ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

お産の事故に「保険」制度 産科医不足解消ねらい厚労省

2006年10月02日 | 出産・育児

****** 朝日新聞、2006年9月28日

 厚生労働省は、出産に伴う医療事故の被害者を救済する制度の創設に乗り出した。「無過失補償制度」といい、産科医の過失が認められなくても、障害を負った赤ちゃんや親に補償金が支払われる「保険」だ。過酷な勤務や訴訟リスクなどから進む深刻な産科医不足を解消する狙いもある。日本医師会も制度導入を訴えているが、補償の財源をめぐる考え方などに同省と日医との間に隔たりがあり、実現までには曲折もありそうだ。

 厚労省研究班の調査によると、出生数2000人あたり1人以上に脳性まひが発生している。医療事故には、日医の医師賠償責任保険などがすでにあるが、適用には医師の過失認定が必要。民事訴訟で争うと長期間かかるうえ、認定されれば賠償額が数億円に及ぶこともあり、産科医のなり手が不足する一因と言われている。最高裁のまとめでは、産婦人科医1000人あたりの04年度の医療事故訴訟件数は11.8件。次に多い外科は9.8件、内科の3.7件などと比べ圧倒的に多い。

 厚労省によると、医療機関に勤める医師の数は毎年3、4000人増えているが、産科と産婦人科の医師数は約1万600人(04年)で、10年前より約800人減った。

 そこで、厚労省は、産科医不足解消の「切り札」として、補償制度の創設を目指すことにした。年内に制度の大枠をつくる方針で、自民党と協議に入った。

 この制度では、日医が8月、独自案を作成。体重2200グラム以上、34週以上で生まれ、出産時の脳性まひで障害1~2級と診断された赤ちゃんを救済する。生後5年までに一時金2000万円を支払い、その後の介護費用などを年金形式で支給する内容。財源は、脳性まひの発生数などから年間60億円と算定し、制度を維持するには公費支出が不可欠としている。

 これに対し、厚労省は公費支出には否定的だ。「医療行為はあくまで医師と患者との民間契約」(同省幹部)との立場で、医療機関中心の負担を検討している。このほか、救済対象を重度の脳性まひに限定するのか、制度運営をだれに任せるのか、他の障害者への補償制度とのすみ分け、などを詰めている。

 同省研究班の04年度の試算によると、救済対象を軽症の脳性まひまで広げ、民事訴訟の補償額を参考に算定すると、必要な財源は年間約360億円。産科医が出産1件につき2万円の掛け金を負担し約220億円を工面、残り約140億円を公的補助などでまかなえば運営できるとした。

 研究班の岡井崇・昭和大教授(産婦人科学)は「きちんとした制度をつくらないと、絵に描いた餅になり、元通り民事訴訟による解決に頼らざるを得なくなる」として、性急な制度創設の動きを批判。慎重な議論が必要だと訴えている。

(朝日新聞、2006年9月28日)

参考:

産科における無過失補償制度の創設

出産時の医療事故、過失立証なくても補償…政府検討へ(読売新聞)

医療不審死、究明機関設置へ(読売新聞)

「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化を提言(日本医師会)

医療ADR(裁判外紛争解決)について

日医が「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置

「無過失補償制度」の産科医療への導入について