による死亡

Ⅲ度の合併症発生率は約4~11%といわれている。進行癌では照射線量が多くなるため合併症の発生頻度が高くなる。

低線量率照射法と高線量率照射法との間には合併症の発生率に差がないといわれているが、高線量率照射における1回線量が7.0Gyを越えると合併症が有意に増加すると報告されている。至適1回投与量、分割回数については、まだ検討の余地がある。

Ⅵ.化学放射線同時併用療法
  (Concurrent chemoradiation : CCR)

最近、放射線治療成績改善のため、放射線治療に化学療法を組み合わせた方法が試みられている。放射線治療の前に化学療法を行い、腫瘍縮小とともに顕微鏡的遠隔転移病巣の治療を目的としたNeoadjuvant Chemotherapy(NAC)、および化学療法と放射線療法を同時に行うConcurrent Chemoradiation (CCR)がそれである。

NAC後の放射線治療については、メタアナリシスの結果、その効果が否定的な結論となったため、最近は、試みられなくなっている。

一方、CCRは最近盛んに行われており、相次いで、その有効性が報告されている。この方法の利点は以下の通りである。

化学放射線同時療法の利点
① 放射線療法と抗癌剤の相乗効果が期待できる。
② 主治療である放射線治療を早く開始できる。
③ 交叉耐性が出現する余裕を与えずに治療できる。
④ 原発巣と遠隔病変を同時に治療できる。

これらの報告の共通点は、CDDP を用いたCCR によって、放射線単独療法群やCDDP以外の薬剤併用群より有意に高い生存率が得られたということである。米国では、NCIが,CDDP 併用によるCCR を推奨する勧告を出しており、今後、本邦においても、進行頸癌、あるいは再発頸癌の治療において、プラチナ製剤を併用したCCR が主流になると思われる。今後は使用する化学療法の併用薬剤および投与法の検討が必要である。

****** 問題と解答

Q437 子宮頚癌の放射線治療について、誤っているものはどれか。
a)A点線量とは外照射を行う場合の照射線量の目安となるものである
b)B点線量とは骨盤リンパ節への照射線量の目安となる
c)外部照射を行う際に中央遮蔽を入れるのは、膀胱直腸障害を軽減するためである
d)外部照射の治療線量としては、通常、週間病巣線量を10.0Gy前後とし、総線量は40,0Gy以上を必要とする。
e)子宮頚癌の病期によって、照射方法および照射総線量が異なる

解答:a

a)A点の定義:外子宮口を基準として、前額面上、子宮腔長軸にそって上方2cmの高さを通る垂線上で、側方に左右それぞれ2cmの点とし、腔内照射の病巣線量の基準点に用いる。
 A点線量は原発巣の治療量、膀胱・直腸の障害量の指標となる。
 A点線量は左右2つあるが、左右差があるときは少ない方の線量を用いる。

b)B点の定義:骨盤腔内にて、前額面上の左右A点の中間の高さで正中腺より側方5cmの点をいう。
 B点線量は、骨盤壁への浸潤病巣、骨盤リンパ節に対する治療量の指標となる。

c)外部照射の治療スケジュールは原則として、週5回の単純分割照射とし、週間病巣線量を10.0Gy前後とする。病巣総線量は40.0Gy以上を必要とする。

******

Q438 放射線治療に使われる機器の説明について、誤っているものはどれか。
a)RALSとは遠隔操作で腔内照射を行うものである
b)tandemとは子宮腔の長軸に沿って直線的に線源を並べる子宮腔内管をいう
c)ovoidとは左右の腟円蓋部を進展させるように装填される線源支持器をいう
d)線源位置はほとんど変わらないので、確認のX線写真は一度撮影すれば十分である
e)tandemとovoidは別個に用いられることもある

解答:d

a)高線量率腔内照射RALS (Remote After Loading System)

d)線源位置確認のX線写真は治療ごとに撮影する

e)腔内照射は原則として、子宮内線源(tandem)と腟内線源(ovoid)による照射を併用するが、別個に使用されることもある。

******

Q439 子宮頚癌の手術療法と放射線療法の比較について、誤っているものはどれか。
a)肥満の女性に放射線療法は適している
b)高度の糖尿病がある患者には放射線治療が適している
c)高齢の患者には放射線療法が適している
d)腟の狭小な患者に放射線治療は不利である
e)手術の既往や癒着のある症例には放射線療法がよい

