★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇スークのヴァイオリン名曲集

2011-03-18 11:25:11 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

タイスの瞑想曲(マスネ)
ベートーヴェンの主題によるロンディーノ(クライスラー)
テンポ・ディ・メヌエット(プシャーニ)
月の光(ドビュッシー)
ハバネラ(ラヴェル)
夢のあとに(フォーレ)
シチリア舞曲(パラディス)
精霊の踊り(グルック)
スペインの歌(ニン)
スペイン民謡組曲(ファリャ)
愛の悲しみ(クライスラー)
協奏曲 ト長調~グラーヴェ(ベンダ)
古い歌(クベリーク)
エレジー・ワルツ(ヴェチュトモフ)
夕べのムード(スーク)
子守唄(スーク)
インテルメッツオ(シューマン)
優勝の歌(朝はバラ色に輝き)(ワーグナー)
即興曲 作品90の3(シューベルト)
歌劇(3つのオレンジへの恋)~行進曲(プロコフィエフ)

ヴァイオリン:ヨゼフ・スーク

ピアノ:ヨゼフ・ハーラ

CD:日本コロムビア(SUPRAPHON) COCO‐73208

 チェコ出身の名ヴァイオリニストのヨゼフ・スーク(1929年生まれ)は、チェコの大作曲家ドヴォルザークの曾孫に当るという。そんな毛並みの良いヴァイオリニストであることは、一度その演奏を聴いてみれば納得できる。何と伸び伸びとして決して力むこともなく、しかも妙に持って回ったような演出は決してない。ただ、一直線に音楽の生まれる方向へと我々リスナーを誘ってくれる。しかし、その奏でるヴァイオリンは、単調とは無縁の存在だ。その演奏の背景には物語が隠されているかのような面白味が常に存在するのだ。そんなヨゼフ・スークは私にとって、あらゆるヴァイオリニストの中で、灯台のような存在のヴァイオリニストなのだ。スークのヴァイオリンの音を聴くと何かほっとする。安心感が自然に湧き出し、それが自然に外の世界へ向い同心円を描くように広がって行く。演奏家、つまり再現芸術家は、通常どうしても自己主張を強調し過ぎるきらいがある。しかし、スークのヴァイオリンは、その世界とは無縁だ。演奏それ自体に、存在感を感じさせることができるヴァイオリニストがスークなのである。

 そんな、スークが愛すべき小品集を演奏したのが今回のCDである。このCDに収録されている3分の2程は多くのリスナーが御馴染みの曲なので、誰にでも楽しめることこの上ない。第1曲のマスネの名曲である「タイスの瞑想曲」を聴いてみよう。ゆっくりとした出だしで始まり、実に安定した弾きぶりは、リスナーが心置きなく、この名曲を聴くのにこの上ない環境をつくり出してくれる。特に高音に向かう曲の盛り上げの何とうまいこと・・・。思わず聴き惚れてしまう。次の御馴染みクライスラーの「ベートーヴェンの主題によるロンディーノ」を弾くスークのヴァイオリンは、肩の力を抜き、小粋な雰囲気を辺り一面に漂わす。さらに、プシャーニの「テンポ・ディ・メヌエット」は、いかにも楽しげな曲想をスークは、物語を語るようになヴァイオリン演奏を披露して、聴いていて決して飽きることがない。この辺の隠れた演出力は図抜けたものをスークは生来持っている。やはり、毛並みが違うなぁ~と思ってしまう。ドビュッシーの「月の光」は、ピアノ曲で有名だが、スークは、実に丁寧に弾き、ドビュッシーの世界を再現してくれる。

 ラヴェルの「ハバネラ」は、異国情緒漂う愛すべき小品であるあるが、ここでもスークの自然な技が光る。まったく演出を感じさせずにラヴェル特有の世界へとリスナーを誘う。フォーレの「夢のあとに」を弾くスークは、このCD中で一番の名演を披露する。ヴァイオリン特有の鮮やかな音色を最大限に聴かせると同時に、文字通り夢の中にいるような神秘の世界の表現にも、キラリとした感性を盛り込んでいる。スークのヴァイオリン演奏には、無駄がない。だからと言ってぶっきら棒でもない。中庸を得た演奏なのである。そんなスークの長所を遺憾なく発揮した演奏がフォーレの「夢のあとに」なのである。次のパラディスの「シチリア舞曲」となるとピンとこないリスナーもいるかもしれないが、一度聴くと忘れられない懐かしさが込み上げてくる名品なのだ。このCDの中での演奏中、フォーレの「夢のあとに」に次ぐ名演を聴かせてくれる。スークにこんな懐かしさに溢れた小品を弾かせたら、他に比肩するものがいないといっても決して言いすぎではない。グルックの「聖霊の踊り」は、実にシックに弾きこなしているところがまたいい。

 クライスラーの音楽は、いずれの曲もヴァイオリンの持ち味を最大限に発揮させており、聴いていて無条件に楽しいが、私は、そんなクライスラーの曲の中でも「愛の悲しみ」は飛びっきり好きである。これまで何人ものヴァイオリニストの演奏を聴いてきたので、そう簡単にいい演奏だとは、言わないのであるが、このスークの「愛の悲しみ」は、これまで聴いた中でも飛びぬけていい。表面的な演奏ではなく、心の中から自然に溢れ出す感情が素直に表現されている。それだけに一層悲しさが身に沁みる「愛の悲しみ」なのである。激しい悲しさでなく、静かな悲しみがひしひしと伝わってくる。次のベンダの「協奏曲 ト長調~グラーヴェ」は、あまり御馴染みではない曲ではあるものの、聴いてみると、その雰囲気に思わずうっとりと聞き惚れてしまうほど素晴らしい曲なのだ。このCDの中で一番の聴きものの一曲とっていいかもしれない。クベリークの「古い歌」、ヴェチュトモフの「エレジー・ワルツ」、スーク自作の「夕べのムード」と「子守唄」は、いずれもチェコの民族的な優しさと懐かしさに溢れた名品揃いで、無条件に聴き惚れてしまう。スークのヴァイオリン演奏は、実に自然にリスナーを豊かな音楽の世界へと誘ってくれる。それに較べ現在のヴァイオリニストの多くは、余りにも演出過剰だと感じるのは、私だけかもしれない。(蔵 志津久)


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇クラシック音楽◇コンサート情報 | トップ | ◇クラシック音楽◇コンサート情報 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

室内楽曲(ヴァイオリン)」カテゴリの最新記事