ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

2006年10月19日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

母体搬送の受け入れ要請を拒否した病院は計19病院(奈良県の2病院と大阪府内の17病院)だったようです。通常であれば、母体搬送の受け入れ先はすぐに決定し、病院をすぐ出発できるはずだったのに、患者搬送の受け入れを打診をした19病院で次々に受け入れを拒否され、20カ所目の国立循環器病センターでやっと受け入れてもらえる施設が決定し、救急車の病院を出発する時刻が予想より大幅に遅れてしまいました。

いずれにしても、町立大淀病院の体制では何も対応することができないので、担当医は、母体搬送の受け入れ先が決定したらすぐに病院を出発するつもりで、搬送前に中途半端な検査をするよりも、高次機関に患者を搬送することを最優先したものと思われます。

そもそも、産科では、患者が急変して、高次機関での早急な対応を要する事態はいつでもかなりの高頻度で起こり得ることです。分娩経過中の急変では、発症後ただちに治療を開始する必要があります。それなのに、急変した患者の収容先が何時間も決まらないというその地域の周産期2次医療体制の不備が一番の問題だと思われます。

周産期2次医療体制が整備されていない地域では、今回と同様の事態はいつでも起こり得ます。

トラックバック:破綻2 (いなか小児科医)

マスコミの魔女狩り報道が正しいのか?
(東京日和@元勤務医の日々)

参考:奈良の件真相(へなちょこ医者の日記)

転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

地域周産期医療体制の今後の流れは?

地域周産期医療の現場で、我々が今なすべきことは何だろうか?

****** 朝日新聞、2006年10月18日

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

 奈良県大淀町の町立大淀病院で妊婦(32)が分娩(ぶんべん)中に意識不明の重体になり、大阪府内の病院に搬送後、脳内出血で死亡した問題で、奈良県警は業務上過失致死容疑で捜査する方針を固めた。大淀病院は「死亡にいたるミスがあった」と認めている。県警は同病院関係者から慎重に当時の治療内容などについて聴く方針。

 17日に会見した同病院は、ミスの内容として、(1)主治医が、妊婦の意識喪失を失神と判断した(2)妊娠中毒症の妊婦が分娩中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」と判断し、脳内出血を見抜けなかった(3)そのためCT(コンピューター断層撮影)を撮らず、脳外科の治療を優先しなかった――などを挙げた。

 同病院などによると、主治医が分娩誘発剤を投与した後、妊婦は頭痛を訴え、意識を失った。その後、妊婦の血圧が上昇し、けいれんがひどくなるなど容体が悪化。同病院では対応できなくなったため、他府県の病院に受け入れを打診する間、当直の内科医がCTの使用を助言。付き添っていた家族も頼んだが、主治医は「安静にして受け入れ先が見つかるのを待つ」と聞き入れなかったという。

 また、重体となった妊婦の受け入れを拒んだ病院はその後1病院が新たに判明し、計19病院とわかった。内訳は、奈良県の2病院と大阪府内の17病院。

(朝日新聞、2006年10月18日)

****** 共同通信、2006年10月18日

妊婦死亡で事情聴取へ 奈良県警、医療ミス調べる

 奈良県大淀町立大淀病院で妊婦が分娩(ぶんべん)中に意識不明の重体になり、移送を要請した病院から次々に断られた末、大阪府内の病院で死亡した問題で、奈良県警は18日、業務上過失致死の疑いもあるとみて大淀病院から事情を聴く方針を固めた。

 大淀病院によると、今年8月8日未明、分娩のため入院していた○○○○さん(32)=奈良県五条市=が頭痛を訴え、意識不明になった。分娩中のけいれんと判断し県立医大病院(同県橿原市)に受け入れを求めたが、満床を理由に断られた。医大病院が18カ所の病院に打診したが断られ、19カ所目の国立循環器病センター(大阪府吹田市)に転送されたのは午前6時ごろだった。○○さんは脳内出血で約1週間後に死亡した。

 大淀病院の内科医は脳の異常の可能性を指摘していたが、主治医はコンピューター断層撮影装置(CT)にかけなかったという。病院側は17日の記者会見で「結果的に判断ミスだった」と認めており、県警は死亡との因果関係を調べる。

(共同通信、2006年10月18日)