解答:e

放射線治療を優先する条件
① 高齢者
② 高度の肥満がある場合
③ 重篤な合併症を有する場合
④ 手術に対する患者の同意が得られない場合
(手術に対する恐怖,術後合併症に対する不安等)
⑤ 術者の技術が未熟な場合

手術療法を優先する条件(放射線治療が回避される条件)
① 開腹手術既往、あるいは付属器炎・腹膜炎の既往があり、腹腔内に高度の癒着が予想される場合
② 妊娠を合併している場合
③ 腟萎縮あるいは子宮萎縮が高度で、腔内照射が困難な場合
④ 放射線治療設備が十分でない施設
⑤ 患者が子宮残存を不安がる場合

******

Q440 子宮頚癌術後照射の適応について、誤っているものはどれか。
a)子宮傍組織浸潤例
b)骨盤リンパ節転移例
c)子宮体部浸潤例
d)子宮頸部筋層内浸潤および脈管侵襲が著しい例
e)腟壁摘出が不十分と考えられた例

解答:c

術後照射の適応
・リンパ節転移陽性例
・子宮傍組織浸潤例
・上記以外で原発浸潤の著しい例、または脈管侵襲の認められる例
・腟壁摘出が不十分と考えられる例

******

Q441 放射線障害について、誤っているのはどれか。
a)放射線治療中に、下痢をきたすことが多い
b)放射線治療中、白血球減少がみられる
c)放射線直腸炎で出血があっても、放射線治療終了後、1年もたてば止血するのが普通である
d)放射線治療終了後、腟が閉鎖することがある
e)放射線治療終了後、1年以上経っても血尿が続くことがある

解答:c

c)照射中に強い急性反応を示した症例は晩期合併症も出現する可能性が高い。

Ⅲ度(高度の障害で外科的処置を要するもの)の合併症発生率は約4~11%といわれている。

急性反応
・放射線宿酔
・直腸炎、小腸炎症状(下痢、腹痛、嘔吐)
・膀胱炎症状
・皮膚障害
・骨髄抑制

晩期合併症
・直腸、S状結腸障害(出血、直腸腟瘻)
・小腸障害(腸閉塞,穿孔)
・尿路障害(出血,感染,膀胱腟瘻・尿管腟瘻)
・外陰,腟障害(狭窄,閉鎖)


子宮頚癌、化学療法

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

子宮頚癌の緩解導入または補助化学療法(例)

BOMP療法:BLM、VCR、MMC、CDDP

BIP療法:BLM、IFM、CDDP

PIP療法:PEP、IFM、CDDP

P-CPT療法:CPT11、CDDP

CPT-11+ネダプラチン療法:CPT-11、254-S

NIP療法:254-S、IFM、PEP

エトポシド単独(経口)療法:ETP


子宮頚癌、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Q427 子宮頚癌Ⅰ期に関して誤っているのはどれか。
a)○Ⅰa期細分類は子宮頸部腺癌には適応されない
b)○Ⅰa期の診断は縦軸方向の広がりに規定される
c)○Ⅰa1期とⅠa2期の診断は、円錐切除標本により診断することが望ましい
d)×組織学的にⅠa2期の診断であっても、脈管侵襲がみられる場合はⅠb期とする
e)○Ⅰa期までの術前診断で摘出子宮にⅠb期の癌を認めた場合Ⅰb期とする

