ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 (朝日新聞)

2006年10月21日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

どの県でも、自県内の母体救急搬送例に対応するだけで精一杯のところに、隣接する他県内の重症例までもがどんどん搬送されてきたら、とてもではないが対応しきれなくなってしまうと思われます。

ほとんどの県で、総合周産期母子医療センター(3次医療)、地域周産期母子医療センター(2次医療)がすでに設置され、重篤な母体・胎児の緊急搬送ネットワークが構築されています。

県単位で、高度周産期医療の中核をなす総合周産期母子医療センターを設置し、さらに県内各医療圏の拠点病院(地域周産期母子医療センター)を整備して、県内の母体救急搬送のシステムを確立し、その体制を恒久的に維持してゆく必要があります。

****** 朝日新聞、2006年10月21日

妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足

 奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、妊婦(当時32)が次々に転院を断られた末に死亡した問題は、重体妊婦の転院を大阪府内の病院の「善意」にすがってきた奈良側の依頼に、大阪側の受け入れが限界に迫っていることを浮かび上がらせた。厚生労働省は来年度までに「総合周産期母子医療センター」を指定するよう通知しているが、近畿では同県だけが整備基準を満たす病院がなく、確立された搬送システムもない。「このままではまた、同じことが起きる」。医療関係者は危機感を募らせている。

 妊婦の容体が悪化した8月8日午前1時50分ごろ、大淀病院は県内の産婦人科の拠点施設・奈良県立医大付属病院に受け入れを要請した。だが、県立医大は満床だったため、「代わりの転院先を探す」と回答。大阪府立母子保健総合医療センター(和泉市)に同2時半ごろ打診したが、ここも満床だったために受け入れられなかった。

 県立医大は同センターに「一緒に探してほしい」と依頼。センターの当直医が照会すると、7病院が拒否し、同4時半ごろに8カ所目の国立循環器病センター(大阪府吹田市)に受け入れてもらえることが決まった。

 大阪府には、24時間態勢で高度周産期医療に対応できる府内43病院が加盟する「産婦人科診療相互援助システム」(OGCS)があり、重篤な母体・胎児の緊急搬送ネットワークが構築されている。数カ所の病院に断られるケースはたまにあるが、奈良のように受け入れ先を探すのに手間取ることはないという。端末をたたけば、どの病院に空きベッドがあるか、すぐわかるからだ。

 今回受け入れを断った大阪市立総合医療センター(都島区)は、9床ある新生児集中治療室(NICU)が満床で、臨時にもう1床を入れてやりくりしている状況だった。病院側は「とても対応できる状態ではなかった。どこから要請があっても、そのうちの3割ぐらいしか受けられない。大阪府内の基幹病院で要請の半分以上を受け入れられるところは少ないはず」と漏らす。

 ベルランド総合病院(堺市)は「人が足りず、責任ある対応ができない」と断った。病院幹部は「当日は分娩(ぶんべん)を待つ3人の妊婦がベッドにおり、うち1人は高リスク分娩。帝王切開が必要な妊婦1人も自宅待機していた。産婦人科部長を自宅から呼び出して当直医と2人で対応していた状況だった」と説明する。

 大阪市内のある私立病院は、依頼の電話の内容が「子癇(しかん)発作で意識消失がある」ということだったため、脳疾患の可能性を疑って対応しきれないと考え、受け入れなかったという。

 母子保健総合医療センターの末原則幸・診療局長兼産科部長は「母体の救急搬送を他府県に依存すれば、今回のようなケースは今後も出てくるだろう。奈良は独自で対応できるような拠点施設を早く整備すべきだ」と指摘する。

 奈良県では重篤な状態になった妊婦の県外搬送が常態化している。県医務課によると、県外病院への搬送率は04年で37%(77件)。県立医大病院経営課は「転院先を探すネットワークなど、特別なシステムがあるわけではない」と話す。

 ある民間病院関係者は「県内の公立病院では、出身大学の人的つながりで受け入れを頼んでいるケースが多い。こうした環境を変えなければ、県外に頼り切りの状態は続く」と指摘する。

 高度医療に対応できる設備を持ちながら、今回、要請されなかった近畿大学奈良病院(同県生駒市)には日頃、公立病院からの受け入れ依頼はほとんどないという。竹中勇人・業務課長は「(奈良県は)転院依頼のルールがはっきりしていない。県を中心に早期にきっちりとしたシステムを確立してほしい」と注文する。

(朝日新聞、2006年10月21日)