****** 毎日新聞、2006年10月18日

奈良・妊婦転送死亡:産科満床なら他科へ 県医師会が再発防止、搬送要請で合意

 奈良県大淀町立大淀病院で今年8月、妊婦が分娩(ぶんべん)中に意識不明になり、大阪府内に搬送後死亡した問題を受け、同県医師会の産婦人科医会(平野貞治会長、約150人)が再発防止のための対応策を直後の理事会で申し合わせていたことが分かった。緊急処置を必要とする具体的な症例を例示したうえ、他診療科への協力要請や、県立病院以外の有力病院への搬送受け入れ要請などについて合意。当面、現状の治療設備・要員や収容能力不足を柔軟な対応で補い、妊婦の命を救う道を目指す。【青木絵美】

 9月14日に決まった申し合わせによると、特に緊急性を要する妊婦の症状として、▽分娩時の大量出血▽妊娠中に胎盤がはがれる胎盤早期はく離▽子癇(しかん)発作▽前置胎盤▽肺血栓塞栓(そくせん)症----の5症状を挙げた。これまで、こうした具体的基準はなかった。

 開業医や病院から、これらの症状がある妊婦の搬送打診があれば、新生児集中治療室(NICU)と母体・胎児の集中管理治療室(MFICU)を備えた県立医大病院と県立奈良病院で基本的に受け入れる。

 今回の問題では、両病院ともNICU、MFICUが満床だったため、受け入れなかったが、今後は、産科ベッドが満床でも他科と調整する。それでも難しい場合には、今回打診しなかった近畿大学奈良病院(同県生駒市)や天理よろづ相談所病院(同県天理市)にも協力を要請するという。

 奈良県は、緊急、高度な治療を要する母体搬送の約4割を大阪府内の病院に頼る状態がここ数年続いている。県産婦人科医会理事で県立奈良病院の平岡克忠・産婦人科部長は「転送先探しで18カ所も電話をかけ続ける事態を繰り返さないよう、体制を整えたい」と話した。

業過致死容疑、県警が捜査へ

 この問題を受け、奈良県警は業務上過失致死容疑で捜査する方針を固めた。大淀病院側が17日の会見で「(脳内出血でなく)子癇発作の疑いとした点で、判断ミスがあった」と述べており、ミスと死亡との因果関係の立証が焦点となる。また満床などを理由に妊婦の受け入れを拒んだ病院の対応や、一連の経緯についても調べる。

 大淀病院によると、今年8月8日未明、○○○○さん(32)=同県五條市=が18病院に断られた末、同日午前6時ごろ、国立循環器病センター(大阪府)に搬送され、男児を出産したが、○○さんは同16日に死亡した。【高瀬浩平、花沢茂人】

大淀病院長が会見: 脳内出血見抜けず 遺族への謝罪、検討中

 大淀町立大淀病院で妊婦の緊急搬送が難航した末死亡した問題を受け17日、同病院は記者会見を開いた。原育史(やすひと)院長(63)は初めて公式に脳内出血を見抜けなかった診断ミスを認めた。しかし、病院の責任を問われると明確な答えを避けた。また、遺族への謝罪も「検討中」と述べるにとどまり、歯切れの悪さはぬぐいきれなかった。(会見での主なやりとりは次の通り)

 ----搬送になぜあれほど時間がかかったのか

 けいれんが起きたので産科担当医を呼んだ。(分娩(ぶんべん)中にけいれんを起こす)子癇(しかん)発作を疑った。ここでは対応が難しいので県立医大病院に転送を依頼したが、満床なので医大病院が他の病院への依頼を始めた。異常分娩は医大病院に連絡し、責任をもって受け入れ先を探していただく形になっているが、なかなか見つからなかった。

 ----内科医は脳の異状の可能性を指摘していた。その根拠は。また、それでもCT(コンピューター断層撮影)を撮らなかった理由は

 けいれん、いびき、瞳孔が開く状況があり、内科医は頭に何か異状が起こっていると思ったようだ。一方(主治医の)産科医は、頭の中に出血があると血圧が高くなるのに当時は安定しており、子癇発作を疑い、動かすことの悪影響を考えて撮影しなかった。結果的には脳内出血だった。子癇と疑ったことに判断ミスがあった

 ----病院の責任は

 遺族と誠実に話し合いを継続している。非常に難しい問題です。

 ----謝罪の予定は

 そのあたりも検討中。

 ----今後の対応は

 医師研修制度が始まり、大学病院も医師不足になって派遣医師を引き揚げた。ここ(大淀病院)も04年に31人いた常勤医師が今は26人だ。麻酔医も常勤はいない。医大病院を中心にしたネットワークの再確立が必要で、そうなると聞いている。

(毎日新聞、2006年10月18日)