解答:d

a)子宮頸部腺癌についてはⅠa1期、Ⅰa2期の細分類は行わない。

b)Ⅰa期:組織学的にのみ診断できる浸潤癌。肉眼的に明らかな病巣はたとえ表層浸潤であってもⅠb期とする。浸潤は、計測による間質浸潤の深さが5 mm 以内で、縦軸方向の広がりが7 mm をこえないものとする。

c)Ⅰa1期とⅠa2期の診断は、摘出組織の顕微鏡検査により行われるので、病巣がすべて含まれる円錐切除標本により診断することが望ましい。

d)脈管(静脈またはリンパ管)侵襲があっても進行期は変更しない。

e)術前に非癌、上皮内癌、またはⅠa期と判断して子宮摘出を行い、摘出子宮にⅠa期、Ⅰb期の癌が認められた場合には、それぞれⅠa期、Ⅰb期とする

******

Q428 子宮頸部腺癌について正しいのはどれか。2つ選べ。
a)×粘液性腺癌は内頸部型、腸型、類内膜型に分けられる
b)×上皮内腺癌か微小浸潤腺癌か判定が困難な場合、微小浸潤腺癌に分類する
c)×上皮内腺癌では扁平上皮初期病変との共存はまれである
d)○上皮内腺癌の診断には頸部円錐切除術またはそれに準じた方法が望ましいが困難である。
e)○悪性腺腫では、ほとんどの腺は組織学的に正常の内頸腺と区別できない


解答:d、e

a)子宮頸部の浸潤腺癌のうち最も頻度の高いものは粘液性腺癌であり、腫瘍の細胞質内に粘液を認めることが特徴である。内頸部型、腸型に分けられる。

b)上皮内腺癌か微小浸潤腺癌かの判定が困難な症例は上皮内腺癌とされる
 
また、微小浸潤癌と浸潤癌との鑑別が困難な例は浸潤癌とされる

c)上皮内腺癌は40~100%と高い確率で扁平上皮の異形成、上皮内癌、微小浸潤癌と共存し、それらの手術摘出検体中に偶然発見されることもある。

d)上皮内腺癌の術前細胞診での診断は困難であることが少なくない。

e)悪性腺腫では、細胞異型や構造異型をほとんど伴わない

******

Q429 子宮頚癌TNM分類(UICC、1997年)について誤っているのはどれか。
a)○T1は癌が子宮頸部に限局するものである
b)○TNM分類は一度決めたら変更してはならない
c)×所属リンパ節には、傍大動脈リンパ節が含まれる
d)○Nの記載に際し、画像診断を施行しなかった症例についてはNX(0)またはNX(1)と記載する
e)○判定に迷う場合は進行度の低いほうの分類に入れる

解答:c

a)T1:癌が子宮頸部に限局するもの(体部への進展は考慮に入れない)。

c)所属リンパ節は、基靱帯リンパ節、閉鎖リンパ節、外腸骨リンパ節、内腸骨リンパ節、総腸骨リンパ節、仙骨リンパ節、鼠径上リンパ節である。
 
なお、傍大動脈リンパ節はM分類に入れる。
 MA:傍大動脈リンパ節に転移を認める。

d)NX:所属リンパ節を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき。

******

Q430 子宮頸部の扁平上皮病変について誤っているのはどれか。
a)○尖形コンジローマは通常コイロサイトーシスの形態を示す
b)○軽度異形成は異形成が上皮の下層1/3に限局する
c)×上皮内癌で腺侵襲を伴うものは微小浸潤癌とされる
d)○扁平上皮癌の非角化型は角化真珠形成を伴わない
e)○特殊型の一つとして疣状癌がある

解答:c

b)軽度異形成:核異型を示すN/C比の高い細胞が主として扁平上皮の下1/3に存在するが、上2/3は扁平上皮への分化が明瞭に認められる。細胞質は豊富であり、核異型は軽度である。HPV感染による細胞異型であるコイロサイトーシスは軽度異形成に含まれる。

c)上皮内癌:癌としての形態学的特長をもつ細胞が上皮の全層に及ぶものをいう。本病変にはしばしば腺侵襲をともなうが、これは浸潤としない

d)扁平上皮癌の角化傾向を指標として組織学的に角化型、非角化型に分類される。両者の鑑別は角化傾向が著明か否かであり、非角化型では角化はあっても単一細胞角化にとどまり角化真珠(癌真珠)は認められない

e)扁平上皮癌の特殊型として、疣状癌、コンジローマ様癌、乳頭状扁平上皮癌、リンパ上皮腫様癌がある。
 疣(いぼ)状癌:乳頭状外向性増殖を示し、間質浸潤部の先端は膨張性の上皮突起を形成する高度に分化した扁平上皮癌で、角化型の変異型とみなされる。組織学的に異型性は少ない。HPV感染所見はみいだされない。切除後、局所再発することはあるが、通常遠隔転移は形成しない。
 コンジローマ様癌:表面がいぼ状でかつHPV感染所見を伴う扁平上皮癌をいう。

******

Q431 子宮頸癌臨床進行期分類(日産婦1997年、FIGO 1994年)に関して誤っているのはどれか。
a)○臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局し、病巣が4cmをこえるものはⅠb2期となる
b)×膀胱内洗浄液中に癌細胞が出現している場合、Ⅳa期に入れる
c)○子宮頚癌の体部浸潤は進行期に影響しない
d)○原則として治療開始前に決定し、以後これを変更してはならない
e)○進行期分類の決定に迷う場合は軽い方の進行期に分類する

解答:b

a)Ⅰb期:臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの、または臨床的に明らかではないがⅠa期をこえるもの。
Ⅰb1期:病巣が4cm以内のもの。
Ⅰb2期:病巣が4cmをこえるもの。

b)Ⅳ期:癌が小骨盤腔をこえて広がるか、膀胱、直腸の粘膜を侵すもの。
Ⅳa期:膀胱、直腸への浸潤があるもの。
Ⅳb期:小骨盤腔をこえて広がるもの。
 膀胱または直腸浸潤が疑われるときは、生検により組織学的に確かめなければならない。膀胱内洗浄液中への癌細胞の出現、あるいは胞状浮腫の存在だけではⅣa期に入れてはならない。膀胱鏡所見上、隆起と裂溝が認められ、かつ、これが触診によって腫瘍と硬く結びついている場合、組織診をしなくてもⅣa期に入れてよい。

******

Q432 次のうち正しいものはどれか。
a)×広汎子宮全摘出術には傍大動脈リンパ節郭清術も含まれる
b)×下腹神経はL4から出る交感神経である →T11~L2
c)×卵巣動脈は内腸骨動脈から分岐する
d)○尿管は膀胱子宮靱帯内を走行して膀胱に入る
e)×広汎子宮全摘出術は膀胱子宮靱帯の前層処理で完遂できる

解答:d

a)郭清範囲:総腸骨節、外腸骨節、鼠径上節、閉鎖節、内腸骨節、基靱帯節

b)交感神経T11~L2より発し、下腹神経として直腸の両側を下降し、仙骨子宮靱帯および直腸腟靱帯の外側を走行し、骨盤神経叢を形成し、さらに膀胱に至り排尿筋を弛緩させる。
 副交感神経S2~S4より発し、骨盤神経として基靱帯の神経部分を構成し、交感神経とともに骨盤神経叢を形成し、排尿筋を収縮させる。

c)卵巣動脈は腹大動脈から分岐する。

e)広汎子宮全摘術では、膀胱子宮靱帯の前層処理に引き続き、後層処理が行われる

******

Q433 次のうち正しいものはどれか。
a)×子宮頚癌Ⅰa1期の手術治療ではリンパ節の郭清を実施しなければならない
b)○生検で上皮内癌と診断され子宮全摘を行ったが、組織診は3mm以内の微小浸潤癌であったので進行期Ⅰa1と訂正した
c)子宮頚癌では付属器転移が約20%に認められる →扁平上皮癌で1%以下腺癌で4~8%
d)子宮頚癌Ⅰa2期リンパ節転移は約15%である →4.8% (Novak’s Gynecology)
e)×広汎子宮全摘出術では腟傍組織の切断・結紮を行わなくともよい

解答:b

a)Ⅰa1期の手術治療は基本的には0期と同様である。リンパ節の郭清は最近ほとんど実施されてない。脈管侵襲が存在する症例へのリンパ節郭清の実施は個別化される。

b)術前に非癌、上皮内癌、またはⅠa期と判断して子宮摘出を行い、摘出子宮にⅠa期、Ⅰb期の癌が認められた場合には、それぞれⅠa期、Ⅰb期とする

c)子宮頚癌Ⅰb期癌の卵巣転移の頻度は、扁平上皮癌で1%以下腺癌で4~8%である。

d)子宮頚癌Ⅰa2期のリンパ節転移は4.8%(Berek JS: Novak’s Gynecology, 2002)

e)広汎子宮全摘術では、腟傍組織の切断・結紮を行う。

****** 

Q434 次のうち誤っているものはどれか。
a)×傍大動脈節は子宮頚癌の所属リンパ節なのでリンパ節郭清は実施される
b)○準広汎子宮全摘出術では膀胱子宮靱帯の前層のみ処理する
c)○子宮頸部腺癌には我が国の取り扱い規約ではⅠa期の細分類はない
d)○広汎性全摘出術での腟壁の切除は病巣から3cm以上離れて実施されることが望ましい
e)○腟壁の切除の長さが充分でない場合、切除を追加した

解答:a

a)所属リンパ節は、基靱帯リンパ節、閉鎖リンパ節、外腸骨リンパ節、内腸骨リンパ節、総腸骨リンパ節、仙骨リンパ節、鼠径上リンパ節である。なお、傍大動脈リンパ節はM分類に入れる。
 MA:傍大動脈リンパ節に転移を認める。

d)広汎子宮全摘における腟切断では、腟管は病巣から3cm以上離れた部位を切断する

******

Q435 子宮頚癌の進行状態で骨盤除臓術が適応となるものはどれか。
a)×膀胱浸潤が疑われるⅢb期子宮頚癌
b)○基靱帯浸潤が骨盤壁に達していないが直腸浸潤が疑われる症例
c)×肺転移が疑われるが、Ⅳa期子宮頚癌
d)×放射線治療後のすべての局所再発症例
e)×膀胱剥離が困難なⅢb期子宮頚癌

解答:b

骨盤除臓術:膀胱、直腸など骨盤内臓器全部含めて摘出する全除臓術のほかに、直腸を温存する前方除臓術、膀胱を温存する後方除臓術がある。遠隔転移がある場合は適応とならない。対象はⅣa期

******

Q436 次のうち正しいものはどれか。
a)×円錐切除の組織標本で病巣から切除端までの正常組織が2mmあるので適切と判断した →最低3 mm
b)×腺癌で病巣の深さが表層から3mm以内でかつ幅が7mm以内であることからⅠa1期と診断した
c)○膀胱の機能には下腹神経と骨盤神経が関与する
d)×欧米でも子宮頚癌Ⅱb期は広汎子宮全摘出術の適応になっている
e)×腟傍組織の部分には血管が豊富でないことから、結紮は通常の方法でよい

解答:c

a)円錐切除術では、病巣から最低3mm離れた位置に円周切開を加える

b)微小浸潤腺癌の細分類は行われない。

c)交感神経はT11~L2より発し、下腹神経として直腸の両側を下降し、仙骨子宮靱帯および直腸腟靱帯の外側を走行し、骨盤神経叢を形成し、さらに膀胱に至り排尿筋を弛緩させる。
 副交感神経はS2~S4より発し、骨盤神経として基靱帯の神経部分を構成し、交感神経とともに骨盤神経叢を形成し、排尿筋を収縮させる。

d)欧米、特に米国では、Ⅱb期は手術治療の適応になっていない

e)腟傍組織は強彎曲鉗子をかけて切断、結紮する

******

Q437 子宮頚癌の放射線治療について、誤っているものはどれか。
a)×A点線量とは外照射を行う場合の照射線量の目安となるものである
b)○B点線量とは骨盤リンパ節への照射線量の目安となる
c)○外部照射を行う際に中央遮蔽を入れるのは、膀胱直腸障害を軽減するためである
d)○外部照射の治療線量としては、通常、週間病巣線量を10.0Gy前後とし、総線量は40,0Gy以上を必要とする。
e)○子宮頚癌の病期によって、照射方法および照射総線量が異なる

解答:a

a)A点の定義:外子宮口を基準として、前額面上、子宮腔長軸にそって上方2cmの高さを通る垂線上で、側方に左右それぞれ2cmの点とし、腔内照射の病巣線量の基準点に用いる。
 A点線量は原発巣の治療量、膀胱・直腸の障害量の指標となる。
 A点線量は左右2つあるが、左右差があるときは少ない方の線量を用いる

b)B点の定義:骨盤腔内にて、前額面上の左右A点の中間の高さで正中腺より側方5cmの点をいう。
 B点線量は、骨盤壁への浸潤病巣、骨盤リンパ節に対する治療量の指標となる。

c)外部照射の治療スケジュールは原則として、週5回の単純分割照射とし、週間病巣線量を10.0Gy前後とする。病巣総線量は40.0Gy以上を必要とする。

******

Q438 放射線治療に使われる機器の説明について、誤っているものはどれか。
a)○RALSとは遠隔操作で腔内照射を行うものである
b)○tandemとは子宮腔の長軸に沿って直線的に線源を並べる子宮腔内管をいう
c)○ovoidとは左右の腟円蓋部を進展させるように装填される線源支持器をいう
d)×線源位置はほとんど変わらないので、確認のX線写真は一度撮影すれば十分である
e)○tandemとovoidは別個に用いられることもある

解答:d

a)高線量率腔内照射RALS (Remote After Loading System)

d)線源位置確認のX線写真は治療ごとに撮影する

e)腔内照射は原則として、子宮内線源(tandem)と腟内線源(ovoid)による照射を併用するが、別個に使用されることもある。

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Q439 子宮頚癌の手術療法と放射線療法の比較について、誤っているものはどれか。
a)○肥満の女性に放射線療法は適している
b)○高度の糖尿病がある患者には放射線治療が適している
c)○高齢の患者には放射線療法が適している
d)○腟の狭小な患者に放射線治療は不利である
e)×手術の既往や癒着のある症例には放射線療法がよい

解答:e

放射線治療を優先する条件
① 高齢者
② 高度の肥満がある場合
③ 重篤な合併症を有する場合
④ 手術に対する患者の同意が得られない場合
(手術に対する恐怖,術後合併症に対する不安等)
⑤ 術者の技術が未熟な場合

手術療法を優先する条件(放射線治療が回避される条件)
① 開腹手術既往、あるいは付属器炎・腹膜炎の既往があり、腹腔内に高度の癒着が予想される場合
② 妊娠を合併している場合
③ 腟萎縮あるいは子宮萎縮が高度で、腔内照射が困難な場合
④ 放射線治療設備が十分でない施設
⑤ 患者が子宮残存を不安がる場合

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Q440 子宮頚癌術後照射の適応について、誤っているものはどれか。
a)○子宮傍組織浸潤例
b)○骨盤リンパ節転移例
c)×子宮体部浸潤例
d)○子宮頸部筋層内浸潤および脈管侵襲が著しい例
e)○腟壁摘出が不十分と考えられた例

解答:c

術後照射の適応
・リンパ節転移陽性例
・子宮傍組織浸潤例
・上記以外で原発浸潤の著しい例、または脈管侵襲の認められる例
・腟壁摘出が不十分と考えられる例

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Q441 放射線障害について、誤っているのはどれか。
a)○放射線治療中に、下痢をきたすことが多い
b)○放射線治療中、白血球減少がみられる
c)×放射線直腸炎で出血があっても、放射線治療終了後、1年もたてば止血するのが普通である
d)○放射線治療終了後、腟が閉鎖することがある
e)○放射線治療終了後、1年以上経っても血尿が続くことがある

解答:c

c)照射中に強い急性反応を示した症例は晩期合併症も出現する可能性が高い。

Ⅲ度(高度の障害で外科的処置を要するもの)の合併症発生率約4~11%といわれている。

急性反応
・放射線宿酔
・直腸炎、小腸炎症状(下痢、腹痛、嘔吐)
・膀胱炎症状
・皮膚障害
・骨髄抑制

晩期合併症
・直腸、S状結腸障害(出血、直腸腟瘻)
・小腸障害(腸閉塞,穿孔)
・尿路障害(出血,感染,膀胱腟瘻・尿管腟瘻)
・外陰,腟障害(狭窄,閉鎖)